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インターネット字書きマンの落書き帳

   
お坊ちゃんを見つめる家政婦さん(みゆしば)
平和な世界線で普通に恋人同士として付き合っている手塚と芝浦の話です。
(挨拶をかねた端的な幻覚の説明)

といっても今回は特に二人が出ているワケではない感じですね。
ぼくはこう、『第三者から見た推しCP』みたいなものを書くのが好きなんで、『長らく芝浦家の家政婦として、しばじゅんちゃんの成長を見つめてきた女性から見た、最近恋人の出来たしばじゅんちゃんの話』という独自設定マシマシでお送りしますよ。

二次創作。
そうそれは、原作にない設定を……無理矢理ねじ込んでもいい!
(いいとは限らないが、俺てきにはオッケー)

そんなワケで、「風邪ひいた手塚のために料理をつくりにいく芝浦くんが、料理の下ごしらえをして行くのを見てなんか嬉しいモブの家政婦さん(二児の子持ち)視点」の話ですよ。

しばじゅんちゃんの母になりたい人向けです。
地味に一ヶ月くらい前に書いた看病ネタの裏話になってますね。

この人、一ヶ月前に書いたネタのはなししてる……。(怖)





『もっと素直に笑って見せて』

 永崎小夜子は芝浦家に出入りしている家政婦である。
 家事全般が好きであり子供たちも自分の手から離れたので、老後に子供たちの世話になる必用がないようにと思い登録した家政婦派遣事務所で最初に派遣された場所が芝浦家であり、そのまま十数年という間通い続けている。

 それは芝浦家があまり小夜子の家から遠くなかったという事や、家の主人が滅多に帰ってくる事がなく家事の注文は予想以上に簡素だったわりに充分すぎるほどの給料が貰えた事も大きいが、芝浦家の長男である芝浦淳がまだ小さな子供だったという事も大きな理由の一つだった。

 利発で聡明だが男の子にしては大人しいくらいの芝浦淳は、どちらかといえば粗雑な実子との違いに大きく驚いたし、食べ方も綺麗で服の着こなしも上品。部屋を散らかすような事もない彼の所作は自分の息子と同じ男の子とは思えない程で最初は驚いたものである。

 長く家に入るうち、芝浦家には随分前から母親が「いない」ということ。
 芝浦の親子関係があまり良好ではないということ。
 芝浦淳という少年は、普段は演技で良い子を振る舞っているがその内実は思った異常にワガママで奔放な気質である事はわかっていった。

 だがそんな中でも芝浦淳は小夜子の事を信頼し、「小夜子さん」と呼び慕ってくれたのは嬉しかった。
 小夜子は芝浦淳という一人の少年が成長する姿を、自分の子供たちが成長する姿に重ねるようになったのも無理もない事だろう。

「小夜子さん、俺に料理教えてくんない?」

 芝浦淳がそんなお願いをしてきたのは、つい先日の事だった。
 家政婦を雇えるような資産家であるから料理は勿論、掃除や洗濯の殆どが小夜子任せであった。小夜子は仕事で家事をしに来ているのだし、お金持ちの家なのだから家事が外注である事など当然、自分で料理をしようなんて考えはないのだろう……。
 そう思い込んでいたので、芝浦淳の提案はかなり意外だったのと、自分の業務内容に「料理を教える」という事はなかったのでそう聞かれた時は即答できなかった。
 もし料理中に怪我をしたら一大事だとも思ったからだ。
 すると芝浦淳は、それを察したように小夜子に告げた。

「あ、料理中の怪我とかは自己責任って事にするから小夜子さんに迷惑かけないよ。それに俺、たぶん包丁とか火を使えるレベルじゃないから……実はさ、友達ん家で何か作ろうと思ったんだけど、卵も割れなくて笑われちゃって……」

 恥ずかしそうに言う姿を見て、小夜子は何となく芝浦淳の言う「友達」がただの友人ではないという事を察した。

「そうなんですか、坊ちゃん。それでしたら、卵の割り方を教えますね。大丈夫ですよ、坊ちゃんならすぐ出来ますって……」

 力になってあげたいと思ったのは、それまで他人との付き合いにどこか壁を作っていた良く知る「坊ちゃん」がようやく心を開ける相手と出会えた喜びもあっただろう。

 最初は卵も割れなかった芝浦淳だが、飲み込みが良く本質的には素直な性格なのだろう。
 危なっかしかった包丁の持ち方もすぐに良くなり、フライパンや鍋の扱いも様になってくる。レシピ通りに作るのを覚えてから素材や調味料の味も少しずつ覚えていき、三ヶ月もすれば家庭料理らしいものを作れるようにはなっていた。

 流石に凝った料理を作るまでには行かないが、卵は割れず肉や魚を触った事もないような生活をしていたお坊ちゃまがカレーやシチューなら市販のルーさえあれば作れるようになり、おかゆなら米から土鍋で炊く事が出来るようになっているのだから立派なものだろう。

 覚えの良さは地頭の良さもあるのだろうが、その熱心さは作りたい相手がいるからだろう。
 この集中力と知識面でも真面目さは、自分の子も見習って欲しいと思った程である。

「小夜子さん、風邪ひいたときって何食べたらいいかな?」

 そんなある日、携帯電話を片手に芝浦淳がきいてきた。
 別に彼が風邪気味だという風には見えなかったので、何とはなしに「料理を作ってあげたい誰か」が体調を崩したのだろうと思ったが、それはおくびにも出さず言う。

「そうですねぇ、消化にいいお粥や野菜スープなんかがいいと思いますよ。野菜は細かく刻んだり、すり下ろしたりしておくと食欲がない時にも食べられますし、風邪をひいた時は暖かいものが有り難いですからね」
「スープかぁ……コンソメベースで味付けた方がいいかな?」
「お味噌でもコンソメでもいいと思いますよ。お粥は卵を落としておくと栄養もとれて美味しいです……坊ちゃんならお米からでも出来ると思いますけど、冷凍のご飯があればそれを使った方がいいですよ」
「そっかー……冷凍ご飯は結構残ってたと思うからそれ使うよ。でも野菜刻むの自身ないから、家にある食材使っていい? 俺が下手しないよう見ててくれたら嬉しいんだけど」
「えぇ、もちろんです坊ちゃん」

 幾分か慣れた手付きで人参、玉葱、キャベツを刻んでいく。
 どの野菜もキッチリと等分に切り分けているのを見ると、普段は自由奔放に振る舞っている「お坊ちゃん」が、その内面は存外に几帳面だという事を伺わせた。

(坊ちゃんはどうしても、人にかまって欲しいから悪態をついたり悪戯したり。そういう気の引き方しか出来ない子でしたけど……)

 熱心に野菜の下ごしらえをする姿は正しく人のためを思ってする姿であり、それは長年芝浦家に使えていた小夜子や使用人である黒岩のように心を許した相手にしか見せない姿だったから。

(……わざと意地悪い態度をとったり、悪戯や悪態なんかつかなくともちゃんと坊ちゃんを認めて受け入れてくれる人に出会えたんですね)

 芝浦淳は、一般家庭から見れば遙かに恵まれている方だろう。
 だが彼自身はいつもどこか孤独に見えた。
 頭も良く成績は優秀であり、ピアノにしても何にしても稽古事はすべて賞を取る程度に卓越していたが、彼の父がそれを誉める所は一度たりとも見た事はない。
 そんな彼が父の前では秀才で物わかりのよい子を演じるようになり、友人付き合いは距離感がうまくとれず気を引きたくて素直になれないような所はしばしば見受けられていた。
 
 才知があるのに、それを認めてくれる人がいない。
 その孤独さはいずれ彼をすり減らし歪めてしまうのではないか。
 本当は素直で純粋な性格だからこそ、悪い方に傾いたら自分では止められないのではないか。

 ただ誉められたいだけ。
 誰かに認めて欲しいだけ、愛されたいだけ。
 それだけのために頑張ってきたことを良く知っているが故に、なかなかそれを与えられない事実にどうしようもない憤りを小夜子は密かに感じていた。

 我が子であればできる事もあっただろう。
 だが芝浦淳はあくまで雇い主の息子であり、そこには使用人という立場上踏み込めない所も多かったからこそ、幸せそうにする彼の姿を見るのは嬉しかった。

「出来たっと、小夜子さん。これ、タッパーにつめていけばいいかな?」
「パックに小分けでまとめて、タッパーに入れていけばいいと思いますよ。レシピはお持ちになりますか?」
「大丈夫、覚えてるから。俺、頭だけはいいんだよねー」

 その台詞は普段ならやや自虐的な意味を込めての発言だった。
 頭がよくても、誰も誉めてくれない。そんな感情の裏返しである事が覗えたのだが、今は以前のような皮肉や自嘲はない。

 やはり、彼の全てを理解しそれでも傍にいる誰かが今は近くにいるのだろう。

「それじゃ、いってきまーす」

 軽い足取りで玄関から出る背中を見送りながら、小夜子は自然と笑顔になっていた。
 それは幼い頃からよく知る「坊ちゃん」が、ようやく本当に笑う事が出来るようになったその姿を見た、喜びと安堵の笑みだった。

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インターネット駄文書き
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