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インターネット字書きマンの落書き帳

   
興家くんと約子&ミヲが出る話です(真EDのif後日談)
興家彰吾と逆崎約子、黒鈴ミヲなどが出る話を書きました。(挨拶)
真EDの後日談的なもので、興家彰吾がコツコツと「蘇りの秘術」と縁深い人たちを解放していくような話ですよ。
真EDの後日談なのでおネタバレは注意ですぞい。

興家彰吾が皆を解放している話なのに、ラスボスぽいのはオレの趣味です。
ラスボスとして覚醒しちゃった興家彰吾という概念かな?

今回の話は、マダムの心を救おうと思ったもののそのためには息子である志岐間修一くんの力が必要そうだ! 修一くんは白石美智代のことを心配していたぞ!
白石美智代にあいたいけどもう死んでいるから、縁深い逆崎約子に会おう!

そんな感じで逆崎約子に接触した興家彰吾が、逆崎約子と黒鈴ミヲと対話する話です。

こういう話をちまちまと出して……。
イベントがある時、まとめて同人誌にするのがオレの野望ってこと!

初恋泥棒になりそうな興家彰吾という概念を書きました。
ゆっくり楽しんでいってね!


『白石美智代の解放』

 興家彰吾は子供たちに混じって駄菓子屋・せんのやの品揃えを眺めていた。
 昔ながらの情景を残す下町で戦後から変わらぬ姿で駄菓子屋を続けているせんのやは店の出入り口にはきなこ棒や麩菓子にポン菓子と定番の駄菓子が並ぶ他、指を擦れば煙が出る粉やら学ランを着た鳥のシールやら水風船に縄跳びといった子供向けの玩具がいくつもぶら下がっている。

 棚ぎっしりの駄菓子やオモチャが並ぶ店内を奥へと進めばビー玉の入ったラムネ瓶やアイスクリーム用の大きな冷蔵庫のそばに鉄板つきのテーブルと椅子がおかれ、注文さえあればもんじゃや焼きそば、お好み焼きなどを提供している。
 平日であれば夕方頃から学校帰りの小学生や部活を終えた中高生が集まる場になっているのだろうと思いながら興家はあたりを見渡した。

 今日は休日でまだ朝も比較的に早い時間だからか子供たちが集まってシールの袋を透かして中身を確認しようとしたり、水風船を手に公園へとかけ出したりしている。
 興家はそんな子供たちの様子を物珍しそうに眺めつつ、時々に「その鳥のシールとか流行っているのかい」とか「どのお菓子がオススメかな」なんて他愛もない雑談を交わしていた。
 逆崎約子が店先に顔を出したのは、ちょうどその頃だったろう。

「あら、やだもう来たのかい。約束の時間より随分と早いじゃぁないか」

 約子は驚き興家の隣へと駆け寄れば、周囲の子供たちがにわかに騒がしくなる。

「何だよ約子ネェちゃん、彼氏かよ」
「あついねぇ、こんな男勝りのネェちゃんも彼氏ができたのかァ」

 ませた子供たちがそんな風にはやし立てるものだから、約子は腕まくりをすると。

「うるさいねぇ、お客さんに失礼だろ! ほらアンタら片っ端からげんこつしてやるから!」

 そう言いながら子供たちに向かって吠える。
 ませた子供たちは一斉に悲鳴を上げると蜘蛛の子を散らすように逃げ出すがまたすぐに元通りに集まると離れたところから約子と興家の様子をニヤつきながらうかがっていた。

 約子と興家が知り合ったのはつい先日のことであり、彼女が亡き親友である白石美智代の事故現場へ向かった時であった。
 事故から一ヶ月近い時が経ち、そこで事故があったことも忘れられようとしていた。
 生徒たちが彼女を偲んで置いた花や供え物は近所の住人から邪魔になるという理由で撤去され、忙しく行き交う車が彼女の倒れていた場所を何もなかったように通っていく。
 この場所に来たところで新しいものは何もないという事は約子にもわかっていたが、白石美智代の死が自殺ではなかった事や彼女が協力を強要された事件が解決したことなど目まぐるしい日々が過ぎ去り落ち着いてきたいま、自分なりにけじめの意味をこめて約子は全てのはじまりであるその場所へと出向き、そこにいたのが興家だったのだ。

 興家は白石美智子を知っているという少年のためにその場へ来たのだと言う。
 そして興家が知る少年こそが、白石美智子が誘拐し死なせる事となった志岐間修一だったのだ。

 興家は約子の身体に白石美智代の霊が取り憑いていた事すら見抜き、その上で彼女の内に残る白石美智代と接したいと約子に頼んできた。
 興家がなぜ修一少年を知っているのかはわからない。
 蘇りの秘術が関係した因縁を解放するのに必要なこととは言っていたが何処まで本心かつかめない所がある。
 何より約子はオカルトなどとは無縁の生活をしてきたので、興家がどれほどの力をもちどのような意図で近づいてきたのかなど一切分からなかった。

 彼はまた会ってくれるのなら時間や場所の指定をすべて約子に任せると言うのでその点を考えれば、約子に対して危害を加えたり下心をもって近づいたようには思えない。
 だが約子がオカルトに関して知らない事が多すぎるというのは心許なかったし、興家の目的が分からないのにあれこれ受け答えをするのは危険なように思えたので彼女はクラスメイトの黒鈴ミヲに頼んで一緒に話を聞いてもらうことにしたのだ。

 黒鈴ミヲは最近約子のクラスに転校してきた少女で、いわゆる霊媒体質というものだった。彼女自身の霊感も中々に強い上簡単な除霊や霊視の類いができるよう修行もしており、まだ年若いのに大人たちに混じって事件なども解決してきた経験から非常に胆力もある頼れる存在だ。
 今回転校してきたのも約子の通う高校付近で何かしら霊的な事件がおこる可能性を見越してのようで、これまで幾度も霊的な事件を阻止するため転校をしてきたのだという。

 幸い今のところミヲが懸念するような大きい事件はおきていないが、白石美智代の自殺からはじまり約子が美智代の霊に憑依をされた事、自殺は事故だったという事実が明らかになった事や誘拐事件が解決したなど一連の流れを見るかぎりミヲがこの学校へ転校してきたことは意味のある事だったのだろう。

 オカルトに詳しくある程度大人にも気後れしないミヲがいれば興家という人間がいかなる人物か推し量る事ができるのではないか。そう思い彼女にも来てもらうよう声をかけておいたのだが、どうやら興家のほうが早く到着したらしい。

「あぁ、逆崎さん。自分でも思ったより早く起きちゃってね、それで、久しぶりに駄菓子屋をゆっくり見るのもいいかなぁと思って予定より早く出たら随分早く着いちゃったんだ。早すぎたのはこっちの都合だから、逆崎さんは時間まで気にしなくていいよ」

 興家は人の良さそうな笑顔を浮かべると丁重な物言い約子に接する。彼の言葉に嘘はないようで、店内をまわっては懐かしそうに駄菓子を見たりぶら下げられた雑貨などを手に取ったりしていた。
 特に「なめどり」のシールが気になる様子で、子供たちに「それっていま流行ってるの?」とか「珍しい奴とかある? どうやって買えばいいのかなぁ」なんて色々と聞いている。

 出会った時から一貫して興家という青年は約子に無理のないよう気を遣ってくれていた。どこから見てもいたって普通の青年にしか思えないものだから、約子はミヲを呼んだのは大げさかと思い始めているほどだった。
 そもそも今日は休日であり学校に私生活にと色々忙しいはずのミヲを呼び出してしまったのも申し訳ない気がしてきた。

「興家さんは随分と早かったけど朝ご飯はちゃんと食べたのかい?」
「ん? あぁ、朝は買って置いた菓子パンを食べてきたよ。朝食はいつもそういう感じだなぁ、自炊ってしないから。やろうとは思っているんだけど、なかなか時間がとれなくってね」
「ダメじゃないか、それならウチで何か食べていくかい? もんじゃとかお好み焼きならこの約子さんが腕振るっちゃうよ」
「へぇ、いいね……じゃ、せっかくの下町だしもんじゃをお願いしようかな」
「あいよ、じゃぁそっちの椅子に座って。鉄板に火ぃ入れるからね!」

 ミヲがまだ来ないのでどうにも手持ち無沙汰なものだから約子は進んでもんじゃ焼きの準備をはじめる。これは約子が当店自慢の下町もんじゃを皆に振る舞って喜んでほしいという個人的な理由もあってのことだった。
 彼女は慣れた様子で鉄板に火を入れると自家製もんじゃの材料をボウルに入れ鉄板のすぐそばへと置く。 興家は駄菓子屋でもんじゃを食べるのは初めてなのか、暖かくなった鉄板を珍しそうに眺めていた。

「興家さん、もんじゃは初めてかい?」
「いや、食べた事はあるよ。でも作り慣れているかといわれるとそうでもないなぁ。おれ、下町に来たのはわりと最近でずっと住んでたわけでもないから」
「だったらあたしが作ってあげるから、興家さんはそこで見てておくれ」

 約子はそう言うと火を入れた鉄板に慣れた調子で油を引きえび・いか・ぶた肉というシンプルな具材ををその上で炒め始める。最初に具材に火を通すこと、特に豚肉は生焼けにして当たってしまえば一大事だ。
 次いでたっぷり刻んだキャベツを具材の上にのせ炒めていくがここは軽く火を通す程度で良く、炒めた具材で円形の土手をつくったら中央の空いた空間に汁を注ぐのだ。

「ちょっと汁を注いでから、一度炒め直すのがポイントだからね。ここで汁と具材を馴染ませてから、まーた土手をつくるんだ」

 約子はそういいながら土手をつくりなおし、残っていた汁を全て注ぐ。
 ある程度煮えてきたと思った鉄板全部を使うくらいの勢いで具材を広げていき、端がほどほどきつね色になったら完成だ。

「さ、そろそろいいかなぁ。興家さん、青のりかけても大丈夫かい? ネギはいけるよね? ソースはちょっと多めくらいがいいよ。マヨネーズもいっちゃおうか! はい、これで焼けた端から食べていくといいよ、熱いから気をつけてね」

 約子は小ヘラを興家に渡せば、興家は言われた通り端のほうからこすり取るように口に運ぶ。できたてどころか火の入った鉄板で直接食べるもんじゃ焼きに口をハフハフ動かしながら、興家は自分の顔を手で仰いで笑った。

「うん、美味しい。下町の定番、って感じでいい味だね、気に入ったよ」
「そうかいそうかい、嬉しいねぇ、じゃんじゃん食べておくれよ」

 約子にとってもんじゃ焼きは子供の頃から慣れ親しんだ味であり、自分の好きな味を喜んでもらえるのは何より嬉しい事でもある。どんどんもんじゃ焼きを頬張る興家を前に約子がすっかり上機嫌になっていた時、ようやく黒鈴ミヲがせんのやへと顔を出した。

「約子ちゃん、いる? ども、こんにちは。あ、まだおはようかな? オハヨ、約子ちゃん」

 黒鈴ミヲはせんのやの裏口から顔を出すと胸の前で両手を会わせ拝むような挨拶をする。その声を聞いて約子はすぐに裏口へと駆けつけた。

「あぁ、おはようミヲちゃん。ここまで来るのに迷ったりしなかったかい? 本当に、休みだってのに呼びつけたりしてごめんよ」
「ううん、ダイジョブだよ約子ちゃん……なんか、いいニオイがするね。朝ご飯?」
「いやいや、実はミヲちゃんが来るより先に興家さんが来ちゃったんだよ。それで、朝ご飯もちゃんと食べてないって言うからもんじゃ焼きを振る舞ってたってわけさ」
「あ、そうなんだ……」

 約子の説明にミヲはさして驚いた様子も見せず店の方へと視線を向ける。
 背もたれのない椅子にこしかけもんじゃ焼きを頬張る興家もミヲの来訪に気付いたのか顔をあげ裏口へと目をやっていたものだから二人の視線がかちあった。
 ミヲは興家と目があい、しばらくお互い見つめ合う。だがふっと思い出したようにミヲは手を胸の前であわせ丁重に頭を下げた。

「あ、あの、おはようです」
「あぁ、おはよう……えぇっと、どちらさまで」
「私、約子ちゃんに言われてきました。黒鈴ミヲと申します、よろしおねがいします」
「そっか、逆崎さんの言っていた霊感少女の……」

 霊感少女と言われミヲは少しむくれたような顔をする。 多少霊感があるのは事実だし霊媒のようなこともたしなんではいるが、普通の少女と明らか様に違うように扱われるのはあまり好きではないのだろう。

「何というかその呼ばれ方は……うぅ、ビミョー……」

 俯くミヲを見て興家は人なつっこい笑顔を見せながら頭を掻く。

「ごめんごめん、そうだよなぁ。おれもオカルトサラリーマンとか霊感お兄さんとか呼ばれたら微妙な気持ちになるもんなぁ。あぁ、おれは興家彰吾。普通の会社員だよ」

 興家はそう言うと小ヘラの上にあるもんじゃへ息を吹きかける。ミヲは彼のその姿をじっと見つめていた。

「えぇと、どうしようかねぇ。話は興家さんがもんじゃを食べちゃってからにしようか? 店じゃちょっとうるさいから家にあがってもらって……ミヲちゃんはそのままあがっておくれよ、今お茶でもだすからさ」
「あ、ダイジョブだよ約子ちゃん、おかまいなく……」
「気にしないでおくれよ、こっちが呼び出したんだからね。ケーキも準備してあるし、すぐ支度しちゃうからね。ほらミヲちゃんも、来ておくれよ」

 慌ただしい様子で部屋へと上がっていく約子についてミヲも部屋へと向かう。
 その最中でも、興家は何ら気にする様子もなく、ヘラでもんじゃ焼きをつついていた。

***

 店内から室内へと移動した後、興家が約子とミヲに伝えたことは概ねこのような話だった。

「実はおれ、蘇りの秘術に関わるモノを封印しているんだよね。あれは現代でも結構危険な呪詛だから、放って置くわけにもいかなくて」
「この件はおれ個人的に見過ごせない案件だから一人でやってるんだよ。ほら、呪いを封印しますなんて言って信用してくれる奴なんて滅多にいないだろう。その点、きみたちは最近けっこう濃いめのオカルト体験をしているみたいだから分かってくれるかなぁと思って話しておくけど、おれみたいな大人がこんな話しをはじめたら普通は頭おかしいんだろうって思われちゃうからね」
「いくつか火種になりそうなものは潰してきたんだけど、ここに来て少しばかり根の深い相手と出会っちゃってね。その相手を呪縛から解くために、白石美智代さんの話を少し聞きたいと思ったんだ」
「あいにくと、おれが事故現場に向かった時にはもう白石さんの魂はそこにはなかったんだけど。いや、生憎なんて言うのはいけないか、事故現場にもう存在を感じなくなったということはちゃんと魂があるべき場所に向かったってことだから。でも、こっちとしてはちょっと困っちゃったんだよ。話を聞きたいと思った人がもういなくなってた、ってことだし。せっかく安寧のある場所へと向かっていったのを無理矢理戻しちゃうのも悪いだろう」
「そうしたら、逆崎さんがおれの前に現れた。いやぁ、天の采配って思っちゃったよね。まさか会いたいと思っていた魂の輪郭をもっている人がいたんだから……」

 ミヲはその話を、胸の前で拝むよう手を合わせながらじっと聞いていた。
 興家はとても愛想の良い笑顔と優しい声でこれまでたどってきた経緯をよどみなく語る、その言葉からは嘘偽りは感じられない。蘇りの秘術を封じるようと思ったきっかけやその方法に対してはのらりくらりとかわしていたが蘇りの秘術そのものを存在させてはいけないという強い意志は確かに感じられた。
 また、白石美智代の魂がすでにこの世にはないが逆崎約子の姿を見てその輪郭を感じるというのも、白石のことを知っていれば充分にあり得ることだ。
 白石美智代はもう存在しないが逆崎約子という人格のもつ思い出のなかにはしっかりと入り込んでいて、それはちょうど細かいガラスの破片のように彼女の中で輝いて見えるのだろう。
 すでに微かな存在にはなっているが、霊感の強い人間が見れば約子の中には違和感のある美智代の魂が砕いたガラスの破片のように異物となって輝いて見えることだろう。
 興家が知り得る情報は、彼が霊感の高い人物であれば充分にわかる範囲のことなのだとミヲは約子にも告げた。

 だが、気になる点がひとつある。
 ミヲは興家の話が一段落するのを見計らい、おずおずと口を開いた。

「あの、興家さんはどうやって美智代ちゃんの……白石さんのこと、知ったんですか。確かに約子ちゃんの身体には美智代ちゃんの魂がまだ残っている状態とは言えます……けれど、それが美智代ちゃんの魂だってわかった理由って何でしょうか……」

 興家の見えている世界は、ミヲが見えている世界とあまり代わりがないようだ。つまり、彼も相応の力をもった霊能力者ということだろう。 その点は疑う必要もなさそうだが、白石美智代との接点はどうしても気になっていた。
 そもそも、普の霊能力者であればすでに除霊の済んでいる約子の身体に美智代の魂が残っているという事すら気付かないだろう。気付いたとしてもせいぜい、別の魂が残っていることくらいが限界のはずである。
 だが興家は約子の身体に残っている魂ははっきりと美智代のものだと理解しているのだから、つまりそれは、興家が生前の美智代を知っているという事である。

 だが、白石美智代の周辺は恵まれた環境ではなかった。
 義父の暴力や罵倒は日常であり、教師である人物も尊厳を蹂躙する真似を平気でやってのけた。悪い大人たちに支配され散々と弄ばれることが日常だたのだから、その頃の彼女と知り合いであれば興家もその一味か全てを知っている上で何もしなかったという事になる。
 もしそうであれば、許される存在ではないだろう。
 ミヲの質問に、興家は困った顔をしてこたえた。

「ひょっとして、おれが悪い大人じゃないかって疑ってるかなぁ。一応、そうじゃないんだ。生前の彼女は知らないからね。こういう事言っても信じてもらえるかわからないけど、白石美智代さんと知り合いなのはおれじゃなくておれの知ってる子なんだ。志岐間修一くんっていうんだけど。そう、白石さんが誘拐した男の子だ」
「うーん、こういう風に結論から話しちゃうから櫂さんに何を言ってるんだかわからないって言われちゃうんだろうな。順を追ってはなすよ」
「おれは蘇りの秘術を何とか封印したいって目的がある、これは最初に言ったよね。それで、本所をブラブラしながら秘術を求めてそうな人たちに声をかけたり、実際に呪いに取り込まれそうな人から呪詛の根っこみたいなのを引っこ抜いたりしてそういうのを回収してたんだ」
「そんな中でちょうど本所七不思議では送り拍子木の噂があるあたりでね、特に強く呪詛に飲まれている人に出会ったんだよ。その人はお子さんを失って負の感情に沈んでいた……」
「その人のお子さんは、もう亡くなって一年は経つんだろうけど母親が心配で成仏ってのが出来ていなくて。おれに色々話してくれたんだよ、お母さんを助けてあげたいけど何もできないとか、お母さんは死んだ美智代お姉ちゃんのことを悪く言うのが悲しいって……」
「その人の心を楽にするためにも、修一くんの思いを知るためにも白石美智代さんってのがどんな人か見てみたくなって……でも、彼女の家訪ねてみたけど誰もいないみたいだし、暫く戻らないか戻ってもその家には美智代さんの霊はいなかった……だから事故現場に行ってみたってワケだ」

 訥々と語る興家は時折に目を閉じたどってきた道を思い出すようにして語る。
 彼の言葉を信じるのなら興家は白石美智代と面識はなく、すでに亡くなっている志岐間修一から伝え聞いた姿で逆崎約子に行き着いた事になる。
 白石美智代から何を聞きたいのかは曖昧なままだったが彼女に会いにくるだけの理由としては納得できるものだろう。
 だがそう言えるのは志岐間修一が普通の少年だったらの場合である。
 彼がすでに死んでから一年以上もたっている幽霊だとすると、記憶も存在もすべて曖昧になり普通の証言など通常は期待出来ないからだ。
 ほとんどの幽霊は死んだという事実すら知らず自分が何者かさえも見失っている状態であり過去の記憶や元々の性格などを覚えている方が異質なのだ。

「あ、あの。ちょと、いいですか。興家さん……どうやって修一くんと話したんですか」
「どうやって、っていうと……えぇっと、どういう意味かな」
「幽霊っていうのは、自分が死んだ事すら曖昧で生前の記憶とかほとんど無かったり、怒りとか悲しみとかそういった感情だけ残ってたりしますよね。ましてや死んでから一年近く経っていると色々薄れてきちゃって、自分の名前だって思い出せないこと、多いです。実際に、約子ちゃんにはいっていた美智代ちゃんも自分がどうやって死んだのかとか、はっきり思い出せていなかったし……」

 そこでミヲは約子へと視線を向ける。約子はこっくりさんで美智代の霊がやってきたとき、名前を聞いても名乗れなかったことを思い出し頷いた。
 あの時の白石美智代は自分が誰であるかも忘れており、名前を聞かれた時もひどく混乱していたのだ。 亡くなってからたった一週間しか経っていなかった白石美智代でさえ生前の記憶が朧気になっていたのだから、一年経っている子供の記憶はますます曖昧になるのではないか。そう思うのは普通の事だろう。
 興家は少し考えた後、「うまく伝えられるかわからないけど」と前置きした上で口を開いた。

「確かに、初めて会った時は修一くんは自分の名前も言えない状態で、ただ自分の母親に執着して渦巻いている怨霊みたいに見えたよ。最初はかなり大きく渦巻いた存在だったから、この家の奥さんに横恋慕している男の幽霊かなとか思ったくらいだからね」
「だからまず無理矢理に力をぶつけて相手の執着をおれに向ける事にしたんだ。おれが少し強く出たらおれの事危険な奴だって思ったみたいで意識がおれに集中してきたからね。それで、おれに向けられた怨念ってのかな。感情の塊に触れているうち、言葉が拙かったりお母さんってのに執着してるのに気付いて、あぁこれ子供なんだなぁって思ったんだよ」
「それから、お母さん助けたいのかとか、歳はいくつとか聞いてるうちにその子も自分が何だかわからない状態に気付いて、おれが少しだけ手をかしてアレコレ聞いてたら段々、志岐間修一って名前とか誘拐されたこと、殺されたこと、誘拐されたときの出来事なんかを思い出して話してくれた……ってかんじかな。これで説明になってればいいけど……」

 興家は事もなげに語ったが、ミヲは静かに息をのんでいた。
 己を亡くしているような亡者と化している幽霊を正気に戻すというのをいとも容易くやってのけるというのは相当に能力の高い霊能者だ。とりわけ死霊と対話を主とする霊媒師が何年も修行を積んでなしえる領域であり、元々死霊と触れる家系のまじない師や巫女などが幼いころから修業をしていて得られるようなものなのだ。
 興家はとてもそのような修行をしている風には見えないが、それをやってのけたというのだろうか。それは誰かに教えられたのか、それとも独学か。
 もしどこかの弟子であればこれだけの能力者が一人で勝手な活動はしないだろう。だが教えも乞わずにその領域へと踏み入れているのであれば凄まじい才能になる。

「わかりました、すいません変なコトを聞いてしまって」

 胸元で手を合わせ丁重にお辞儀をするミヲを前に、興家は「そんなに改まらなくても」とやや恐縮したように手を振った。
 おそらくだが、興家はミヲも霊感のある人物であるのには気付いているだろう。だが彼女が指摘した部分の説明に困るということは、霊障に関して場数は存外に少ないに違いない。
 やはり、修行などはなく実践だけで今まで呪詛や霊などと対峙してきたように思える。だがそうだとしたら、ただ才能が飛び抜けているというだけでは説明がつかないほどの能力者だ。
 それでこそ人間より、ずっと霊や妖異に近い化け物側に匹敵する驚異といえるだろう。

「それで……修一くんから聞いていること、逆崎さんに伝えてみていいかな。彼女のなかにある美智代さんの思いが少しでも聞けたらいいと思ってるんだけど」
「はい、ダイジョブだと思います。もう美智代ちゃんは成仏していると思うから、約子ちゃんの中に残っている美智代ちゃんの記憶だけが呼び起こされるだけだと思いますけど……」
「充分だよ、逆崎さんいいかな」

 興家は約子の方を向くと穏やかな笑顔を見せる。
 同級生にはない落ち着きある大人の雰囲気もあってか、約子は珍しく顔を赤らめながら頷いた。

「あぁ、任せておいてよ。役に立てるかわからないけど……」
「それは逆崎さんが気にする事じゃないさ、おれの都合で押しかけちゃっているんだから……じゃぁ、よろしくね」

 両手を組み、しばらく瞑目した後興家はゆっくりと語って聞かせた。

「修一くんは困っていた白石さんを助けようとして誘拐されちゃったワケだけど、騙されたとは思っていなかったんだ。ほら、誘拐された先で白石さんはお義父さんに殴られてたり脅されてたりしたんだろ。それで泣きながら謝る姿を見ていて、白石さんも守らないといけない、そう思っていたんだ」
「だけど自分自身がまだ子供で思うように動けなかっただろう? 大人じゃないから何も出来ない、自分がもっと大人で警察官だったら白石さんを助けられたのにって、それをすごく気にしてたんだよ」
「白石さんは、修一くんが殺されそうになった時も必死に守ろうとしてくれたみたいだしね。こんな小さい子供を殺さないで、って必死に守ろうとして、そのせいで非道く殴られて……修一くんは恐怖はモチロンあったけどそれ以上に自分を助けようとしてくれている女の人を守れなかったことを気にしてた。お母さんから、女の人やお年寄りには優しくしてねって言われていたからなおさら悔しかったんだろうね」
「修一くんにとって、白石さんは優しいお姉さんであり、助けてあげたい人の一人だったんだよ」

 穏やかで心に染み入るような言葉は聞いているものの魂を震わせ、約子だけではなくミヲの心にも白石美智代を守ろうとする小さな騎士の姿が浮かぶ。

「そ、そんな……あたしは何もできなかった、助けられなかったのに……あの子はずっと、そんな風に思ってくれていたんだね……」

 そこまで聞いた時、約子はぽろぽろと泣きだしてしまった。
 止めどなく流れる涙を前に、興家は静かにハンカチを差し出す。濃いブルーのストライプがはいったハンカチは微かに柑橘系のにおいがした。

「あぁ、ありがと……私も、おもいだした……美智代ちゃんが見た記憶だけど、その話をさせてもらうね……」

 ハンカチで涙を拭うと、約子は前を向き語り出した。

「暴力と罵詈雑言の日々ですっかり疲弊しちゃってさぁ、逃げちゃえばいいのに人間ってのは疲れ切ると考えるのも止めちゃうもんなんだね……アイツのいいなりで修一くんに声をかけて、でも最初は誘拐するだけでって、何もしないって言ってたんだよ」
「だけど部屋につれていったらすぐに殺すだの何だのって話をしはじめてねぇ……そんなの、約束と違うじゃないか。命に代えても修一くんは守らないとって、殺されないようにずっと抱いて眠ってたっけ……」
「でもねぇ、大人の男から暴力だろう? しかも相手は暴力になれてて、そりゃぁもう非道いもんでさ。修一くんも、小さい身体で守ろうとしてくれて。あぁ、何でこんないい子を連れてきちゃったんだろうって心の底から後悔したよ。手遅れだったけどねぇ……」
「あぁ、本当はあの時に死んじゃうのはあたしのほうだったんだ。それだってのに、気がついた時には……そう、あたしが散々と殴られて気を失っている時に修一くんは殺されたんだ、あたしが連れてきてしまったから……」
「……悔やんでも悔やみきれないよ。だから、あたしはどんな理不尽でも受け入れないといけないなんて思ったんだ。それがあたしに相応しい罰なんだ、って」

 話している最中に約子はまた涙をこぼす。慣れない約子の涙に寄り添い背中をさするミヲを前に、興家はゆっくりと手を伸ばし彼女の頭を撫でてやった。

「ごめん、これ以上はいいよ逆崎さん。逆崎さんが悪いわけでも、白石さんが悪いわけでもなかったんだ。もう終わってしまったことだけど……修一くんは、白石さんを恨んでなんかいなかった。そのことを、キミが覚えていてくれないかな。そうしたらきっと、向こうにいる白石さんも罰を受けるべきは自分だなんて思わないだろうから」
「あ、うん、うん、そうだね……あたし、覚えておくから。覚えて伝えてあげるから……」

 約子の中にあった棘のような痛みが暖かい思いに包まれていく。
 ずっと罪を抱いていた白石美智代の心は、実は最初から許されていたのだ。その真実を知るのは随分と遅くなってしまったが、長らく暗くかび臭い部屋に閉じ込められていた少女の心はようやく青空へと向かえるようになったのだろう。約子の胸に重く沈んでいた暗いよどみがすぅっと流れて消えていくような気がした。

***

 興家彰吾が席を立ったのはそれから数十分ほどたち約子の心がだいぶ落ち着いてからだった。

「これ以上おれがここにいると逆崎さんが苦しくなるかもしれないし……こっちとしても聞きたい話は聞けたからね」

 興家はそういい、いくつかの駄菓子となめどりのシール、それといらないと告げたはずのもんじゃ焼きの代金まで払って帰って行った。

「……一時はどうなるかと思ってミヲちゃんに来てもらったけど、興家さんに会えてよかったよ。何かやっと胸のつかえがとれたみたいだよ」

 約子は柔らかに笑い手にしたハンカチを見る。
 もう会う事もないだろうから返さなくてもいい、そう言って渡されたハンカチを約子は胸に抱くとすでに見えなくなった興家の姿を探すよう彼の行った道を眺めていた。
 ずっと縛られていた親友の鎖をはずし正しき場所へと向かおうとする白石美智代の姿を密かに思いながら。

 きっと、興家が現れたのは良い事だったのだろう。
 約子の身体に残された美智代の記憶は解放され憂いは消えたように見える。

 だが興家彰吾という人間がたどり着く道は、果たして良いものなのだろうか。
 あれほどまでの力を持つ存在が誰の支配も受けずただ自分の大義や信念だけで動いているというのはいつ破裂してもおかしくない爆弾が野に転がっているようなものではないか。
 ミヲの胸には不安が渦巻くが、今はすべてを飲み込む事にする。

 自分だけで判断できる内容ではないし、判断していい事でもなさそうだ。
 師匠や他の仲間たちに話をし今後の判断は任せ今は約子と解放された美智代の心を喜ぼう。

「よかったね、約子ちゃん。美智代ちゃん」

 ミヲは胸の前で手を合わせると、喜びの笑顔を見せる。
 そして密かに、興家彰吾が自分たちの敵としてあるいは呪詛に飲まれた化け物として現れる事がないよう願う。
 今の彼女には、そうすることしか出来なかった。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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