インターネット字書きマンの落書き帳
上手くはない、歪な、ここにない歌(ヤマアル)
ヤマムラさんは優しいし、顔もいいし、性格もいいし完璧超人なんじゃないのか!?
(※ヤマムラさんに対する集団幻覚です)
そう思ったので、「実は音痴なんじゃないか……」くらいの気持ちを込めて。
実は歌があんまり上手じゃないヤマムラさん概念を書いてみました。
実際は……そこまで下手じゃないけど、人前では歌わなそう……。
って印象はありますね、はい。
(※ヤマムラさんに対する集団幻覚です)
そう思ったので、「実は音痴なんじゃないか……」くらいの気持ちを込めて。
実は歌があんまり上手じゃないヤマムラさん概念を書いてみました。
実際は……そこまで下手じゃないけど、人前では歌わなそう……。
って印象はありますね、はい。
『ここではないどこかの歌』
「ヤマムラさん、歌をうたってくれませんか?」
寝付けない夜、時々アルフレートはヤマムラにそんな頼み事をした。
ヤマムラは仕方ない、といった様子で起き上がると「何の歌がいい?」と聞くのがお決まりになっていたから、アルフレートは先回りして「あなたの好きな歌でいいですよ。思い浮かばなかったら、貴方の故郷の歌がいいです」と告げれば、一呼吸おいてからヤマムラは歌い出す。
彼の母国でよく歌われているという歌は、こちらの歌とは音程もテンポも違う。
腹から声を出しているのだが異国の言葉だから意味は分らず、長く同じ一つの言葉を発しているようにも聞こえた。
歌詞の意味はわからなかったが、こちらにある賛美歌のように医療教会を讃えるようなものではなく、自然の風景を歌ったり、恋する気持ち、男女の色恋の歌が多いのだという。
彼の低い声はよく通り心地よいのだが、歌らしい歌でもなく旋律もどこか静かなその歌は決して「上手い歌」ではなかっただろう。
むしろそのメロディはやや陰気で、それでいて冗長だったから、ヤマムラの歌声を聞いた口の悪い狩人は。
『なんだ、ヤギが鳴いているのかと思ったぜ』
と茶化して見せる程だったし、実際に彼の歌はもう歌というよりヤギの求愛のようなメロディラインだったろう。
低音で震えた声は、部分的にヤギの鳴き声に似ていたのだから仕方ない。
ヤマムラの故郷では意図的にこのような歌い方をする歌があるそうなのだが、極東の文化はヤーナムでは異質なのだからそれを言っても詮無い事だろう。
最も、ヤーナムの文化は俗世間からしてみれば異質なので、彼の歌を笑っているものたちが外の世界でヤーナムの賛美歌などを歌ったら、やはり笑いものになるのだろうが……。
だが、それにしてもヤマムラの歌はいつ聞いても変わらない。
故郷の歌が特徴的だからあまり上手じゃないように聞こえるのかとも思ったが、ヤーナムにある賛美歌を歌わせてみても上手くはなかったから、恐らくもともと歌う事が苦手なのだろう。
声質は悪くないと思うし声も良く出ていると思うのだが、どうにもメロディやテンポをあわせて歌うのは苦手なようだった。
「はは、あまり上手くないだろ? 歌は嫌いじゃないが、歌うのはが昔から苦手でねぇ。故郷でもよく調子っ外れと笑われたものだよ」
歌い終わった後、ヤマムラは苦笑いをして見せる。
自分でもあまり歌が上手くはないのに気付いていたようだが、歌う事そのものが嫌いという訳ではない事はアルフレートも知っていた。
待ち合わせをしている時、鼻歌を口ずさみながらヤーナムの空を眺めている後ろ姿を何度も見た事あるからだ。
「はい、あまり上手じゃないですよね。今日もヤギが鳴いてるみたいでした」
ここで上手かったと言っても、ヤマムラ自信が下手なのを自覚しているのだから上辺だけのお世辞だというのはすぐ分ってしまうだろう。
それに、実際ヤマムラは歌が下手なのだ。今聞いた歌も非道く音程はを外しており、まさにヤギが遠鳴きしているように聞こえた。
アルフレートの言葉に、ヤマムラは苦笑いをして頭を掻く。
「こればっかりは才能なのかな? 練習をちゃんとしたこともないけど、どうにも飲み込みが悪いみたいなんだよ、俺は」
「でも……私は、貴方の歌が好きですよ。下手だとは思います。だけど、嫌いではないです」
アルフレートは真っ直ぐにヤマムラを見る。
彼の歌は確かに上手ではないし人前で歌うと言い出したら間違い無く止めるだろう。だが、アルフレートは彼の歌を愛していた。
それは、ヤマムラのような高潔な男でも――アルフレートにとって、ヤーナムに来た理由が自分のためではなく他人のためであり、それを終えてもなお虫を潰すという名目で獣を狩るヤマムラの行動は、強い善性に支えられた高潔な行為に思えていた――そんな高潔な存在にも、人並みに弱点がある。
彼のように豊かな心をもっていたとしても、完ぺきではないという部分に安心できるというのもあっただろう。
しかしそれ以上に、アルフレートは彼の声を愛していたのだ。
確かに達者な歌ではない。どちらかといえば「音痴」とも言える彼の歌声が、アルフレートにとって何よりも心地よかった。
その不完全な歌声を最初聞いた時は「こんなに素敵な声をしているのに」と非道くガッカリした記憶があるが、今は美しい声にある歪な歌こそがアルフレートの心を慰めるのだった。
「あなたの声も、あなたの歌も、すべてあなただけにしかないものだから。だからこそ愛しくて、だからこそ……」
そこから先は言葉にならず、ただヤマムラの手を握る。
ヤマムラも優しく笑いその手を握り返すと、耳元で囁いた。
「俺の下手な歌を、それでも好きだと言ってくれるのはキミくらいなものだよ」
「ふふ……だったら、今度は私のために歌ってください。私にだけ聞こえるように……私のためだけに……貴方の歌を……」
アルフレートは甘えたようにヤマムラの肩へとしな垂れかかる。
そんな彼の肩を抱き、ヤマムラは相変わらずさして上手くはない歌を歌うのだ。
ここではない、どこかの歌を。
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