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インターネット字書きマンの落書き帳

   
あなたにしてあげたい。もう充分だ。(ヤマアル)
ただ貴方の優しさが怖かった。(挨拶)

というワケで、ヤーナムという永久の微睡みにある街で出会い、密かにだがゆっくりと愛を育む優しい時間を経験している……。
そんなヤマムラさん×アルフレートくんの概念です。

ヤマムラさんが優しいから不安になる。
自分ももっと何かしてあげたい、そう生きているうちに。
そう願うアルフレートくんと、もう充分もらっているヤマムラさんの話ですよ。

人生で、本当に互いを理解しあえる相手と出会ったのなら。
その人の人生は、その時点で「成功」しているんだ。




『楽しくそして幸せだったと言いながら眠る事が出来たなら』

 アルフレートの傍にヤマムラがいて、ヤマムラの傍にもまたアルフレートがいる。
 最近はそれが当たり前になっていた。

 手があいている時ならヤマムラの狩りをアルフレートが手伝う事もあったし、逆にヤマムラが血族についての情報を探ってきてくれる事もあった。
 以前は別の宿で生活をしていたが、今は同じ宿で二人日常をともにしている。

 同棲生活といえばそうなのだろう。
 だが四六時中肌を重ねるような事はなく、むしろ他愛もない会話をする事の方がずっと多かった。
 一緒に食事をして、時に酒を酌み交わして。温かな湯で互いの身体を拭いたり、ヤマムラが洋装するならどんな装いが似合うのか服屋に趣きあれこれ着替えさせてみたり。逆にヤマムラのもっている東洋の服をアルフレートに着せてみたり。

 振り返ってみれば二人でしている事などまるで子供たちが戯れ合っているような、そんな些細な事ばかりだった気がする。
 だがアルフレートはその他愛もない、些細な毎日がとても幸せに思えていた。

 ヤーナムの狩人から血族狩りとして。
 いずれ輝きに殉じるための志を抱いた時点で人並みの幸せなど縁が無いと思っていた。

 いや、そもそもそれまでのアルフレートはただ寄り添い、何でもないような日々を過すという幸せすら知らないでいたのだ。
 何もしない時間を楽しみ、互いの会話を楽しみ、酒や食事を楽しみ、ファッションを楽しむ。
 何もしないでいれば邪険にされ、話をすれば無駄話と揶揄され、味のない食事をつめこみある服を着る。
 そんな生活が当たり前だった中、ヤマムラは当然のように衣食住を大事にし、アルフレートにもそれを与えてくれた。
 会話は怒声も罵倒もなく、常に穏やかに互いの思いを尊重し交される。
 きっとヤマムラにとってそれは当たり前の生活だったのだろう。だがそれはアルフレートにとって体験したことのない安らぎであり、それ故に不安になるのだ。

 自分ばかり「与えられて」良いのだろうか、と。

 思えばヤマムラと出会ってから、アルフレートは与えられてばかりであった。
 自分を古き処刑隊の装束を着て血族狩りの真似事をする狂った狩人と扱わず、アルフレートという一人の名を呼んでくれた。
 よく眠り、よく食べ、暖かくして暮すよういつも気にかけてくれた。
 アルフレートの調子が悪かったり怪我をした時などは、自分が傷ついたかのように悲しそうな顔をしてくれた。

 そんなヤマムラの所作全てが嬉しく、そして愛おしかった。
 ひょっとしたらこの感情は恋人同士の抱く愛より家族愛に近く、アルフレートが求めているのは父のような。あるいは兄のような存在としてのヤマムラなのかもしれないと思う事もあったが、ヤマムラはそれらを含めて。

「それでもいいよ、一緒にいてくれればそれだけでいい」

 常にそう告げ、傍らにいてくれた。

 だからこそ、思うのだ。
 自分は与えてもらっているばかりで、ヤマムラに何も与えられていないのだと。
 ましてやいずれこの地を去り、カインハーストに趣いて師の名誉を回復させれば自分の使命はもうない。
 その後に生きる理由のない彼は、輝きに身を投じて終える事を強く願っていた。

 ヤマムラと手をとり、ともに暮すという世界は彼の中に存在しないのだ。

 いずれヤマムラを置いていくつもりの自分が、こんなにも与えられていいのだろうか。
 せめて何かをかえす事が出来ればいいのだが。

「……ヤマムラさん、何か欲しいものとかありますか?」

 思い切ってそう訪ねるが、ヤマムラはいつも優しく微笑むと。

「べつに、何もないよ。今はキミが傍に居てくれればそれでいい」

 同じようにそう答える。
 ヤマムラが本心からそう言っているのは分っていた。だが、だからこそ不安は募っていく。
 今までヤーナムで、何の見返りも求めずに自分のことを見て来た人間など誰もいなかったからだ。

「ヤマムラさんはそう言いますけど……私はこんなに幸せなのに、何もあなたにしてあげれてない気がして……」
「俺だって幸せだよ? ……俺を幸せにしてくれてるんだから、何もしてないって事はないだろう」
「ですけど……」

 ヤマムラの言葉は相変わらず優しく暖かいので、ますます気が焦ってしまう。
 そんなアルフレートの様子に気付いたのか、ヤマムラはアルフレートの頬を包み込むと額を重ねて笑って見せた。

「本当のことを言うとね、キミにはもう貰っているんだよ」
「私に……私、何かヤマムラさんにして、あげてましたか? 私は……」
「人生において……お互いの事を、理解して。信頼して。愛し合える人間が出会える確率ってどれくらいなんだろうね?」

 不意に聞かれ、アルフレートは不思議そうな顔をする。
 その顔を撫でると、ヤマムラは笑顔のまま告げた。

「俺は、キミと出会えた時点で人生のあらゆる幸福を受け取れた……キミが俺に声をかけてくれたから、その時から俺はもうつかめないと思っていた幸福を逃さず、零さず得る事が出来た……アル、キミはたったそれだけの事かと思うかもしれないけど……俺はキミより少しばかり長く生きていたからね。キミのような人に出会える、それだけで幸運であり、それは幸せなのだという事、よくわかっているつもりだよ」
「でも……」

 アルフレートは、いずれ自分がヤマムラの元から去る立場なのを知っている。
 ヤマムラに伝えてないが彼もまた何とはなしに理解しているはずだ。

「あぁ、アルの言いたい事はね。わからなくもないんだ……ただ、そうだな。俺くらいになると……求めても、手から滑り落ちてしまい拾えなかった幸福があまりにも沢山あるから……ただ一時の慰めのように思えるこの微睡みのような幸福は『得ることができた』だけで、それは奇跡みたいなものなんだよ」

 だから、と唇だけで呟くと、ヤマムラはアルフレートに手を伸ばす。
 アルフレートもまたその手に誘われるよう握れば、ヤマムラは軽くアルフレートを引き寄せてその胸に抱きしめた。

「だから、キミはただ傍にいて。キミのしたいように生きる姿を、俺に見せてくれればいい。俺はキミのその姿をこの目に焼き付けて、そうしてキミを背負って生きていく。振り返れば、ただ幸福だった思い出を噛みしめながらね」

 胸に抱かれてもなお、アルフレートはヤマムラの真意を測りかねていた。
 だが何とはなしに分った事もある。

 ヤマムラはきっとアルフレートがどんな道を辿り、どのように生きて、そして死んでもアルフレート自身が望み選んだ道ならばきっとそれを全て受け入れるのだろうと。

 そしてヤマムラ自身はその後も歩み続けて、そうして生きて、生きて、生ききって。
 自分の命を使い尽くした時にきっと。

「いい人生だった」

 なんて呟いて、笑って眠りにつくのだろうと。

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