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インターネット字書きマンの落書き帳

   
半年間はよく持った。(手芝・みゆしば)
平和な世界で手塚と芝浦が付き合っている話です。
(毎回恒例・一行で説明する幻覚)

今回は、今までの恋人には『重い男』『外面と内面が違いすぎる』と、存外早くにフラれていたけど、芝浦とは半年も付き合っていられてるなぁ……。
なんて、しみじみ思ってしまう手塚くん概念ですよ。

本作品の手塚くんは「男女どちらでもいけるけど、今までの恋人は女性のほうが圧倒的に多い」タイプ。
芝浦くんは「男しか愛せないけど、深入りするのが怖くてセフレとしか殆どしてなかった。まともに付き合った相手は手塚が初めて」タイプです。

初々しくていいね!
(初々しいの定義とは?)



「キミと過ごした。キミだから過ごせた」

 足早に行き過ぎる人々を眺めながら、手塚はぼんやりと客を待っていた。
 とはいえ、もう冬である。屋根もないような寒空の下、じっと座って占いを聞きたがるような客は早々現れはしない。
 しかも今は年の瀬だ。
 仕事納めを済ませた会社も多いのか公園にはいつもより人通りが少なく、まだ仕事納めに至らない人々は慌ただしく公園を駆け抜けて行く。

(もう年末だ。風も強いし、この寒さで客は来ないか……)

 街行く人々の足取りばかりを眺めているうち、手塚は自然と過去の事を思い浮かべていた。

『あなたがそんな人だったとは思わなかった』
 それは以前、恋人だった女に言われた言葉だ。
 手塚の言葉や態度が、女の思い描いていた手塚の姿と随分違っていたのだろう。
 三ヶ月も経たずに荷物をまとめ、それからもう会っていなかった。

『キミの気持ちってさ……私には重すぎるんだ』
 そう告げて去って行った相手は、一ヶ月も付き合っていなかった気がする。
 長らく友人のように良く話し、時には一緒に酒を飲むような付き合いもしていたが別れてからは一度も会っていない。
 確か今はニューヨークで絵画の勉強をしていると聞くから、なるほど彼女にとって自分が重すぎるというのはよく分る。

 恋仲ではなくとも、どれだけその言葉を聞いただろうか。

 クールだと思っていたけど、かなりしつこい奴だよな。
 普段は黙ってるくせに、たまに口を開くとすげぇパンチのある事言うの、怖いんだよ。
 綺麗な顔して、常識人っぽく振る舞ってるけどさ。腹の底が全然見えないんだよね、お前。

『でも、俺はどんな手塚でもそれが手塚だと思うし、俺はいつもの手塚の事嫌いじゃないよ。クールだとか寡黙だとかそういうのは、相手が勝手にイメージしていた手塚の事で、それと違うからって手塚の見方が変わる方が俺は変だと思うけどなァ』

 そんな話をした時、斎藤雄一はさして表情を変えずただそうとだけ言った。
 手塚とも付き合いが長く、彼の外見ともっている気質がかなり違う事もよく知っている斉藤はそれでも手塚の親友でいてくれた。
 だがそれは、きっと斎藤雄一の方が「変わり者」なのだとも、手塚は思っていた。

 自分自身でも、重い感情を秘めているのは分っていた。
 愛する相手を逃がしたくないという思い。ずっと傍においておきたいという願い。それが破滅に向ったとしても、吐息を交し肌に触れていたいという祈り。
 いずれ自分が壊れたとしても、そんな運命に身を委ねたいと思ってしまうのだから、確かに重く、面倒な男なのだろう。

 だから今までの恋人は、息苦しくなりすぐに手塚の元を去って行くのだ。
 最も付き合い事態が短いから、手塚もまたすぐに彼女たちを忘れてしまうのだが。

「やぁ、手塚。年末もこんなに寒いのによくやるねぇ」

 気付いた時、芝浦が店の前に立っていた。
 手には温かな飲み物の入ったビニール袋がぶら下がっている。

「これ、差し入れ。流石に今日は誰も来てないでしょ」
「お察しの通りだ……隣、座るか?」
「ありがと、座らせてもらっちゃおうかな」

 芝浦は客用の椅子を引きずって手塚の隣に座る。客が座る椅子が無くなったが、どうせ来る予定もない客だからまぁいいだろう。

「ほい、これ手塚の分。ホットレモンでいいよね? へへー、これは俺のー」

 普段からカフェインの入った飲み物を好まない手塚にはホットレモンを渡し、自分はたっぷり砂糖の入ったミルクティーを開ける。
 初めて会った時は、ようやく春らしい気候になった頃だったろうか。最初は客として来た相手だった癖に気付いたら家にあがりこみ、そして付き合う事になっていた。

(そういえば、好きだとか恋人になろうとか……そう言った事はなかった気がするが……)

 明確に告白した記憶はない。
 だが今、自分の隣にいるべき恋人は芝浦淳であり、芝浦淳のとなりにいるべき存在が自分であるというのははっきりと理解している。

(そういう関係になったのは、夏頃だったか……)

 自然と距離が近くなり、友人の延長から恋人になっていったような所があるものの明確に行為をするようになってから半年は経つだろう。
 今までの恋人たちが窮屈さを感じ逃げ出していた頃はとっくに過ぎている。

「……お前はよく持っているな」
「えっ? 何だよ急に」
「いや……芝浦は、よく俺と付き合っていられるな……と。改めてそう思ってな」

 より深く芝浦と付き合うようになってから、手塚は自分の内に秘めた感情を出す事を躊躇わなくなっていった。
 それを隠しながら、自分を偽って長く付き合い続けるより早めにこの本性を見せておき、本気になるより先に離れてくれた方がお互いにダメージが少ないと、そう思っていたからだ。

 だが芝浦はそんな手塚の愛をまるごと全て飲込んだ。
 鉛のように重く、鎖のように縛り付け、楔のように打ち付けて一切身動きをとれなくするような愛を全て受け入れ、手塚の好きなように。手塚にされるがまま、芝浦は彼を愛し続けたのだ。

「だから、急に何言ってるんだよ。俺はアンタの彼氏なんだから、付き合っていて当然だろ」
「いや、今までの相手は半年も持たずに根を上げたからな……お前はよく持ってると。ふとそう思ったんだ」
「何? 過去のオンナか何かと俺を比べてたワケ?」

 芝浦は一瞬、腹を立てたように唇を突き出す。
 だがすぐに気を取り直して笑うと、ミルクティーを一口飲んだ。

「珍しいね、アンタが昔話するなんてさ」
「……怒らないのか」
「一瞬ムッとしたんだけど。でも、アンタが過去の事話すなんて珍しいなぁって思ったのと、それまでの相手とは長続きしなかったんだろ? それって俺が一番長く続いてるって事かなーと思って。実際どう? 俺が今までで一番長く、アンタの恋人でいられてる?」

 そう問われて、手塚はつい苦笑する。
 芝浦にとって過去に手塚が誰と付き合っていたかより、過去の誰より自分が長く付き合っているかというのが大事だったようだ。

「そうだな……俺はこれで結構フラれやすい方とでもいうか。飽きられやすいとでもいうんだろうな。長くて3ヶ月もすれば、こんなはずじゃなかったと去っていく相手が多かったから、半年も続いているお前は一番長く続いているんだろうな」

 半年が一番長いという事実に改めて自分が「重い面倒な男なのだ」と手塚は認識するが。

「そ、それなら俺、結構嬉しいかも。これからもその記録、もーっとずーっと伸ばしていくからね」

 芝浦は存外、気にしてないようだった。

「……お前は、俺を……重いと思った事はないのか」

 あまりにアッケラカンとしている芝浦を見て、手塚はついそう問いかける。
 今まではそうだった。皆が手塚の感情があまりに肥大している事を恐れて去って行った。
 芝浦だってそれを知っているはずなのだが。

「うーん、俺さ。正直いって、マトモに付き合う相手って手塚が初めてなんだよね。だから、他に比べる相手ってのがいないからよく分んないってのもあるんだけどさ……手塚が俺の事見てくれて、俺の事心配してくれて、俺の事縛るようにただ、俺だけの時間を作ってくれるの……何ていうんだろ。俺、そんなに悪い気はしないんだよね」

 芝浦は笑いながら、そう言っていた。

「あんた、一応は俺を信頼してあっちこっち遊びに行くのも、最後にちゃんと手塚の所に戻ってくれさえすれば許してくれるだろ? 俺さ、今は家にいるより、手塚の傍にいる方がずっと安心するし、手塚に愛されてるって感じるの、すごい心地いいんだよ。もう手塚が俺の帰る所になっちゃってるって言うのかな?」

 愛という言葉で縛って。温もりという快感の楔を打ち付けて。
 そうして互いの心と身体は、自然と繋がっていたのだろう。

「だから、アンタには何されてもいいし、重いとかそういうのよく分らないけど。アンタから受け取る言葉も、愛も。俺は全部嬉しいよ……前さ、手塚も言ってただろ。多分、俺たち身体の相性もかなりイイんだけど、恋愛観ってのかな? そういう相性もかなり良いんじゃない? お互いがお互い、重くて、面倒で、だから似合いの恋人同士って奴?」

 そう言って笑う芝浦の顔は、ただただ幸福に満ちていたから。

「あぁ、そうだな……これからもお前には俺しか『分らせない』し、俺から離れた時も、誰と会った時でもお前は俺と、誰かを比べる事になる……」

 手塚は目を閉じ、この幸福を信じる事にした。
 そして、今まで去るものを追いかけて縋る事はなかったが。

「だが、俺はお前を逃がさない。手放すつもりもない。ずっと俺の隣にいろ……分かってるな、芝浦」

 芝浦だけは、そうは思わなかった。
 ずっと傍らにおいて、自分だけのものにしたいという執着。
 今までの恋人が重いと恐れてふりほどいたこの鎖に縛られて、それでもなおもっと強く、離れないように縛って欲しいと願う相手は二度と現れないと思ったから。

「おぉ、怖っ……もちろん、そのつもりだよ。来年も、再来年も……俺の事、飽きたり捨てたりしないで。ずーっとアンタの傍においてくれよな? 俺だって、あんたから逃げる気も、あんたを逃がす気もないから」

 そして歪に笑うと。

「……そうされる位なら、アンタの事殺しちゃうから」

 冗談ともとれぬ声で、そんな事を告げる。
 あぁ、それもまたいいだろう。
 手塚はどこかそう思いながら、芝浦の身体を抱きよせる。

 そして二人で並びながら、すっかり寒くなった公園を眺めていた。
 二人並んで体温を確かめ同じ景色を眺める。
 ただそれだけの幸せを、噛みしめるよう感じながら。

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東吾
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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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