インターネット字書きマンの落書き帳
198×年の夏祭り(雨森少年とマダム)
パラノマサイト……急に燃料をぶち込んでくる恐ろしい子ッ……。
という訳で、急に夏祭りではしゃぐリヒタとマダム。
そして一度も立ち絵が出てないはずの雨森少年をお出ししてきたので「雨森少年可愛すぎるだろ!?!?!?」という気持ちで書きました。
夏祭り、リヒタがぶっちぎりでどこかに行ってしまったから取り残されてしまうマダムと雨森少年の話です。
マダム……元気になって健やかに生活して……!
という訳で、急に夏祭りではしゃぐリヒタとマダム。
そして一度も立ち絵が出てないはずの雨森少年をお出ししてきたので「雨森少年可愛すぎるだろ!?!?!?」という気持ちで書きました。
夏祭り、リヒタがぶっちぎりでどこかに行ってしまったから取り残されてしまうマダムと雨森少年の話です。
マダム……元気になって健やかに生活して……!
『198×年の夏祭り』
賑やかな祭り囃子とは裏腹に、その人は物憂げな表情で掲げられた提灯の明かりを見つめていた。
藍染めの浴衣から漂うのは微かな白粉のかおりだろうか。
化粧っ気のないまとめ髪という出で立ちはただそれだけであったからこそ雨森少年の目には美しく思えた。
同時にひどく悲しそうにも見えるのは、少年があの事件を知っているからだろう。
彼女の名は志岐間春恵という。
一年ほど前に事件で実子を失ってから長く塞ぎ込んでいたという話は師匠である櫂利飛太から聞いていたし、事件に関する新聞記事は雨森少年も目にしている。ちょうど自分と同じくらいの年頃をした少年をかくも無惨に殺した犯人にひどい憤りを覚えたのも記憶に新しい。
利飛太が春恵からの依頼を受けたのはつい先日の事であり、残酷な真実が曝か悲嘆にくれる彼女を少しでも元気づけようと祭へ誘う提案をしたのが雨森少年である。
春恵は普段から広い屋敷で一人きりだと聞いていたし、塞ぎ込んでしまっては良くないだろうと思い人の多い所でなおかつ誰も自分たちの事など気にしない場所でなら気が紛れるかと考えたのだが。
「みたまえ雨森くん、あれはヒーロー。ヒーローのお面ではないか。どうだい雨森くん、欲しくはないか? 僕かい? ほしいさ、欲しいに決まっているだろう。キミはどうだい?」
春恵を差し置いてはしゃぎ回る利飛太を前に、雨森少年は自らの失態を恥じた。
師匠である利飛太は聡明で天才、紛れもない名探偵なのだが駄菓子屋や夜店といった子供じみたものが好きでありそれを目にすると我を忘れはしゃぎ回るという事をすっかり忘れていたのだ。 これでは利飛太のお守りに春恵を呼び出したようなものである。依頼人を元気づけるどころの話ではないだろう。
呆れと諦めの色で利飛太を眺める雨森少年の髪に、春恵の白い指先が触れた。
「……大丈夫? 雨森くん」
「はい、大丈夫です。志岐間さんこそ大丈夫ですか、人混みでご気分など害されてなければ良いのですが……」
雨森少年の言葉に、春恵は目を細めて笑う。
やはり綺麗な人だと思った。物憂げな表情など似合わないともだ。
「探偵さんを見失ってしまうわ、手を繋ぎましょう雨森くん。人が多いですから、迷子になったらいけないでしょう」
春恵は白い手を伸ばす。艶やかな肌と折れそうな指先は彼女の儚げな印象を一層強めた。
これが利飛太だったら大丈夫ですと断っている所だが、春恵に心配をかけたくはないし実際にこのまま利飛太を追いかけていたら自分と春恵がはぐれてしまいそうだ。
雨森少年は小さく頷くと彼女の白い手をとる。
透き通る程に白い指先は見た目と裏腹にとても温かかった。
「何か食べたいものはある、雨森くん」
利飛太を追いかけて少し歩けば不意に春恵が問いかけてくる。
屋台からは焼きそば屋やたこ焼き屋から漂うソースの香りや、たっぷりのチョコレートをかけたチョコレートバナナ、クレープ、かき氷と様々な食べ物の匂いがごちゃまぜに漂っていた。
だが、無理矢理に食べたいような気分ではない。それでなくともいつも利飛太が色々と買いすぎてしまうのだから腹に余裕を持たせておきたい。
「ふふ、遠慮しなくてもいいのよ。何でも言ってね……夜店で食べるものは何でも珍しくて美味しいですものね。うちの子も、おいしそうに見ていたわ……私は、外で作った食べ物なんて不衛生だから、って食べさせなかったんだけどね。ふふ、意地悪なおばさんでしょう? ……今思えば、好きなものを食べさせておけばよかった。屋台のたこ焼きを食べたって、死んだりはしないんですものね」
だが春恵を前にして、どうして断る事が出来るだろうか。
雨森少年は俯くと、近くにあるリンゴ飴を指さした。
「リンゴ飴でいいの? 大きい方がいいかしら、小さい方が食べやすいかしら」
「大きい方をおねがいします、大きい方が嬉しいので……」
目を細め笑うと春恵から大きなリンゴ飴を受け取ると、雨森少年はそれを食べながら彼女と手をつなぎ歩き出した。
「私の息子もね、生きていたらたぶん貴方と同じくらいかしら。とても真面目で、将来は警察官になるんだって頑張ってくれていたわ」
「知ってます。いえ、実際にお会いしたことはないんですが、話には聞いてますので」
「……今思えばだけど、あの子は私のために頑張ってくれていたんだろうって思うの。私と、家族のために……あなたもそうだけど、子供だからこそ大人の間にある感情に気付いてしまうって事もあるでしょう。あの子は、私と夫、私の父と不仲なのを知っていて、家族は仲良くして欲しいと思っていた。それで、頑張っていた……頑張りすぎるくらいに……」
春恵はそこで深いため息をつく。 長い睫毛に提灯の明かりが反射し濡れているように見えた。
「きっと、自分が頑張れば上手くいくと思っていたんでしょうね。ワガママも言わず、駄菓子をねだる事も、夜店の食べものをほしがる事もせず感情を押し殺して……今考えたら私は、良い母親ではなかったと思うの。あの子に我慢をさせて、正しくあるように縛り付けていた、だからこそ、あの子はきっと断れなかった……あの悲劇をおこしてしまったのは、結局のところ私だったんだろうって」
「そんな事ありませんよ」
雨森少年はたまらなくなって声をあげていた。
「そんな事ありません、支岐間さんが悪い訳ないですよ。悪いのはいつだって犯罪をするやつです。犯罪者の悪事に蹂躙された人間が卑屈になる必用なんてこれっぽっちもありませんから」
春恵の姿を見据えたまま、雨森少年は強くリンゴ飴を握る。
どうして彼女が苦しまなければいけないのだろう。悪いのは犯罪に手を染めた人間で、彼女も彼女の息子も被害者なのだ。それだというのに残された人間は深い傷を背負ったままそれを引きずり生きていかなければいけない。
何と理不尽なことだろう。その怒りが雨森少年を黙らせてはいなかった。
だが少し声が大きすぎたようだ。周囲にいる祭りの見物客は声をあげた雨森少年を不思議そうに見ている。ひょっとしたら夜店でオモチャを買ってもらえず駄々をこねた子供にでも見えたかもしれない。
「すいません、急に声をあげたりして……」
雨森少年は急に恥ずかしくなり赤らめた顔を隠すよう俯けば、春恵は優しく笑うと彼の手をとり歩き始めた。
「ありがとう、雨森くん。そう言ってもらえると嬉しいわ」
「いえ、僕は別に……」
「事件があった後、ずっと考えていたの。私のせいだったんじゃないか、って……それで随分弱気になったわ。でも、このままじゃダメだろうって貴方の探偵さんが教えてくれてね。私、今は犯罪被害者の遺族や、残された子供たちと一緒に活動をしているの」
それは初耳だった。
利飛太が犯罪に巻き込まれ孤児になった人物へ支援をしていた事は知っていたしがそういった活動に春恵を呼んでいた事は意外だったからだ。彼女がそれに参加できる程元気になっていたのも驚きだ。
触れれば折れそうなほどか弱い印象だったが、芯の強い女性なのだろう。
「私でも誰かを助けてあげられるんじゃないかと思って始めたんだけど、今は私が助けられてる方かしら。犯罪に巻き込まれてひとりぼっちになった子供たち、私と同じように心に傷を抱えても笑って前を向こうとしている人。そういう人と一緒にいると、私ばっかり俯いて泣いてたらそれでこそ息子に……修一に悪いって、そう思えるようになってきたの」
春恵は雨森少年の手を強く握る。
「やっと、私もやりたい事をやれるようになってきた……あなたたちは本当の名探偵よ」
と、そこではにかんだ笑みを向けると。
「なんて、おばさんのつまらない話に付き合わせてごめんなさい。行きましょうか」
そう言いながら、少し先を歩く利飛太へと手を振る。
彼女の背中は、今日見た姿のなかで一等に美しく雨森少年は紅潮する頬を悟られないよう再び顔を伏せるのだった。
賑やかな祭り囃子とは裏腹に、その人は物憂げな表情で掲げられた提灯の明かりを見つめていた。
藍染めの浴衣から漂うのは微かな白粉のかおりだろうか。
化粧っ気のないまとめ髪という出で立ちはただそれだけであったからこそ雨森少年の目には美しく思えた。
同時にひどく悲しそうにも見えるのは、少年があの事件を知っているからだろう。
彼女の名は志岐間春恵という。
一年ほど前に事件で実子を失ってから長く塞ぎ込んでいたという話は師匠である櫂利飛太から聞いていたし、事件に関する新聞記事は雨森少年も目にしている。ちょうど自分と同じくらいの年頃をした少年をかくも無惨に殺した犯人にひどい憤りを覚えたのも記憶に新しい。
利飛太が春恵からの依頼を受けたのはつい先日の事であり、残酷な真実が曝か悲嘆にくれる彼女を少しでも元気づけようと祭へ誘う提案をしたのが雨森少年である。
春恵は普段から広い屋敷で一人きりだと聞いていたし、塞ぎ込んでしまっては良くないだろうと思い人の多い所でなおかつ誰も自分たちの事など気にしない場所でなら気が紛れるかと考えたのだが。
「みたまえ雨森くん、あれはヒーロー。ヒーローのお面ではないか。どうだい雨森くん、欲しくはないか? 僕かい? ほしいさ、欲しいに決まっているだろう。キミはどうだい?」
春恵を差し置いてはしゃぎ回る利飛太を前に、雨森少年は自らの失態を恥じた。
師匠である利飛太は聡明で天才、紛れもない名探偵なのだが駄菓子屋や夜店といった子供じみたものが好きでありそれを目にすると我を忘れはしゃぎ回るという事をすっかり忘れていたのだ。 これでは利飛太のお守りに春恵を呼び出したようなものである。依頼人を元気づけるどころの話ではないだろう。
呆れと諦めの色で利飛太を眺める雨森少年の髪に、春恵の白い指先が触れた。
「……大丈夫? 雨森くん」
「はい、大丈夫です。志岐間さんこそ大丈夫ですか、人混みでご気分など害されてなければ良いのですが……」
雨森少年の言葉に、春恵は目を細めて笑う。
やはり綺麗な人だと思った。物憂げな表情など似合わないともだ。
「探偵さんを見失ってしまうわ、手を繋ぎましょう雨森くん。人が多いですから、迷子になったらいけないでしょう」
春恵は白い手を伸ばす。艶やかな肌と折れそうな指先は彼女の儚げな印象を一層強めた。
これが利飛太だったら大丈夫ですと断っている所だが、春恵に心配をかけたくはないし実際にこのまま利飛太を追いかけていたら自分と春恵がはぐれてしまいそうだ。
雨森少年は小さく頷くと彼女の白い手をとる。
透き通る程に白い指先は見た目と裏腹にとても温かかった。
「何か食べたいものはある、雨森くん」
利飛太を追いかけて少し歩けば不意に春恵が問いかけてくる。
屋台からは焼きそば屋やたこ焼き屋から漂うソースの香りや、たっぷりのチョコレートをかけたチョコレートバナナ、クレープ、かき氷と様々な食べ物の匂いがごちゃまぜに漂っていた。
だが、無理矢理に食べたいような気分ではない。それでなくともいつも利飛太が色々と買いすぎてしまうのだから腹に余裕を持たせておきたい。
「ふふ、遠慮しなくてもいいのよ。何でも言ってね……夜店で食べるものは何でも珍しくて美味しいですものね。うちの子も、おいしそうに見ていたわ……私は、外で作った食べ物なんて不衛生だから、って食べさせなかったんだけどね。ふふ、意地悪なおばさんでしょう? ……今思えば、好きなものを食べさせておけばよかった。屋台のたこ焼きを食べたって、死んだりはしないんですものね」
だが春恵を前にして、どうして断る事が出来るだろうか。
雨森少年は俯くと、近くにあるリンゴ飴を指さした。
「リンゴ飴でいいの? 大きい方がいいかしら、小さい方が食べやすいかしら」
「大きい方をおねがいします、大きい方が嬉しいので……」
目を細め笑うと春恵から大きなリンゴ飴を受け取ると、雨森少年はそれを食べながら彼女と手をつなぎ歩き出した。
「私の息子もね、生きていたらたぶん貴方と同じくらいかしら。とても真面目で、将来は警察官になるんだって頑張ってくれていたわ」
「知ってます。いえ、実際にお会いしたことはないんですが、話には聞いてますので」
「……今思えばだけど、あの子は私のために頑張ってくれていたんだろうって思うの。私と、家族のために……あなたもそうだけど、子供だからこそ大人の間にある感情に気付いてしまうって事もあるでしょう。あの子は、私と夫、私の父と不仲なのを知っていて、家族は仲良くして欲しいと思っていた。それで、頑張っていた……頑張りすぎるくらいに……」
春恵はそこで深いため息をつく。 長い睫毛に提灯の明かりが反射し濡れているように見えた。
「きっと、自分が頑張れば上手くいくと思っていたんでしょうね。ワガママも言わず、駄菓子をねだる事も、夜店の食べものをほしがる事もせず感情を押し殺して……今考えたら私は、良い母親ではなかったと思うの。あの子に我慢をさせて、正しくあるように縛り付けていた、だからこそ、あの子はきっと断れなかった……あの悲劇をおこしてしまったのは、結局のところ私だったんだろうって」
「そんな事ありませんよ」
雨森少年はたまらなくなって声をあげていた。
「そんな事ありません、支岐間さんが悪い訳ないですよ。悪いのはいつだって犯罪をするやつです。犯罪者の悪事に蹂躙された人間が卑屈になる必用なんてこれっぽっちもありませんから」
春恵の姿を見据えたまま、雨森少年は強くリンゴ飴を握る。
どうして彼女が苦しまなければいけないのだろう。悪いのは犯罪に手を染めた人間で、彼女も彼女の息子も被害者なのだ。それだというのに残された人間は深い傷を背負ったままそれを引きずり生きていかなければいけない。
何と理不尽なことだろう。その怒りが雨森少年を黙らせてはいなかった。
だが少し声が大きすぎたようだ。周囲にいる祭りの見物客は声をあげた雨森少年を不思議そうに見ている。ひょっとしたら夜店でオモチャを買ってもらえず駄々をこねた子供にでも見えたかもしれない。
「すいません、急に声をあげたりして……」
雨森少年は急に恥ずかしくなり赤らめた顔を隠すよう俯けば、春恵は優しく笑うと彼の手をとり歩き始めた。
「ありがとう、雨森くん。そう言ってもらえると嬉しいわ」
「いえ、僕は別に……」
「事件があった後、ずっと考えていたの。私のせいだったんじゃないか、って……それで随分弱気になったわ。でも、このままじゃダメだろうって貴方の探偵さんが教えてくれてね。私、今は犯罪被害者の遺族や、残された子供たちと一緒に活動をしているの」
それは初耳だった。
利飛太が犯罪に巻き込まれ孤児になった人物へ支援をしていた事は知っていたしがそういった活動に春恵を呼んでいた事は意外だったからだ。彼女がそれに参加できる程元気になっていたのも驚きだ。
触れれば折れそうなほどか弱い印象だったが、芯の強い女性なのだろう。
「私でも誰かを助けてあげられるんじゃないかと思って始めたんだけど、今は私が助けられてる方かしら。犯罪に巻き込まれてひとりぼっちになった子供たち、私と同じように心に傷を抱えても笑って前を向こうとしている人。そういう人と一緒にいると、私ばっかり俯いて泣いてたらそれでこそ息子に……修一に悪いって、そう思えるようになってきたの」
春恵は雨森少年の手を強く握る。
「やっと、私もやりたい事をやれるようになってきた……あなたたちは本当の名探偵よ」
と、そこではにかんだ笑みを向けると。
「なんて、おばさんのつまらない話に付き合わせてごめんなさい。行きましょうか」
そう言いながら、少し先を歩く利飛太へと手を振る。
彼女の背中は、今日見た姿のなかで一等に美しく雨森少年は紅潮する頬を悟られないよう再び顔を伏せるのだった。
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