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インターネット字書きマンの落書き帳

   
絵を描いていたクラスメイトの話
かつてクラスにいた絵の上手い……。
いや、上手くはないけど楽しそうに絵を描くクラスメイトの事を思い出すような話です。

オリジナルの創作で、人間関係がサツバツとしてないような話……。
光の創作者のような話は久しぶりですね。

いや、ぼくはだいぶ世界を愛しているから光の創作者なんですけどね?
……ホントですよ。

一次創作はそこまで人気がない!
ので!

雰囲気駄文だと思って、気が向いたら読んでやってください!

ちょっとだけ幸せな気持ちになるような話だと思います。




『世界に彩りを添えて』

 高校のクラスメイトに、やけに絵を描くのが好きな奴がいた。
 上手いか下手かを問われればそこまで絵が上手いタイプではなかっただろう。
 むしろ稚拙で子供っぽい絵柄だったと思う。

 だが人の特徴を掴むのはやけに上手く、教師や他のクラスメイトの似顔絵はやけに似ていたし、流行りの漫画やゲームのキャラも酷い手癖はあるもののそのキャラだとわかるポイントはしっかりと抑えていたので誰を描いたのか分らないといった事はなかった。

 彼はよく、その絵で日記を書いていた。
 ゲームをプレイした時の思い出や、友達と遊びにいった時に印象的だった事をページいっぱいに書き殴るのだ。

 初めてプレイしたゲームの思い出。
 最初は真っ直ぐ歩く事すら出来ず壁にぶつかりながらプレイしていた話や段差があると気付かず進み落下して3時間のやり直しを強いられた話など、同じゲームをプレイした事がある自分は思わず「あるある」と笑ってしまったものである。

 一緒に遊んだ時の思い出もそうだ。
 仲間内でゲームセンターに行った時、一番の優男で細い身体をした奴が格闘ゲームで重量級の投げキャラを使い、しかもメチャクチャに強くて皆で「鬼神だ」「鬼神が出たぞ」と囲んではやし立てたこと。
 皆で入ったファミレスで一つ水が多く出され「ウェイターが見えない誰かの分を置いた」と話したら本気で怖がって涙目になった奴がいたこと。
 自動販売機でコーヒーを買ったのに、何故かドクターペッパーが出てきてしまったこと。

 他愛もない思い出だが、印象に残った日の事はらくがきとしてノートに残しておくのだそうだ。

 スマホもあるんだし、写真でいいだろうと誰かは言ったし自分もそう思っていた。
 だが彼は少し考える素振りを見せて、こう言うのだ。

「うーん、上手く言えないんだけどさー。写真って、後で見た時『あー、この時この場所にあいつと行ったなー』とか。『そういえば、この場所行った事あったけー』とか。そういうのを思い出のにはいいと思うんだよ。だけどさ、写真見ただけじゃ、その時に何があったのかってすぐに思い出せないだろ? でも、絵と文章でこうしてまとめておくと、あ、こんな奴いたー。そう、この時こんな事あったーって、思い出しやすい気がするんだよね」

 そして、そう言った後。

「ま、それ以上に俺の場合、何となく絵を描くのが好きだから絵日記っぽくしてるだけなんだけどさ」

 少し照れくさそうに笑って、ノートをしまう。
 決して絵が上手い奴ではなかった。
 だがそのノートは楽しい気持ちが一杯詰まっていたから、見ている自分も『あぁ、こんな楽しい事があったな』『随分と馬鹿騒ぎしたものだよな』なんて、思ったものだ。

 あれから随分と月日は経った。
 皆大人になり、結婚し家庭を持ったものもいる。
 同窓会をしても集まる人間は少なくなり、段々と親しい仲間だけで飲むようになっていった。

 絵を書くのがやたら好きだった件の生徒とは、卒業後顔を合わせていない。
 仲が悪かったワケではないが行った学校が遠すぎたのもあり連絡を怠っているうちに疎遠になってしまったのだ。

 だが今になって、あいつの言っていた事が分るようになってきた。

 写真は、その場所に誰がいた、自分が行ったというのが分るツールでしかない。
 そこで何があったのか、誰と会いどんな話をしたのか……。
 そういった出来事まで記憶しきれないのだ。
 楽しかった気持ちだけは思い出せるのだが、食べたものや買ったもの、出会いや風景に対する感動など、思いはどんどんこぼれ落ちて行く。

 人間とは忘れてしまうものだから。

 あいつは、今でも絵を描いているのだろうか。
 旅をして食べたもの、出会った人、見た風景、買ったもの。
 些末なことでも絵に描いて、そのエピソードを日記のように仕上げているのだろうか……。

 ふと気になって、web検索をしてみる。
 名前を調べれば何か足取りがつかめるのではないかと思ったからだ。

 だが生憎、あいつの名前は在り来りのものであり名字も名前も珍しくない。
 同姓同名の人間は何人か出たが、殆ど別人のようだった。

 それでは、と絵日記や旅日記といった単語で検索をかけてみる。
 あれから年月が経ったが特徴のある絵柄だったから絵を見ればあるいはあいつの事が分るかもしれない。
 そう思ったからなのだが、やはりあいつらしい絵は見つからなかった。

 今でも絵を描いているのだろうか。
 それとも絵を描くのは止めてしまったのだろうか。
 止めないまでも、webには上げてないだけかもしれない。それさえもわからなかったのだが……。

 web上には、思った以上に沢山の絵があった。

 旅をした風景を絵にしている人がいた。
 その景色の美しさに一句添えてあったり、詩のような言葉が書かれていたりした。

 美味しいスイーツを絵にしている人がいた。
 店の雰囲気を詳細に説明し、甘味を食べた幸せな時間を柔らかな色と文字で伝えていた。

 初めて遊ぶゲームのプレイ日記を描いている人もいた。
 恐る恐る暗がりを進む様子や、見た事もない大きな化け物を前になかなか踏み出せない姿など瑞々しい感性で記録していた。

 それを見てパソコンを閉じる。
 あぁ、世界にはあいつのような人が沢山いて、色々な思いを抱いて生きている。

 それを知れただけで、何だかとても幸せな気分になれた。

 そして、思ったのだ。
 やはりあいつはどこかで描いているのだろうと。
 出会ったものに帯する感謝と喜びをどこかで紡いで生きているのだろうと。

 楽しそうに、そして幸福そうに世界を祝福する人々と同じように。

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ネットの中に浮ぶ脳髄。
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