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インターネット字書きマンの落書き帳

   
襟尾が酒で失敗する話(パラノマ二次創作)
津詰徹生と襟尾純が出る話です。
ざっくり言うと、酔った勢いで津詰のこと「徹生さぁ~ん」って呼びウザ絡みした事を翌日シラフになってメチャクチャに後悔する襟尾の話です。

Twitterに放流していた話ですが、加筆修正をしたのでブログにもupしておきますにょんたか。
襟尾は酒飲むとぽやぽやしつつウザ絡みしてほしいなぁ、というのが俺の希望です。



『彼のなりたい刑事像』

 出勤してすぐ襟尾純はデスクにつくと一度深呼吸をした。
 普段より早めに家を出たのもあってフロアには人は少ないが泊まりがけで捜査をしていた同僚もいたのだろう。ソファーや机の下で仮眠をとっている姿がちらほらと見られた。
 おそらく担当している事件がいよいよ佳境を迎えているのだろう。あるいは逮捕状が来るのを待っているのかもしれない。
 昨日の朝、襟尾がまさにその立場だった。
 容疑者の居場所を突き止め日頃のルーティーンを探り逮捕するだけという状況で逮捕状を待つ焦れた時間をこの席で迎えていたのだ。
 幸い逮捕状は問題なくとれた。相手も暴れる様子もなく静かに従い、足かけ二ヶ月にわたる捜査は無事に終わりを告げたのだ。
 本庁ともなれば毎日のように新たな事件がやってきて、解決する事件は少ない。だから時には無事に終わった事を喜ぼう。上司である津詰徹生の提案もり、その日は久しぶりに酒を飲む為に街へと出かけた。
 当然、津詰を誘ってだ。

『若い奴だったら友達とかと飲みたいんじゃないのか?』
『俺みたいなオッサンと飲んだって面白く無ェだろ……』

 津詰は乗り気ではなかったが襟尾にとって彼は尊敬する刑事だ。自分が刑事になろうと思ったのは津詰の影響なので憧れである津詰と一緒に飲めるのはまたとない好機である。渋る津詰を押し切って襟尾がこれまで行った店でも少し高いが落ち着いた場所まで案内し精一杯の接待をしたまでは良かったろう。
 だがその後が問題だ。
 津詰と飲めるという事にすっかり浮かれていた襟尾は普段より早いペースで飲み、すぐに酔ってしまったのだ。そして勢いあまり津詰のことをあろうことか「徹生さん」なんて十年来の親友が如く名前で呼ぶという暴挙に出たのである。

『あー、徹生さん眉間にシワがよってますよ、怖い顔してー。せっかくのいい男が台無しですって、はい怖い顔しなーい。怖い顔しなーい』

 そう言いながら津詰の眉間に刻まれた深いシワを指先で伸ばそうとする。

『徹生さんはいっつも難しい顔して、いい男が勿体ないですよぉ~。あー、でもそれで格好いいんだからズルいよなァ~』

 津詰の胸に背中を預け頬を撫でながらイイ男だの格好いいだの何度言ったかわからない。

『徹生さんグラスからになってます? もっと飲んでくださいよぉ~オレの酒が飲めないんですかァ?』

 最後のほうは絡み酒になっていた。
 空になったグラスに無理矢理ビールを注ぐ姿には流石の津詰も呆れていたようだ。それだというのに襟尾は上機嫌のまま 津詰に寄り添い彼の肩へ頬ずりまでしていたのだから仕方ない。

『は~、徹生さんの身体暖かいですね~、ずっと寄り添っていたいなァ~』

 思い出せば思い出すほど上司に言ったらアウトな発言ばかりである。いや、言葉だけじゃない行動も自分のした事とはいえ理性を欠いているのがハッキリとわかる。
 空気を読まないタイプのポジティブである襟尾だが自分なりのモラルあるし羞恥心だってある。普段は津詰なら許してくれるラインを弁えて接しているつもりだったが、昨日はすっかり酒に飲まれて理性が吹き飛んでいたようだ。
 これはもちろん、津詰に対する敬意が大きすぎるというのも理由の一つなのだがそんな事理由にはならない。
 今ある事実は襟尾がすっかり酒に飲まれてしまったということ。そして、その勢いで津詰に失礼な振る舞いをしたことだけだ。

「いくら飲み過ぎたとはいえあんなコト言うなんて、ボスに合わす顔がないよ……」

 襟尾は無意識にそう呟いて自分の顔を手で覆う。思い出すだけで恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。いくら津詰が寛容な性格でも勝手に無礼講を働いてしまっては許しくれまい。
 津詰はまだ来てないが、会ったらすぐに謝らなければいけないだろう。
 いっそ酔って記憶を無くしたコトに出来ればどれだけいいだろうかと襟尾は思っていた。昨日は飲み過ぎて何も覚えていませんよ、なんていけしゃあしゃあと言えるほど襟尾も図太くはない。それに津詰は刑事であり他人の嘘には敏感なのだ。襟尾程度の若造がその場しのぎの嘘をついたところですぐにバレるだろうし、バレたらかえって失礼だろう。
 様々な考えが頭に巡る襟尾の耳に津詰の足音が聞こえてくる。出勤してきたのだ。謝るなら早い方がいい、後にすればするほどタイミングがつかめなくなるし言い出しづらくなるのだ。

「ボス、おはようございます!」

 ドアが開き津詰の姿を確認するなり襟尾は背筋を伸ばし力一杯挨拶する。
 そんな襟尾を津詰はサングラスを少しずらして暫く黙って眺めたあと

「おぅ、純くん。おはようさん」

 と、茶化す風に言うものだから襟尾は恥ずかしさと申し訳なさからついその場で膝をついて崩れ落ちてしまった。

「うわぁあああぁあああ! もうしわけありませんボスぅ!」

 突然床に崩れ落ち半べそ状態で声をあげる襟尾に周囲は驚き視線を注ぐ。非常に目立っているが今の襟尾にとって目立っていること以上に津詰に働いた様々な無礼と失礼を思い出していたたまれない気持ちになっていた。
 だが津詰はそんな事気にもしてないといった様子で襟尾に向かい合うよう座ると、軽く肩へ触れる。

「ははッ、そんなに凹んでたのかオマエらしくもねぇなァ……気にすんな、反省してんならいいんだよ俺もあん時は無礼講だとか言ったもんな。ちゃんと謝ったんだし、今のでチャラにしておいてやるよ」

 そうして白い歯を見せにかっと笑うのを見て、襟尾は心底安心するのだ。
 津詰はこんな襟尾でも見捨てず、許してくれるのだ。何て懐の大きい男なのだろう。憧れの刑事による憧れの所作は襟尾の心に深く響く。

「うぅ、ボス……ありがとうございます、じゃあこれからはバンバン徹生さんって呼びます!」
「いやそこは反省しろっての、まったく……さ、フザけてないで仕事すっぞ」
「……はい!」

 立ち上がり背を伸ばして今日の仕事を確認する津詰の隣で襟尾は笑顔を向ける。
 津詰の隣で部下として相棒として働けるということが、今の襟尾には何よりも誇らしく思えた。そして心に誓うのだ。
 いつか自分も津詰のような大らかで人の痛みがわかる、立派な刑事になるのだと。

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