インターネット字書きマンの落書き帳
ゆりかごのような手(みゆしば)
平和な世界線で普通に付き合っている手塚と芝浦の話です。
(淡々と語られる強めの幻覚)
たまには短くサックリと。
眠くてうとうとしている芝浦を、手塚がベッドに運んで。何もしないけど二人で一緒にいられる時間が幸せだなぁ……って話です。
20代の時にこの二人が出会うルートが、おそらく二人とも道を踏み外さなくて良いルートなのでは……そんな事を思って生きてます!
(淡々と語られる強めの幻覚)
たまには短くサックリと。
眠くてうとうとしている芝浦を、手塚がベッドに運んで。何もしないけど二人で一緒にいられる時間が幸せだなぁ……って話です。
20代の時にこの二人が出会うルートが、おそらく二人とも道を踏み外さなくて良いルートなのでは……そんな事を思って生きてます!
「ゆりかごのかいな」
手塚の家にはすこし大きめのソファーが置かれており、手塚が留守にしている時に芝浦はよくソファーの上で寝転がってすごしていた。
ただ寝転がるだけではなく、大概はテレビや映画を見たりゲームをしていたり翻を読んでいたりするのだが、芝浦の体がすっぽり収まってちょうどよいサイズのソファーは芝浦をとことん怠惰にさせる。
そして手塚が来る前に睡魔に襲われ、そのまま寝入ってしまう日も少なくなかった。
「いま、帰ったぞ。芝浦……なんだ、寝てるのか」
だから手塚が家に戻った時、挨拶を返す事もできずただその声だけを聞く。せっかく手塚の家に来たのだからもっと話をしたいとも思うし彼に触れたいとも思うのだが一度寝入ってしまうと何もかも億劫になり起き上がるのが難しかった。
「ん……海之……」
それでも何とか名前を呼び体を起こそうとするが、どうしても上手く体が動かない。おそらく芝浦は自分が思っている以上に疲れていたのだろう。
彼は大学生ではあるが家の付き合いや手伝いなどで夜遅くまで偉そうな大人たちに混じって話をする事も多い。また今はレポートなどの提出も多くほとんど徹夜明けで授業に向かうという日もしばしばあった。
それを辛いと思った事など一度だってないのだが、嫌いでない事でも疲労はたまっていたのだろう。
そんな芝浦の全てを理解しているように手塚は彼の傍らに膝をつくと無理をしなくてもいいとでも言うように静かに口づけする。
そしてまどろみの中にいる芝浦の体を大事そうに抱えるのだ。
手塚の腕に揺られベッドまで行く時間は、ほんの数十秒程度だろう。
だがその僅か数十秒の時間はゆりかごに揺られているように心地よいから、もっと起きていなければいけない。そういう思いがあってもついその優しさに甘えてしまうのだった。
「海之……ごめん、な。俺、眠たくて……」
眠りの中に吸い込まれそうになりながらかろうじて告げる芝浦を壊れないようにベッドへ横たえると、手塚は彼の髪を上げ額へ口づけをする。
「いいんだ、起きたら好きなだけ話をしよう。おまえが欲しいだけ、何だってしてやるからな」
優しい声は耳の中でゆっくりと溶けていき温かく心を包み込む。
「あぁ、そう……そうだ、そうだね……俺たちには、いーっぱい時間があるんだから……」
そう言って、芝浦の目には無意識に涙がにじむ。
何故だろう、二人の間に、沢山の時間がある。そんな当たり前の事実が今はとても大切で奇跡のように思えたし、やっと自分の鬱屈した心をすくい上げてくれる相手に正しいタイミングで出会えたような喜びがこみ上げてくる。
何故そんな気持ちになるかはわからないが、今はいくつもの間違えた道のなかでやっと正しい道を歩いている。そんな気持ちさえ抱いていた。
「いっぱい、時間あるから。いっぱい……いろいろな事、しような。おれ、海之になら何されたっていいからさ……」
今の手塚になら、きっと殺されても幸福だ。
ぼやける視線を手塚に向ければ、手塚の優しい唇が触れる。
まどろみの中、ゆりかごに揺られたまま芝浦は深い眠りへと落ちていった。
胸に確かな温もりと幸福を抱きながら。
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