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インターネット字書きマンの落書き帳

   
苛立たしい男(死印、主人公と元刑事の後日談模造)
死印をクリアしたので、記念になんかSSを一つかこうと思ってあれこれ考えていたら……。
主人公と元刑事がイチャイチャする話になりました。(なんでだよ!?)

死印は登場人物が全員「いいやつ」で、ホラー作品ながら物怖じしない肝の据わったキャラが多いので登場人物に愛着がわいちゃいますネ!

今回は死印クリア後。
皆が日常の生活に戻っていった体裁の後日談的なイメージで書いているので、死印のネタバレがあります。

どれくらいネタバレかって、wikiくらいのネタバレです。(丸出しって事だよ!)
また、主人公はデフォルトネームの「八敷一男」の設定で書いております……。

死印、俺の好きなテーマのホラー作品なので……SSはまだいくつか書いて見たいテーマがありますね。
ま、今回はただ男がイチャイチャするだけの話ですけどね!

気づいたら男がイチャイチャする。
そういう定めを背負っています。




『苛立たしい男』

 真下悟が九条館に訪れた時、八敷一男は叩けば埃の舞い散りそうな古ぼけた書物に目を通していた。 呼び鈴を鳴らしてもノックをしても返事一つないから留守かと思ったら扉が開いていたので不用心だと思い上がり込めば、書物に没頭し気づいてないだけのようだった。テーブルにおかれたコーヒーは湯気を失い、すっかり冷め切っている。

「貴様。わざわざ来てやったのに出迎えもなしか?」

 真下はわざと嫌味ったらしく声をかけ、書物に没頭する八敷のメガネを僅かにずらす。八敷はそうされて初めて真下が近くに来ている事に気づいたようだった。

「あ、あぁ。何だ来てたのか真下……」

 聞いているのかいないのか、生返事をする男はどこかくたびれた顔をしていた。
 実際のところまだ若いのだろうが無気力そうな態度と生気のない顔色は本来の年齢よりずっと年上に見せていた。
 そのせいで周囲の人間からも「おじさん」呼ばわりをされているのだが、当人はそこまで気にしてはいないようだ。

「気乗りしないが、ばあさんに頼まれたモノがあったからな。俺も少し、貴様の耳に入れておきたい事があったんだが……」

 そこで真下はちらりとドアを見やる。
 事情により今は「八敷一男」と名乗っているこの男は、名家で資産家の九条家現当主の「九条正宗」その人だ。流石に日本中が知るような資産家ではないがそれでも当主が変わる事で経済誌や地元の新聞が賑わうニュースになる程度には有名である。
 同時に九条家は広い洋館であり先祖代々に伝わるような骨董品をはじめとした数多くのお宝が眠っている場所でもあった。
 いくら日本が平和でも、このH市は首都圏にも近い。物騒な事件がいくつもある治安の悪さもうかがえる。 そのような場所で鍵もかけずに過ごすとは、いくら男だからといってあまりにも不用心だ。おおかた自分の立場がわかっていないのだろう。

「貴様、もう少し用心したらどうだ? 町外れにある洋館なんていかにも金持ちの家に住んでるというのに鍵もろくすっぽかけず生活するとは……」

 あまりにも浅慮な八敷の生活に真下はつい苛立ちを見せる。
 だいたい、この男はもういい歳なのに何処か浮世離れしすぎているのだ。
 名家の血筋ではあるから遺産相続や家督争いなどのいざこざは経験しているようだが、それらは真下のような「庶民」には理解できない世界だ。 今も特に金に困った様子もないまま、自ら開けた「パンドラの箱」の始末をするため調査をしているのだから時間も金もたっぷりあるのだろう。
 そのせいなのか、それとも生来の性格なのか、八敷はどうにも脇が甘い所があった。
 土壇場に追い詰められても情に流されがちというか、過去を過去として吹っ切る事ができないセンチメンタルさがある。
 それが人間・八敷一男の良い所だといえばあるいはそうなのだろうが。

「もう少ししっかりしろ。貴様じゃなければできないコトもあるんだろう」

 だがその八敷一男の「人間としての良さ」は真下にとっては苛立ちばかりが募る理由の一つになっていた。
 彼からしてみれば八敷は理想論ばかりのロマンチストで地に足がついてない幻想を追い求めるような男だ。人間なんてみんなエゴイストであり土壇場になれば助けるために手を差し伸べてきた相手も平気で置いて逃げるような性根の連中も少なくない。
 それでも八敷は、たとえそのような汚い連中にも手を差し伸べ甘い顔を見せるのだろうと思うと。それを考えるだけで頭にくるのだった。

 どうしておまえのような「善人」が犠牲にならなければいけないのだ。
 悪党は善人のそういった清き心につけ込んで、平気でそれを踏みにじり嘲笑し傷つけて心も体も尊厳も全て奪っていくというのに……。

 これで八敷が真下に対して文句の一つでも言い返してくれば張り合いもあるのだが。

「……そうだな、すまない」

 八敷は何ら言い返す事もなく、ただ悲しそうに目を伏せ小さく謝るばかりであり、それがますます真下を苛立たせるのだ。

「謝るくらいなら改めろ。貴様に謝って欲しいワケではないからな」

 八敷は優しい男だと思う。差し出された手を振りほどける程冷酷な男ではない。 他人の苦しみも自分の事のように背負ってしまい、自分の苦しみは決して他人に見せようとはしない。
 曖昧な笑顔で痛みや苦しみを覆い隠そうとする八敷は、いつかそのまま影に飲まれ消えてしまいそうな気さえした。

「あぁ、心に留めておく。善処するさ……コーヒーでも煎れるか。飲むだろう?」

 八敷はそういいながらふらりと立ち上がる。あくびをかみ殺すような顔を見せているあたり、ろくに休んでいないのだろう。 真下が見る限り、八敷がゆっくり休んでいる所など見た事はない。
 当人は「ぼんやりしている」「ゆっくりすごしている」とは言うが、常にやり場の無い焦燥感を抱いているようなそぶりが頻繁に見えた。
 最も、真下が初めて八敷と会ったのは生きるか死ぬかといった瀬戸際の状態で、それから八敷はおおよそ一ヶ月近く常に死の危険がある最中に生きてきたのだ。
 その緊迫感からは解き放たれたのだろうが、今でも全てが終わったワケではない。
 己に降りかかる呪いの類いは消え失せたが災禍の中心は未だ渦巻いているのだ。

 八敷はその災厄全てを自分の罪であるかのように一人孤独に生きていた。
 いくらその罪全ては八敷のせいではないと。八敷がそれを知る以前からそのような不幸や呪い、災厄など存在しただろうと話しても、八敷は孤独に背負い続けるのをやめなかったのだ。

「いや、コーヒーなら俺が煎れる。貴様は少し座ってろ。気づいてないかもしれんが、酷い顔をしてるぞ。ろくに寝てないんだろう」

 真下は半ば強引に八敷を座らせると彼の代わりにコーヒーメーカーに触れる。 何処から取り寄せたのか、上等なコーヒー豆を使っているのは袋を開けた瞬間からわかった。

「悪いな、真下。久しぶりに、読み応えのある本に当たったから少し没頭しすぎたようだ……うん、確かに鍵を閉め忘れていたのは不用心だな。気をつける……気をつけよう……」

 本当にかなり没頭していたのだろう。八敷はどこかけだるげに言う。九条館はかなり広い洋館だ。真下も部屋数を把握しているワケではないが、以前泊まった時は客室だけでも二桁は余裕にあったように思える。
 もともと一人で住むための家ではないのに召使いや使用人を置かないのは、九条家が呪われているから。そしてその呪いは未だに消え去ってはいないからだろう。 九条家に関わる事で不幸になるものはみたくないのだろう。
 そしておそらく、それは先代のであり彼の妹である九条サヤも同じ思いだったに違いない。 これだけ広い洋館だというのに、九条館は使用人や召使いを長らく雇っていないようだった。

「扉の鍵を閉め忘れるくらい間抜けなマネをするとか、一体どれだけ本を読んでいたんだ」
「さて、それだけだろうな……よく覚えてないんだが……」
「おい、また記憶喪失になったとでも言うんじゃないだろうな? 飯は食べてるのか」
「食べたさ、朝、サンドウィッチを食べながら本を読んでいたから……」
「朝? もう夕方だぞ。昼は食べたのか? そもそも貴様、いつの朝の話をしてるんだ?」

 真下が問い詰めれば、八敷の言葉はどんどん曖昧になる。どうやらコーヒーだけではなく、軽食の一つも作った方がよさそうだ。 九条家のやけに広いキッチン(もはや厨房と呼ぶ方がいいのかもしれないが)に入りあり合わせの食材でパスタを作ったのでコーヒーはやや濃いめになったが致し方ないだろう。

「おい、八敷。コーヒーと飯だ。せめてこれ位喰って……」

 厨房に置かれた銀のトレイに暖かなコーヒーとパスタをのせホールに戻れば、そこにはソファーに寄りかかったまま寝息をたてる八敷の姿があった。
 真下に声をかけられ急に疲れが出たのだろうか。あるいは多少安心したのもあったのかもしれない。

 九条館には未だ「災厄」が眠っている。
 今の八敷はそれを寝ずの番で見張っているような立場なのだから。

「貴様ァ、俺に飯まで作らせて居眠りとは……」

 真下は口で悪態をつくが、どこか安堵している自分に気づいていた。
 何も言わず、辛さや苦しさなどおくびにも出さず、痛みも悲しみも全部背負って行きようとしている八敷でも人前で安らいで眠る事があるというのなら、一時の休息のため彼を守ってやるのも悪くない。
 出せと言われても、背負わせろと願っても八敷は決して自分の思いを他人に見せようとしないのだから。

「……仕方ない奴だ。おまえが起きるまではそばにいてやる。だが起きたら俺の要件を聞けよ。俺だってこれで忙しいんだからな」

 作ったパスタにラップをし、真下は暖かなコーヒーを飲む。
 その肩を枕にし、八敷は心地よい眠りについていた。

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インターネット駄文書き
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