インターネット字書きマンの落書き帳
一般ヤーナム市民の啓蒙
ヤーナムに住む一般成人男性の話をしました。
いや、成人男性、みたいな枠組みでは考えていないんですけど……。
一般ヤーナム市民視点のヤーナムとか書いてみたくなったんで書きました。
さっくり短編。
そこまで時間を奪わないショートショートです。
いつも心にヤーナムを……
いや、成人男性、みたいな枠組みでは考えていないんですけど……。
一般ヤーナム市民視点のヤーナムとか書いてみたくなったんで書きました。
さっくり短編。
そこまで時間を奪わないショートショートです。
いつも心にヤーナムを……
『遺志』
教会の人間が石畳の上を行進する。
規律正しい足音の向こうから、腥い臭いが漂う。
磔にされ掲げられたのは巨躯の獣。
狩られてから随分と時間が経っているのだろう。
血と死の臭いをまき散らし、指ほどの太さがある白い蟲が腐肉に食らい付いている。
きっと広場で死骸を焼き、教会の誉れとするのだろう。
規律という文言を吐き、集まった市民にも、家に留まる市民にも、自分たちの栄誉を見せつけるのだ。
だが今さら、どうしてその行為に威信を感じる事などできようか。
獣の病のなれのはて。
すでに誰もが、あの巨躯の獣も街のどこかにいた住人か、あるいは流れ者の狩人だというのを知っている。
いずれ、私たちもあのようになるのだと。
獣に落ちるのだということを、誰もがみんな理解(わか)っている。
医療教会の所作はすでに、獣を狩り安寧をつくるという意味よりも、いずれお前も狩り尽くすという恐怖ばかりを流し、畏怖で精神を支配していた。
もしもお前が獣になっても、殺してやるから安心しろ。
お前たちは獣のように人間の腐肉を喰らい、貪り、殺すような化け物になどしてはやらぬ。
だから安心して、この街にいるがいい――。
――そんなことで、誰が安心できるのだ。
殺されるのを知っていて喜ぶ輩など、いったいどこにいるというのか。
いずれ獣に墜ち、自我を失い、友も家族も曖昧のまま破壊し喰らい尽くす醜い化け物になることを、誰が歓喜で迎えるというのだ。
だが、わずかにでも不服を表情に浮かべれば、獣になる前に殺される。
この街には、アカズの姿をし卑しき身分に身をやつした密告者などいくらでもいる。
善意の仮面を被り、隣人を売る人間も後を絶たない。
最もこれは、教会が見せしめの拷問などをするから、罪なき者が弱いものを売るしかない。そうするまで、追い詰められるというのも多少なりとはあるのだろう。
それに、人のまま殺されるのならきっとまだマシなほうだ。
ヤーナムの閉ざした扉、その向こうには、 人でも獣でもない、もっと冒涜的な存在があるという。
そのようなモノにされたのなら、誰も魂の保証などしてくれまい。
呪われ、穢れた魂は、行く当てもないまま消えてしまうのだろうから。
咳をしながら、黒い空を見る。
いつからこの街は、こんな風になってしまったのだ。
尖塔のような屋根が連なり、月を刺すよう空に伸びる。
いつから?
馬鹿いうな、最初からだ。
この街は、最初から終わっていた。
いや、終わっていたから始まったのだ。そこに境界線などない。
咳が増える。体中の骨が軋み、手足の肉が拘縮する。
長くないのだろうと実感がある。死ねないのだろうという実感も。
――あぁ、俺はどんな獣になるんだろうな。
ヤーナムに希望はない。
絶望という言葉さえ生ぬるい、血と死に満ちあふれている。
それでももし、願いが叶うとするのなら。
夢を見ることが、許されるのなら――。
どうかこの街に来たという記憶さえも夢に溶かして、全てを忘却に捨て去ってしまいたい。
それならきっと、自分がどのような姿になったとしても、満足はできるだろう。
忘却は、人間の脳に与えられた叡智の一つだ。
忘却こそが、自分が人であった証明なのだ。
自分が人であったことすら忘却する。
それができたのなら、私は最後まで人であれたのだろう。
※※※
手のひらにのせた血の遺志は、砕けて灰のようにこぼれ落ちていく。
狩人は、死血の遺志から記憶を得る。
閃光のように脳を震わせる遺志は啓蒙となり、狩人の中にある目を開く。
この遺志は、忘却こそ叡智であり、人の証明と縋った。
だが――。
――どうやらそれも、瞳に飲まれ、啓蒙となって消え失せた。
この街では誰もが夢を見る。
そして誰の夢も、終わる事などない。
教会の人間が石畳の上を行進する。
規律正しい足音の向こうから、腥い臭いが漂う。
磔にされ掲げられたのは巨躯の獣。
狩られてから随分と時間が経っているのだろう。
血と死の臭いをまき散らし、指ほどの太さがある白い蟲が腐肉に食らい付いている。
きっと広場で死骸を焼き、教会の誉れとするのだろう。
規律という文言を吐き、集まった市民にも、家に留まる市民にも、自分たちの栄誉を見せつけるのだ。
だが今さら、どうしてその行為に威信を感じる事などできようか。
獣の病のなれのはて。
すでに誰もが、あの巨躯の獣も街のどこかにいた住人か、あるいは流れ者の狩人だというのを知っている。
いずれ、私たちもあのようになるのだと。
獣に落ちるのだということを、誰もがみんな理解(わか)っている。
医療教会の所作はすでに、獣を狩り安寧をつくるという意味よりも、いずれお前も狩り尽くすという恐怖ばかりを流し、畏怖で精神を支配していた。
もしもお前が獣になっても、殺してやるから安心しろ。
お前たちは獣のように人間の腐肉を喰らい、貪り、殺すような化け物になどしてはやらぬ。
だから安心して、この街にいるがいい――。
――そんなことで、誰が安心できるのだ。
殺されるのを知っていて喜ぶ輩など、いったいどこにいるというのか。
いずれ獣に墜ち、自我を失い、友も家族も曖昧のまま破壊し喰らい尽くす醜い化け物になることを、誰が歓喜で迎えるというのだ。
だが、わずかにでも不服を表情に浮かべれば、獣になる前に殺される。
この街には、アカズの姿をし卑しき身分に身をやつした密告者などいくらでもいる。
善意の仮面を被り、隣人を売る人間も後を絶たない。
最もこれは、教会が見せしめの拷問などをするから、罪なき者が弱いものを売るしかない。そうするまで、追い詰められるというのも多少なりとはあるのだろう。
それに、人のまま殺されるのならきっとまだマシなほうだ。
ヤーナムの閉ざした扉、その向こうには、 人でも獣でもない、もっと冒涜的な存在があるという。
そのようなモノにされたのなら、誰も魂の保証などしてくれまい。
呪われ、穢れた魂は、行く当てもないまま消えてしまうのだろうから。
咳をしながら、黒い空を見る。
いつからこの街は、こんな風になってしまったのだ。
尖塔のような屋根が連なり、月を刺すよう空に伸びる。
いつから?
馬鹿いうな、最初からだ。
この街は、最初から終わっていた。
いや、終わっていたから始まったのだ。そこに境界線などない。
咳が増える。体中の骨が軋み、手足の肉が拘縮する。
長くないのだろうと実感がある。死ねないのだろうという実感も。
――あぁ、俺はどんな獣になるんだろうな。
ヤーナムに希望はない。
絶望という言葉さえ生ぬるい、血と死に満ちあふれている。
それでももし、願いが叶うとするのなら。
夢を見ることが、許されるのなら――。
どうかこの街に来たという記憶さえも夢に溶かして、全てを忘却に捨て去ってしまいたい。
それならきっと、自分がどのような姿になったとしても、満足はできるだろう。
忘却は、人間の脳に与えられた叡智の一つだ。
忘却こそが、自分が人であった証明なのだ。
自分が人であったことすら忘却する。
それができたのなら、私は最後まで人であれたのだろう。
※※※
手のひらにのせた血の遺志は、砕けて灰のようにこぼれ落ちていく。
狩人は、死血の遺志から記憶を得る。
閃光のように脳を震わせる遺志は啓蒙となり、狩人の中にある目を開く。
この遺志は、忘却こそ叡智であり、人の証明と縋った。
だが――。
――どうやらそれも、瞳に飲まれ、啓蒙となって消え失せた。
この街では誰もが夢を見る。
そして誰の夢も、終わる事などない。
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