インターネット字書きマンの落書き帳
自分が自分でなかったとしても。(ヤマアル)
ヤーナムなんて街にいると、自分が自分でないかもしれない。
そんな風に思ってしまうだろうなッ。
と思って、獣を狩る自分と日常を過ごす自分のあまりの感情の振れ幅に自分でも戸惑ってしまい「どちらが本当の自分なのだろう」と考えこんでしまうヤマムラさんが、アルフレート君にsれを聞く話を……書きましたッ!
狂った世界だからこそ輝く愛がある。
そうだねキャッキャ!
そんな風に思ってしまうだろうなッ。
と思って、獣を狩る自分と日常を過ごす自分のあまりの感情の振れ幅に自分でも戸惑ってしまい「どちらが本当の自分なのだろう」と考えこんでしまうヤマムラさんが、アルフレート君にsれを聞く話を……書きましたッ!
狂った世界だからこそ輝く愛がある。
そうだねキャッキャ!
「それは罪深く清らかな街」
ヤマムラがソファーに横になったのを見ると、すぐにアルフレートはその傍らに座りヤマムラの頭を膝に乗せ、慈しむように髪を撫でる。
その指先にある微かな温もりを感じながら、ヤマムラはただぼんやりとした不安を抱えていた。
何がこんなにも不安なのだろう。
自分は成すべき事を……仇討ちをし終えて、もう人生に後悔する事などないというのに。
この歳になって、随分と年下の青年に愛されて、充分すぎるほど幸せなはずだというのに。
与えられるものは全て与えられているというのに……。
目を閉じれば、今日狩った獣の姿が思い浮かぶ。
ヤマムラより一回りも二回りも巨体で、雄牛ほどの大きさはあっただろう。
その獣を先んじて切り伏せ、血を浴び、肉を裂き、獣の悲鳴が森の中へ響くのを聞いても手を止める事はなく、何度も何度も。それでこそ獣が絶命するまで切り伏せるあの高揚感。
心臓の鼓動は早鐘のように鳴り、血の臭いが濃くなればそれだけ死の臭いもまた濃くなる。
返り血にまみれた狩装束と、血と脂で滑る千景を手に、自分は何を考えていたのだろうか。
狩りに見出した楽しさか。獣に対する怒りか。強者を討ち果たした喜びか。人であるべきはずの者が獣へと落ち姿を変えた哀しみか。
あるいは、虚無か。
覚えていないし、思い出す事もできなかった。
楽しいといえばそうだったかもしれないし、怯えていたといえばそうとも思える。だが最近はそういった人間らしい感情も曖昧に、ただ獣を斃すためだけに動いている風に思えた。
自分が自分ではないような。
まるで狩人という自分は誰かに操られ獣を狩っているような言いしれぬこの感覚は、一体何というのだろう。
血に酔った狩人は瞳孔が溶け、悪夢に落ちるという。
悪夢に落ちた狩人は、現も夢も曖昧のまま永久の狩りに興じるというのだ。
自分も血に酔い、悪夢へと落ちかけているのだろうか。
「……ヤマムラさんは、暖かいですね」
ふと、その時アルフレートがほほえみかける。
「あなたの心と同じように、あなたの心は温かい……ヤマムラさん。愛してます……私の知る世界はこのヤーナムだけと酷く狭いかもしれないけれども、例え旅して多くを見聞したって、あなたほど愛しい人とは出会えなかったと思いますよ」
彼は心底そう思っているように語る。
「あたたかい、か……」
アルフレートはヤマムラに対して、よくその言葉を使った。
暖かい心、暖かい優しさ、暖かい身体……。
ヤーナムという閉鎖的な街で産まれ育ち、他者に対して必用以上に排他的な市民を見続けたアルフレートにとって、他者に手をさしのべ思いを共感し歩み寄ろうとするヤマムラの態度は珍しく、それは「優しさ」に見えたのだろう。
ヤマムラにとってそれは相手を知る手段であり、処世術の一つでしかなかったのだが、それでもアルフレートにとってそれが当然のようにできるのが特別であり、愛おしかったのだろう。
それはこの年若い青年を騙しているのではないかと、思う事もある。
だが自分だってアルフレートの一途で純粋で……純粋すぎる故に歪な、危うい心を愛したのだ。彼の危うさはきっと、このヤーナムという環境でしか育たなかったものだろう。
狂った男が狂った心を寄り添わせただけの事。
それはお互い様であり、自分たちは思ったより似たもの同士なのだろう。
だが……。
「俺は……獣を狩る時、酷く残忍になる」
ヤマムラは虚空を向いたまま、呆けたように口にする。
「血に濡れて昂揚し、さらに獣へ暴虐に振る舞う時、俺はキミの知る優しい俺ではないだろう。俺でさえ、俺自身の事が分らなくなる。自分がどんな気持ちで獣を斃しているのか。どうして獣を屠り続けているのか。そういうのさえ曖昧なのに、獣を殺す事をやめる事が出来ない……アルフレート、俺はね。別に連盟にいるから。蟲を殺さなければいけないから、獣を狩っているんじゃないんだ。ただ、殺したいから殺す。ヤーナムに来て、獣狩りを覚えてしまったから殺しているんだ……そんな狂った俺でも……やっぱりキミは、暖かいと思うのかい?」
取り留めの無い事を言っているのは分っていた。
だがヤマムラは、このぼんやりとした不安を今、誰かに聞いて欲しかったのだ。
平穏な日常を、心乱す事なく過ごす自分と。
獣を屠り、その血と肉をまき散らして進む自分と。
果たしてどちらが本当の自分なのか……。
「当たり前ですよ」
アルフレートは微笑んだまま、一切の迷いもなく告げる。
「私にとって、どんなあなたでもヤマムラさん。私は、あなたが愛おしいんです。こうして微睡んでいる時も、椅子にこしかけ穏やかに笑っている時も、獣の返り血を浴び、昂揚のまま私を組み敷き貪るように抱きしめる時も……私はあなたのどんな姿も、愛おしく、尊く、そして美しく思うんです」
そう語り笑うアルフレートの笑顔は歪な程美しかったから。
「あぁ、そうだ……そうだったな……」
ヤマムラは何処か安堵の息を吐き、アルフレートに頭を預ける。
ここはヤーナム。
狂った愛さえも受け入れられる、罪深く重苦しい。だが心地よい世界なのだ。
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