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インターネット字書きマンの落書き帳

   
誰がための恋文か(ヤマアル)
まだ付き合ってない頃のヤマムラさんとアルフレート君の話です。

いやね、散々と付き合ってイチャイチャしている二人とか書いていたので……。
こう、「まだ付き合ってませんよ」って宣言して頭を切り換えるのが、だいぶ難しい感じになっちゃってるんですよねッ!
何せ俺の脳内では、3年以上付き合ってますからッ。

今回は、ヤマムラさんが書きかけの恋文を見つけてしまい狼狽えてしまうアルフレートくんの話ですよ。


「あなたの言葉で聞かせて欲しい」

 アルフレートがヤマムラの部屋で見つけたのは、何枚かの便せんとメモ帳だった。
 便せんは白紙だが、メモ帳には見た事もない文字の羅列の隣に幾つかの単語が書かれている。

 好きだ、幸福だ、愛している……。
 見知った単語は辞書にある愛の言葉が殆どだ。

 見た事のない文字は、恐らくヤマムラの故郷で使っている文字だろう。
 そちらはメモ帳にびっしりと文字で埋め尽くされている。
 当然アルフレートはそれを読む事が出来ないのだが、何とはなしにそれが恋文の下書きではないかというのを察する事が出来た。

 恐らく、恋文を書こうと思ったがこちらの言葉でどう書けばいいのか分らず、ひとまず故郷の言葉で思いを綴ったに違いない。
 宛名はどこにも書いてないが……。

「だ、誰に出すつもりだったんですかッ。全くッ……どこの女狐がヤマムラさんの事をたぶらかしたんですッ!? 全然、そんな素振りなんて見せなかったのにッ……」

 メモ書きを前に、苛立ちが抑えきれない。
 ヤマムラが慣れない文字を書いてまでして思いを伝えたい相手がいるだなんて思ってもみなかったからだ。

 最近のヤマムラは、アルフレートと行動する事が多くなっていた。
 時間があればアルフレートはヤマムラの狩りを手伝ったし、ヤマムラもまた血族についての探りを入れるのを手伝ってくれていた。
 一緒にいる時間が随分と長くなっていて、お互い知らない所など無いと思っていたのだがどうやらそれはアルフレートの思い込みだったようだ。

 ヤマムラはアルフレートが知らない間に誰かに会って、思いを伝えたい誰かがいる……。

「……私のこと、好きになってくれるかと思ったんですけどね」

 苛立ちはやがて虚無感へと変わっていった。
 傍にいて、楽しいと思った。暖かいと思った。愛しいと思った。そんな感情を抱いていたのは自分だけで、ヤマムラにとって自分はきっと歳の離れた弟のような存在にしか過ぎなかったのだ。
 ともにふれ合い、愛を囁くような間柄にはなれないのだろう。
 元よりそれが難しいという事は分っていたつもりだが、現実を目の前にするとやるせない気持ちばかりが募っていった。

「ただいま。あぁ、アルフレートも来ていたのか」

 諦めなければいけない。だがせめて誰が好きなのかくらいは教えて欲しい。
 自分の気持ちに整理がつくより先に、ヤマムラは部屋へと戻ってきた。

「あっ、ヤマムラさん……ヤマムラさん! これっ、これっ、何ですか!?」

 アルフレートは振り返るなり、手元にあったメモ帳をヤマムラへと突き出す。
 それを見て、ヤマムラはいかにもばつが悪そうな顔を向けていた。

「あ……あぁ、それか。それは、何というか……」
「コレ、明らかに恋文の下書き……ですよね? メモ帳に愛の言葉が断片的に書かれていて……この、メモ帳に書かれた言葉は意味がわからないんですけど。伝えたい思いを、ヤマムラさんの母国語でひとまずメモをして……それから辞書で自分の気持ちに当てはまる言葉を選びながら、手紙を書くつもりだったんじゃないですか!?」

 たたみかけるように告げれば、ヤマムラは苦笑いをして見せる。

「驚いた。アルフレートはこっちの事をなんでもお見通しだな……そうだよ。面と向って言うには少し恥ずかしい気がしたから手紙で伝えようと思ったんだけどね。俺は喋るのはまだ何とかなってるんだが、書く方はからっきしだろう? だからすぐに行き詰まってしまって……ひとまず、自分の分る言葉で書いてみたんだ」

 そしてアルフレートからメモ書きを受け取り、それを眺めながら笑って見せた。

「あぁ、でも随分と冗長になってるな。もう少し整理しないと……」
「それ、何て書いてあるんですか?」

 アルフレートはヤマムラの後ろに回るとメモ書きをのぞき込む。
 書かれた文字はやけに四角張っていて、相変わらず意味のわからない記号の羅列にしか見えなかった。

「うーん……こっちの言葉で上手く伝えられるかは分らないな。俺も知らない言葉があるし」
「聞かせてくださいよ。大事な人に書きたい手紙に使うんでしょう? ……ヤマムラさんが話す事が出来ても書く事が出来ない単語だったら、私が綴りを教える事が出来ますから」
「そうか……そうだな。じゃぁ、聞いてくれるか? ……立ち話も何だから、ソファーにでもこしかけて聞いてくれ。俺も隣に座るから」

 ヤマムラに促され、アルフレートはソファーに座る。
 一方のヤマムラはメモ帳をポケットに入れると、カップに温いエールを注いでアルフレートの前へと置くとアルフレートの隣へ座りメモ帳へと目を向けた。

「親愛なる、アルフレートへ」

 その言葉でアルフレートは顔を上げ、ヤマムラを見る。
 ヤマムラはその視線に気付かぬふりをして、そのままメモを読み続けた。

「キミと出会ってから、どれだけの月日が経っただろうか。長くも感じるし、短くも感じる」
「ヤマムラさん……それ、私……私への……?」
「最初に出会った頃のキミは、俺の事を猜疑心の固まりで見ていて。丁寧な言葉使いも張り付いたような笑顔もどこかぎこちなく、俺に対して随分と厳しい視線を向けていたな」
「それはッ……貴方が千景を……血族の、武器を持っていたからで。私は……」
「だけど最近になってキミが歳相応の顔で笑ったり、時には怒りで声を荒げたり、意味もなく急に落ち込んで見せたりするのを見て、キミが俺の前でようやく本当の顔を見せてくれたような気がして嬉しく思うよ」
「っ……ッぅ……」

 アルフレートが口を挟んでも、ヤマムラはただ淡々とメモを読み上げる。
 時々、少し考えるような素振りを見せるのは母国語での言葉とこちらの言葉をすり合わせているのだろうか。

「本当の事を言うと、初めてキミを見た時俺はキミがこの世に存在する生きた人間だと思っていなかったんだ。その軟らかい金色の巻き髪も、少しくすんで見える翠の瞳も、透き通るような白い肌も、俺が旅してきた道では殆ど出会わなかった容姿だったし、似たような姿をしている人達の中でもキミは人間より美術品や彫刻のように、どこか冷たく、血の通ってないような、この世界のものではないような。そんな風にさえ想っていたのだけれど、笑ったり怒ったりする姿を見て、やっぱり人間なんだと。作り物の虚像ではないんだと想って、なんだか安心した自分がいたんだ」
「あ、当たり前です。私だって人間ですから……」
「だが、それに安心する自分に戸惑ってもいた。キミが人間らしい感情をもっていようがもっていまいが、本来俺には関係ない事だ。キミが何を見て、何を感じるのか。そういうのはキミの自由だというのに、俺はキミが人間らしい感情をもっているのを知って嬉しかった。それは、ひょっとしたらキミがその思いを俺に向けてくれるかもしれない……そんな期待をしている自分の思いを知って、俺はやっとキミが俺にとって特別で、大切な存在になっている事に気付いたんだ」

 そこまで言うと、ヤマムラはメモから視線をそらせてはにかんだ笑顔を見せる。

「……なぁ、アルフレート。やっぱりこれ、最後まで読まないとダメか? こっちの言葉で何て言えばいいのか、俺にはよく分らない気持ちもあるんだが」

 その笑顔は暖かくて優しく、その全てがアルフレートに向けられている。
 それは師であるローゲリウスの言葉に見た輝きとはまた違う光のように思えたから。

「可能な限り、言葉で伝えてください。貴方の言葉の全てが私にとって陽の光のように暖かくて心地よいものに思えます。私は、その全てを……あなたの言葉、あなたの思い、その全てを受け入れたいと、そう思いますから……それでも、もし言葉で伝わらないと思ったら……行動で、お願いします。私は、貴方になら何をされてもいいですから……」

 ヤマムラの身体にそっと寄り添えば、ヤマムラは僅かにメモへと目を落とす。
 だがすぐに。

「……言葉では、伝えられなそうだ」

 そう告げると、アルフレートの身体を抱き寄せ静かに唇を重ねる。

 お互いの思いも、言葉も、まだ伝わらない所も、分らないところも沢山ある。
 だがこの温もりが嘘ではない事が、今は互い幸福に思えた。

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インターネット駄文書き
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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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