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インターネット字書きマンの落書き帳

   
可愛いのは分っているのだ。(手芝・みゆしば)
平和な世界線で普通に恋人同士として付き合う手塚と芝浦の幻覚です。
(もはや日常の挨拶)

普段からわりと童顔なので「可愛いね」「かわいいねぇ」と言われすぎて、言われ慣れて半ばウンザリしているしばじゅんちゃんだけど、みゆみゆに言われると「うわすごい嬉しい!」ってなっちゃうチョロいなしばじゅんちゃん!

って話ですよ。
つまり、俺の日常スタイル駄文というワケです。
どうぞ。




『誰が言うかで違うこと』

 窓の外へと視線を向け、何をするでも無く呆けていると不意に見覚えのある誰かが芝浦の髪に触れた。
 今日は髪をセットしてこなかったからぺたんと垂れた前髪を上げると、顔は知っているが名前は何となくでしか憶えていない誰かは笑う。

「芝浦、本当に可愛い顔してるなぁ。な、暇なら一緒にどうだ。コーヒーくらいなら奢るぜ」

 ナンパだろうか。
 この大学は男女比率で男の方が圧倒的に多いのもあってか、男でも気軽に口説こうとする輩は少なくもない。

「遠慮しとこっかな。アンタ俺の好みじゃないから」

 悪戯っぽく笑いながらもハッキリと断る芝浦に、相手は少し気を悪くしたような顔をすると 「こっちだってお前みたいなガキ、本気で誘うかよ」 そんな捨て台詞を残して去って行った。

「全く、そういう所がモテない原因なんじゃないの? ……釣れなかった魚に文句を言うほどみっともない事って無いと思うけど」

 芝浦はそう独りごちると、また窓の外へと視線を向けた。
 大学の構内は緑が多く、木々も芝生も綺麗に手入れがされている。
 とはいえもう12月だ。つい先日まで色づいていた銀杏もすっかり葉が落ちて、今は枝だけが寂しく風に吹き付けられている。

 そんな光景を眺めながら、芝浦はぼんやりと昔の事を思いだしていた。

『キミ、可愛いね。何て名前?』
 男子校生活も長かったから、そんな風に声をかけられるのは慣れていた。
 自分の見た目が可愛い事も自覚していたから、随分とそれを利用していた所もある。

『相変わらず、ご子息は愛らしいですね。お母様にそっくりだ』
 父の取引先や、古くからの知人には多くそう言われてきた。
 芝浦自身は母の記憶など殆どなく、写真や映像の一切も残っていないため自分が母親にどれだけ似ているのか判別できなかったが、父親には似てないので皆の言う通り、母親に似ているのだろう。
 母親の面影が強いという事は、やはり周囲からは愛らしい風に思われるのだ。

『お前って、どっちかといえば童顔だよな、可愛い顔してるもんな』
 以前城戸と酒を飲んだ時、やけに明るくなった城戸にそう言いながら撫でくり回されたのを思い出す。そういう城戸だって年齢の割に幼い顔立ちに思えるが、童顔である自覚はある。
 実際にコンビニで酒類を買う時は決まって年齢確認のため学生証を提示していた位なのだから、多分高校生くらいに思われているのだろう。

「……可愛いって言われても、全然嬉しくないんだよね」

 やはり、いい思い出がない。
 どうにも子供扱いされているような、相手から格下に見られているような気がしてむしろ不愉快にすら思えてきた。
 とはいえ「可愛い芝浦淳」という印象は利用しない手はない。可愛いと言われる度にそれを利用し、食事を奢ってもらったり、時計や靴、万年筆と高価なものを貢がせたりしてきたが。

(今はそういう気にもならないんだよね……)

 芝浦は一つため息をつくと、ゆらりと立ち上がる。
 今日の授業は終っていたがやる事もなかった為何となく構内に残っていたが、寂しさばかりが募るのはこの寒さのせいだろうか。

(……やっぱり、会いに行こ。邪魔しちゃうといけないと思ってたけど、今日は我慢できないし)

 芝浦は厚手のコートを羽織ると、馴染みの道へと進んでいった。
 大学から公園までの道。手塚が普段占い師として店を出している公園までの道のりを。

「よぉ、寒いのによくやってるね」

 冬空の下、テントもない路上に椅子と簡素なテーブルだけの店を出してた手塚は座っていた。夏場は薄手のジャケットだけだった手塚も流石に寒くなってきたのか、厚手の赤いダウンジャケットにマフラーとしっかり防寒装備になっている。

「……芝浦か」

 手塚は指先に息を吹きかけながら、芝浦の方を見た。占いの時、手塚は手袋をしない。手塚が主に占いで使うのはコインやカードだったが、いずれを使うにしても手で触れないと感覚が鈍り、インスピレーションがわかないからというのが主たる理由らしい。

 スピリチュアルやインスピレーションといった類いの話はあまり信じてない芝浦だったが、職人が指先の加減で感覚が変わるから手袋をしないで作業をするようなものだと勝手に解釈している。

「はは、今日は寒いから客なんていないんじゃないかー?」
「……見ての通りだ。真夏もダメだが、寒さが厳しくなるとやはり客入りは悪いな。とはいえ、冬はより道に迷う者も多い。お前が思っているより、訪ねてくる客はいる」
「ホントにー? 見栄はってない? ……はい、これ。コンビニで暖かい飲み物買ってきたからどーぞ」
「そんなつまらない見栄を張ってどうするんだ……ありがとう、貰おう」

 手塚にジャスミンティーを手渡すと、芝浦は手塚のすぐ隣に腰掛けミルクティーのペットボトルを開ける。
 その横顔を、手塚は物珍しそうに眺めていた。

「なに? ……そんな俺の方見て。俺の顔に、何かついてる?」
「いや……前髪を下ろしてるのは珍しいと思ってな」

 そういえば、大学であったあの男も珍しそうに髪を上げて芝浦の顔を見ていたのを思い出す。今朝は思ったより寝坊をして、髪をセットする時間がなくそのままで出かけてしまったのだ。
 とはいえ、シャワーを浴びた後や一緒に寝ている時など、手塚の前で髪を下ろしている所は何度も見せているはずだが。

「……今更それ言う? 散々見てるでしょ俺のこういう髪型」
「それはそうだが……外ではあまり見ないからな」

 そう言いながら手塚は芝浦の髪を指先で上げると、微笑んで見せた。

「……可愛いな、淳。髪を下ろすのも似合っているぞ」

 ただ一言だが、芝浦は胸の鼓動が激しくなるのを感じる。暖かい飲み物を飲んだというワケでもないのに身体の内側から温もりが広がって、気恥ずかしいさとうれしさが同時にこみ上げてくる。

(あいつに言われた時は何とも思わなかったのに……)

 他の誰かに言われても、どこか小馬鹿にされているような気がして不愉快だったはずの「可愛い」という言葉が、手塚に言われると照れくさい程に嬉しいと思えてしまうのだ。
 嫌いな言葉のはずなのに、手塚に可愛いと思われるのは嬉しいし、幸せに思えるのは不思議だったが。

(……好きな男に言われると、こんなに嬉しいんだな)

 改めて芝浦は、手塚への愛を実感する。

 恋愛なんて、メリットはない。
 誰かを好きになって、のめり込んだ後に愛情が冷めたら傷つくだろうし、手元に残るのは思い出くらいなもの。思い出には利益がない。
 利益のない事のために言葉を交し、愛を語り、肌を重ね、お互いを知る。
 そういった全てが億劫なだけだと思っていた芝浦はそれまで誰かを愛そうとはしなかったし、誰かを好きになるとも思ってはいなかった。

 だが実際に好きになってみるとどうだろう。
 交した小さな言葉が。触れた指先が。重ねた唇が。全て幸せで、全て嬉しいのだ。

「どうした、急に黙るなんてらしくないな。俺は……そんなにおかしい事を言っていたか?」

 突然可愛いと言われて驚いたやら恥ずかしいやらで、暫く無言になっていたのだろう。
 心配そうにこちらを見る手塚の肩に頭を乗せると。

「べつに。何でもなーい……ただ、ちょっと。俺って幸せものだなーって思ってただけ」

 そう言いながら手塚に笑って見せる。
 そんな芝浦の頭を撫でると、手塚は自然と彼の身体を抱き寄せた。

 外は相変わらず寒く人通りも少ない中、二人は並んで寄り添いながら暖かな飲み物を口にする。
 何でもないそんな日常が、今は互いに幸せだと感じていた。

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東吾
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インターネット駄文書き
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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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