インターネット字書きマンの落書き帳
月光を眺め肴とする(たぬしし)
付き合ってるような雰囲気だけどまだ付き合ってないような。
でもきっと付き合っているであろうたぬししのハナシです。
たぬししを書いてる人だから、たぬししで書く。
理由はそれだけっ、それしか言わない……。
今回のオハナシは、寝苦しい夜。
夜半過ぎに目覚めた獅子王が、縁側で庭を見ながら一人で手酌する同田貫正国を見つけるハナシです。
手酌……えっちな言葉だと思ってました!
でもきっと付き合っているであろうたぬししのハナシです。
たぬししを書いてる人だから、たぬししで書く。
理由はそれだけっ、それしか言わない……。
今回のオハナシは、寝苦しい夜。
夜半過ぎに目覚めた獅子王が、縁側で庭を見ながら一人で手酌する同田貫正国を見つけるハナシです。
手酌……えっちな言葉だと思ってました!
『青白き静寂に包まれて』
梅雨の時期になれば雨が降らずとも蒸し暑い日は続く。
獅子王が目覚めたのは、汗ばむほどの暑さからだった。
(ふぅ……暑っちぃ……)
厚手の毛布を蹴っ飛ばし蒲団の隅に追いやると、獅子王は半身起こして寝汗を拭う。
一昨日は梅雨冷えでしまった掛け布団を一枚出したのだが、今日は朝から雲一つない快晴で一日中蒸し暑かった。
また梅雨冷えが来るといけないと思い厚手の毛布をかけて寝たのだが、それがいけなかったのだろう。暑さで目覚めてからは幾度寝返りを打ち目を閉じてもなかなか寝付く事が出来ないでいた。
(仕方ないなぁ……少し夜風にでもあたってくるか……厨(くりや)で水でも飲めばまた眠れるかもしれないしな)
獅子王は欠伸を噛み殺すと頭を掻きながら、徐ろに立ち上がる。
そして音をたてぬよう部屋から出れば、周囲は水を打ったように静まりかえっていた。
他の刀剣男子たちは皆寝入っているのだろう。暑さのせいか、虫や蛙の鳴き声さえ聞こえない。
する音といえば、獅子王が歩く足音だけであり、月明かりの下で見る庭の紫陽花は青白い光に包まれ、まるで誰かの夢に迷い混んだような気さえした。
いや、これが誰かの夢なのか。それとも日中の賑わいが遠い夢だったのか、それさえも曖昧な心持ちになり、長い廊下を一人で歩く。
(ちょっと静かすぎるくらいだよなぁ……こんなに静かなのは、どうも落ち着かないってか……なんか、寂しいかな……)
獅子王はどちらかといえば賑やかな場所が好きだった。
誰かがはしゃぎながら庭を走り、稽古場では勢いよく木刀を打ち鳴らす音が響いて、畑で誰かが虫を見つけて驚きの声をあげる。
そんな本丸の喧騒が当たり前になっていたから、静寂に包まれた夜の屋敷は何処か寂しく、ひどく孤独に思えたのだ。
まるで今は世界でたった一人きり。自分だけしか生きていないような気がして……。
(……早く厨に行って、水でも飲もう。それで、今度こそ朝までグッスリ眠るんだ)
獅子王が足早に廊下を進む。長廊下は獅子王の足音だけを静寂に響かせた。
孤独がまるで後をついてくるようで、寂しいような薄気味悪いような心持ちで歩んでいると、ふと縁側に人影があるのに気付いた。
夜半過ぎだというのに誰か起きてるのだろうか。
まさか幽霊か、あるいは物の怪の類いか。
何にせよ、確かめておかなければいけない。もし悪漢や化生の類いであれば黙って逃げ帰る訳にはいかない。
獅子王の主はそのような男であり、獅子王もまたそのような刀剣であった。
そうして足音を忍ばせながら闇に目をこらせば、そこにあったのは縁側に腰掛け盃を傾ける同田貫正国の姿だった。
「……同田貫?」
思わず声をあげれば、これだけの静寂だ。獅子王の声はよく響いたのだろう。 遠くにいるはずの同田貫正国は獅子王の方を向くと彼の姿を捉えたようだった。
「あぁ、何だ獅子王か……」
見つかったのなら足音を忍ばす必用もない。
それに化生や悪漢ではなく同田貫正国なら警戒する必要もないだろう。獅子王は少し安心しながら小走りで彼の傍らへと向った。
「何やってんのさ。こんな時間に一人で……」
歩きながらそう問えば、同田貫正国は普段と変わらぬ様子で盃に酒を注ぐとそれを空へと掲げて見せた。
「いや、あんまり月が綺麗だったもんでな。たまには月を肴に酒でもしゃれ込もうって思っただけだ。はは、風流って奴だろ?」
「しゃれ込もうって……同田貫にも雅ってのを理解する心があったんだなッ」
「ははッ……ま、月は口実だな。あんまりにも暑苦しい夜だから今ひとつ眠れなくて、寝酒でも試してみようと思っただけだ」
同田貫正国は笑いながら盃を傾けるとなみなみ注がれた日本酒を一気に飲み干した。
獅子王はそんな同田貫正国の隣に座ると、盃を傾ける同田貫正国と庭とを交互に眺める。
青白い月の光は庭を包み、紫陽花も若木の芽も、苔むした庭石も全てを青く染め上げていた。
さっきまで一人でこの庭を見ていた時は耳に痛い程の静寂がただ寂しく、何もない庭は荒涼とした雰囲気を漂わせていたように思えたのだが、同田貫正国が隣にいると思えばどうだろう。
月の光に染められた草木も花も、庭石も全てが美しく思える。
「そっか……そうだよな。こんなに綺麗な庭なんだもんな」
「あぁ、まぁそうだな……」
同田貫正国はまた盃に酒を注ごうとする、その手を止めると獅子王は同田貫正国のもつ盃に酒を注いでやった。
「俺がいるのに手酌じゃ寂しいだろ? ……この獅子王サマが酌をしてやるんだから、有り難く思えよな」
獅子王の言葉に、同田貫正国は静かに微笑む。
そしてまた月を見ると、盃を傾けながら話始めた。
「正直な事を言うとな。さっきまでこの庭も非道く殺風景で、酒の味なんざ感じなかったんだよ」
月光の下、風がそよぎ紫陽花の葉が揺れるのが見える。
今日は満月なのだろう。隣にいる同田貫正国の表情も、やけにはっきりと見えた。
「月を肴に酒なんて風情ある真似は戦バカの俺にゃ似合わないかと思って、味気ない酒で強かに酔ったらさっさと寝ちまおうと思ってたんだがな。だが、お前が来てくれたらとたんに月が綺麗に見える。寂しいと思っていた庭を眺めていても、ちょっとは楽しく思えるじゃ無ぇか。不思議なもんだよな。さっきまで、ただ青白いだけの風景にしか見えなかったってのに……」
同田貫正国の言葉に、獅子王は虚を突かれたような顔になる。
獅子王が感じていた事と同じことを同田貫正国もまた感じていたのが意外だったからだ。
そして同田貫正国もまた、獅子王が隣にいるコトで青ざめた庭の景色が息づき色づいて見えたというのだ。
「そりゃ、この獅子王サマが隣にいるんだから当然だろ?」
獅子王は得意気に笑うと、同田貫正国の手から盃を取り上げ中に注がれた日本酒を一気に飲み干す。 喉が焼けるように熱くなり身体全体が火照るような感覚も、今はただ心地よかったから。
「……だからさ、今日はもう少し二人で。この月と庭を見ながら一緒に飲もうぜ。な、同田貫? 今なら俺、いつもより楽しく酒が飲めそうな気がするんだ」
盃を差し出し、獅子王は言う。
「あぁ、そうだな……もう少し二人で飲むか」
その盃を受け取り、同田貫正国は自然と獅子王の肩を抱く。
青白い光に包まれた庭に、寄り添う二つの影だけが伸びていた。
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