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インターネット字書きマンの落書き帳

   
お互いがお互いを可愛いと思っている奴(手芝・みゆしば)
平和な世界線で付き合ってる手塚と芝浦の話です。
(一行で説明をしておく幻覚)

何となく手塚と芝浦が、お互いにお互いを「可愛いな」と思った時の話をします。
それを誰かが聞いている体裁ですが、聞いてるのは多分城戸くんですね……。
何を聞かされているんでしょうね、可愛そうで可愛いね。

何でもないこと。
それって結構幸せなんだよねぇ。

とらぶりゅーもそういっております。




「それは他人からすると些末なこと」

 そう、それは他人からすると些細なこと。

「……あぁ、そうそう。手塚ってさ、鯛焼き食べる時、絶対しっぽから食べるんだよね。
 ほら、鯛焼きって目玉あるじゃん。
 あの目玉で見られてるような感じがして、何となく頭から食べるのは『可愛そうだから』気が引けるんだって。

 結構カワイイとこあると思わない?

 鯛焼きが一個しかない時はそうやって絶対、俺に頭の方くれるんだよ。

 手塚ってあんまり甘いもの食べないし、俺に気をつかってあんこが一杯入ってる方くれるために『頭から食べるのは気が引ける』なんて言ってるだけかなーって思うんだけどさ。

 でも、その理由に『可愛そうだから』とか言っちゃうんだよ。
 あんな涼しい顔してさ。

 それがさぁ……なんかカワイイなぁって思うんだよね。
 手塚だったらもっとカッコイイ理由とか言いそうなのにさ。鯛焼きに可愛そうとか言っちゃうの、なんかウケるっていうか……。
 俺の前なら気取らないでいてくれるんだなーと思うと、ちょっと嬉しいんだよね。

 それで、鯛焼きの頭の方食べてるとさ……俺って和菓子そんなに食べない方なんだけど。
 大体和菓子って、お茶を点てた時に食べるのが普通なワケじゃん。元々渋いお茶に合わせて甘くしてあるお菓子なんだから、和菓子だけで食べると大体甘すぎるからさ。
 だからそんなに食べる方じゃないんだけど……。

 それでも大きい方をくれる手塚見てるとさ。
 あー、俺って愛されてるなーって実感するし。俺も手塚のそういうとこ好きだなーって思うんだよね。

 ……あ、これ手塚には言わないでおいてくれない?
 いや、別に知られたくないってワケじゃないんだけど。何ていうのかな。

 俺がカワイイとか思ってるの知られたら、もうカワイイとこ見せてくれなくなるかもしれないじゃん?
 だから、俺がこんな事言ってたとか、手塚には絶対言わないでおいてくれよ」

 そう、他人からすれば他愛もない事。
 だがそんな他愛もない事を、何とはなしに覚えているという事もある。

「……鯛焼き?
 あぁ、尻尾から食べるんだ。いつもそうだな。
 頭の方に餡が詰まっているから楽しみをとっておきたい……というワケでもないか。

 何となく、顔のついた食べ物を顔のある部分から食べるのが苦手なんだろうな。
 人形焼き……というのも俺はあまり食べない。
 人間は三カ所点があると顔として認識するらしいな……シミュラクラ現象と言うんだったか。

 目があるもの……顔と認識できるものを口にいれるのに抵抗があるんだ。
 お前には無いのか?
 だがどうしてそんな事を……。

 ……あぁ、そうか。芝浦に聞いたんだろうな。
 こんな話、芝浦にしかしてないからな。
 シミュラクラ現象の話も、その時芝浦に聞いたんだ。シミュラクラ……幻像、偽物という意味らしいな。
 日本語では類像現象というらしい……と、それも芝浦が言ってたんだな。

 …………あぁ、悪い。少し考えていた。
 俺は思ったより芝浦の言葉を良く覚えているな……と、今少しそう思ってな。
 あいつは、俺より色々な事を知っていて……俺の小さな事もよく見ている。顔に見えるものが苦手だといった時にシミュラクラ現象の話をしたが……そういった切っ掛けで、あいつが色々な話をする事が存外に多いからな。

 いや、あるいは……。
 あるいは、そうだな。俺は興味のない事や役に立たないと思った事について深くは考えないし気にも留めない方なのだが芝浦の言葉はよく覚えているから……。
 やはり俺は、あいつに対して興味を覚えているという事なんだろうな。

 運命に関わらない相手に興味を覚えた事などなかったから、ここまであいつに興味を抱いている事に自分でも少し驚いているんだ。
 自分の知らない所で運命が動き出していたという事か……。

 それで、あいつは何か言ってたのか?
 芝浦の性格だからな、どうせ茶化してお前に教えたんだろう。

 ……何だ、秘密にしておけと言われていたのか。
 それを俺に漏らすとはいかにもお前らしいというか……。

 そうだな、鯛焼きの話で思い出したんだが……俺が何となく鯛焼きを買ってきた時、芝浦が何て言ったと思う?
 あいつはな、『これが鯛焼きなんだ。本当に鯛の形してるんだ』と驚いて見せたんだ。

 今まで一度も食べた事がなかったらしい。
 漫画やアニメ、ゲーム……そういったもので『鯛の形をした餡子入りの和菓子』である事は知っていたみたいだがな。

 言われてみれば鯛焼きというのは……レストランや料亭で扱っていないものな。
 芝浦のように育ちが良ければ縁の薄い食べ物かもしれないが……。

 ……初めて食べたというのは可愛いと思わないか?

 俺が渡した鯛焼きが芝浦にとって初めて食べた鯛焼きなんだと思うと、俺はそれがひどく愛おしいような気持ちになるんだ。
 あいつは……育ってきた環境が俺とは違いすぎるし、世間から見てもかなりずれた所があるだろう。
 言うなれば、俺たち庶民の感覚を知らない……ことが、多い……。

 だから俺とする事が、芝浦にとって初めてするという事が時々あるんだ。
 それは鯛焼きを食べる事だったりもするし、夏祭りの屋台で焼きそばを食べるような事だったりもする……。
 俺たちにとって当たり前のような事が、芝浦にとって初めて経験する珍しい事だったりするとな。

 俺と一緒に過ごす時間のなかに、芝浦にとって初めての経験がある……という事実は大切な時間をより良いものにしてくれる。
 そんな気がするんだ。

 俺とする事がいつでも初めてのような顔をする芝浦はいつでも最高に可愛いしな。

 ……何だ、おかしな顔をして。
 いや……変な事を聞かせていたのは俺か。
 どうしてもあいつの事となるとな……可愛がりすぎてしまっているという自覚はあるんだが……。

 俺がこんな事を言っていたのは黙っていてくれないか?
 アイツに知られると気恥ずかしい……というのもあるが……可愛がって甘やかしていると思わせてしまうと、アイツが拗ねるからな」

 そう、それは他人からしてみれば些末な事。
 記憶に留まる事もないような、何気ない事だろう。

 だがその中に沢山の幸福が詰まっているという事も、それもまたよくある事なのだろう。

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