インターネット字書きマンの落書き帳
葦宮に裏切られる男子高校生という概念のはなし(パラノマ二次創作)
葦宮誠という人間に対して絶望したいな……。
という気持ちを抱いたので書きました。
葦宮自身、自分の信じていたものに裏切られた絶望を感じているけど、彼もまた他人に絶望を与えているんだよなぁ……。
そんな気持ちを抱えながら、ぼんやりと「葦宮みたいな大人になりたいな」という憧れを抱いている高校生が、その淡い憧れを裏切られる話をします。
葦宮に裏切られたくないかい?
今日から裏切られようぜ!
という気持ちを抱いたので書きました。
葦宮自身、自分の信じていたものに裏切られた絶望を感じているけど、彼もまた他人に絶望を与えているんだよなぁ……。
そんな気持ちを抱えながら、ぼんやりと「葦宮みたいな大人になりたいな」という憧れを抱いている高校生が、その淡い憧れを裏切られる話をします。
葦宮に裏切られたくないかい?
今日から裏切られようぜ!
『絶望への道しるべ』
彼がクラスメイトの死を伝えられたのは電話での事だった。
一人だけではない。学校中の生徒が無差別に、大量に、そして同時に身体を切り裂かれて死んだというのだ。
その一報は彼に悲しみより先に驚きと困惑を与えた。昨日まで当たり前のように馬鹿な話で盛り上がり手を振って去った友人を失ったのを実感したのは、半分以上が空席になった教室を見た時だった。
生き残ったのは彼を含め20人程度だったろう。クラスの半分は一夜にして命を落とした事になり、誰もが皆どうして自分が生き残ったのか理由がわからず、明日には自分も死ぬかもしれないという恐怖に怯えていた。
それというのも、死んだ生徒たちは皆、自宅で普段と変わらず過ごしており、ある生徒は食事中に。またある生徒は入浴中に死に到ったからだろう。
突如として手足を切り落とされ失血の苦しみと死が間近に迫った絶望を嘆きながら死んでいった事は異常だが、死に到る以前にしていたのは日常の延長でしかなく、何が引き金になって死んでいったのか誰にもわからなかったからだ。
「どうしてお前は生きているんだ、みんな死んだのに」
「ほかの生徒を犠牲にして生き残ったんじゃないのか」
死ななかった生徒たちに心ない言葉をかける者もいた。
その中には我が子を失った親も少なくはなかっただろう。
一夜にして突如平穏を奪われた人々がやり場の無い不安を向ける気持ちはわかる。愛する息子や娘の命を無慈悲に刈り取られた親は怒りのやり場もわからず憎しみに囚われ、やたらと暴力的な言葉を投げかけてしまうのも致し方ない事だろう。
生徒たちの死が呪詛による大量殺人である事実が明るみに出るまで、混乱と怒りの入り交じった言葉は溢れる最中、彼だけはどこか冷静に世の流れを見つめていた。
彼が怖れも狼狽えもせず、事件の当事者でありながらどこか他人事のように眺める事ができたのは他の誰よりも先に犯人の目星がついていた事が大きかっただろう。
死んだ友人と、自分との違いが何か。彼はそれが呪詛によるものだと知るより先に、すでに気付いていたのだった。
全てのきっかけは、学校に勤める用務員との他愛もない会話からだった。
『よぉ、お前さんは確か……何て名前だったかな』
その用務員は教師と違い生徒たちと親しげに接してくれていた。愛想の良い笑顔を浮かべ、誰にでも気軽に話しかけてくれたのだ。生徒ひとり一人の顔と名前をよく覚えていたし、何処から通ってくるのかも大概知っていた。
教師でさえ自分の受け持ちでなければ生徒の名前など覚えないというのに、その用務員は誰の顔も名前もよく覚えてくれていたのだ。
どこか飄々とした雰囲気をまとい、誰にだって笑顔を向けて話す。勉強しろとか真面目にやれなんてうるさく言う事もなく、むしろ「時々は息抜きしろ」とか「サボるなら用務員室に来い」なんて声をかけてくれるから、その年頃の少年が大概そうであるように彼もまた悪い大人の雰囲気を持つ用務員に憧れにも似た気持ちを抱いていたのだ。
『何だよおっちゃん、俺の名前忘れちゃったのかよ』
いつものように、ふざけて笑う。教師ではあり得ないくだけた会話が出来るほど、自分と用務員とは親しい間柄だと思っていた。
『あぁ、悪ィな。おまえいつだってあだ名で呼ばれてんだろ……本名、聞いた事がなかった気がしてなぁ』
用務員の言う通り、彼は本名とはまったく別のあだ名で呼ばれていた。
中学の時体育の授業中に失敗した、その失敗がインパクトが強くずっと周囲からそのあだ名で呼ばれていたのだ。
いまさら気にする事でもないし本名より馴染みがいいからあだ名で呼ばれるのは気にしていなかったが、淡い憧れを抱いた相手が自分の名前だけ覚えていなかったのは少しばかり気に入らなかったものだから。
『俺は本当はね、……っていうんだ、本名と全然違うあだ名で呼ばれてるんだよな』
だから、とっさに嘘の名前を教えていた。どうせあだ名で呼ばれるんだろうし、いつか本名を知った時この用務員が「嘘教えやがって」なんて苦笑いするのを見たいと思ったからだ。
そして、友人は死に自分は生き残った。
あの男に本名が知られていなかったから生き残ったに違いない。そう思ったのは、あの時周りにいたクラスメイトの名前を用務員は全て知っており、その全員が無惨に殺されていたからだった。
「何だよおっちゃん、本当に俺の名前知らなかったんだな……」
胸の中にじわじわと黒いシミが広がる。
お前が殺して生き残ったんだろう。そんないわれ無き糾弾の言葉より、信じて憧れていた男がただの殺人鬼で自分たちの命などいずれ踏み潰す虫けら程度にしか見えていなかった事実のほうが、彼の心に暗い影を落としていた。
彼がクラスメイトの死を伝えられたのは電話での事だった。
一人だけではない。学校中の生徒が無差別に、大量に、そして同時に身体を切り裂かれて死んだというのだ。
その一報は彼に悲しみより先に驚きと困惑を与えた。昨日まで当たり前のように馬鹿な話で盛り上がり手を振って去った友人を失ったのを実感したのは、半分以上が空席になった教室を見た時だった。
生き残ったのは彼を含め20人程度だったろう。クラスの半分は一夜にして命を落とした事になり、誰もが皆どうして自分が生き残ったのか理由がわからず、明日には自分も死ぬかもしれないという恐怖に怯えていた。
それというのも、死んだ生徒たちは皆、自宅で普段と変わらず過ごしており、ある生徒は食事中に。またある生徒は入浴中に死に到ったからだろう。
突如として手足を切り落とされ失血の苦しみと死が間近に迫った絶望を嘆きながら死んでいった事は異常だが、死に到る以前にしていたのは日常の延長でしかなく、何が引き金になって死んでいったのか誰にもわからなかったからだ。
「どうしてお前は生きているんだ、みんな死んだのに」
「ほかの生徒を犠牲にして生き残ったんじゃないのか」
死ななかった生徒たちに心ない言葉をかける者もいた。
その中には我が子を失った親も少なくはなかっただろう。
一夜にして突如平穏を奪われた人々がやり場の無い不安を向ける気持ちはわかる。愛する息子や娘の命を無慈悲に刈り取られた親は怒りのやり場もわからず憎しみに囚われ、やたらと暴力的な言葉を投げかけてしまうのも致し方ない事だろう。
生徒たちの死が呪詛による大量殺人である事実が明るみに出るまで、混乱と怒りの入り交じった言葉は溢れる最中、彼だけはどこか冷静に世の流れを見つめていた。
彼が怖れも狼狽えもせず、事件の当事者でありながらどこか他人事のように眺める事ができたのは他の誰よりも先に犯人の目星がついていた事が大きかっただろう。
死んだ友人と、自分との違いが何か。彼はそれが呪詛によるものだと知るより先に、すでに気付いていたのだった。
全てのきっかけは、学校に勤める用務員との他愛もない会話からだった。
『よぉ、お前さんは確か……何て名前だったかな』
その用務員は教師と違い生徒たちと親しげに接してくれていた。愛想の良い笑顔を浮かべ、誰にでも気軽に話しかけてくれたのだ。生徒ひとり一人の顔と名前をよく覚えていたし、何処から通ってくるのかも大概知っていた。
教師でさえ自分の受け持ちでなければ生徒の名前など覚えないというのに、その用務員は誰の顔も名前もよく覚えてくれていたのだ。
どこか飄々とした雰囲気をまとい、誰にだって笑顔を向けて話す。勉強しろとか真面目にやれなんてうるさく言う事もなく、むしろ「時々は息抜きしろ」とか「サボるなら用務員室に来い」なんて声をかけてくれるから、その年頃の少年が大概そうであるように彼もまた悪い大人の雰囲気を持つ用務員に憧れにも似た気持ちを抱いていたのだ。
『何だよおっちゃん、俺の名前忘れちゃったのかよ』
いつものように、ふざけて笑う。教師ではあり得ないくだけた会話が出来るほど、自分と用務員とは親しい間柄だと思っていた。
『あぁ、悪ィな。おまえいつだってあだ名で呼ばれてんだろ……本名、聞いた事がなかった気がしてなぁ』
用務員の言う通り、彼は本名とはまったく別のあだ名で呼ばれていた。
中学の時体育の授業中に失敗した、その失敗がインパクトが強くずっと周囲からそのあだ名で呼ばれていたのだ。
いまさら気にする事でもないし本名より馴染みがいいからあだ名で呼ばれるのは気にしていなかったが、淡い憧れを抱いた相手が自分の名前だけ覚えていなかったのは少しばかり気に入らなかったものだから。
『俺は本当はね、……っていうんだ、本名と全然違うあだ名で呼ばれてるんだよな』
だから、とっさに嘘の名前を教えていた。どうせあだ名で呼ばれるんだろうし、いつか本名を知った時この用務員が「嘘教えやがって」なんて苦笑いするのを見たいと思ったからだ。
そして、友人は死に自分は生き残った。
あの男に本名が知られていなかったから生き残ったに違いない。そう思ったのは、あの時周りにいたクラスメイトの名前を用務員は全て知っており、その全員が無惨に殺されていたからだった。
「何だよおっちゃん、本当に俺の名前知らなかったんだな……」
胸の中にじわじわと黒いシミが広がる。
お前が殺して生き残ったんだろう。そんないわれ無き糾弾の言葉より、信じて憧れていた男がただの殺人鬼で自分たちの命などいずれ踏み潰す虫けら程度にしか見えていなかった事実のほうが、彼の心に暗い影を落としていた。
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