インターネット字書きマンの落書き帳
山田をクリエイトする(黒沢と山ガス・ネタバレあり)
都市伝説解体センターの二次創作だよ♥
トシカイの前日譚みたいな話なんだけど、ネタバレに抵触するからクリアしてから見てね。
忠告はした。
ここから先は覚悟している人だとみなすので、ネタバレに容赦しない!
というわけで、5S時代の前身として、動画でお試しに配信していたころ。
まだ5Sが存在しておらず、5Sにも関わっていなかった山田に目を付けた黒沢が「お前イケてるって!」とベタ褒めする話ですよ。
<前提>
・黒沢と眉崎、谷原は知り合い
・谷原は動画配信者として細々動画をupしている
・眉崎は動画は配信してないが、大学生ながらインフルエンサー級の人気がある
・山田は前髪もっさり系の地味顔
眉崎がつくってる動画が「メンズメイク講座」なのはあると普通に便利だし再生数伸びそうと思ったからです。
楽しみやがってください♥(命令形)
トシカイの前日譚みたいな話なんだけど、ネタバレに抵触するからクリアしてから見てね。
忠告はした。
ここから先は覚悟している人だとみなすので、ネタバレに容赦しない!
というわけで、5S時代の前身として、動画でお試しに配信していたころ。
まだ5Sが存在しておらず、5Sにも関わっていなかった山田に目を付けた黒沢が「お前イケてるって!」とベタ褒めする話ですよ。
<前提>
・黒沢と眉崎、谷原は知り合い
・谷原は動画配信者として細々動画をupしている
・眉崎は動画は配信してないが、大学生ながらインフルエンサー級の人気がある
・山田は前髪もっさり系の地味顔
眉崎がつくってる動画が「メンズメイク講座」なのはあると普通に便利だし再生数伸びそうと思ったからです。
楽しみやがってください♥(命令形)
『原石を磨きすぎ』
はじめて黒沢が山田と会ったのは、配信者ではなく裏方として臨時の手伝いでのことだった。
当時はまだ5Sというメンバーで活動しておらず、個人配信をしている谷原やSNSではインフルエンサーほど影響力のないもののフォロワー数は多い眉崎など、そこそこ有名なメンツで組んで何か大きなことが出来ないかと思案中であった。
そんな最中思いついたのが、眉崎の知名度を利用したコラボ動画だった。
いつも洒落た街カフェや流行りの本などを紹介しているのだが再生数が伸び悩んでいた谷原の相談を受けた時、有名インフルエンサーである眉崎をゲストとして招き、コラボという形で動画を作ったら再生数が伸びるのではないかと、そんな提案をしたのが黒沢だった。
大筋の流れと撮影場所は黒沢が提供した。
当時の眉崎はインフルエンサーとして有名ではあったが、大学生なのに厚化粧だとかすっぴんは目が小さいなんて粘着コメントも多く、それならすっぴんを見せてやろうと息巻いていたから、動画の方向性は決まっていた。
せっかくなら、これからメンズメイクをやりたい人のために、メンズメイクのポイントも教えてみたらどうだ。
谷原にメイクをしたら面白いんじゃないか。
黒沢の企画に谷原も眉崎もすっかり乗り気になって出来たのが、「きのこらぼ・イケメンインフルエンサーすっぴん→メイク動画」だ。
撮影機材は谷原がもっていたし、画面映えという意味で眉崎は充分なほど素質がある。何よりこの企画はウケる気がする。そう思って身内ノリで作ったものだ
動画はすっぴんになった後、眉崎がメンズメイクの基礎を語りながら再度メイクを仕上げていく。そして谷原にファンデを塗ったりチークを入れたりと簡単に化粧するだけのものだったが、元々フォロワー数の多い眉崎の素顔に興味をもったフォロワーが多かったのと、メンズメイクを基礎から語ることでメイクに興味を抱いていた男性ユーザーから受けがよくそれなりの再生数をたたき出したのが、その後の5Sの活動に繋がってくるわけだが、それはまた別の話としておこう。
そにかく、その時動画編集の手伝いとしてやってきたのが山田だった。
谷原の友人で、名前も聞いたことのないようなフリーソフトを使っているのだが動画の編集がとんでもなく早い奴がいる、ということで助っ人として来てもらったのだ。
これは、谷原のレイアウトが少し地味なので、もっとウケのいい構図で作ってくれる第三者がいてほしかったという黒沢の希望もある。
「あの……手伝いに来ました。谷原に言われて……どこで作業すればいいですか?」
山田はオーバーサイズのパーカーで、目深に帽子をかぶっておりボソボソと小さな声で喋るものだから、部屋には黒沢と谷原がいたというのにやってきたのにしばらく気付かなかった。
遅れて気付いた後、申し訳なかったと謝罪する黒沢にも、
「いえ、別に。僕が少し早めに来ただけなので」
とさして気にする素振りも見せず、パソコンの前にこしかけた。
谷原が、お茶かコーヒーでも出そうかと笑って話しかけても。
「飲み物は自分で持ってきたから大丈夫。気にしないで。それより必要な作業だけ教えてよ。すぐ帰りたいから」
なんて、ひどく素っ気ない返事しかしなかったのは今でもよく憶えている。
流石に室内だから帽子は脱いでいたが、それでも顔が隠れるほど前髪を伸ばし、猫背になって作業する姿からは面倒な仕事を押し付けられているのだから話しかけるなよ、というオーラが溢れていた。
「ごめんなぁ、黒沢。山田は人見知りするタイプってのかなぁ? あんまり喋るタイプじゃないんだよ。でも、本当に作業は早いし頼りになる奴だから、ちょっと失礼なところは許してやってくれないか? あいつ、基本的に誰に対しても失礼なんだよ」
黒沢が機嫌を損ねたんじゃないかと心配し、谷原は慌ててフォローを入れる。
だが、黒沢は山田の横顔を眺めながら何とはなしに考えていた。
この男も燻ってはいるが、自分でも何かしら大きなことをやりたいと思っているのではないか。 娯楽を享受する側ではなく創造する側にいたい人間なのではないかと思ったからだ。
「別に気にしないさ。それより谷原は山田の知り合いなんだろう。あの山田って奴、普段は何してるんだ?」
「えっ? 普段……普段かぁ……」
自分の見た映画や本の感想をネットにupしていると聞いてすぐ、アカウントを教えて貰う。
フォロワー数は100人前後でお世辞にも有名なアカウントとはいえないだろう。感想や日々の日常などはほとんどブログに記録していたが、書いている文章も内容もそれほど悪くない。
特に映画に関しては大衆娯楽として見た時のメリットとデメリットを指摘しつつ、それでも個人で心打たれた内容にも触れ、まだその映画を見ていないなら是非とも劇場に足を運ぼうと思わせる語り口になっており、それもまた山田の思惑通りの文章なのが見てとれた。
ひとしきり内容を読んだ後、黒沢は改めて山田を見る。
もし、自分が今後も動画配信者として活動していくのなら、山田のような人間に一通りの段取りや台本のようなものを作ってもらえればベストだろう。
行き当たりばったりの内容より、ある程度筋道や段取りがエンタメには必要だ。そのエンタメが何たるかを理解している山田なら、よい構成で話を作ってくれるだろうし、自分のまとまらないアイディアをうまくアウトプットしてくれるかもしれない。
それに、山田は顔がいい。
自分の顔を隠すように前髪を伸ばし、体型を隠すようなオーバーサイズのパーカーなんて着ているが、この男は磨けば光るタイプの顔だ。
眉崎のようにわかりやすく誰が見ても色男だというわけでもなければ、谷原のよう服装や髪型に対して流行を気にする素振りはない。
地味で目立たないようにしているのは自分に自信がないからだと思うのだが、山田の顔立ちもスタイルも確実にファンがつくものだと黒沢は確信していた。
これは、黒沢自身が山田のように斜に構えた印象のいかにもモラトリアムの最中にあり自己に迷い憂うような青年が嫌いじゃないというのもある。
「一通り終わったんで、チェックしてくれますか? 谷原さん」
作業は小一時間も経たないうちに終わっただろう。谷原の言う通り、聞いた事もないフリーソフトを使っているというのに驚くべきスピードだ。
「あぁ、チェックね。わかった。山田は、えぇっと……」
「山田くんは、こっちに来て一服してくれないか? チェックの後修正もあるだろうから」
黒沢が声をかけると、山田は億劫そうに立ち上がりテーブルの方へやってくる。かわりに谷原がPC前に座り、動画に問題ないかチェックをはじめた。
「山田くん、コーヒーがいい? それとも紅茶? あぁ、せっかく来てくれたんだからお礼のつもりでだすんだ。遠慮しないでくれよ」
「……なら、コーヒーで。砂糖とミルクがあったらおねがいします。最近夜遅くまで作業していることが多いんで、甘いものがほしいんで」
黒沢は微かに頷くと慣れた様子でコーヒーを煎れる。
山田は砂糖をスプーンたっぷり2杯入れ、ミルクを多めにいれた後一口飲んで声をあげた。
「バリ神山? いや、でも……」
やはり、こういったものの味がわかるのか。黒沢はわずかに笑うと、山田の隣に座り同じ珈琲をブラックで飲む。
「よくわかったね。その通りだよ。皆があつまる場所にはいいものを準備しておこうと思ったのに、他の連中はありがたみもわからないで飲むからわかってくれる人が来て嬉しいな」
「え、えぇ。珈琲はそんなに嫌いじゃないんで……ただ、普段は僕もインスタントです。こういう高い豆をちゃんと焙煎したものはあまり……」
「それでも、味がわかる人がいてくれるのはうれしいさ」
山田はどこか照れたようにうつむくと、ちびちびと珈琲を飲む。猫舌なのか、たっぷりミルクを入れたにもかかわらず何度もふぅふぅと息を吹きかけていた。
黒沢は山田がカップを置き一息つくのを見計らうと、すぐさま長く厚ぼったい前髪に手を伸ばし、前髪を上げる。
「ちょっと、何するんですか……」
慌てて手を払おうとする山田の手首を掴んでとめると、黒沢は敵意がないのを示すためなるべく優しく笑ってみせた。
「いや、山田くんは随分前髪が長いけど、美容院とか行ってるのかい? これだと顔が隠れてPCを弄るのも不便だろう」
「別に、不便ではないです。必要なときに、自分で前髪切ってるんで……」
「そうか。これ、俺行きつけの美容院連絡先。もっていくといいよ。顔見知りだから、ただで切ってくれる。今回のお礼だと思って受け取ってくれ」
「いえ。そういうわけには……それに、僕は美容院とか行く予定もないですし……」
目を背けようとする山田の頬に手を添えて、少し強引にこちらを向かせる。
このタイプならもう少し押せばいけると思い、さらに黒沢は畳みかけた。
「山田くん、顔立ち整ってるのに前髪で隠すのはあまりにも勿体ないって。もう少し切ってもっと顔、見せてくれないか?」
「で、でも……そんな、僕は別にいい男とかではないですから……」
「そう? でも、俺は山田くんみたいな顔、好きだけどな。もし前髪切って整えたら、写真送ってくれるか? キミの顔、もっとよく見てみたい」
山田はそこまで言われると慌てて手を振りほどき、すっかりうつむいてしまう。
そして消え入りそうな声で。
「わ、わかりました……考えて、おきます……」
そう言ってから、残った珈琲を一気に飲み干すのだった。
山田が臨時の助っ人から正式にメンバーに加わったのは、それからもうしばらくたった後だ。
5Sとして活動する頃は、全体の流れを決める演出担当兼ライターとして自身も動画配信者側になって活躍するようになる。
眉崎ほど女性ファンが多いわけじゃないが、一定数のファンを得ている。
やはりあの時声をかけ、髪型を変えさせて自信をもたせてやったのは正解だとつくづく思う。
ただ、一つだけ、計算外なことがあったとするのなら……。
「……ん、山田。おまえ髪型変えたな?」
以前と変わらないオーバーサイズのパーカーの下から、以前より垢抜けた印象の山田が顔をこちらに向ける。
「あ、わかる? ツーブロにしたんだよね。谷原さんとか眉崎さんみたいな系統、僕には無理だからもうちょっとサブカルっぽいほうがウケるかな、と思って」
「確かにそうかもな。だが少し変えすぎじゃないか?」
刈り上げたうなじを眺め、黒沢は自然と口元に手をやる。
動画の撮影やロケハン以外はほとんど外に出ないという山田の肌は透き通るように青白く触れたくなるほど艶やかだった。
「でも、似合ってるでしょ?」
山田は黒沢に向き直ると、からかうように笑う。
「そうだな……似合っているのは似合っているが……」
元々外見に自信がなかった山田だったから、黒沢は山田の見た目を否定しないよう心がけていた。それは、多少吹っ切れて自分の見た目を受け入れることが出来た今でも変わりない。
山田は黒沢のこたえを聞くとわずかに首を傾げて見せた。
「だよね。黒沢さん、僕の顔好きだもん。似合ってなくても、そう思ってくれるよね」
そして山田は悪戯っぽく笑いながら、少しだけ舌を出す。
磨けば光るだろうと思って自信をつけさせるつもりだったが、少しだけ育てすぎたようだ。
少なくとも今の山田は自分がどんな姿をしても黒沢だけは否定しないと信じているし、黒沢が否定しなければどんな姿にでも見せてくれるのだろう。
熱を帯びた強い感情が山田の視線からは否が応でも伝わってくる。
「じゃ、これから谷原さんと今度の動画のロケハンしてくるから。僕がいなくても寂しがらないでよね、黒沢さん」
ウインクしてから去って行く山田を見送ると、黒沢は一人呟いた。
「あぁ……磨けば光る奴だと思ったけど、ちょっとやりすぎたな」
だがそれも、存外に悪くない。
深々と椅子に腰掛けながら黒沢は目を閉じる。
瞼の裏には、今しがた見たばかりの、茶目っ気たっぷりに笑う山田の姿がはっきりと残っていた。
はじめて黒沢が山田と会ったのは、配信者ではなく裏方として臨時の手伝いでのことだった。
当時はまだ5Sというメンバーで活動しておらず、個人配信をしている谷原やSNSではインフルエンサーほど影響力のないもののフォロワー数は多い眉崎など、そこそこ有名なメンツで組んで何か大きなことが出来ないかと思案中であった。
そんな最中思いついたのが、眉崎の知名度を利用したコラボ動画だった。
いつも洒落た街カフェや流行りの本などを紹介しているのだが再生数が伸び悩んでいた谷原の相談を受けた時、有名インフルエンサーである眉崎をゲストとして招き、コラボという形で動画を作ったら再生数が伸びるのではないかと、そんな提案をしたのが黒沢だった。
大筋の流れと撮影場所は黒沢が提供した。
当時の眉崎はインフルエンサーとして有名ではあったが、大学生なのに厚化粧だとかすっぴんは目が小さいなんて粘着コメントも多く、それならすっぴんを見せてやろうと息巻いていたから、動画の方向性は決まっていた。
せっかくなら、これからメンズメイクをやりたい人のために、メンズメイクのポイントも教えてみたらどうだ。
谷原にメイクをしたら面白いんじゃないか。
黒沢の企画に谷原も眉崎もすっかり乗り気になって出来たのが、「きのこらぼ・イケメンインフルエンサーすっぴん→メイク動画」だ。
撮影機材は谷原がもっていたし、画面映えという意味で眉崎は充分なほど素質がある。何よりこの企画はウケる気がする。そう思って身内ノリで作ったものだ
動画はすっぴんになった後、眉崎がメンズメイクの基礎を語りながら再度メイクを仕上げていく。そして谷原にファンデを塗ったりチークを入れたりと簡単に化粧するだけのものだったが、元々フォロワー数の多い眉崎の素顔に興味をもったフォロワーが多かったのと、メンズメイクを基礎から語ることでメイクに興味を抱いていた男性ユーザーから受けがよくそれなりの再生数をたたき出したのが、その後の5Sの活動に繋がってくるわけだが、それはまた別の話としておこう。
そにかく、その時動画編集の手伝いとしてやってきたのが山田だった。
谷原の友人で、名前も聞いたことのないようなフリーソフトを使っているのだが動画の編集がとんでもなく早い奴がいる、ということで助っ人として来てもらったのだ。
これは、谷原のレイアウトが少し地味なので、もっとウケのいい構図で作ってくれる第三者がいてほしかったという黒沢の希望もある。
「あの……手伝いに来ました。谷原に言われて……どこで作業すればいいですか?」
山田はオーバーサイズのパーカーで、目深に帽子をかぶっておりボソボソと小さな声で喋るものだから、部屋には黒沢と谷原がいたというのにやってきたのにしばらく気付かなかった。
遅れて気付いた後、申し訳なかったと謝罪する黒沢にも、
「いえ、別に。僕が少し早めに来ただけなので」
とさして気にする素振りも見せず、パソコンの前にこしかけた。
谷原が、お茶かコーヒーでも出そうかと笑って話しかけても。
「飲み物は自分で持ってきたから大丈夫。気にしないで。それより必要な作業だけ教えてよ。すぐ帰りたいから」
なんて、ひどく素っ気ない返事しかしなかったのは今でもよく憶えている。
流石に室内だから帽子は脱いでいたが、それでも顔が隠れるほど前髪を伸ばし、猫背になって作業する姿からは面倒な仕事を押し付けられているのだから話しかけるなよ、というオーラが溢れていた。
「ごめんなぁ、黒沢。山田は人見知りするタイプってのかなぁ? あんまり喋るタイプじゃないんだよ。でも、本当に作業は早いし頼りになる奴だから、ちょっと失礼なところは許してやってくれないか? あいつ、基本的に誰に対しても失礼なんだよ」
黒沢が機嫌を損ねたんじゃないかと心配し、谷原は慌ててフォローを入れる。
だが、黒沢は山田の横顔を眺めながら何とはなしに考えていた。
この男も燻ってはいるが、自分でも何かしら大きなことをやりたいと思っているのではないか。 娯楽を享受する側ではなく創造する側にいたい人間なのではないかと思ったからだ。
「別に気にしないさ。それより谷原は山田の知り合いなんだろう。あの山田って奴、普段は何してるんだ?」
「えっ? 普段……普段かぁ……」
自分の見た映画や本の感想をネットにupしていると聞いてすぐ、アカウントを教えて貰う。
フォロワー数は100人前後でお世辞にも有名なアカウントとはいえないだろう。感想や日々の日常などはほとんどブログに記録していたが、書いている文章も内容もそれほど悪くない。
特に映画に関しては大衆娯楽として見た時のメリットとデメリットを指摘しつつ、それでも個人で心打たれた内容にも触れ、まだその映画を見ていないなら是非とも劇場に足を運ぼうと思わせる語り口になっており、それもまた山田の思惑通りの文章なのが見てとれた。
ひとしきり内容を読んだ後、黒沢は改めて山田を見る。
もし、自分が今後も動画配信者として活動していくのなら、山田のような人間に一通りの段取りや台本のようなものを作ってもらえればベストだろう。
行き当たりばったりの内容より、ある程度筋道や段取りがエンタメには必要だ。そのエンタメが何たるかを理解している山田なら、よい構成で話を作ってくれるだろうし、自分のまとまらないアイディアをうまくアウトプットしてくれるかもしれない。
それに、山田は顔がいい。
自分の顔を隠すように前髪を伸ばし、体型を隠すようなオーバーサイズのパーカーなんて着ているが、この男は磨けば光るタイプの顔だ。
眉崎のようにわかりやすく誰が見ても色男だというわけでもなければ、谷原のよう服装や髪型に対して流行を気にする素振りはない。
地味で目立たないようにしているのは自分に自信がないからだと思うのだが、山田の顔立ちもスタイルも確実にファンがつくものだと黒沢は確信していた。
これは、黒沢自身が山田のように斜に構えた印象のいかにもモラトリアムの最中にあり自己に迷い憂うような青年が嫌いじゃないというのもある。
「一通り終わったんで、チェックしてくれますか? 谷原さん」
作業は小一時間も経たないうちに終わっただろう。谷原の言う通り、聞いた事もないフリーソフトを使っているというのに驚くべきスピードだ。
「あぁ、チェックね。わかった。山田は、えぇっと……」
「山田くんは、こっちに来て一服してくれないか? チェックの後修正もあるだろうから」
黒沢が声をかけると、山田は億劫そうに立ち上がりテーブルの方へやってくる。かわりに谷原がPC前に座り、動画に問題ないかチェックをはじめた。
「山田くん、コーヒーがいい? それとも紅茶? あぁ、せっかく来てくれたんだからお礼のつもりでだすんだ。遠慮しないでくれよ」
「……なら、コーヒーで。砂糖とミルクがあったらおねがいします。最近夜遅くまで作業していることが多いんで、甘いものがほしいんで」
黒沢は微かに頷くと慣れた様子でコーヒーを煎れる。
山田は砂糖をスプーンたっぷり2杯入れ、ミルクを多めにいれた後一口飲んで声をあげた。
「バリ神山? いや、でも……」
やはり、こういったものの味がわかるのか。黒沢はわずかに笑うと、山田の隣に座り同じ珈琲をブラックで飲む。
「よくわかったね。その通りだよ。皆があつまる場所にはいいものを準備しておこうと思ったのに、他の連中はありがたみもわからないで飲むからわかってくれる人が来て嬉しいな」
「え、えぇ。珈琲はそんなに嫌いじゃないんで……ただ、普段は僕もインスタントです。こういう高い豆をちゃんと焙煎したものはあまり……」
「それでも、味がわかる人がいてくれるのはうれしいさ」
山田はどこか照れたようにうつむくと、ちびちびと珈琲を飲む。猫舌なのか、たっぷりミルクを入れたにもかかわらず何度もふぅふぅと息を吹きかけていた。
黒沢は山田がカップを置き一息つくのを見計らうと、すぐさま長く厚ぼったい前髪に手を伸ばし、前髪を上げる。
「ちょっと、何するんですか……」
慌てて手を払おうとする山田の手首を掴んでとめると、黒沢は敵意がないのを示すためなるべく優しく笑ってみせた。
「いや、山田くんは随分前髪が長いけど、美容院とか行ってるのかい? これだと顔が隠れてPCを弄るのも不便だろう」
「別に、不便ではないです。必要なときに、自分で前髪切ってるんで……」
「そうか。これ、俺行きつけの美容院連絡先。もっていくといいよ。顔見知りだから、ただで切ってくれる。今回のお礼だと思って受け取ってくれ」
「いえ。そういうわけには……それに、僕は美容院とか行く予定もないですし……」
目を背けようとする山田の頬に手を添えて、少し強引にこちらを向かせる。
このタイプならもう少し押せばいけると思い、さらに黒沢は畳みかけた。
「山田くん、顔立ち整ってるのに前髪で隠すのはあまりにも勿体ないって。もう少し切ってもっと顔、見せてくれないか?」
「で、でも……そんな、僕は別にいい男とかではないですから……」
「そう? でも、俺は山田くんみたいな顔、好きだけどな。もし前髪切って整えたら、写真送ってくれるか? キミの顔、もっとよく見てみたい」
山田はそこまで言われると慌てて手を振りほどき、すっかりうつむいてしまう。
そして消え入りそうな声で。
「わ、わかりました……考えて、おきます……」
そう言ってから、残った珈琲を一気に飲み干すのだった。
山田が臨時の助っ人から正式にメンバーに加わったのは、それからもうしばらくたった後だ。
5Sとして活動する頃は、全体の流れを決める演出担当兼ライターとして自身も動画配信者側になって活躍するようになる。
眉崎ほど女性ファンが多いわけじゃないが、一定数のファンを得ている。
やはりあの時声をかけ、髪型を変えさせて自信をもたせてやったのは正解だとつくづく思う。
ただ、一つだけ、計算外なことがあったとするのなら……。
「……ん、山田。おまえ髪型変えたな?」
以前と変わらないオーバーサイズのパーカーの下から、以前より垢抜けた印象の山田が顔をこちらに向ける。
「あ、わかる? ツーブロにしたんだよね。谷原さんとか眉崎さんみたいな系統、僕には無理だからもうちょっとサブカルっぽいほうがウケるかな、と思って」
「確かにそうかもな。だが少し変えすぎじゃないか?」
刈り上げたうなじを眺め、黒沢は自然と口元に手をやる。
動画の撮影やロケハン以外はほとんど外に出ないという山田の肌は透き通るように青白く触れたくなるほど艶やかだった。
「でも、似合ってるでしょ?」
山田は黒沢に向き直ると、からかうように笑う。
「そうだな……似合っているのは似合っているが……」
元々外見に自信がなかった山田だったから、黒沢は山田の見た目を否定しないよう心がけていた。それは、多少吹っ切れて自分の見た目を受け入れることが出来た今でも変わりない。
山田は黒沢のこたえを聞くとわずかに首を傾げて見せた。
「だよね。黒沢さん、僕の顔好きだもん。似合ってなくても、そう思ってくれるよね」
そして山田は悪戯っぽく笑いながら、少しだけ舌を出す。
磨けば光るだろうと思って自信をつけさせるつもりだったが、少しだけ育てすぎたようだ。
少なくとも今の山田は自分がどんな姿をしても黒沢だけは否定しないと信じているし、黒沢が否定しなければどんな姿にでも見せてくれるのだろう。
熱を帯びた強い感情が山田の視線からは否が応でも伝わってくる。
「じゃ、これから谷原さんと今度の動画のロケハンしてくるから。僕がいなくても寂しがらないでよね、黒沢さん」
ウインクしてから去って行く山田を見送ると、黒沢は一人呟いた。
「あぁ……磨けば光る奴だと思ったけど、ちょっとやりすぎたな」
だがそれも、存外に悪くない。
深々と椅子に腰掛けながら黒沢は目を閉じる。
瞼の裏には、今しがた見たばかりの、茶目っ気たっぷりに笑う山田の姿がはっきりと残っていた。
PR
COMMENT