インターネット字書きマンの落書き帳
今日は一日、良い日だった。(みゆしば)
平和な世界線で普通に付き合ってる手塚と芝浦の概念です。
(挨拶を兼ねた幻覚の説明)
今回は、すっかり疲れてしまって元気がない手塚をよしよしする芝浦くんの話です。
普段は甘やかしている年下ボーイに甘やかされちゃう概念。
健康にいいと思いませんか?
栄養素、高いと思いませんか?
俺はそう思うので、今日から皆さんもそう思ってくださいッ!
(挨拶を兼ねた幻覚の説明)
今回は、すっかり疲れてしまって元気がない手塚をよしよしする芝浦くんの話です。
普段は甘やかしている年下ボーイに甘やかされちゃう概念。
健康にいいと思いませんか?
栄養素、高いと思いませんか?
俺はそう思うので、今日から皆さんもそう思ってくださいッ!
『明日もいい日にしていこう』
家に帰るなり手塚は着替えるのも億劫といった様子でソファーに身を投げ出した。
やる事は沢山あったが一端休まないととても動けそうにないほど心身ともに疲れ切っていたからだ。
誰にだってツイてない時はあるし、調子が悪い時はある。だが今日の手塚は特にツイていなかった。バイクで走れば泥をはね気に入ったズボンを汚してしまうし、店を出せばガラの悪い客に絡まれ時間ばかりとって稼ぎにはならなかった。
天気予報では雨など降らないと言っていたはずだが昼過ぎからにわか雨に降られ、慌てて店を片付けたとたんに雨がやみ、また店を出そうとしたら雨が降る……なんて事を3回ほど繰り返した。 踏んだり蹴ったりだ。良い事なんて一つもない。丸一日外に出て、全て徒労だったと言っても過言ではなかったろう。
「あれー、手塚お疲れ? ま、今日は俺が夕飯作ったからそれでも食べてよ」
そんな手塚に明るい声をかけながら芝浦は笑顔を見せた。キッチンからはカレーの匂いがする。彼が部屋にきて夕食を作っていてくれなければ、今日は何も食べずに寝ていた所だったろう。
「あぁ、悪いな。もう少し休んでから……食べる……」
ソファーにうつ伏せになったまま、手塚は呻くようにそうこたえた。
身体はそれほど疲れてはいなかったが、起き上がるにはもう少しこの家でくつろいでからにしたかった。その位に疲れていたのだ。
「珍しいね、手塚がそこまで疲れて帰ってくるのって。いつもわりと余裕な顔してるじゃん。何かイヤな事でもあった?」
「まぁ、そうだな……客商売だ、面倒事に巻き込まれる事だってある」
「ふーん、占い師でも運気が悪いのは避けられないんだ」
芝浦はそう言いながらキッチンへ立つ。どうやらカレーを温め直しているようだ。いつもだったら手伝いの一つでもするのだが今日はとてもそんな気になれず、ただ後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
「占い師だからこそ、自分の未来はよくわからないものだ……どうしても自分の事となると私見が入って……より『こうなりたい』という欲求から、正確なリーディングが出来なくなるからな……」
「そういうもんなんだ……あ、カレーいつでもオッケーだから食べたい時に言ってね。冷蔵庫にポテトサラダも入ってるから」
「……いつも悪いな」
「全然。泊めてもらってる恩もあるし、俺がしてあげたいからしてるだけだからね」
芝浦はカレーの火を止めるとまだ起きようとしない手塚の前にひざまづきぱっと両手を広げて見せた。
「はい、どーぞ」
「……何だ?」
「俺の事、好きなだけぎゅーってしていいよ。今日ツイてなかったんでしょ? でも俺の事ぎゅーって出来るんだったら一つはいい事あったって思えるじゃん。ね?」
そして得意気な顔をしながらそう言ってみせる。
自分を抱きしめる事が悪い事だらけの1日のなかで「良い事」になるという自信があるのはいかにも芝浦らしいと言えるだろう。
元々スキンシップが好きな芝浦は何も言っていなくても自分から傍により抱きついてきたり、手に触れたりしてくるタイプなので「抱きしめても良い」と言われてもそれほど特別感はないのだが、せっかく手まで広げているのだから乗らないでおけばきっと後で拗ねるだろう。
手塚は身体を起こすと、手を広げる芝浦の身体を強く抱きしめた。
「はいはい、おつかれさまー……元気出た? ね、いい事あったでしょー」
芝浦は笑いながら手塚の頭を撫でる。いつもは自分より少しだけ背の低い芝浦の頭を撫でる事が多かったが、たまには撫でられるのも悪くない。その手も身体も温かく、心地よい香りが微かにした。
鼻孔をくすぐるこの香りは一体何なのだろうと思いながら、手塚はその胸に顔を埋めた。香水の匂いだろうか。芝浦は普段から香水をつけているから、あるいはそうなのだろう。森の中を歩いているような心地よく安らぐ香りは今日あった悪い事を少しずつ忘れさせてくれた。
「ちょ、っと……手塚。苦しいって、強く抱きすぎ……」
つい夢中になりすぎたか、芝浦は苦しそうな声をあげながら手塚の背中を軽く叩く。
だがこの安らぎと温もりからすぐに離れてしまうのは惜しいと思ったから、手塚は自然と唇を重ねていた。不意打ちのキスに芝浦は少し驚いた素振りを見せたが、すぐに目を閉じて重ねた唇に舌を這わせる。互いの舌が絡み合う口づけは穏やかなものから少しずつ貪るようなものへと変わっていくのはもはや必然だったろう。
そうして互いに唇を重ねあい求め合う時間が暫く続いた後、芝浦は名残惜しそうに唇を離し、目を伏せた。
「……キスまでしろとは、言ってないんですけど?」
口ではそう言うが、伏せた顔からは笑顔が覗える。もう何度もキスを交しているがいつでも、何度しても自分とのキスは嬉しいのだろう。芝浦にはそういう所があった。
「キスの一つじゃまだ足りないくらいイヤな日だったんだ……それを忘れてしまう程キスをしたいんだが、ダメか」
「もー、仕方ないな……いいよ。いっぱいキスして、イヤな事ぜーんぶ忘れちゃお。ってか、俺が忘れさせちゃうからね?」
手塚の言葉にこたえるように、甘えるようなキスが交される。
イヤな事は沢山あった。ツイてない日だったと思う。だがそれも、全て忘れる事が出来そうだ。
そしてこれからも、こんな風にイヤな事を幸せに書き換える事が出来ればいい。
幸福を胸に抱き、手塚はただぼんやりとそんな事を考えるのだった。
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