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インターネット字書きマンの落書き帳

   
いつの間に本気になっていた話。(ヤマアル)
昨日はお楽しみしたであろうヤマムラさんとアルフレートくんの、朝食風景です。
完全に朝食風景だけの話になってしまいましたね……。

最近はわりと描写が冗長になりがちなんですが、どうもこう心情を……いっぱい!
書きたいんだよッ! そういうシーズンなんだッ!
って事で許して頂きたいと思います、ハイ。




『明日はきっと今日より好きになる』

「ヤマムラさん、先に行って朝食の準備をしておきますね」

 アルフレートは寝ぼけ眼のまま身支度を調えるヤマムラに一声かけると食堂のある一階へと降りて店主へと声をかければ、店主も手慣れた様子で朝食とピッチに入った牛乳を取り出した。

 1枚のプレートに、カリカリに焼かれたフランスパンと厚切りのハム。揚げじゃがにスクランブルエッグと気持ち程度の付け合わせの野菜が窮屈そうに乗せられたプレートに、ベーコンと野菜くずが入った塩味のスープがついた朝食は寝起きに食べるにしては随分な量だろう。
 だが時には野山を、時には街を、時には下水までも狩りの為に走り回る狩人にとって足りないくらいで、実際普段から「最近は脂物を身体が受け付けなくなってきて」なんて自虐的に語るヤマムラもその量をぺろりと平らげた。

「えーと、あと準備するものは……うん、もう無さそうですね」

 フォークにスプーンを並べカップに自分の分だけ牛乳を注ぐとアルフレートは席に着いてヤマムラを待つ。
 アルフレートもヤマムラも食事前後ならまだしも食事中に喋るような性格ではない。だから先に食べても良かったのだが折角ならヤマムラと一緒に食べたかったからだ。

 周囲の狩人は皆一様に俯き、黙々と食事をする。
 食べるというより腹を満たすために口へ入れ飲み下すといった様子だった。
 どの狩人も表情がどこか虚ろであり、生気が感じられない。
 ただ毎日死なないから生きており、生きる糧を得るために狩りをしている。そういった様子がにじみ出ていた。

 実際のところ、ヤーナムに来た異邦人の殆どは彼らのように虚ろな表情へと変化し、毎日をただ死なないから生きている。それだけの存在になる。
 最初は「病が治る」という言葉に惹かれ希望を抱いてきたものの多くは「血の医療」の正体に絶望し、だが一度治療を受けた身ではもうヤーナムから離れられず秘密主義で閉鎖的、かつ排他的なヤーナムで生活するため必死で日銭を稼ぎ、死なない為に生きる毎日が始まるのだ。
 希望を打ち砕かれ絶望するにも長すぎる怠慢な生はただのルーチンになりはてれば空しさの一つも感じても許されるべきだろう。

 他人事のように狩人たちを見つめるアルフレートも、ローゲリウスという師の存在に導かれる前は彼らと同じような表情で日々をただ生きているだけだったろう。
 ローゲリウスの言葉と出会ってからは、その言葉に従い街を清浄するという使命を負ったが故に生きる目標が出来た。
 そしてヤマムラが隣にいる今は、一日中目的のために這いずり回り何の成果が無かったとしても帰って安らげる場所まで出来たのだ。

(それを考えれば、私はきっと幸せものなんでしょうね……)

 ヤーナムという街に長くいると、生の実感がどんどん薄らいでいく。
 血の医療により身体は頑健になり簡単には死ねなくなるという事実と、獣の前では一瞬で生が摘み取られる事実。二つの相反する事実を前にして、生き延びたらまた死ねなかったと思い、死にそうになった時はこんな所で死ぬのかと悔やむようになるからだ。

 そんな大衆へと視線をそらし、アルフレートの目は自然と階段の方に向く。
 そろそろヤマムラが来る頃だと思ったからだ。

(ヤマムラさん、まだでしょうか……昨日は遅くまで起きていましたから、二度寝なんてしてないといいんですけど……)

 と、そう思ってアルフレートは自分の顔が赤くなっていくのに気付く。
 自然と昨夜の事を思いだし、何だか恥ずかしくなってしまったのだ。

(どうしたんでしょう、私……はじめてヤマムラさんとした時より、今の方がずっとドキドキしているなんて……)

 昂ぶる鼓動を抑えながら、アルフレートは赤くなった自分の耳に触れる。
 思い返してみればヤマムラと出会った頃のアルフレートは、もっと打算的だった。
 ヤマムラが千景という血族由縁の武器を扱うため、血族と何ら関わりがあるのではないか……もしあったとしたら、この街を清潔にする為にも始末しなければ。
 そんな使命感から彼に近づくうち何となくほだされてしまい、抱かれてみたいと思うようになって誘ってみたのが互い深い関係になる切っ掛けだった。

 接しているうちにヤマムラが善性の男であり、自分のためではなく死んだ誰かの弔いのためこの街に来たのだと知った。
 復讐を果たしてもなお街に留まり獣狩りを続けるのは彼自身が血の医療に縛られてしまったのもあるだろうが、獣と戦う力を持て余しているのが惜しいと思ったというのも大きいようだった。
 縁もゆかりも無い土地で狩人となる異邦人は少なくないが、その殆どは血の医療を受けるためと日銭を稼ぐ仕事が他にないためでありヤマムラのように腕を鈍らせないため、ヤーナムの市民が困っているのを助けられるのなら一石二鳥といった考えで狩人になるものは珍しい。
 そもそもヤーナムに来た理由が自分のためでもない時点で彼はかなりお人好しであると同時にアルフレートから見れば清らかな存在に思えた。

 いくら清らかな男でも、誘ってみれば男を抱く。
 最初に抱かれた時は存外に簡単に落ちてしまったヤマムラに対して失望したのは事実だった。
 あるいは自分の誘惑に乗り喜んで腰を振る姿を見て、いかなる善人とて所詮は人間なのだという事をアルフレート自身が実感したかったのかもしれない。

 だが関係を結んでから、ヤマムラは誰より優しくアルフレートに接してくれた。
 カインハーストに行く話も真面目に聞いてくれたし、それを見下したり馬鹿にする事もなかった。
 ヤマムラは外から来た狩人だから処刑隊なんて存在とっくに忘れられている事やカインハーストなんてお伽噺のようなものだといった認識が薄かったというのもあるのだろうが、それでも周囲から与太話と嘲笑され処刑隊の装束をまとう姿を異常者の如く扱われていたアルフレートにとって、まともに取り合ってくれるだけでも嬉しいものだった。

 深い仲になり、改めてヤマムラの善性に触れ、アルフレートはますます自分がヤマムラにのめり込んでいくのに気付いていた。
 試してみるだけ。そのくらいの気持ちでいたはずなのだが、今は誰より愛おしく思う。

(ヤマムラさん、遅いですね……本当に二度寝してるのでしょうか……迎えにいった方が……)

 耳の熱は冷めたが、心はまだ浮ついたままだった。
 中々現れないヤマムラの事が心配だったのだ。とはいえ、まだ一階に降りてから5分も経ってないのだが、待ち時間は長く思えた。
 迎えに行こうかと思い始めた頃、ようやくヤマムラが姿を現す。

 欠伸を噛みしめながら頭を掻く姿は見た目だけならおおよそ美男とは言い難い姿だろう。
 狩人にしては痩せすぎた身体も屈強な狩人が多い中では頼りなさげに見える。
 それでもアルフレートにとっては誰にも代えがたい愛しい人だったから。

「ヤマムラさん、こっちです! 準備出来てますから……どうぞ」

 飛びっきりの笑顔を向け、手を振る。
 以前よりもずっと好きになった相手に、一番の自分を見てもらうために。

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