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インターネット字書きマンの落書き帳

   
知り合わなければ幸福だったのか、あるいは。(ヤマアル)
自分が知っている子供が、獣になってしまった。
そんなヤマムラと、彼とともに行動しヤマムラの背中を見るアルフレートくんのオハナシですよ。

最初から知り合わなければ良かったのに。
そう思いながらも、知り合っていたからこそ悲しむ事が出来るのだとも思う。

もし死んでしまうなら出会わなければ良かったというのなら、全ての命は最初から産まれてこなければ良かったのではないか。
そんな事を考えて、生きて……。

別にそんな事考えて生きてませんが、ヤマムラさんは考えているんじゃないかな。
何て思ったり思わなかったりです。はい。




『その死を悼み、背負うもの』

 その子供が獣の病に罹患し、すでに自我も保てぬ状態なのははっきりと分っていた。
 もしヤマムラやアルフレートが獣の狩人ではなく武器も持たぬ市民であればすぐにでも襲ってきただろう。
 獣に変貌したヤーナムの民は理性を失い獣に落ちた後は直感、本能、知性、その他諸々が獣と同等かそれ以下に成り下がる。
 故にその本能から小さな獣は本能的に分ってしまったのだろう。

 この二人が狩人だという事を。
 自分がいくら足掻いても勝つ事など出来ず、程なくして殺されてしまうのだという事を。
 小さな獣は部屋の片隅に蹲ると、鳴き声ともつかぬ叫びを上げていた。

「ヤマムラさん、そうなってしまっては手遅れです。早く殺してしまいましょう」

 その獣の事を、アルフレートは知っていた。
 以前からヤマムラの事を慕い、彼の回りをついて歩いていた子供たちの一人だったからだ。

 異邦人であり狩人でもあるヤマムラはヤーナムの民から畏怖の目を向けられる存在だった。
 避けられていた、と言ってもいいだろう。
 閉鎖的で排他的、秘密主義のこの街は異国からの客人にはことさら冷たい。

 そんな中でも子供たちは比較的外の人間も好意的に受け入れてくれていた。
 それは子供たちが好奇心旺盛である事も勿論だが、ヤマムラの回りに集まる子供たちは獣の病に関わってすでに死んだ者たちが多い。
 寄る辺なく日々を飢えて過し、僅かな施しで生きながらえる孤児達のような「弱きもの」に対して優しくなれるほど、ヤーナムという街は豊かでもなかった。

 だからこそ、異邦人だが狩人であるヤマムラのような「強い大人」に頼り、縋りたくなるのも当然と言えただろう。
 ヤマムラがそういった子供たちに対して「甘い」所があったから尚更だ。

 公園で子供達を前に言葉を教わったり、その対価としてパンやお菓子とヤーナムの外にある物語などを聞かせたりしていた。

 そうして集まっていた子供のうち、一人の面影がその獣にはあったのだ。
 最も面影といっても髪の色と着ている服が同じという程度しかアルフレートには分らなかったが。

「ヤマムラさんが出来ないのなら、私がやりますよ」

 例え僅かに言葉を交しただけに過ぎない相手でも、顔見知りを殺すというのは堪えるモノだ。
 ヤマムラは優しい男だから尚更だろう。

 その点で言えばアルフレートは自分が獣に対しかなり割り切れている部分があるのを自覚していた。
 アルフレートの信条は師の教えが全てであり、この街を清潔にするため第一としているのは血族の抹殺。眼前に現れた獣は自分に降りかかる火の粉程度に過ぎないのだから。

 獣を前に立ち尽くすヤマムラに変わり自らの石槌に手をかける。
 流石にヤマムラの前でまだ子供の身体を叩きつぶすのは気が引けたから、柄に仕込んだ細剣で一息に始末してしまおう。

 この街ではそれが慈悲であり救済だ。
 そんな事を思いながら歩み出ようとするアルフレートをヤマムラが止めた。

「いい。キミは本来獣狩りの狩人では無いだろう? ……これは俺の責務でもある。俺がやろう」

 そして一歩先に出ると、一呼吸の後一閃にしてその獣を切り伏せた。
 最後に足掻き飛びかかりでもするかと思ったが、獣が動くよりヤマムラの一刀がよほど早かっただろう。

 居合いとか言う技だという。
 あえて剣を抜かず間合いをつめるうち相手を仕留める距離まで詰め寄り、目にもとまらぬ速さで切り伏せる技であり、千景のような形の剣と相性が良い技だからヤマムラは血族の武器と知ってなお千景を使い続けているのだ。

 獣の血を拭うと、ヤマムラはその小さな獣を抱く。

「俺はこの子をせめてどこかに埋めてやろうと思う。キミは先に帰っていてくれ」

 そんなに悲しそうな顔をするのなら、最初から優しくなどしなければ良かったのだ。
 子供たちと話しているヤマムラを見た時、『ヤーナムの民はいつ獣になるか分らないのだから』と忠告はしたのだが……。

「いえ、手伝いますよ。放ってもおけませんしね」

 獣の病に罹患したものはヤーナムの冒涜的とも呼ばれる埋葬が待っているのだが、今は墓掘りより死体の方がよっぽど多く埋葬する場所すら無い。
 二人は街外れの森に来ると深めの穴を掘りそこに小さな獣を埋葬した。
 墓があってはいぶかしがられるから墓標はなく、代わりに白い花を手向ける。

「これだけ深く掘ったのなら、野生の獣に掘り起こされる事もありませんよ」
「あぁ、そうだな……」

 ヤマムラは一つため息をつくと空を見る。
 すでに日が傾き始めた空は茜色に染まっていた。

 魂は宇宙(そら)に向うもの。
 処刑隊として世界を浄化する任務を全うすれば、輝きに導かれるもの。
 アルフレートはそう教わり、それを信じていた。

 ヤマムラの国では死者の魂は旅をして、また地上に廻るのだという。
 その時は人ではなく虫や魚、鳥や獣である事も少なくはないのだとも。

 今彼は、何を思っているのだろうか。
 新しい命を得た時は獣の病などなく、飢える事もない世界へ生まれ変わって廻るように祈っているのだろうか。
 それとも二度とこんな世界に生まれ落ちてくる事がないよう願っているのだろうか。

 わからなかった。
 ただ……。

(私がいなくなった時も、貴方はそういう顔をするのでしょうか……)

 そんな思いが、ふと過ぎる。
 もしそうだったとしたら……。

「……ダメですね。決心が鈍ってしまいそうです」

 そう独りごちるアルフレートの方を、ヤマムラは不思議そうに見る。

「どうした、アル。今何か言ったかい?」
「いえ、別に。何でもありませんよ……もう行きましょう。街までそう遠くはないといえ、日が暮れたら危険ですから」

 アルフレートはそう言いながらヤマムラへと手を伸ばす。

 もし自分がいなくなったら、憂いてくれるのだろうか。
 あの幼い獣の死を悼んだように悲しい顔をし、その死を背負ってくれるのだろうか。

 そんな事を考えながら。

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