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インターネット字書きマンの落書き帳

   
ご時世柄現実では難しくなった看病ネタ(手芝・みゆしば)
平和な世界線で普通の恋人同士として過す手塚と芝浦という概念です。(挨拶)

CPネタといえば看病だよね。
という信条があるので今回は風邪でダウンした一人暮らしの手塚を看病に行くしばじゅんちゃんの話です。

年が明けたので二人がプライベートでは互いに名前を呼び合うようになりました。
微妙な時の移り変わりがある事で季節を感じて下さい。

……現実は風邪になっても『やばい感染症!?』って近づいてもらえないからね。
この世界観は2002年くらいです!



『すぐに治るなら治りたい程には』

 手塚は目覚めてすぐ身体の異変を感じていた。
 昨晩から少し熱っぽい気がしていたのでもしかしたらと思っていたが、今は意識がもうろうとする程に具合が悪くなっている。

(昨日は遅くまで客足が途絶えなかったからな……寒いと思ったが少し無茶をしすぎたか)

 起きれば身体全体が熱く、節々から鈍い痛みがする。
 喉も頭も酷い痛みだ。
 冷蔵庫を開けたが食べられそうなものが無かったので身体に悪いと思いながらも水と市販の風邪薬を飲む。

(これで少し楽になったら外に買い出しに出るか……こういう時に一人暮らしは不便だな)

 ぼんやりする頭で携帯を手に取る。
 芝浦に伝えればコンビニで何か買ってきてくれるだろうが、呼ぶのはやめておいた。
 随分と咳も出る。うつしたら悪いと思ったからだ。

『どうも風邪をひいたようだ。うつすといけないから治るまでは来ないでくれ』

 芝浦には簡潔なメールだけを送り、ベッドに横になる。
 風邪薬が効いてくれば何とか歩けるくらいにはなるだろう。

(脱水にならないよう水分だけはとって……病院に行ければいいが……外に出るならマスクをしないとな……風邪を誰かにうつすといけない。インフルエンザでなければいいんだが……)

 あれこれと考えているうちに手塚は自然と眠りに落ちていた。
 夢を見ていたような気がするが、どんな夢だったかは覚えて無い。だが酷く悪い夢を見ていた感覚だけははっきりと残っていた。

「……酷い寝覚めだったな」

 時計を見ればすでに正午を過ぎている。眠りに落ちたのは何時頃か覚えてないが思ったより早く目が覚めたのはリビングに人の気配がしたからだ。

(芝浦が来たのか? 来るなとメールで伝えたはずだが……)

 寝汗ですっかり濡れていたシャツを着替えてからリビングの様子を見れば、芝浦がキッチンに立って何やら料理らしい事をしている姿が見える。

「来たのか淳。今日は来るなと言っただろう……」

 気怠い身体をソファーに預けそう言う手塚に、芝浦は笑って見せた。

「そう言うけど、海之は一人暮らしだろ? 風邪ひいたら買い出しにも行けないじゃん。あ、冷蔵庫にスポーツドリンクとかゼリーとか簡単に食べられそうな奴入れておいたから。あと、レンジで暖めるだけのリゾットとかそういう系と、インスタントスープね」
「おまえに風邪をうつしたら悪いと思って呼ばなかったんだがな……」
「俺は実家で風邪ひいたって使用人もいるし、家政婦さんがご飯つくってくれるし、すぐ病院にも連れて行ってもらえるけど海之はそうじゃないだろ。俺の方が風邪ひいた時に困る事少ないんだから、そういう時くらいもっと俺の事頼っていいと思うよ。気を遣ってくれるのは有り難いけどね」

 芝浦の言い分も最もだ。こういう時に無理が出来ないのは手塚の方だし、実際に買い出しをしてもらえた事も有り難い。
 買ってきたものも風邪の時には有り難いものばかりで、冷蔵庫を見れば栄養ドリンクまで入っている。
 つきあい始めた頃はあまり他人に対しての関心が薄いため世間知らずで常識に欠ける『箱入り育ちのお坊ちゃん』の所作が随所に見られていたが、今は随分と常識的な考えをするようになった気がする。

「……何を作ってるんだ」

 だが料理を任せるのはまだ不安が残る。
 初めて家に来た時は卵の殻も割れない有様だった所が、ようやくレシピを見ながらならカレーを作れるようになった位なのだ。
 流石に風邪をひいてる時にカレーを食べる気にはならないが、漂ってくる匂いからするとカレーではないらしい。

「えっと、おかゆと野菜スープ。栄養補給のゼリーもスポーツドリンクも冷たいものだろ。風邪の時は暖かいものを食べた方がいいって聞いたから。大丈夫だって、毒になるものは入れてないから」

 芝浦はそう告げ、器にもった温かな卵粥と野菜スープを出してきた。
 卵粥には一見すると卵の殻は入っていなさそうだし、野菜スープは人参や玉葱を丁重にみじん切りにしてある。何も食べる気になれなかったというより、作る気力がなかったから食べない事を選んだ手塚には有り難い。

「ありがとう、助かった。朝から何も食べていなかったんだ……」

 見た目は大丈夫そうだ。だが異物混入の可能性がないワケではない。
 おそるおそる口にした卵粥は喉の痛みのせいで味は殆ど分らなかったが暖かさが身体全体に染みわたり、食べた瞬間から幾分か元気になった気がした。

「……美味しい。暖かいものはありがたいな」

 思わずそう口にすれば、芝浦はどこか安心したように息を吐く。

「あぁ、よかったァ……レシピ通りだから大丈夫って思ってたけど、やっぱ食べてくれるまでちゃんと出来てたか心配になるもんだね」
「スープも美味いな。ありがとう、本当に助かった。卵の殻も入ってないしな……」
「まだそれ言う? ずっと前の失敗だから忘れてって……いや、あれから流石にマズイかなーと思って、家政婦さんがいる時、卵の割り方教わって練習したんだ。実は野菜スープの下ごしらえも手伝ってもらっちゃったんだよね、俺だとみじん切りそこまで丁寧に出来ないからさ」

 以前より随分とキッチンに立つ姿が様になってきた気がするのは手塚の気のせいではなく練習の成果だったようだ。
 自分の為にそこまでしてくれていると思うと嬉しいが少し気恥ずかしいのと同時に、今は何もしてやれない事がもどかしく思える。

「悪いな、色々気を遣ってもらって……今は見ての通り、何かしてやれる状態じゃないから淳に何もしてやれないんだが……」

 申し訳なさからそう告げれば、芝浦は嬉しそうに笑って見せた。

「いいっていいって。別に海之に何かして欲しくてやったワケじゃなくて、俺がアンタにしてやりたいと思ったからやってるだけだから」

 その後すぐに思い出したような顔をすると、上目遣いで手塚を見る。

「あ、でも元気になったらご褒美期待してるからヨロシクね。俺さ、海之にいーっぱい甘やかされたいからさ」

 人前ではひねくれた行動ばかり見せる芝浦だが、自分のしてほしい事はわりと素直に伝える所がありそれが手塚には少し真っ直ぐすぎて眩しい事もあったが、今はただ嬉しく思う。

「あぁ、元気になったらな」

 芝浦の頭を撫でながら、手塚は早く身体が治そうと強く思う。
 それは芝浦に報いたいという気持ちもあったが、一刻も早くこの愛しい恋人を抱きしめて溶ける程甘やかしてやりたいという気持ちもまた少なからず存在した。

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