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インターネット字書きマンの落書き帳

   
興家さんと利飛太さんが何かゆるっとしてる(パラノマ真ED存在しない後日談)
パラノマサイトの二次創作を書くものです。(挨拶)

今回は、真EDの後いろいろと後始末をしはじめた興家彰吾という概念の世界で、興家が櫂利飛太と会いマダムと会うために画策するような話ですよ。

こういった話をぽつぽつと書いておくことで……。
もしパラノマサイトのイベントを開いた時、同人誌一冊にまとめるだけの原稿にしておこうってコト!

すでに利飛太とは顔見知りになり、興家が「なんかヤベェ奴だ」という認識は利飛太にあるけど呪術に関しては半信半疑みたいな感じですよ。

話は続いているような印象ですが、何処から読んでも大丈夫なようには作ってあるので大丈夫です。何故なら俺が途中から読んでも大丈夫なようにしておかないと後で色々確認するのが面倒くさいからです。

全て面倒くさい人が描いていますが、書くことだけはノリノリなので皆さんも楽しんでください!



『禍根は縺れ』

 夜半過ぎに志岐間邸から出てきた櫂利飛太を出迎えたのは興家彰吾だった。

「やぁ、櫂さん。マダムは元気だったかなぁ」

 どこか暢気な様子で片手を上げる姿は何処にでもいる普通の青年と変わりはないだろう。 利飛太は興家の隣に立つとやれやれと肩をすくめて見せた。

「正直なところあまり良い状態とは言えないね。事件は解決した、犯人も逮捕された。あの時自分がどう動いても息子さんが帰ってこない事もわかり、誘拐した女子生徒はもう死んでいる……その状態であっても過去を悔いてしまうんだろう。もっとできた事があったんじゃないか、あの時自分が気をつけていれば……なんてね」

 それは愛する子を喪った親として当然に至る心境なのだろう。 志岐間春恵にとって我が子は生きる道しるべであり心の拠り所であったのだからなおさら後悔は深い。
 事件が解決し、愛する我が子が殺された理由と意味が明らかになれば全て有耶無耶のうちに終わるよりずっと良いだろう。そう思い調査の依頼を受けた利飛太であったが、犯罪によって踏みにじられた人生を再生するというのがどれほど困難なのか改めて思い知るのだった。
 犯罪というものは元より、起こってしまった時点で大きな過ちであり巻き込まれた者は全てが敗者なのだから。

「しかしキミも困った人だね……僕にマダムを紹介してほしいと言った癖にいざアポイントメントがとれたという時には家に入ろうともしないのだから」

 利飛太は大きくため息をつくとつばの広い帽子を直す。
 興家と出会ったのは数日ほど前の事だ。
 彼は蘇りの秘術に関わってしまったがため、ある種の呪いを受けた人間を呪縛から解放したいと言って利飛太へと近づき、利飛太の依頼人であった志岐間春恵が大きな呪縛に囚われているのは間違いないから彼女に取り次いでくれないかと頼んできたのである。

 利飛太もプロの探偵だ。依頼人の情報を漏らす訳にはいかないというコトは当然に理解している。だがそれと同じくらいに志岐間春恵をこのままにしておいて良いものかという悩みも抱いていた。
 彼女は一つの事を思い支え続ける事のできるタイプの女性であるが、今はただ一つ心の支えにしていた最愛を喪っている状態なのだ。悪い考えも浮かぶだろうし良くない思いに囚われやすい状態なのも事実だろう。目を離せば影を引きずったまま電車にでも飛び込むのではないかという不安さえある。

 出来る事があるのならしてやりたいと思うが自分の立場では限度がある。
 そう思っていた利飛太の前に現れたのが興家彰吾だった。

 彼は志岐間春恵が囚われたものが呪詛と関連あるといい、自分ならそれを何とか出来ると言ったのだ。その言葉を全面的に信じるほど利飛太もお人好しではなかったが、彼が何かしらの奇妙な技をもっているのは確かではあったので自分の見ている範囲で、余計な悪さや過激な事をしないよう見張ることが条件なら良いだろうと志岐間春恵と会える場所をセッティングしたのだ。
 だが、いざ会うとなった時に興家は家の前で立ち止まりここで待つと言い出した。事情を聞いても「ちょっと」とか「今はそれどころじゃないかもしれない」なんて全く要領を得ないうち約束の時間ばかりが迫ってしまい、仕方なく利飛太は一人で志岐間春恵と会いあれこれ世間話をしてきたのだ。

 だが、やはりというか当然というか志岐間春恵は以前と変わらず憂いのある表情のまま一度だって笑いもしない。
 決して良い状態とは言えず、明日にでも不意にいなくなってしまいそうな程の悲壮感が漂っていた。

『わざわざありがとう、櫂さん。話し相手もいないから……どうしても、修一のことばかり考えてしまうの』
『犯人が捕まっても、修一が戻ってこない事ばかり考えてしまって……本当は今頃帰ってくるんだろうとか、もっと大好きなハンバーグを作ってあげれば良かったとかね……』
『やはりあの時私が気をつけていれば……私が修一に女の人やお年寄りには優しくしてあげてなんて言わなければ良かったんだわ……だからあの子は……』
『修一を誘拐した女の子は……ひどいことを、されたみたいね。でも私、彼女の事を可愛そうだなんて思えないの。修一をさらって、殺すのを黙って見ていたんでしょう。それなのに先に死んでしまうなんて……死に逃げされたみたいで……悔しいの』

 切々と訴える姿はもの悲しさのなかにやり場のない怒りと憤りばかり募る姿がうかがえる。そしてその怒りは最終的にすべて自分へと向いてしまうのだろう。
 彼女の言葉に耳を傾けるような家族や友人がいればもう少し気も紛れるものだろうが、同じような悔悟を繰り返すばかりでは聞いている側もうんざりして離れていっても仕方ない。
 志岐間春恵という女性は資金的にも物質的にも豊かな環境にいたがその視野は限りなく狭く、だからこそ心はいつも自分の方にばかり向いてしまうのだった。

「僕ももう少し何かしてあげたいとは思うんだが……所詮は雇われ人と依頼者の関係でしかないからね。それに、会える時間が夜ともなると体裁も悪いだろう」
「そうだね、仮にも人妻の家に若い男が一人足繁く通うなんて……はは、櫂さん若いツバメってところかな」
「おいおい、笑えない冗談はやめてくれたまえ。だいたい今日僕が一人で彼女に会う事になったのは、キミがここまで来て急に家に入れないと駄々をこねたからだろう」

 利飛太は腕を組みながら呆れた様子で興家を見る。だが興家はどこ吹く風といった様子で志岐間邸の方ばかり眺めていた。

「うん、おれも会って話がしたかったんだけどね。どうやらこの家もマダムも一筋縄ではいかないみたいなんだよ」
「なるほど……悪いが僕にもわかるように説明してくれないか、ミスター・興家。キミはいつも自分の見える世界で話をするから、何も見えていない僕からはサッパリ意味がわからないんだよ」
「ははっ、そっか。そうだよな、でもこの手のオカルトな存在っていうのかな。そういうのって、触れた瞬間一気に魂へ訴えるというか、刻まれるというか……一度に色々な情報がおれの中に注ぎ込まれていっぱいになるから、おれもそれを理解して咀嚼して誰かに伝えるのにちょっと時間がかかるんだよ。ほら、好みの映画を見た時、最初に感想がスゴイくらいしか言えなかったりするだろ。あぁいう感じでさ」
「今ひとつわからない例えだね、それは。で、僕に分かるよう説明はできそうかい」

 利飛太の問いかけに、興家は「うーん」と唸りながら自分のこめかみを押さえて目を閉じる。
 そして少し間を開けた後

「暗い、部屋。全体的に和室の雰囲気だけど、ここは応接間かな。和室に不似合いなほど大きなテーブルとソファー……黒電話……このデッカい機械はなんだろ。ファックスってやつ? ……壁にはシール、へんな格好の鳥のだ」

 驚いたことに彼は入ってもいない志岐間邸の様子を見てきたように語り出した。

「キミ……いま、何を見ているんだ。どうやって……」
「泣いてる、女性。マダムだ……どうしようもない、できない、何も届かない……」

 利飛太が興家と会ったのはこれでまだ二度目だが初めて会った時から彼は利飛太を前に姿を消したり顔を隠してみせるといった奇術のような真似をしてみせた。ただ、その時は超常的な能力よりも何かしらのトリックを使ったものだろうと考えており彼が自称する呪術師だとか声聞師という部分は眉唾で聞き流していた。
 だが、志岐間邸に入っていないのに室内の様子を把握しているのとなるといよいよ彼が何かしら異能の力をもっているのを認めざるを得なくなってきた。
 最も、利飛太を欺くために事前に忍び込んでいた可能性もあるのだから完全な信頼はできないのだが。

「ミスター・興家。今の言葉とキミがマダムに会えなかったことは何か関係があるのか」
「そうだなぁ……マダムに会うまえに、おれはこの家にいる別の霊との問題を解決しないとダメかもしれないんだよ。いるんでしょ、ここに……シューイチくんっていうのかな、子供の霊が」

 利飛太は志岐間春恵と興家彰吾を会わせるという段取りはしたが、彼女の身辺に関して余計なことを聞かせてはいない。当然、彼女の息子である志岐間修一のことも知らないはずだ。
 だから突然に興家が彼の名前を出したのに驚きはしたが、この事件は先日小さく報道されたばかりであり被害者である志岐間修一の名前も新聞にも載っているから調べればわかることだと思い直す。
 そんな利飛太を横に、興家は話しを続けた。

「修一くんは、どうしていいかわからないんだよ。自分の母親が自分のことでずっと泣いているのも悲しいし、どうすることもできないのは悔しい。それに、美智代お姉さん……白石美智代のことを母親が悪く言うのも辛いんだ。自分に優しくしてくれて、何度も謝ってくれて、最後まで後悔してくれていた彼女を修一くんは責めるどころか、守れなくてかっこ悪いって思っているから」

 当然のように語る興家を前に、利飛太も流石に目を丸くする。
 白石美智代は志岐間修一を誘拐した人物ではあるがすでに事故で亡くなっている。そして彼女は未成年だったこともあり誘拐の関与については報道されたが実名は明らかにされていないのだ。 事件関係者でなければ知らない人物の名前まで知っているとなれば、いよいよこの興家彰吾という男がこの世のものではない何かと話せるような能力をもっている、というのを認めざるを得ないだろう。
 能力は認めても、興家という人間がどうにも食えない男だというのはやはり変わらないのだが。

「なるほどね……キミが霊の都合でこれなかった、というのはひとまず納得しておこう。だがそれで、どうするんだい? これから先は解決する見込みがあるのなら協力したいところだが、何の見込みもないようだったら無駄な労力は避けたい所なんだけどね」

 利飛太の問いかけに、興家は拳をつくると自分の顎に当て考える。

「マダムはおれが今まで見てきた蘇りの秘術を求める人間のなかでもたぶん、一番か二番目くらいに呪詛に取り込まれている人なんだ。理由はまずこの場所、ここが本所七不思議の出処だってことなんだけど」
「あぁ、たしか……送り拍子木だっけ。どこからともなく拍子木の音は聞こえるが誰もそれを打つものはいない……今考えると反響で遠くにある音が近くに聞こえていた、くらいのことだとは思うのだけれども昔は幽霊ごとに思えたのかもね」
「それだけじゃないんだよ、この場所にあった屋敷は放火され人が死んでいるんだけれどその時の魂が呪詛になって残っているんだ。いにしえから存在する呪詛が目覚めて、お子さんを喪ったマダムの子を取り戻したい気持ちに絡まりそれがマダムがお子さんに執着する一つの理由になっている……だからまずは子供である修一くんの思いや言葉を届けてあげるべきなんだろうけど、そのためにはもう少し修一くんの霊を納めないといけないんだよね」
「霊の世界でも聞き取り調査があるのかい」
「霊の世界だからこそ聞き取り調査しかないんだよ、物証なんて出ないんじゃないかな。それに、霊の話は記憶が欠けたり感情が肥大したりするから話をするのも結構大変なんだよ。最も、修一くんはかなり物わかりの良い子だから下手な大人よりも随分と話しやすいんだけど……」

 そこで興家は志岐間邸を少し見上げる。

「少し、物わかりが良すぎるくらいかな。まだ10歳くらいだろう。それだっていうのに、あまりにも良い子すぎてかえって……おかしいんだ」

 目を伏せた興家が言わんとしていることを、利飛太も何とはなしに察していた。
 志岐間邸で見た修一の部屋があまりに整然としておりおおよそ娯楽らしいものが一つも持ち込まれていなかったこと。年相応の子供にある流行り物はもちろん、漫画一つすらなかったあたりに少年の秘めた孤独を覚えずにはいられなかったからだ。
 もちろん、大人たちが抱く子供のイメージすべてが志岐間修一という人間に当てはまるものでもないだろう。だがあまりにも優等生すぎるのはこの志岐間家では歪すぎる気がした。
 壁に流行りの「なめどり」シールを貼るくらいの悪戯心をもっているのだから尚更だ。

「それじゃぁ、キミは暫く修一くんと対話するつもりなのかい?」
「そうなるかな。少しかよって、色々話してみるよ。今は母親が心配で来てくれないけど、今日ももう少し話をしてみるつもりさ。ま、気長に行くよ。だから準備が出来るまでは暫く一人でやろうかな。櫂さんに来てもらって何もしないってのは流石に気が引けるしね」
「気長に……か、そうなるとキミは暫くこのあたりでボンヤリと立ちすくんだりしているのかい。不審者扱いされないといいがね」
「そのへんは、一応いろいろ出来るんでご心配なく」

 興家が利飛太の前へと手を差し出せばその指先は煙のように闇へ溶け姿が曖昧になっていく。

「便利なもんだよ、探偵としては羨ましい限りだ」
「ははっ、足音まで消せる訳じゃないってのはこの前、櫂さんを尾行してわかったからね。プロタンはこんな小手先の技術なんてなくとも、尾行くらい簡単だろ」
「もちろんさ、さて……僕は帰るけどキミはまだここに居るんだね」
「そのつもり……もし、事態が進展したら事務所に連絡させてもらおうかな。それじゃ、よろしく」

 気付けば興家の姿はもうほとんど見えなくなる。
 まったく、コチラの都合も考えず随分と振り回してくる相手だがそれでも彼が立ち止まり動くことが出来なくなった枷を打ち破るため動いているというのならもう暫く付き合ってやろう。

「事件はおこってしまった時点で何も生まれない……傷ついた心はいつでも置き去りだ。僕はそれが嫌だからこそ、いまここにいるのだからね」

 櫂利飛太は虚空にむけて独りごちる。
 全ては厚い雲に覆われ月の光も届かぬ夜の一幕であった。

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プロフィール
HN:
東吾
性別:
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職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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