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インターネット字書きマンの落書き帳

   
死印の主人公と真下が出るはなし。
急に死印の話をします。
いや、面白いゲームかつ俺の好きなタイプの雰囲気をもつゲームなので……。
以前クリア後にいくつか話を書いたんですけど、まだもうちょっと書きたいな……というネタが残っていたので、それをお出しやす!

バンシー伊東のことを「妙だがやけに勘がいい爺さんだ」と思っている主人公(デフォルトネームはエンポリオ一男……ではなく、八敷一男で)と、その発言を聞いて「正気かおめー」と思う真下悟のはなしです。

いや、八敷一男……だいぶおかしい男だけど自分がおかしい自覚がないの最高ですね。
あと顔がいいです。
顔が本当にいいです。(大事だと思ったので二回言いました)



『奇妙な男たち』

「あの爺さんは普通とは違う。俺たちの理解を超越したモノの存在を感じ取っている。そんな気がするんだ」

 やけに神妙な面持ちで八敷一男はそう告げる。 そんな彼の言葉を聞き、真下悟は驚いたように口を開けた。

「たしかにただ者じゃないと思うが……」

 八敷の言う爺さんとは、バンシー伊東の事だろう。
 真下がその爺さんと出会ったのは八敷の紹介だった。八敷曰く、「呪いと悪霊の巣窟に済んでいる変わり者の爺さん」らしいが、その胡乱な経歴に違わぬうさんくさい老人である。
 宿無しで過ごす期間が長かったのか体は日に焼けており風呂に入る事もないのか髪は油っぽく肌は垢だらけ。お世辞にも清潔ではないが当人は一切外見に頓着せずその日暮らしの宿無し生活も不満なく楽しんでいるようだった。
 欧州にある妖精伝承の一つに出る「バンシー」は当然のこと、伊東という名字も戸籍にあるのか疑わしい。 本名を名乗らないのも事情があるのだろうが真下はそれを詮索する気はなかった。 それは警察時代には本名をころころ変えるような詐欺師など山ほど見てきたのもあるし、探偵になってからは名乗れない者に知らなかった方が良いような真実を隠しているものが多かったのもあるだろう。 好奇心がないといえば嘘になるが、金にならない仕事をするほど暇でもなかったしバンシー伊東もそれほど悪人には見えなかったから放っておいても害はないと思ったのだ。最も、八敷の財布を無断で借りた事があるようなので、完全な善人というわけでもないのだろうが。

 真下はそれほどバンシー伊東と面識があるほうではない。
 八敷から話を聞いた後、ホームレス特有の情報網を得るために少しばかり話を聞いたことがあるくらいだ。
 普段はほとんど一人で過ごしているようで街のマンホールがどこにつながっているのかといった見知らぬ路地については驚くほど知識があったがホームレス仲間と呼べる存在はほとんどいなかったのは覚えている。
 ホームレスというのは自由に見えて人付き合いが濃密な集団だ。それに大概の輩が暇を持て余しているので新人がくれば口を出すし声をかけて暇をつぶすものも多い。だがバンシー伊東はそんなホームレスの付き合いもほどほどに一人で本など読んで時間を潰しているらしいからホームレスとしても異質な存在と言えるだろう。

 だが常人と違う感性をもっている、という点では真下も同じものを感じていた。
 ひどく聡いというか勘がいいのだ。
 真下はオカルトをあまり信じてはいないから霊感がある、という言い方は好きではないがバンシー伊東は「ある」ほうの人間だと言えるだろう。また、第六感が優れているのか危険を感知する力は驚くほどに強かった。
 以前、情報量がわりに酒を飲ませた後に「東の道は行かない方がいい。渋滞してるじゃろうからな」なんて言ったので本当だろうかとそちらに向かった時は確かに渋滞していたし、「そっちは行かんほうがいい」と言われた方に向かって面倒な事件に巻き込まれた事もある。

 それについて、安岡都和子に話をふった時は占い師であり霊媒師としての顔をもつ彼女からも「持っているだろう」と評していたから確かなことだろう。
 だが同時に安岡は「持っているが、それに対処・対応できるだけの力はない」とも言っていた。 わかりすぎるが故に目の前の暗闇が大きく見えすぎてしまい臆してしまうのだそうだ。
 だから深入り出来ず、時に取り込まれてしまうのだ。
 そう、今回の蜘蛛のように。

 その点、八敷は「向いている」と安岡はいっていた。
 頭抜けた強い霊感がある訳ではないが全く感じない程に鈍感ではない。その上で好奇心が強く物怖じしない行動力の化身のようなところがあるからだ。
 悪霊や呪いといった陰のものは無秩序に見えて理(ことわり)がある。その理は大概、自身の「我」であったりエゴであったり強い感情、怒りや悲しみのようなものが起点となっている。
 それはもろく揺らぎやすいゆえに生者からすると不条理な呪いのように見えるものだ。そういった相手には、一見理解できないようなモノや事象に目をむけ、悲しみや苦しみの本質と向き合える人間のほうが対処に向いているのだと安岡が言った。
 不条理を飲み込み理解をしようと相手を向く。そういった行動が出来る八敷は呪いや怪異といったオカルト的な事例の対応に向いている、というのが安岡の評価だった。
 同時にそれだけ八敷の存在は闇に近く、取り込まれやすいから危うい存在だとも。

「だから、あの爺さんがマズい状態ってのはきっとかなりオオゴトになってると思うんだ。俺たちも気をつけないとな……」

 目の前の八敷はそう言い、壊れた木馬の首を無理矢理壊して荷物へ入れようとする。どう見てもゴミにしか見えない、何のためにもっていくのかさっぱりわからない代物だが八敷にとっては何かしら重要な意味をもつ道具に見えたようだった。何とか荷物に押し込むと、やっとの思いでそれを担ぎもうこの部屋には用がないといった様子で歩き出す。

「どうした、真下。行くぞ」

 馬の頭を落とさぬようなんとか引きずりながら、八敷は部屋を後にした。そんな彼の背中を眺め、真下はため息をつく。

「まったく、どの口で『あの爺さんは普通と違う』なんて言ってるんだ? ……あいつ、自分が普通だとでも思っているのか?」

 そしてそう、独りごちるのだった。
 普通の人間はいかにも何かありそうな場所で馬の首など拾わないしそれを持っていこうとしないとは思う。だが八敷の一見突飛な行動も怪異のなかにあるルールでは必要なことが多い。
 確かに、八敷は向いているのだろう。こういった恐怖と対峙することに。
 だが同時にひどく危うくも思っていた。

 怪異をあまりに理解しすぎる八敷は近いうちにそちら側に取り込まれそうな気がするから。

「……行くか」

 そうなったら、無理矢理にでも引き戻さなければいけない。
 きっとそれが「こちら側」の摂理しか理解できない自分の仕事なのだ。

 真下も八敷の後を追うように歩き出す。
 夜を歩くのにはあまりにも無防備すぎる相棒であり友人でもある男を、何とかこちら側にとどめておけるようにと思いながら。

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