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インターネット字書きマンの落書き帳

   
誰でも良いのは、嫌なんです。(ヤマアル)
獣狩りを終えると気分が昂揚し、滾る身体をおさめるため暴力か、食欲か、性欲か。
それらが極端に高まってしまうぞ、という獣狩りの狩人状態な話です。

獣狩りですっかり血に飲まれ、極端に昂ぶってしまったヤマムラさん。
何とか理性を留めて仮住まいの部屋にもどったらアルフレートくんがいたので、思いっきり性欲をぶつけようとしたら……。

みたいな話です。
最終的にはイチャイチャするからハッピーエンドですよ!(ハッピーエンド概念ガバガバ丸)




『灯火は激しく』

 獣狩りを終えた後は、非道く血が滾り身体が昂ぶった。
 まるで強い酒を一気に飲み下したかのように熱く火照る身体は、突然の大雨でも冷める事なくヤマムラの身体を突き動かす。

 どこかにまだ、殺せる獣はいやしまいか。
 獣の血を浴び、この刃にたっぷりの肉と脂を絡めてより大きく凶暴な獣を狩り殺したい。
 そして己こそが強き狩人なのだと、屍の山で示したい……。

 そんな幻想が脳を支配しかけた時、ヤマムラは辛うじて立ち止まった。
 あまり沢山の獣を殺そうと思ってはいけない。
 血の「におい」を心地よく浴びてはいけない。
 元来血の匂いなど腐臭に近い、ただ臭いだけの不快なにおいなのだ。酔いしれ求めるものではない。

 あまり身体の奥底にある衝動を求めてはいけない。
 元々、人間の身体は戦うには脆弱すぎるくらいだ。
 爪や牙をもたぬかわりに、仕掛け武器や巨大な杭、槌などで獣たちに対抗してきたのだ。
 弱い獣でしかない人が、武器をもち気を大きくし獣と対峙すれば必ず足下を掬われ、狩られる側となる。
 仮に狩られなかったとしても、戦いへの渇望はいずれ狂気となり理性を飲み込むだろう。
 そうなったらただ落ちるだけだ。

 人ではない獣か、血に飢えた狩人に。

(……いけないな、昂揚に身を任せ、理性を失う所だった)

 雨に濡れた手は、血を洗い流す。
 ヤマムラは帽子を脱ぐとそれを荷物へと押し込んだ。

 狩りをする時は、帽子を被っているときだけ。
 帽子を深く被った時、自分は理性を捨てただ狩人に徹する。
 だが帽子を脱いだ時は一人の人間として、普通の生活を営むのだ。
 いつしか自分の中でそのような規律を定め、ヤマムラはそれに従う事で「人間側」に留まっていた。

 小雨だと思っていた雨は一寸先を見通す事すら難しいほど雨足が強くなっている事に気付く。
 獣狩りに夢中で、こんなに視界が悪い事にすら気付いていなかったのだ。

 街に帰ろう。
 そしてもう宿で休むべきだ。

 そう思い、雨にうたれながら仮宿へと戻る。
 だが帽子を脱いでも、冷たい雨に打たれても、獣狩りで昂ぶった血と衝動はなかなか納まろうとはしなかった。
 だからだろう。

「おかえりなさい、ヤマムラさん。どうしたんですか!? ずぶ濡れじゃないですか……早く服を脱いで着替えないと、風邪をひいてしまいますよ」

 仮住まいの宿でヤマムラの帰りを心待ちにしていたであろうアルフレートを見た時、何よりも先に【欲しい】と思ってしまったのは。
 濡れた服を脱ぐのも億劫にアルフレートの身体を抱きしめると、「どうしたんですか」と言いかけた彼の唇を半ば強引い塞ぐ。
 濡れた衣服のままで抱きしめられて、アルフレートの身体も冷えるだろう。そんな考えも僅かに過ぎるが、獣と対峙した昂ぶりと火照りがそのような人間らしい倫理や常識などを一気に押し流していった。

「ヤマムラ、さっ……や……やめてくだっ……さい……やめ、て……」

 気付いた時、アルフレートの身体をベッドの上に押し倒していた。 ヤマムラの髪からは雨粒が滴る。
 そして漠然と、思い出していた。

 そういえば、アルフレートを初めて抱いた時も雨の日だった気がする。
 今日のように獣を狩り、血が滾って昂ぶっている時雨宿りをした狭い小屋にいた彼を抱いたのがアルフレートと出会った切っ掛けだった。
 昂揚している時、半ば理性が飲まれた状態になると誰でも良いから身体を求めたくなってしまうというのは、狩人にはよくある事らしい。
 その時のアルフレートも驚きはしたようだが拒む事はなくヤマムラの身体を受け入れてくれた。 だから今日もきっと、わかってくれるだろう。
 そう思ったが……。

「やめてください、ヤマムラさんっ……私、いやです……今の貴方に抱かれるのは、いや……いやだ……いやだ……」

 子供のように首をふり、ぐずるように泣き出す姿を見てそれが本気の拒否だと気付く。
 何故、初めて抱いた時は受け入れてくれたのに。
 それから何度も唇を重ね、肌を重ね、その身体を抱き潰してきたというのに……。

 不思議に思いながらも何とか理性で身体を留めたのは、ヤマムラにとってアルフレートが特別だったからだろう。
 初めて抱いた時は他人同士であったが、今のヤマムラはアルフレートがいなければ狩りをする意味も。ヤーナムの街で生きる灯火も喪ってしまうような気がしていた。
 だからこそ、アルフレートが本気で嫌がっていると分った時は獣や狂気に飲まれる事なく彼の話を聞く事が出来たのだ。

「……どうしてだ、アルフレート……俺に、されるのはいやか……?」
「貴方にされるのは……嬉しい、です。だけど……今の貴方は、血に酔い狂気にふれた狩人……」

 アルフレートは、一瞬目を伏せる。

「そんな時の狩人は、【誰でもいい】じゃないですか。私じゃなくとも、誰でも……傍にいたのなら、誰だって喰らうように抱き潰す。私は……以前の私なら、それでもよかった。でも、今の私は……貴方に、体よい虚(うろ)のように扱われるのは耐えられない……」

 再びヤマムラを捉える僅かにくすんだ翠の目は、涙で潤み光って見える。

 あぁ、そうだ確かに狩人は血に酔い狂気にふれようとした時、獣のように求めてしまう。
 そんな時の狩人は大抵が「誰だって」あるいは「何だって」いいものだ。
 男だろうと女だろうと老人だろうと子供だろうと、目の前にいたら貪るだろう。 それが獣や死体であったとしても構わずに嬲るか弄ぶのも日常茶飯事だった。

「……心配しなくても、俺はそこまで酔ってはいない。だからキミの所まで何とか戻って来たんじゃないか」

 ヤマムラは自然と、笑顔になる。
 確かに今の自分は冷静ではないだろう。獣を狩る血の匂いに酔い、理性も倫理も境界線へと埋めようとしている。

 だがそれでもヤマムラは、この仮宿へと帰ってきた。
 そこにアルフレートがいるのだと、心のどこかで信じていたからだ。そして、彼であったら自分の思い全てを晒しても良いと、そう思っていたからだ。

「俺は、キミとしかしないよ。アルフレート……血に酔っているからこんな甘言で惑わそうとしてるんじゃない。俺は……キミが俺のそばにいる限り、キミだけを愛しているしキミだけを抱く」

 そうしてまた唇を重ねれば、アルフレートは幾分か安心したような顔をする。
 そしてヤマムラの濡れた髪を、愛おしそうに撫でてみせた。

「……それなら、好きにしてください。いいですよ、私の前で獣になって。私の前で狂って下さい。私はどんな貴方でも、受け入れてあげますから」

 それからまた二人、キスに溺れる。
 誰でも良いのではない、アルフレートでなければダメなのだ。この今にも壊れ狂いそうな心を背負いまともな人間の素振りを続けるために、ヤマムラにはアルフレートという灯火が今を生きる全てであった。

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