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インターネット字書きマンの落書き帳

   
故郷にアルフレくんをつれていきたいヤマムムさんの話(ヤマアル)
ヤマムラ×アルフレートの話です。
昔書いた作品をサルベージした作品のなかでも個人的に好きな奴を乗せているのでいい話だと……思いますッ!

以前見たぞ!
と思っても以前かいた作品の再掲なんで許してください。

ひょっとしたらこのブログにある話かもしれない、けど……ま、そんな事もあるよね♥ で大目に見てくれるとうれしいです!

かわいい俺のする事だ、許してやろう……。



『軽率ではないが果たせない約束』

 ヤマムラのベッド脇には棚が置かれているのだが、最近その棚に奇妙な「もの」が置かれていた。 幾重も細い竹を連ねた両手におさまる程度の小さな鳥かごで、中には濃い茶褐色の虫と野菜くずが入っている。
 野菜クズを入れている、という事はこの虫を飼っているという事だろう。
 アルフレートから見ればただ茶色で6本足、目ばかりがぎょろぎょろ大きく何を考えているのかすら解らない気味の悪い虫だが、ヤマムラにとっては特別なものらしい。
 だが、寝床に虫がいるというのは何とはなしに気味の悪いものだ。
 だからその夜、どうして鳥かごで虫なんか飼っているのか思い切って聞いてみた。
 するとヤマムラは、虚を突かれたような顔をした後 「あぁ、そうか」 と呟いて、自分の頭を掻くのだった。

「あぁ、そうかじゃないですよヤマムラさん……この虫、何ですか? 蝶々とか……そういう美しい羽をもつ昆虫ならそう、捕まえて標本にする人もいるのは知ってるんですけどね。これ、どう見ても茶色いだけの虫じゃないですか」

 早口でそうまくし立てられ、ヤマムラはやや困惑する。そして困ったような表情のまま。   

「これはね、アルフレート。外見を楽しむ虫じゃなく、音を楽しむ虫なんだよ」

 と、こたえた。
 音と言われても、アルフレートにはいまいちピンとこない。虫が音を鳴らすのは認識していたが、それを虫が鳴いていると思ったことはなかったし、ましてや風情を感じることなど一度たりともなかったからだ。そういう習慣が、この街にはないのである。

「鈴虫だと綺麗な音なんだけどな、これはコオロギだ……それでも大きな音を鳴らす、今夜あたり聞いてみるといい」

 ヤマムラに言われ夜を待てば、籠の中の虫は鈴を転がすようなか細い音をたてる。
 羽と羽を擦らせて、このような音を出しているというのだ。
 これまで気にした事などなかったが、なるほどこうして聞いてみると確かに旋律となっている。

「これがヤマムラさんの故郷の音なんですね」

 何とはなしに呟くアルフレートの隣で、ヤマムラは「あぁ……」と気のない返事をした。 かと思うと。

「アルフレート、俺のベッドに来てくれ」

 なんて、急かすようにそう告げ、ベッドに登るアルフレートを抱きしめる。 不意に抱きしめられたアルフレートはやや困惑しながらも彼の身体に寄り添った。

「もう、何するんですか突然……」
「いいから……目を閉じて……額を重ねてくれ」
「……こうですか?」

 絡み合うように抱き合ったまま、二人はその額を重ねる。
 ヤマムラの額からほのかな温もりがアルフレートに伝わった。  

「……今から君に、故郷の話をしようと思う。といっても、極東の田舎で何も誇るもののない質素な集落だが……君に一度、来てほしいと。そう……思っている」
「私に……ですか?」
「あぁ、そうだ……俺の故郷は……この辺の建造物と違い、レンガ造りの建物は大都市の特権。少し街から離れればまだ藁葺き屋根の家屋も多く……澄んだ水に魚が泳ぎ、野山には雉やウサギなんかがいて、それを狩って生活する……そういう所だよ」
「ん……イメージ沸かないです……ね。私、そういう意味では……わりと都会育ちだったのかもしれません」

 目を閉じて額を重ね、自然と二人は手を握る。 こうする事でヤマムラは、自分の思い描いたヴィジョンをアルフレートに伝えようとしているのがわかったから、アルフレートは思いつく限りの自然たる風景をイメージした。

「……何もない集落なんだ。だが、綺麗な川と山がある。そしていくつも田畑が広がっていてな……特に、秋になると稲穂が実り、集落全体が黄金色に染まるんだ」
「……黄金色に? ……麦畑みたいにですか」
「そうだな……麦とは季節が違うがそう、延々に続く麦畑の輝きと、稲穂の輝きはよく似ている……だが、こちらの麦畑と違いがあるのならそう、俺の故郷のほうが山と田畑がずっと近いという事だろうな」
「山と、田畑が……」
「俺の故郷は君たちのように広大な領土をもたない、何においても小さく狭い印象を与えるかもしれないが……そんな所で二人、小屋でもたててゆっくり暮すのは悪くないだろう?」
「……山でウサギを追いかけて、川で魚をとって生活ですか?」
「少し土地を借り受ければ、野菜やパンだって作れる……ふふ、どうだ? 二人なら楽しいと思わないか?」
「そう……ですね、きっと……楽しいです」
「そうだろう……だから……アルフレート、全て終わったら……是非、俺の故郷に来てくれ。君を連れて帰りたいんだ……」

 ヤマムラの声は甘く、優しく、心からそう思っているのだと伝わる。
 だが解っていた。どれだけ焦がれても、どれだけ望んでもそれはきっともう、叶わぬ願いなのだ。 自分たちは「狩人」の世界へ足を踏み入れてしまい、その命運に運命を絡め取られてしまったのだ。
 だがそれでも、アルフレートはただ触れるだけのキスをする。
 それに驚いて目をあけるヤマムラを前に、アルフレートは穏やかな笑顔を見せて問いかけた。

「……それって、プロポーズと思っていいんですか?」
「プロポーズ……か」
「求婚って事ですよ……一応いっておきますけど、私こう見えて身持ち堅いんで……約束したら本気にしますからね?」

 ヤマムラはそれを聞き、アルフレートの髪をくしゃくしゃ撫でる。
 そして少し照れたように笑うと。

「……まぁ、そういう事でいいだろう。な?」

 そういって、アルフレートの唇をなぞるのだった。

「……嬉しい。嬉しいです、ヤマムラさん」

 アルフレートは彼の胸元に抱きついて、自然と唇を重ねる。
 ベッドの中で転がるように幾度も幾度も唇を重ねながら、彼はヤマムラの胸元で囁いた。

「いつか、必ず……つれていってください。待ちますから……」
「あぁ……必ず……」

 籠の中からコオロギが、鈴を転がすような音で鳴く。
 その音を聞きながら、二人は互いを離さないよう、しっかりと抱き合っていた。
 叶わぬ約束を胸に秘めながら。

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