インターネット字書きマンの落書き帳
怪異に巻き込まれて帰れなくなる赤川×袖山の話(BL)
平和な世界線で付き合っている赤川×袖山の話をします。
鳴神学園は怪異が日常茶飯事ですからね。
今回は、放課後遅くまで残っていたら怪異に巻き込まれて家に帰れなくなっちゃった赤川くんと袖山くんが、ゲーム研究会の部室で一晩明かすだけのお話を……します!
赤川と袖山のCPは好きかい?
今日から好きになろうぜ!
鳴神学園は怪異が日常茶飯事ですからね。
今回は、放課後遅くまで残っていたら怪異に巻き込まれて家に帰れなくなっちゃった赤川くんと袖山くんが、ゲーム研究会の部室で一晩明かすだけのお話を……します!
赤川と袖山のCPは好きかい?
今日から好きになろうぜ!
『無限回廊』
赤川哲也がゲームの世界から現実へ戻った時、時計はすでに19時になろうとしていた。インディーズゲームだからさして時間がかからず攻略できると思っていたが、想像以上に面白い操作性のため夢中になりすぎていたようだ。
赤川の隣では袖山勝が机に突っ伏しウトウトしている。
放課後、ゲーム研究会の活動でネットで話題のインディーズゲームを攻略しようという話になり評価の高いインディーズゲームを部員数人で攻略していたが、今日も赤川一人だけが最後までゲームに没頭していたようだ。ゲームはクリアしたが、時刻はすっかり遅くなっている。
袖山は自分の部活が終わって赤川を迎えに来たのだろう。そして、ゲームに没頭する赤川を横に疲れから眠ってしまったに違いない。最近、袖山は放課後も頑張って勉強に励んでいる。元々無理をしがちな袖山だから家でも遅くまで勉強をしているのだろう。
「袖山くん、起きて。もう僕らしかいないみたいだよ、ほら、そろそろ帰ろう」
肩を揺さぶれば袖山は目を擦りながら起き上がった。
「あ、あぁ。赤川くん……おはよう。あれ、ここ……」
「ごめん、袖山くん。僕がゲームに夢中になってたらすっかり遅くなっちゃったみたいで……もう7時過ぎるよ。そろそろ帰ろう、袖山くんの家まで送っていくから……」
慌ててゲームの電源を落とすと荷物を背負いするに部室から出る。少なからず急いでいたのは、放課後の鳴神学園が危険だということを赤川も心得ていたからだ。
ここ、鳴神学園では怪異の噂が絶えず毎年のように行方不明になった生徒や失踪した教師の話を聞く。そしてその大半が鳴神学園の中で消えているというのだ。
イジメを苦にして自殺した生徒が他の生徒を呼び死に至らしめるとか、鏡が別世界に繋がっているといった定番の噂から旧校舎には悪魔が住むとか生贄をもとめる人形が校長室に存在するといった突拍子のないものまで、危険な噂は数多い。
夜の鳴神学園からは一刻も早く逃げ出さなければ。ましてや、今は袖山がそばにいるのだから尚更だ。
自分だけなら何があってもいいが、袖山が怪異に襲われるのは避けたい。それが今の赤川が秘める正直な気持ちだった。
袖山とはぐれないよう自然と手を握り、長い廊下を抜ける。
だが不思議なことに、いつもより廊下が随分と長くいつまで経っても出口へ向かう階段まで行き着かないのだ。不思議に思い振り返れば、ゲーム研究会の部室はすぐ近くにありまったく先に進んでない。
気を取り直して再び歩くものの、やはり階段まで行き着かず振り返れば部室がそばにある。
懸念していた怪異に巻き込まれてしまったようだ。
「……どうしたの赤川くん?」
不思議そうに赤川を見る袖山は、まだ異変に気付いていないようだ。
赤川はとにかく、このまま廊下にいるのは危険だと判断し部室に戻るとすぐにスマホを取りだした。
『どうしよう、荒井くん。しくじったかもしれない、部室から出ようとしたけど、いくら廊下を歩いても出口に行き着かないんだ』
メッセージを送ったのはクラスメイトの荒井昭二だ。
鳴神学園におこる怪異に対し好奇心を募らせ、自分から率先して奇妙な話を蒐集し不思議な体験を調べに行くといった性格の荒井ならこういった状況に慣れているのだろうと思ったからだ。
『こんな時間に鳴神学園にいるなんて自殺行為ですよ。ゲームのやりすぎですか?』
すぐに返信が来る。言葉尻は厳しいが、荒井は興味のない時は返信などよこさない性分だ。少なからずこちらを心配してくれているのだろう。
『それを言われるとキツいな、無限ループに巻き込まれたって奴だよ。僕一人だったら後で笑い話にするんだろうけど、袖山くんがいるんだ。何とかならないか?』
『袖山くんが? ……しかたないですね。廊下に取り残された話は聞いた事があります、約束を破らなければ無事に現実へ戻れるそうですが、そもそも怪異に会わない方がいいですからね。部室に異変がなければ部屋に閉じこもり、朝までドアを開けないでください。声をかけられても返事をしないこと。明日、朝になったらすぐ僕が登校してゲーム研究会の部室を開けますから、それまでは自分から部屋を開けないでください。袖山くんにも伝えておいてください』
外に出るな。ドアを開けるな。誰かの声がしても返事をするな。
どうやらこれが、一番安全な対策のようだ。
幸い、ゲーム研究会は赤川がゲームをするために快適に過ごせるグッズは概ねそろっていたし、夕食がわりのおやつなども随分と買い込んである。あまり広くはないが一晩くらいなら問題なく過ごせるだろう。
「ごめん、袖山くん。僕たち今日はこの部屋から出ない方がいいみたいだ……」
赤川は今、自分たちが置かれている状況を簡単に説明すると袖山は随分と驚いた様子だったが素直に頷いて見せた。袖山もまた、鳴神学園という場所の異常性を知っていたし、去年までいたサッカー部の合宿で相当怖い目にもあっていたから夜の鳴神学園が危険なのを承知していたのだ。
「わかった、しかたないよ。少し怖いけど……赤川くんが一緒だから大丈夫だよね」
ふたりは床にある荷物をどけると、積み上げられた段ボールを下に敷いて腰掛けた。
隣に座る袖山は赤川に寄り添い暖かいが、本当に怪異から逃れられるのかと考えれば気が重い。ひょっとしたら永遠に学校に囚われてしまう可能性すらあるのだから当然だろう。それを考え、赤川は今さらながら自分の軽率さに怒りを覚えた。
鳴神学園が危険だというのはよく分かっていたはずなのにゲームへ没頭し、袖山まで危険に晒してしまったのだからしかたない。
「ごめん、袖山くん。僕がもっと早くゲームを切り上げていればこんな事にはならなかったのに……」
「えっ? ううん、いいんだよ赤川くん。僕の方こそごめんね」
「何で袖山くんが謝るんだよ。僕がゲームに没頭して遅くなったのが悪いってのに……」
赤川の言葉に、袖山は顔を赤くするとやや時間をおいてから恥ずかしそうに答えた。
「だ、だって。僕、赤川くんがゲームする横顔を見ながら、このままずっとこうしていられたらいいな、って思っちゃったんだ。赤川くんとふたりで、この部屋で……ずっと一緒にいられたら幸せなのに、って……だから、こんな風になっちゃったんだよ。だから……ごめんね、僕のせいで……」
それを聞き、赤川は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
自分がゲームに夢中でいる間も袖山は自分の事を思っていてくれていたのだ。二人でいる事を喜んで、幸せとさえ思ってくれていたのだ。それだというのに自分はいつもゲームに夢中で袖山の事をおろそかにしてばかりだ。
「袖山くん、無事にここからでられたらさ。たまには二人で出かけよう。映画でも、遊園地でも、水族館でも……袖山くんが行きたい所、連れて行ってあげるからさ」
「えぇっ、いいの。でも、僕はどこにもいかなくても……赤川くんがそばに居ればそれで楽しいよ」
「僕だってそうだけど……キミがそんなに思ってくれているのに、僕は何もお返しできてないから……」
「いっぱい、返してもらってるよ。僕は、赤川くんが大好きなゲームを一生懸命やるのを見ているだけでとっても幸せだから」
屈託なく笑う袖山を見て、赤川の胸に愛しさがこみ上げる。この思いを伝える言葉は無いのだろうか。こんなにも愛してくれる感謝をどう伝えたらいいのだろう。様々な考えが渦巻き胸の奥へと沈み、代わりに彼と唇を重ねていた。
どんな言葉より、唇で触れたほうがよっぽど伝わると思ったからだ。
「あ、赤川くん……」
「……ごめん、袖山くん。嬉しくて、何と伝えていいかよくわからなかったから」
「ううん……僕も、嬉しいから……」
赤川の胸にすがるよう抱きつく袖山の身体を強く抱きしめ返すと、赤川はその場から手近にあった毛布を引っ張り出し二人で包まる。
たとえ怪異に飲まれてしまっても、二人でいればきっとどこでも幸せに違いない。そんな事を思いながら、微睡みに落ちていくのだった。
気付いた時、部室のドアが開き呆れた顔をして立つ荒井の姿に気付く。開かれたドアから朝陽が差し込み、無事に夜明けまですごせたのだというのに赤川は気付いた。
同時に、袖山は無事だったのかと腕の中を見れば自分の胸に抱きついたまま寝息をたてる袖山の姿がある。
助かったのだ。その思いがこみ上げるより先に、荒井がどこか冷めた顔で告げた。
「大変だと思って急いで登校したというのに、随分と見せつけてくれるじゃないですか。僕が来ない方が良かったですかね?」
一晩中袖山を抱きしめていたことに対する皮肉だろう。
赤川は袖山の頭を撫で無事を確かめると慌てて荒井の方を見た。
「そんな事ないって、荒井くんのアドバイスがあったから助かったんだよ。下手に外へ出ていたら二人とも無事じゃなかったかもしれないだろ」
「それだったら良かったんですが……今日はどうしますか? こんな所で一晩明かしたんでしたらお疲れでしょう。授業に出なくても、休んでもいいと思いますが……」
荒井に問われ、赤川は身体を丸めて眠る袖山を見る。
「……袖山くん次第かな。彼が授業を受けるっていうならそうするし、休みたいっていうなら送って行くよ」
そう告げると、荒井は納得したように頷いてドアへ向かう。
振り返りざま。
「どちらにしても、袖山くんにそれ以上無理をさせないでくださいね。貴方は熱中すると周囲も見えなくなるから、少し心配です」
なんて、悪戯っぽく笑いながら釘を刺す。
荒井の言葉に、赤川はただ苦笑いをすることしか出来なかった。
赤川哲也がゲームの世界から現実へ戻った時、時計はすでに19時になろうとしていた。インディーズゲームだからさして時間がかからず攻略できると思っていたが、想像以上に面白い操作性のため夢中になりすぎていたようだ。
赤川の隣では袖山勝が机に突っ伏しウトウトしている。
放課後、ゲーム研究会の活動でネットで話題のインディーズゲームを攻略しようという話になり評価の高いインディーズゲームを部員数人で攻略していたが、今日も赤川一人だけが最後までゲームに没頭していたようだ。ゲームはクリアしたが、時刻はすっかり遅くなっている。
袖山は自分の部活が終わって赤川を迎えに来たのだろう。そして、ゲームに没頭する赤川を横に疲れから眠ってしまったに違いない。最近、袖山は放課後も頑張って勉強に励んでいる。元々無理をしがちな袖山だから家でも遅くまで勉強をしているのだろう。
「袖山くん、起きて。もう僕らしかいないみたいだよ、ほら、そろそろ帰ろう」
肩を揺さぶれば袖山は目を擦りながら起き上がった。
「あ、あぁ。赤川くん……おはよう。あれ、ここ……」
「ごめん、袖山くん。僕がゲームに夢中になってたらすっかり遅くなっちゃったみたいで……もう7時過ぎるよ。そろそろ帰ろう、袖山くんの家まで送っていくから……」
慌ててゲームの電源を落とすと荷物を背負いするに部室から出る。少なからず急いでいたのは、放課後の鳴神学園が危険だということを赤川も心得ていたからだ。
ここ、鳴神学園では怪異の噂が絶えず毎年のように行方不明になった生徒や失踪した教師の話を聞く。そしてその大半が鳴神学園の中で消えているというのだ。
イジメを苦にして自殺した生徒が他の生徒を呼び死に至らしめるとか、鏡が別世界に繋がっているといった定番の噂から旧校舎には悪魔が住むとか生贄をもとめる人形が校長室に存在するといった突拍子のないものまで、危険な噂は数多い。
夜の鳴神学園からは一刻も早く逃げ出さなければ。ましてや、今は袖山がそばにいるのだから尚更だ。
自分だけなら何があってもいいが、袖山が怪異に襲われるのは避けたい。それが今の赤川が秘める正直な気持ちだった。
袖山とはぐれないよう自然と手を握り、長い廊下を抜ける。
だが不思議なことに、いつもより廊下が随分と長くいつまで経っても出口へ向かう階段まで行き着かないのだ。不思議に思い振り返れば、ゲーム研究会の部室はすぐ近くにありまったく先に進んでない。
気を取り直して再び歩くものの、やはり階段まで行き着かず振り返れば部室がそばにある。
懸念していた怪異に巻き込まれてしまったようだ。
「……どうしたの赤川くん?」
不思議そうに赤川を見る袖山は、まだ異変に気付いていないようだ。
赤川はとにかく、このまま廊下にいるのは危険だと判断し部室に戻るとすぐにスマホを取りだした。
『どうしよう、荒井くん。しくじったかもしれない、部室から出ようとしたけど、いくら廊下を歩いても出口に行き着かないんだ』
メッセージを送ったのはクラスメイトの荒井昭二だ。
鳴神学園におこる怪異に対し好奇心を募らせ、自分から率先して奇妙な話を蒐集し不思議な体験を調べに行くといった性格の荒井ならこういった状況に慣れているのだろうと思ったからだ。
『こんな時間に鳴神学園にいるなんて自殺行為ですよ。ゲームのやりすぎですか?』
すぐに返信が来る。言葉尻は厳しいが、荒井は興味のない時は返信などよこさない性分だ。少なからずこちらを心配してくれているのだろう。
『それを言われるとキツいな、無限ループに巻き込まれたって奴だよ。僕一人だったら後で笑い話にするんだろうけど、袖山くんがいるんだ。何とかならないか?』
『袖山くんが? ……しかたないですね。廊下に取り残された話は聞いた事があります、約束を破らなければ無事に現実へ戻れるそうですが、そもそも怪異に会わない方がいいですからね。部室に異変がなければ部屋に閉じこもり、朝までドアを開けないでください。声をかけられても返事をしないこと。明日、朝になったらすぐ僕が登校してゲーム研究会の部室を開けますから、それまでは自分から部屋を開けないでください。袖山くんにも伝えておいてください』
外に出るな。ドアを開けるな。誰かの声がしても返事をするな。
どうやらこれが、一番安全な対策のようだ。
幸い、ゲーム研究会は赤川がゲームをするために快適に過ごせるグッズは概ねそろっていたし、夕食がわりのおやつなども随分と買い込んである。あまり広くはないが一晩くらいなら問題なく過ごせるだろう。
「ごめん、袖山くん。僕たち今日はこの部屋から出ない方がいいみたいだ……」
赤川は今、自分たちが置かれている状況を簡単に説明すると袖山は随分と驚いた様子だったが素直に頷いて見せた。袖山もまた、鳴神学園という場所の異常性を知っていたし、去年までいたサッカー部の合宿で相当怖い目にもあっていたから夜の鳴神学園が危険なのを承知していたのだ。
「わかった、しかたないよ。少し怖いけど……赤川くんが一緒だから大丈夫だよね」
ふたりは床にある荷物をどけると、積み上げられた段ボールを下に敷いて腰掛けた。
隣に座る袖山は赤川に寄り添い暖かいが、本当に怪異から逃れられるのかと考えれば気が重い。ひょっとしたら永遠に学校に囚われてしまう可能性すらあるのだから当然だろう。それを考え、赤川は今さらながら自分の軽率さに怒りを覚えた。
鳴神学園が危険だというのはよく分かっていたはずなのにゲームへ没頭し、袖山まで危険に晒してしまったのだからしかたない。
「ごめん、袖山くん。僕がもっと早くゲームを切り上げていればこんな事にはならなかったのに……」
「えっ? ううん、いいんだよ赤川くん。僕の方こそごめんね」
「何で袖山くんが謝るんだよ。僕がゲームに没頭して遅くなったのが悪いってのに……」
赤川の言葉に、袖山は顔を赤くするとやや時間をおいてから恥ずかしそうに答えた。
「だ、だって。僕、赤川くんがゲームする横顔を見ながら、このままずっとこうしていられたらいいな、って思っちゃったんだ。赤川くんとふたりで、この部屋で……ずっと一緒にいられたら幸せなのに、って……だから、こんな風になっちゃったんだよ。だから……ごめんね、僕のせいで……」
それを聞き、赤川は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
自分がゲームに夢中でいる間も袖山は自分の事を思っていてくれていたのだ。二人でいる事を喜んで、幸せとさえ思ってくれていたのだ。それだというのに自分はいつもゲームに夢中で袖山の事をおろそかにしてばかりだ。
「袖山くん、無事にここからでられたらさ。たまには二人で出かけよう。映画でも、遊園地でも、水族館でも……袖山くんが行きたい所、連れて行ってあげるからさ」
「えぇっ、いいの。でも、僕はどこにもいかなくても……赤川くんがそばに居ればそれで楽しいよ」
「僕だってそうだけど……キミがそんなに思ってくれているのに、僕は何もお返しできてないから……」
「いっぱい、返してもらってるよ。僕は、赤川くんが大好きなゲームを一生懸命やるのを見ているだけでとっても幸せだから」
屈託なく笑う袖山を見て、赤川の胸に愛しさがこみ上げる。この思いを伝える言葉は無いのだろうか。こんなにも愛してくれる感謝をどう伝えたらいいのだろう。様々な考えが渦巻き胸の奥へと沈み、代わりに彼と唇を重ねていた。
どんな言葉より、唇で触れたほうがよっぽど伝わると思ったからだ。
「あ、赤川くん……」
「……ごめん、袖山くん。嬉しくて、何と伝えていいかよくわからなかったから」
「ううん……僕も、嬉しいから……」
赤川の胸にすがるよう抱きつく袖山の身体を強く抱きしめ返すと、赤川はその場から手近にあった毛布を引っ張り出し二人で包まる。
たとえ怪異に飲まれてしまっても、二人でいればきっとどこでも幸せに違いない。そんな事を思いながら、微睡みに落ちていくのだった。
気付いた時、部室のドアが開き呆れた顔をして立つ荒井の姿に気付く。開かれたドアから朝陽が差し込み、無事に夜明けまですごせたのだというのに赤川は気付いた。
同時に、袖山は無事だったのかと腕の中を見れば自分の胸に抱きついたまま寝息をたてる袖山の姿がある。
助かったのだ。その思いがこみ上げるより先に、荒井がどこか冷めた顔で告げた。
「大変だと思って急いで登校したというのに、随分と見せつけてくれるじゃないですか。僕が来ない方が良かったですかね?」
一晩中袖山を抱きしめていたことに対する皮肉だろう。
赤川は袖山の頭を撫で無事を確かめると慌てて荒井の方を見た。
「そんな事ないって、荒井くんのアドバイスがあったから助かったんだよ。下手に外へ出ていたら二人とも無事じゃなかったかもしれないだろ」
「それだったら良かったんですが……今日はどうしますか? こんな所で一晩明かしたんでしたらお疲れでしょう。授業に出なくても、休んでもいいと思いますが……」
荒井に問われ、赤川は身体を丸めて眠る袖山を見る。
「……袖山くん次第かな。彼が授業を受けるっていうならそうするし、休みたいっていうなら送って行くよ」
そう告げると、荒井は納得したように頷いてドアへ向かう。
振り返りざま。
「どちらにしても、袖山くんにそれ以上無理をさせないでくださいね。貴方は熱中すると周囲も見えなくなるから、少し心配です」
なんて、悪戯っぽく笑いながら釘を刺す。
荒井の言葉に、赤川はただ苦笑いをすることしか出来なかった。
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