インターネット字書きマンの落書き帳
闇落ちした襟尾刑事という概念(パラノマ二次創作)
フォロワー氏が「闇落ち襟尾刑事」という概念の話をしていて「闇落ち襟尾……イイネ!」と思ったので書きました。(挨拶)
他人様の「いいね」と思ったものを軽率に書く人間であることを陳謝するとともに出来上がった作品のお収めくださればいいなと期待などしております。(平伏)
闇落ち襟尾のルートなので、パラノマサイトの特定エンディング後の世界線になります。
その点まだ見てない人はネタバレ注意でお願いします。
若干の齟齬は「俺にとって都合がいいから」みたいな気持ちで見てください。
俺にとって都合がいい=襟尾がすっごい苦しんで生きているってことだよ!
ポジティブお化けでカワイイ顔をした襟尾が闇落ちで曇っている姿……見たくないかい?
今日から見たいと思おうぜ!
他人様の「いいね」と思ったものを軽率に書く人間であることを陳謝するとともに出来上がった作品のお収めくださればいいなと期待などしております。(平伏)
闇落ち襟尾のルートなので、パラノマサイトの特定エンディング後の世界線になります。
その点まだ見てない人はネタバレ注意でお願いします。
若干の齟齬は「俺にとって都合がいいから」みたいな気持ちで見てください。
俺にとって都合がいい=襟尾がすっごい苦しんで生きているってことだよ!
ポジティブお化けでカワイイ顔をした襟尾が闇落ちで曇っている姿……見たくないかい?
今日から見たいと思おうぜ!
『襟尾純の大罪』
1990年、東京には無慈悲な死が蔓延していた。
「久しぶりにこんなホトケを見たが、こいつは非道いな……」
都内のマンション一室で刑事たちは顔を見合わせる。 眼前には片手と片足が無惨に切り裂かれ痛みの苦痛と失血により苦悶の表情で歪んだ女性の死体が横たわっていた。
女性の身元はすでに明らかとなっており、上京してきたばかりの女子大生だという。東京は危険だという家族の反対を今は日本のどこだって危険だろうと振り切って、獣医の夢を叶えるため4月から大学へ通う予定だったそうだ。
1980年、バブル景気で浮き足立ちめざましい発展の最中にあった東京で突然その事件はおきた。 家で過ごしていた100人以上の高校生が片手と片足を切断され遺体となって見つかったという事件だ。
室内に人間の手足が切断できるような大ぶりの刃物などは見つからず、また学生たちはほとんど同時刻に同時に手足を切断されているこの不可能犯罪は当初、反社会的なカルト集団による学生を狙ったテロだと発表されたがそれでは説明がつかない部分が多すぎたため納得するものは少なかった。
殺された学生のほとんどが当時駒形高校に通っていた生徒であり駒形高校は呪われた学校と言われあまり時を絶たず廃校となっている。
首謀者の一人として指名手配されたのはかつて「根島事件」と呼ばれる女子高校生殺害事件に関与した根島史周だった。ちょうど彼の足取りを追っていた刑事たちがそれを取り逃がした直後におこった事件でもあり深い関連性があるとされていたが、根島も未だ見つかっていない。
根島史周を包囲したというのに寸前で逃がした刑事……津詰徹生は当時警部であったが責任をとり辞職したことでこの件は片付けられているがもし本当に根島が殺害の首謀者であれば津詰が取り逃がした失態は非情に大きなものだろう。
津詰もをそれを理解していたのかしばらくは一人で根島の足取りを追っていたようだが別れた妻と娘とが立て続けに殺された後は失意にくれ、暫く後に姿を消した。
口さがない他の刑事たちからは「根島を取り逃がした罪の呵責に耐えられず自殺したのだろう」だとか「周囲の冷たい目から逃れるため雲隠れしたのだ」などとまことしやかに囁かれている。
真相がどうであれ、根島史周は未だ逮捕されておらず手足を切断される死体は増え続けるばかりであった。
その後バブルが弾けた事といつ根島に殺されるかわからないといった恐怖から熱に浮かされたような景気の良さは一気に衰え東京は見る間に活気を失っていった。
当初は都内に住んでいる学生が中心だった切断事件も人々が不安を募らせ不景気に嘆く心と呼応するように全国へと広がっていき、今は何処に住んでいても誰が突然手足を奪われ死に至るかわからないといった状況にある。
誰もが閉塞感を抱く世の中、死体を調べる刑事だちも半ば諦めの色が見えていた。
「おいッ、手足の無い死体が見つかってのは本当か!」
そのとき勢いよく駆け込んでくる刑事が一人いた。
彼は切り裂かれた女性の死体に手をあわせると慣れた様子で見聞をし顔をあげる。
「こいつは間違いない、葦宮誠……いや、根島史周がやったモンだな。すぐ捜査本部を置け、久しぶりに根島の奴が動いたんだからな」
そして確信したよう告げると周囲に慣れた様子で指示出すのは襟尾純という名の刑事であった。 彼は根島史周を包囲した時にすんでのところで彼を取り逃がした津詰の部下だった男である。 根島を取り逃がした件で処分を受けたのは津詰だけであったが、現場にいた襟尾も当然問題視され当人のもつ能力の高さやこれまであげた成果の良さにかかわらずたいした出世も出来ないまま古いタイプの刑事として燻っている状態だ。
だが当人は意に介さずといった様子で日々現場を這いずりまわり徹底的な捜査をし多くの事件を解決に導いていた。
特に根島の関わった事件に関しては熱心で執念深い捜査を続けている数少ない刑事であるが未だ根島が逮捕されていないことからも襟尾の熱意が徒労であるというのはわかるだろう。
今もまた襟尾の熱意とは裏腹に他の刑事たちは冷めた様子であった。
「おい、どうした急げよな。事件なんだぞおまえら。人が一人殺されてるんだぞ」
口を尖らせて指示をする襟尾を前に、刑事たちは億劫そに顔を見合わせる。
「そういいますけど襟尾さん、これも根島の呪詛とかなんでしょう。そんな、呪詛を使う相手なんか逮捕できませんって」
「そうそう、それに根島案件は俺たちの管轄じゃ無いですよね。刑事じゃなくて対策本部があるからソッチに投げておくのが定石でしょ。根島の捜査してる奴、みんなこんな風に殺されるっていうし、俺たちもこんな風になりたくはないですから」
根島が呪詛で相手を殺すという話は警察内ですでに常識となっていた。人が入れないような建物でも手足を切り裂かれ殺される人間が後を絶たないのだから当然のことだろう。
最近では呪詛で殺されるというのは世間一般にも浸透しはじめており、「我が宗教に入れば呪いから逃れられる」と口にする新興宗教や怪しげな札、お守りを売りつけるような団体も多く存在するという有様だった。
「お前らなぁ……人が殺されてるんだぞ。彼女を殺された家族の悲しみとか、怒りとか……そういうのがわからないのか」
襟尾は自分の胸を押さえ必死に訴えるが刑事たちは誰も耳を貸そうとせず淡々と事後処理を進めていく。
「誰か、根島案件のチームに連絡しろよ」
「あぁわかった、根島案件のチームも災難だよな。あのチームに入ったらもう根島に目ぇつけられてるんだろ。実質、生贄みたいなもんじゃないか……」
ぼそぼそ呟きながら死んだ目をして連絡する姿はもはや諦めの色しかなかったろう。
もっと強く言わなければいけない、そう思い「お前ら」とまで声を出した時、刑事の一人が襟尾を見た。
「襟尾さん、あんたは過去の失敗を取り戻すため躍起になってるのかもしれないけど、それで俺たちの命まで危険にさらさないでくださいよ」
それを言われたら、襟尾は何も言えなくなる。
実際、根島の事件を捜査し深入りした刑事たちは手足をもぎとられ死体になって発見されていた。 襟尾が根島を捉えるため懸命に走り回っているのもあの時取り逃がした罪悪感を抱いているということと、尊敬する津詰を警察から追い出したというのに自分だけはまだ刑事でいられる事に何かしら意味を見いだしたいからに他ならないだろう。
「そろそろ行こうぜ、根島案件なら死体なんてどう処理してもいっしょだろ」
「部屋を調べても無駄だろうからなぁ……」
刑事たちは心ないい声で呟くと早々に、部屋から出ていった。 これは別段彼らが特別だというワケではない。今の警察官は全体的に無気力でいつ死ぬかもしれないという恐怖に怯えているものがほとんどだ。正義云々ではなく他にやれる仕事がないから仕方なく警察をやっているといったものも少なくはない。
というのも、根島が呪いという名の災厄を得た根島が学生の次に多く狙ったのが警察組織の人間だったからだ。まだそれが呪詛の仕業だとわからぬうちから警視庁に詰めている多くの職員が殺された結果、警察に入れば根島に殺されるという認識は今や社会の常識となり恐怖となって多くの人々へ染みついていた。
「……くそ、俺は何も出来ないのか。俺はッ」
襟尾は苛立ちながら自分の頭を掻き、胸ポケットにねじ込んだ紙煙草をくわえた。
以前は煙草など吸っていなかったが津詰が去ってからは津詰と同じ銘柄の煙草を吸うようになったのだ。襟尾にとっては少しばかり重すぎる味わいの煙草であったが津詰を忘れないためにこの重さは心地よかった。
「あの、襟尾さん」
その時、襟尾のそばに一人の刑事が駆け寄る。まだ刑事になったばかりという新米の青年は少し華奢すぎるようにも見えたが目には覚悟の光が宿っていた。
「どうした、おまえはまだ残ってたのか」
「はい、俺もちゃんとこの人を捜査したいと思って……あ、あの、襟尾さん。俺も、根島を逮捕したいと思って警察になったんです」
目を輝かせながら、まだ若い刑事はいう。
「俺、母さんが根島に殺されたんです。昨日までは元気だったのに朝見に行ったら手足がなくなっていて……警察はまともに取り合ってくれないし、周りの人間は根島に関わったんだろうとか根島のいるカルトを裏切ったから制裁を受けたとか言いたい放題だったところ、あなたがちゃんと捜査するって言ってくれて……俺は、襟尾さんに憧れて刑事になったんです」
羨望と敬愛の混じった笑顔を見て、襟尾の脳裏に津詰の姿が浮かぶ。 自分も津詰という刑事に憧れ警察官を目指したのだ。今の彼に、自分は当時の津詰のような偉大な刑事に見えているだろうか。
そうだ、この程度でしぼんでいる場合ではない。津詰のためにも自分が根島を捕まえなければ。
「あぁ、わかった。俺とおまえで絶対に根島の尻尾をつかんでやろうぜ」
「……はい、俺、頑張りますから!」
襟尾はくわえただけで火をつけてない煙草をポケットへ戻すと若い刑事に声をかける。彼はその声を聞き目を輝かせ走り出した。
の背中を見ながら襟尾はアゴに触れ笑う。少しばかり歳を取りしわの増えた顔には伸びっぱなしの無精髭が触れた。
襟尾に声をかけてきた若い刑事が死んだのは翌日のことである。
自室に戻った後に手足をもぎ取られたのか同僚が様子を見に行った時にすでに息絶えていたという。
「やっぱり根島案件には触れちゃいけないんだよ……」
「だけど襟尾さんは根島案件に関わってるのにずっと生きているよなァ、案外あの人が根島に情報を横流ししてるんじゃないか」
背後では刑事たちのひそひそ話しが聞こえてくる。内緒話ならもっと小さな声ですればいいとも思うが、小さな声でしなくても良いくらい周囲もそう思っているのだろう。
彼らは暫く雑談をすると当然のように部屋を出ていった。
根島案件に関して捜査しないというのが暗黙の了解だろうといった態度に苛立ちはしたが、それ以上に何も出来ないまま若い才能を奪ってしまった自分に嫌気がさす。 せっかく自分に憧れてくれたというのに、根島を逮捕しようと意気込んでくれたのにその仲間を失ってしまったのだ。
愕然とする襟尾の耳に、電話の呼び出し音が鳴る。
この部屋にある電話が鳴っていることに気付いた襟尾は興家彰吾の死体を公園で発見したとき突然鳴りだした公衆電話のことを思い出していた。
あのとき根島は津詰への挑発をするため電話をかけてきたのだが、まさか。
慌てて受話器をとれば、そこには記憶の彼方へ押し込んでいた声が聞こえてきた。
「やァ、久しぶりだなァ襟尾ちゃん。元気だったかァ、あの時は逃がしてくれてアリガトな。おじさん助かっちゃったよ」
「根島ッ……オマエ、根島なのか……」
受話器の向こうで声を殺して笑う男の様子がうかがえる。間違いない、この嫌らしい笑い方は根島だ。
「まぁオジサンが誰だっていいだろ襟尾ちゃん。相変わらず熱心に俺のおっかけをしてるようで何よりだ、うン。情熱的なファンがいないと生きがいも無ェからなァ」
「おまえっ、どこにいるんだ……何のつもりで彼を殺した?」
意気込む襟尾に対し、根島は鼻歌交じりで語る。
「おまえさん、素直に警察へ居場所を教える殺人鬼なんていると思ってるのかい。相変わらず青臭いねェ……ま、そこが津詰もカワイイと思ってたンだろうけどな」
「津詰……津詰警部もおまえのところにいるのか」
「おっと、もう警部じゃない相手を未だそうやって呼ぶのかい。麗しい師弟愛って奴か、泣かせるねェ……はは、知ってても答えてやるわけ無ェだろ。コッチはおまえさんが苦しんで血反吐をまき散らし悶える姿が最高に楽しいんだからよ」
受話器の向こうにいる根島はまた声を殺して笑う。 声がやけに遠いあたり東京ではない場所にいるのかもしれない。 以前根島は何処にいても人を殺せると豪語していたが実際その通りなのだろう。
「一つ教えておいてやるよ襟尾チャン。その男はな、生意気にも俺を捕まえようなんて言い出したから見せしめに殺してやったンだよ。俺を逮捕しようなんて色気出したらどうなるか、おまえたち警察によーく分かってもらうためにな」
「なっ……何でそれを知ってるんだ根島、おまえ」
「純粋だねェ襟尾チャンは……俺に殺されるのが怖くてソッチの情報をリークしてくれる奴なんて山ほどいるンだぜ。どうだい、絶望したかい? その場所にもう正義なんてねェってワケだ」
「根島ァ……おまえ、絶対に。絶対に捕まえてやるからなッ」
「おぉ、そんな怒鳴りなさんな、おじさんビックリしちゃうだろ? はは……その意気は買ってやるぜ。だがおまえさん、これだけを覚えておけよ」
受話器ごしでも分かるほど、根島はいやらしく笑って言う。
「その気になればコッチはいつだっておまえさんを殺せるんだ、襟尾チャン。おまえをまだ殺さないのは、津詰と約束してるから。ただそれだけだ」
どういう意味なのか問いかける前に受話器が切れた。
根島はいつでもこちらを殺せるというのは本当だろうか。それと津詰との約束とは何だろうか。ひょっとして津詰は自分のため何かしら取引をして、今でも根島の元に囚われているのではないか。もしそうだとしたら非道い拷問を受け続ける日々にずっと耐えているのではないか。
様々な思いが襟尾の中を駆け巡る。
「くそっ……根島、絶対におまえを引きずり出してやる。俺が死んでも、オマエだけは絶対に、絶対に許さない……絶対に、許さないからな……」
襟尾は怒りにまかせ唇を噛みしめる。 鮮やかな血が彼の口元から滴るがすでに痛みにすら気付かないほど強い怒りが支配していた。
1990年、東京には無慈悲な死が蔓延していた。
「久しぶりにこんなホトケを見たが、こいつは非道いな……」
都内のマンション一室で刑事たちは顔を見合わせる。 眼前には片手と片足が無惨に切り裂かれ痛みの苦痛と失血により苦悶の表情で歪んだ女性の死体が横たわっていた。
女性の身元はすでに明らかとなっており、上京してきたばかりの女子大生だという。東京は危険だという家族の反対を今は日本のどこだって危険だろうと振り切って、獣医の夢を叶えるため4月から大学へ通う予定だったそうだ。
1980年、バブル景気で浮き足立ちめざましい発展の最中にあった東京で突然その事件はおきた。 家で過ごしていた100人以上の高校生が片手と片足を切断され遺体となって見つかったという事件だ。
室内に人間の手足が切断できるような大ぶりの刃物などは見つからず、また学生たちはほとんど同時刻に同時に手足を切断されているこの不可能犯罪は当初、反社会的なカルト集団による学生を狙ったテロだと発表されたがそれでは説明がつかない部分が多すぎたため納得するものは少なかった。
殺された学生のほとんどが当時駒形高校に通っていた生徒であり駒形高校は呪われた学校と言われあまり時を絶たず廃校となっている。
首謀者の一人として指名手配されたのはかつて「根島事件」と呼ばれる女子高校生殺害事件に関与した根島史周だった。ちょうど彼の足取りを追っていた刑事たちがそれを取り逃がした直後におこった事件でもあり深い関連性があるとされていたが、根島も未だ見つかっていない。
根島史周を包囲したというのに寸前で逃がした刑事……津詰徹生は当時警部であったが責任をとり辞職したことでこの件は片付けられているがもし本当に根島が殺害の首謀者であれば津詰が取り逃がした失態は非情に大きなものだろう。
津詰もをそれを理解していたのかしばらくは一人で根島の足取りを追っていたようだが別れた妻と娘とが立て続けに殺された後は失意にくれ、暫く後に姿を消した。
口さがない他の刑事たちからは「根島を取り逃がした罪の呵責に耐えられず自殺したのだろう」だとか「周囲の冷たい目から逃れるため雲隠れしたのだ」などとまことしやかに囁かれている。
真相がどうであれ、根島史周は未だ逮捕されておらず手足を切断される死体は増え続けるばかりであった。
その後バブルが弾けた事といつ根島に殺されるかわからないといった恐怖から熱に浮かされたような景気の良さは一気に衰え東京は見る間に活気を失っていった。
当初は都内に住んでいる学生が中心だった切断事件も人々が不安を募らせ不景気に嘆く心と呼応するように全国へと広がっていき、今は何処に住んでいても誰が突然手足を奪われ死に至るかわからないといった状況にある。
誰もが閉塞感を抱く世の中、死体を調べる刑事だちも半ば諦めの色が見えていた。
「おいッ、手足の無い死体が見つかってのは本当か!」
そのとき勢いよく駆け込んでくる刑事が一人いた。
彼は切り裂かれた女性の死体に手をあわせると慣れた様子で見聞をし顔をあげる。
「こいつは間違いない、葦宮誠……いや、根島史周がやったモンだな。すぐ捜査本部を置け、久しぶりに根島の奴が動いたんだからな」
そして確信したよう告げると周囲に慣れた様子で指示出すのは襟尾純という名の刑事であった。 彼は根島史周を包囲した時にすんでのところで彼を取り逃がした津詰の部下だった男である。 根島を取り逃がした件で処分を受けたのは津詰だけであったが、現場にいた襟尾も当然問題視され当人のもつ能力の高さやこれまであげた成果の良さにかかわらずたいした出世も出来ないまま古いタイプの刑事として燻っている状態だ。
だが当人は意に介さずといった様子で日々現場を這いずりまわり徹底的な捜査をし多くの事件を解決に導いていた。
特に根島の関わった事件に関しては熱心で執念深い捜査を続けている数少ない刑事であるが未だ根島が逮捕されていないことからも襟尾の熱意が徒労であるというのはわかるだろう。
今もまた襟尾の熱意とは裏腹に他の刑事たちは冷めた様子であった。
「おい、どうした急げよな。事件なんだぞおまえら。人が一人殺されてるんだぞ」
口を尖らせて指示をする襟尾を前に、刑事たちは億劫そに顔を見合わせる。
「そういいますけど襟尾さん、これも根島の呪詛とかなんでしょう。そんな、呪詛を使う相手なんか逮捕できませんって」
「そうそう、それに根島案件は俺たちの管轄じゃ無いですよね。刑事じゃなくて対策本部があるからソッチに投げておくのが定石でしょ。根島の捜査してる奴、みんなこんな風に殺されるっていうし、俺たちもこんな風になりたくはないですから」
根島が呪詛で相手を殺すという話は警察内ですでに常識となっていた。人が入れないような建物でも手足を切り裂かれ殺される人間が後を絶たないのだから当然のことだろう。
最近では呪詛で殺されるというのは世間一般にも浸透しはじめており、「我が宗教に入れば呪いから逃れられる」と口にする新興宗教や怪しげな札、お守りを売りつけるような団体も多く存在するという有様だった。
「お前らなぁ……人が殺されてるんだぞ。彼女を殺された家族の悲しみとか、怒りとか……そういうのがわからないのか」
襟尾は自分の胸を押さえ必死に訴えるが刑事たちは誰も耳を貸そうとせず淡々と事後処理を進めていく。
「誰か、根島案件のチームに連絡しろよ」
「あぁわかった、根島案件のチームも災難だよな。あのチームに入ったらもう根島に目ぇつけられてるんだろ。実質、生贄みたいなもんじゃないか……」
ぼそぼそ呟きながら死んだ目をして連絡する姿はもはや諦めの色しかなかったろう。
もっと強く言わなければいけない、そう思い「お前ら」とまで声を出した時、刑事の一人が襟尾を見た。
「襟尾さん、あんたは過去の失敗を取り戻すため躍起になってるのかもしれないけど、それで俺たちの命まで危険にさらさないでくださいよ」
それを言われたら、襟尾は何も言えなくなる。
実際、根島の事件を捜査し深入りした刑事たちは手足をもぎとられ死体になって発見されていた。 襟尾が根島を捉えるため懸命に走り回っているのもあの時取り逃がした罪悪感を抱いているということと、尊敬する津詰を警察から追い出したというのに自分だけはまだ刑事でいられる事に何かしら意味を見いだしたいからに他ならないだろう。
「そろそろ行こうぜ、根島案件なら死体なんてどう処理してもいっしょだろ」
「部屋を調べても無駄だろうからなぁ……」
刑事たちは心ないい声で呟くと早々に、部屋から出ていった。 これは別段彼らが特別だというワケではない。今の警察官は全体的に無気力でいつ死ぬかもしれないという恐怖に怯えているものがほとんどだ。正義云々ではなく他にやれる仕事がないから仕方なく警察をやっているといったものも少なくはない。
というのも、根島が呪いという名の災厄を得た根島が学生の次に多く狙ったのが警察組織の人間だったからだ。まだそれが呪詛の仕業だとわからぬうちから警視庁に詰めている多くの職員が殺された結果、警察に入れば根島に殺されるという認識は今や社会の常識となり恐怖となって多くの人々へ染みついていた。
「……くそ、俺は何も出来ないのか。俺はッ」
襟尾は苛立ちながら自分の頭を掻き、胸ポケットにねじ込んだ紙煙草をくわえた。
以前は煙草など吸っていなかったが津詰が去ってからは津詰と同じ銘柄の煙草を吸うようになったのだ。襟尾にとっては少しばかり重すぎる味わいの煙草であったが津詰を忘れないためにこの重さは心地よかった。
「あの、襟尾さん」
その時、襟尾のそばに一人の刑事が駆け寄る。まだ刑事になったばかりという新米の青年は少し華奢すぎるようにも見えたが目には覚悟の光が宿っていた。
「どうした、おまえはまだ残ってたのか」
「はい、俺もちゃんとこの人を捜査したいと思って……あ、あの、襟尾さん。俺も、根島を逮捕したいと思って警察になったんです」
目を輝かせながら、まだ若い刑事はいう。
「俺、母さんが根島に殺されたんです。昨日までは元気だったのに朝見に行ったら手足がなくなっていて……警察はまともに取り合ってくれないし、周りの人間は根島に関わったんだろうとか根島のいるカルトを裏切ったから制裁を受けたとか言いたい放題だったところ、あなたがちゃんと捜査するって言ってくれて……俺は、襟尾さんに憧れて刑事になったんです」
羨望と敬愛の混じった笑顔を見て、襟尾の脳裏に津詰の姿が浮かぶ。 自分も津詰という刑事に憧れ警察官を目指したのだ。今の彼に、自分は当時の津詰のような偉大な刑事に見えているだろうか。
そうだ、この程度でしぼんでいる場合ではない。津詰のためにも自分が根島を捕まえなければ。
「あぁ、わかった。俺とおまえで絶対に根島の尻尾をつかんでやろうぜ」
「……はい、俺、頑張りますから!」
襟尾はくわえただけで火をつけてない煙草をポケットへ戻すと若い刑事に声をかける。彼はその声を聞き目を輝かせ走り出した。
の背中を見ながら襟尾はアゴに触れ笑う。少しばかり歳を取りしわの増えた顔には伸びっぱなしの無精髭が触れた。
襟尾に声をかけてきた若い刑事が死んだのは翌日のことである。
自室に戻った後に手足をもぎ取られたのか同僚が様子を見に行った時にすでに息絶えていたという。
「やっぱり根島案件には触れちゃいけないんだよ……」
「だけど襟尾さんは根島案件に関わってるのにずっと生きているよなァ、案外あの人が根島に情報を横流ししてるんじゃないか」
背後では刑事たちのひそひそ話しが聞こえてくる。内緒話ならもっと小さな声ですればいいとも思うが、小さな声でしなくても良いくらい周囲もそう思っているのだろう。
彼らは暫く雑談をすると当然のように部屋を出ていった。
根島案件に関して捜査しないというのが暗黙の了解だろうといった態度に苛立ちはしたが、それ以上に何も出来ないまま若い才能を奪ってしまった自分に嫌気がさす。 せっかく自分に憧れてくれたというのに、根島を逮捕しようと意気込んでくれたのにその仲間を失ってしまったのだ。
愕然とする襟尾の耳に、電話の呼び出し音が鳴る。
この部屋にある電話が鳴っていることに気付いた襟尾は興家彰吾の死体を公園で発見したとき突然鳴りだした公衆電話のことを思い出していた。
あのとき根島は津詰への挑発をするため電話をかけてきたのだが、まさか。
慌てて受話器をとれば、そこには記憶の彼方へ押し込んでいた声が聞こえてきた。
「やァ、久しぶりだなァ襟尾ちゃん。元気だったかァ、あの時は逃がしてくれてアリガトな。おじさん助かっちゃったよ」
「根島ッ……オマエ、根島なのか……」
受話器の向こうで声を殺して笑う男の様子がうかがえる。間違いない、この嫌らしい笑い方は根島だ。
「まぁオジサンが誰だっていいだろ襟尾ちゃん。相変わらず熱心に俺のおっかけをしてるようで何よりだ、うン。情熱的なファンがいないと生きがいも無ェからなァ」
「おまえっ、どこにいるんだ……何のつもりで彼を殺した?」
意気込む襟尾に対し、根島は鼻歌交じりで語る。
「おまえさん、素直に警察へ居場所を教える殺人鬼なんていると思ってるのかい。相変わらず青臭いねェ……ま、そこが津詰もカワイイと思ってたンだろうけどな」
「津詰……津詰警部もおまえのところにいるのか」
「おっと、もう警部じゃない相手を未だそうやって呼ぶのかい。麗しい師弟愛って奴か、泣かせるねェ……はは、知ってても答えてやるわけ無ェだろ。コッチはおまえさんが苦しんで血反吐をまき散らし悶える姿が最高に楽しいんだからよ」
受話器の向こうにいる根島はまた声を殺して笑う。 声がやけに遠いあたり東京ではない場所にいるのかもしれない。 以前根島は何処にいても人を殺せると豪語していたが実際その通りなのだろう。
「一つ教えておいてやるよ襟尾チャン。その男はな、生意気にも俺を捕まえようなんて言い出したから見せしめに殺してやったンだよ。俺を逮捕しようなんて色気出したらどうなるか、おまえたち警察によーく分かってもらうためにな」
「なっ……何でそれを知ってるんだ根島、おまえ」
「純粋だねェ襟尾チャンは……俺に殺されるのが怖くてソッチの情報をリークしてくれる奴なんて山ほどいるンだぜ。どうだい、絶望したかい? その場所にもう正義なんてねェってワケだ」
「根島ァ……おまえ、絶対に。絶対に捕まえてやるからなッ」
「おぉ、そんな怒鳴りなさんな、おじさんビックリしちゃうだろ? はは……その意気は買ってやるぜ。だがおまえさん、これだけを覚えておけよ」
受話器ごしでも分かるほど、根島はいやらしく笑って言う。
「その気になればコッチはいつだっておまえさんを殺せるんだ、襟尾チャン。おまえをまだ殺さないのは、津詰と約束してるから。ただそれだけだ」
どういう意味なのか問いかける前に受話器が切れた。
根島はいつでもこちらを殺せるというのは本当だろうか。それと津詰との約束とは何だろうか。ひょっとして津詰は自分のため何かしら取引をして、今でも根島の元に囚われているのではないか。もしそうだとしたら非道い拷問を受け続ける日々にずっと耐えているのではないか。
様々な思いが襟尾の中を駆け巡る。
「くそっ……根島、絶対におまえを引きずり出してやる。俺が死んでも、オマエだけは絶対に、絶対に許さない……絶対に、許さないからな……」
襟尾は怒りにまかせ唇を噛みしめる。 鮮やかな血が彼の口元から滴るがすでに痛みにすら気付かないほど強い怒りが支配していた。
PR
COMMENT