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インターネット字書きマンの落書き帳

   
自分の思いに気づく瞬間たるもの。(ヤマアル)
ブラッドボーンを始めてからはや幾年。
それでも、何度でもヤマアルは書いてしまうんだよなッ!(挨拶)

今回は、さして意識していなかった獣狩りをする狩人の異邦人だ。
その程度だと思っていたヤマムラに対して、実は深く執着している自分に気づき、あぁこの執着が愛なんだと思うアルフレートくんの話です。

友情よりも強い執着。
それは……愛だよ!




『不在という名の空虚』

 千景は血族の武器ではあるが、異邦の狩人ヤマムラは血族とは無縁の男だった。
 血族の武器を扱う男がヤーナムに現れた。それを聞いた時は何という僥倖だと歓喜し今度こそは血族の尻尾をつかむのだと強く意気込んだものだが、実際会えたのはくすんだ肌と黒い髪を持つおとなしそうな男だった。
 やけに節くれ立った手のひらは何らかの武術をしてきた事も相当な手練れだという事もすぐにわかったが力なく笑う姿はどこか虚ろに見える。
 享楽的な懐古主義者が多く豪奢さと格式ばかりを求めた血族とおおよそ無縁の人間なのは一目瞭然であった。
 血族は大抵が金色の柔らかな髪と整った顔立ちをもっているので、黒髪のヤマムラ本人が血族という事もあり得ないだろう。
 念のためにヤマムラから千景の入手経路を聞いたが、ヤーナムに向かう道中に出会った露天商から買い受けたものだというよくある話であった。

 血族の武器は緻密な意匠が施されていたりシルクやビロードなど肌触りのよい生地で作られている事が多い。武器も銃身や刃に銀をあしらうなどしているのでそこそこ目利きの金持ちが観賞用に手元へ置きたがる事もあるため、ヤーナムでは血族の品と忌み嫌われていても墓暴きや物取りなどにとっては「良い商品」になるのだ。
 露天商が売っていたというこの千景も、屍体あさりや墓暴きがいずこかから盗み出してきたものだろう。取り分けて目をひくような意匠がない上反り身の刃という珍しい品だったから安く手に入ったそうだ。
 ヤーナム付近で盗品を売れば医療協会にとがめられる。仮に見つからなかったとしても、血族の武器だというのを知るヤーナムの狩人は好んでそんな武器を使ったりしない。 つまるところ、異邦人であり狩人であるヤマムラにとって都合の良い武器はヤーナムではほとんど使われてない古く毛嫌いされる血染めの武器なのだ。

 最もヤマムラという男は千景のもつ由来や言われなどには一切の興味をもっておらず、ただ故郷で自分の習っていた剣術で使う得物に似ているから。それだけの理由で千景を選んだのだと語っていた。その言葉に嘘はないだろう。
 彼がアルフレートを欺いて血族を隠す理由もないし、そもそもそのような嘘をつけるようなタイプの人間にも見えない。
 露天商から千景を買い受けた事はもちろん、恩人の敵を追いヤーナムへとやってきたと語るのも本当の事だろう。

(この人は、ハズレという事ですね……)

 結果としては無駄足だったが、元より血族の武器をもつだけで血族と結びつく可能性の方がずっと低いのだから思いのほかショックは受けなかった。 そもそも血族は小賢しく隠れ、仰々しい儀式のように腑分けするというのに極端なほど目立つのを嫌う。秘匿魔法にすぐれ、目の前にあるものを見えなくしてしまう事も造作も無いことなのだ。血族とわかる武器をおおっぴらに持ち歩いている狩人はいかにも「彼ららしくない」とは思っていたが、久しぶりに耳にした血族という言葉に少々気がはやりすぎていたのもまた事実だった。

(今このヤーナムで血族を探すのは、まさに夜に影を探すようなものですからね……)

 元より期待する事が間違っていたのだ。それだというのにヤマムラは意気消沈したアルフレートがおなかをすかせた子犬にでも見えたのか、千景を巡り会話をして以来何かと声をかけてくるようになった。

 アルフレート、ちゃんと飯は食べてるか?
 弁当がわりにパンをもってきたんだ。良かったら食べるといい。

 アルフレート、ちゃんと休みはとってるんだろうな。
 君はいつも町中のあちこちで見かけるが休んでいる所を見ない。真面目なのはいいが、根を詰めすぎるのも良くないからな。

 アルフレート、良い酒が手に入ったんだ。血の臭いがしないワインなんて珍しいだろ。
 一緒にどうだ?
 ……酒は、飲めるよな。

 自分の方がよっぽど痩せっぽちで頼りない狩人だというのに、お節介なくらいアルフレートの事を心配する。話はほとんどはアルフレートの体調を伺う事ばかりで、それが口うるさい兄が出来たような心持ちになり煩わしいとも思ったが、狩人の知り合いは多いにこした事はないと思いしぶしぶながら彼に付き合い食事などをするようになっていった。

 食事中はお互い当たり障りのない事を話すだけ。差し向かいの食事で何があるというワケでもなく、よくある狩りの話ばかり。
 獣狩りの話、医療協会への不信、ビルゲンワースの沈黙などがヤーナムの酒場で繰り広げられるよくある軽口であり、ほとんど同じような内容を繰り返すばかりだったはずだが……。

 今日の獣はどうにも骨格は成人男性のものだが大きさはまるで子供の背丈しかないんだ。血の医療の影響か。不思議なものだね。

 水路にはよく、ほとんど自我のなくなった屍体が捨てられているだろう。あれは片付けても片付けても、誰かがまた捨てていく……見知った人間が、おおよそ見知らぬ姿になるのを見るのは辛いから、仕方ないね。

 マダラスの弟は倒した獣を腑分けするんだが、骨や身体が未成熟な子供だとわかるとやりきれないよな……。

 ヤマムラの話を聞くのはそれほど苦にならなかった。
 それはヤマムラがヤーナムの外から来た人間であり、ヤーナムの流儀や価値観に染まりきってないある意味で純粋かつ客観的な視点でヤーナムという閉鎖的な街の獣狩りを。あるいは血の医療を、医療協会を見られるヤマムラの話は興味深い視点が多かったからだろう。
 ほとんどは血族狩りと関係なく、時々ひどい失敗の話もあり失笑する事もあったが……。

「まったく、普段から私の体調ばかり気にしているけど、あなたも気をつけてください。若くもないんですから」

 たまに二人でとる食事は、ヤーナムに数多く存在する狩人との食事のなかでも一等に楽しい時間だった。

「大変だッ、旧市街の奥に見た事もないほど醜悪な獣が現れて……かなりの狩人がやられたぞ! 一人二人じゃねぇ! 屍体を運び出せ!」

 いつものように当てもなく聖堂の前などを歩いていたアルフレートの耳に、けたたましい鐘の音と次々運び込まれる怪我人の姿であった。
 獣狩りの狩人ではないといえ、こういった時に働けば医療協会の伝手が出来る。そんな下心を秘めながら、アルフレートは次々と運び込まれる狩人たちを寝かせていけばすぐに公園は傷だらけの狩人でいっぱいになっていた。
 長い爪で身体を引き裂かれたもの。毒をうけ目がつぶれたもの。獣に噛まれたと思しき狩人はもう長くはないだろう。
 医療協会の狩人も血の医療を与えてはいるが、あれも所詮一時しのぎだ。今にも死にそうな身体にはかえって毒になる。 アルフレートは助からないと思った狩人にせめてもの慈悲と、これ以上苦しまないよう細剣を打ち立てた。
 腹から腸が飛び出てあぶくを吐いている狩人。全身に毒がまわり皮膚が紫に腫れ上がっている狩人。喉を切り裂かれ呼吸がままならず、首をかきむしる狩人。 息をするのさえ辛いほどの傷を負ったものを一人、また一人と屠っているうちにアルフレートは不意に不安になった。

 この中のどこかに、ヤマムラもいるのだろうか。
 毒を受け、あるいは爪や牙を受けて公園の何処かに土嚢のように並べられているのだろうか。

「ヤマムラさん……ヤマムラさん、いますか!?」

 アルフレートはたまらなくなって声をあげる。もしここにヤマムラがいるのなら、毒を消す錠剤を使ってもいい。傷があるなら血の医療を早く回してもらおう。彼は善人だ、悪人ではない。こんな獣の牙にかかっていいような人ではないのだ。
 そう思うといても立ってもいられず、倒れた狩人の顔を見る。ヤマムラらしい狩人の姿は見えないがまだ件の凶悪な獣と戦っているのだろうか。それとも全く別の所で安穏と過ごしているのだろうか。

(こんな化け物に関わらないでください……貴方は……このヤーナムには惜しい程に清らかな人なんですから……)

 怪我人と屍体とを運びながら、アルフレートは祈る気持ちで狩人たちの顔を確かめる。ヤマムラらしい姿はないが、次に見る顔がヤマムラだったとしたら。あるいは次の骸がヤマムラだったとしたらどうしたらいいのだろうか。
 いや、どうもする事などできないのはわかっている。だが出来れば自分の目でヤマムラの屍体を見たくはない。
 黒髪の狩人が運ばれてくるたびにその顔を確かめて、ヤマムラでない事を確認して安心する。そんな事を幾度も繰り返した。

「アルフレート……ひょっとして、アルフレートか?」

 いくつの怪我人を運び、いくつの骸を積み上げ、いくつの狩人を看取っただろう。
 ヤマムラは大丈夫だったのだろうか。そんな漠然とした不安を抱きながらもはや作業となった骸積みをするアルフレートを、聞き慣れた声が呼び止めた。
 振り返ればそこにヤマムラの姿がある。肩に怪我人らしい狩人を支えながらこちらを見るその顔を認めた時、アルフレートは泣きたい程にうれしかった。

「あ……ぁ、ヤマムラさん。い、生きて……らっしゃったんですね……」

 かろうじてそう告げるアルフレートを見て、ヤマムラは柔らかに笑う。あるいは彼も見知った顔を前に多少安心したのかもしれない。

「悪運ばかり強いタチでね。この程度の修羅場じゃ死なないさ。それより、医療協会を手伝っているのか?」
「は、はい。手が足りない程怪我人が出ているようでしたので……」
「だったら、治療が出来る場所はないか? 怪我人を運んできた所なんだが、どこに連れて行ったらいいかわからないほどでな」

 周囲はすでに怪我人と屍体の境界すら曖昧になっていた。狩人ではないヤーナム市民にも怪我人が多いのを見ると、よほど強い獣が思わぬ所から現れたのだろう。
 最近のヤーナムは特に物騒だから、そういった事も増えてきた。もはや狩人たちが獣狩りをしても焼け石に水なのかもしれない等と思いながら、アルフレートはオドン協会を指さしていた。

「もう、この周辺では怪我人の治療は不可能だと思います。オドン教会の方でしたら、まだ休める場所が残っているかと……」

 ヤマムラが肩を貸す狩人はもう虫の息だった。オドン教会へ向かっても治療が間に合うとは思えない。そんな事はヤマムラ自身も理解しているのだろうがそれでも何もしないではいられないというのが彼の性分なのだろう。
 無駄だとわかっていても立ち止まる事が出来ないのは、ヤマムラが根っからの善人だからだろう。それは生きるのに向いた性格ではないが、だからこそ尊い。

「あぁ、悪いな。オドン教会の方に行ってみよう。さぁ、あと少しだ。頑張るんだぞ……」

 足下がおぼつかない狩人を支え、懸命に声をかけながら歩み出す。 その背中を見ながらアルフレートは自分が心の底から安堵している事と、頬が紅潮している事に遅れながらに気づいた。

(私は……そうか、私はあの人が……)

 何でもない他人なら生きていようが死んでようが土嚢と同じだ。
 だが彼は違う。この世界に生きていてほしいと願い思える人だ。

(好きなんだ。そうか。敬愛とは違う、思慕とはこんな……このような疼きなのですね……)

 胸元でアルフレートは強く拳を握る。
 屍体の血でぬれた狩装束は冷え切っていたが、心は切ない程に温かかった。

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東吾
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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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