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インターネット字書きマンの落書き帳

   
与える事すら、許されずに(松田と山ガス・野村添え)
松田に、普段から世話になっているから~。
という理由でプレゼントを贈ろうとする山ガスが、思わぬところで過去とぶつかる話です。

松田の名前。
俺はなんとなく、曖昧のままで書いているんですが……。

ここに、もし「聞けなかった理由」があったらいいなッ。
と思ったので書いてみました。

野村は出ているようで出ていない、やっぱり出ているみたいな距離感です。



『贈答』

 ハンカチ、ネクタイ、万年筆。
 Webサイトを巡りながら、松田に似合いそうなものを探す。

 普段から世話になっている、お礼のつもりで送りたい。
 できれば普段から身につけたり、使ったりしてくれるものの方がうれしい。

 松田を見た時、自分のプレゼントを使っていたら嬉しいし、その時だけ松田にとっての特別になれるような気がするからだ。

「やっぱり、万年筆かなぁ。松田さん、アナログだし。普段からいろいろ書いてるみたいだから、絶対使うよね」

 山田は口コミやレビューで評判の良さそうな万年筆を眺め、松田に似合いそうな色合いを探す。

「ここ、良さそうかな……」

 そうしてたどり着いたメーカーの販売ページに、「名前・刻印を入れることもできます」の一文を見つけた。

「へぇ……名前入りの万年筆か」

 悪くないな、と思う。
 松田はせっかちそうだから、大事なものもポンとそのへんに放り出したりするのだろう。
 万年筆なども、誰かに貸したらそのまま貸しっぱなしにして、無くしそうな気がする。

 名前入りだったら、手元に戻ってくる確率が少しでも上がるだろう。
 どうせプレゼントするのなら、できるだけ長く使ってほしいとも思う。

 が――。

「松田さんって、名前なんていうんだろ」

 そういえば、松田のフルネームを聞いたことがない。
 こんな事になるなら、名刺交換くらいしておけばよかったな。
 それでも、名前を聞けないほど仲が悪いという訳でもない。

 LINEで聞けば答えてくれるだろうが、松田は既読無視がしょっちゅうある。
 本人の話だと、返事をする気はあるのだが、スマホで文字を入力するのが億劫で、あれこれ考えているうちに返事を出さず終いになるらしい。

 だったら、通話で直接聞いた方が早いだろう。
 山田はスマホを手に取ると、すぐさま松田に連絡する。

「何や、山田か」

 3コールほどで、すぐに出てくれた。
 周囲も静かだから、きっと今は自宅にいるのだろう。

「あ、松田さんお疲れー。いま、大丈夫かな」
「大丈夫やで。これから飯にしようと思ってたところや……で、何や?」
「たいしたことじゃないんだけどさ、松田さんの名前、なんていうんだろうなーと思って。そういえば、本名、フルネームで聞いたことなかったから」
「あ、あぁ……せやったか」

 万年筆に名前を入れるなら、ローマ字でいい。漢字まで知らなくても、名前だけ聞ければ十分だ。
 そう思って聞いたのだが、松田はなぜか戸惑ったような声になる。
 いえないほど、変わった名前なのだろうか。

「え、どうしたの、松田さん。名前……」
「いや、別に何でもない。ただ……昔、同じようなこと聞かれたな、と思ってな」
「そうなんだ。へー……誰から?」

 松田は、明らかに言葉につまっていた。
 迷い、思案したのはほんの2,3秒だったろう。
 それから、ためらいがちに。だが、大切そうに言葉を紡ぐ。

「――野村からや。はは……あいつ、同僚なのに俺の名前知らんかったんやな。名刺もらってないから知らない、名前教えろって急に……」

 野村健吾。
 ――山田が、殺した男。

「あいつ、何のために俺の名前なんて聞いたんやろなぁ」

 笑いながら、懐かしい思い出をかみしめるように語る言葉が、耳の奥をじわじわと焦がす。

 ――きっと、野村も自分と同じ理由で名前を聞いたのだ。
 プレゼントを渡したかった。無くされたら困ると思って、名前入りで。
 でも、渡せなかった。
 松田の誕生日が来るより先に、山田が殺してしまったから。

「で……何やったっけ。おまえも、俺の名前聞きたいん?」
「あー、やっぱいいや。ありがと松田さん。じゃ」

 山田は慌てて電話を切り、スマホを電源ごと落とす。
 今は誰からの連絡を見たくないし、どんな話も聞きたくない。

「そっか……」

 野村の話をする時、松田の声はいつも暖かい。
 松田の中で、事件は痛々しい傷跡ではある。だが野村と過ごした時間は、懐かしむべき思い出なのだろう。

 その、野村さえ渡すことができなかった思いを、どうして自分のような人間がすることができるというのだ。

「……それじゃ、仕方ないよね」

 山田はWebページを閉じる。

 松田にプレゼントをするなら、知り合いに声をかけて皆からのプレゼントにしよう。
 口は悪いが案外と面倒見がいいから、ちょっと声をかければみんな快諾するはずだ。
 そうして、たくさんの思いの中に自分の気持ちを隠しておこう。

 奪った人間が、奪った相手が得られなかったものを望むなんて、許されないことだから。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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