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インターネット字書きマンの落書き帳

   
台風でしまわれるお坊ちゃんのはなし(みゆしば・BL)
平和な世界線で普通に付き合っている手塚と芝浦の話です。(挨拶と幻覚を一気に説明していくスタイル)

今回は台風の時に坊ちゃんをしまえ!
がテーマの話をしました。

普段の台風ではホテルなどに避難して優雅に生活をしていたから台風に対しての危機感が低すぎる芝浦くんを部屋にしまう手塚の話です。
書いている感じだとまだ付き合って間もないか付き合ってるかギリギリのラインの話ですねはい。

台風の時は犬をしまえ! ねこをしまえ! お坊ちゃんをしまえ!




『台風一過』

 すっかり人通りの無くなった公園を眺め、手塚海之は独りごちる。

「流石に今日は足を止める客などいないか……」

 そして僅かに顔を上げ空を見た。灰色の雲はまるで緞帳のように空一面を覆い尽くしているかと思えば強い風が吹き付けて簡素なテーブルに敷いたクロスが巻き上がる。
 今日は夜から台風が来る予報になっていたがどうやら思いのほか早くに影響は出ているようだ。
 午後からの台風に備えているのだろう。早めに店を閉め看板をしまう店やすでにシャッターを下ろしてしまった店もある。
 外がそのような状態なのだから当然道を歩く人も普段よりずっと少なかった。

 こんな日にわざわざ占いを求める人間はいないだろう。
 仮にいたとしても風が強く話し声が聞き取れない。 商売にならない以上ここにいても仕方ないと思った手塚は簡素なテーブルを片付け早めに帰るコトにした。

 台風は今夜中に都内をかすめて通り明日の朝までは抜けていくという。
 つまり今夜が強風と大雨のピークになるということだ。
 家賃のわりに広めの部屋だが築年数も随分古く一階にある手塚の部屋は台風ともなれば激しく揺れ何処からかまるで獣の咆哮のような音まで聞こえてくるのだ。 台風にそなえバイクが倒れないよう準備もしなければならない。予報では明日までに通り過ぎるというが食糧も少し買い足しておいたほうがいいだろう。
 早く帰ってもやることは沢山ある。それを思うとうんざりしたが備えを怠って後で困るのはこちらなのだから仕方ないだろう。
 帰り際に出来合いのコロッケや惣菜を買い足しアパートへ戻れば駐車場で空を見上げる芝浦淳の姿があった。

「何しているんだ芝浦? じきに台風が来るんだぞ」

 まさかこんな日に来るとは思わず、手塚はすぐに声をあげて駆け寄る。すると芝浦は不思議そうに首を傾げ手塚を見た。

「えっ。あぁ、そう……そういえばそんな事言ってたっけ。大学も台風だから早めに終わってさ、家に帰っても暇だから……」
「天気予報を見てないのかお前は……夜には台風が直撃するんだぞ。早く家に帰れ……俺の家が崩れるという事はないだろうがそれでもお前の家の方が安全だ」
「そんなにヤバいの? 普段、台風とか意識したことなかったからなー……」

 芝浦はのんびりとした様子で空を見る。目まぐるしく流れていく雲がよほど珍しいのだろう。空を指さすと無邪気に笑って見せた。

「ほら、手塚。見てみろよ、あんなに雲が早く流れてる。すごいよねー……風もすっごい強いし。こういうのも全部台風のせいってやつ? 俺初めて見たかもこういうの」

 おそらく芝浦は普段から作りの良い家に住み送迎があるのが当然といった生活をしている箱入りのボンボンであるが故に台風で吹き付ける雨風の強さなどをあまり身近に感じたコトなどないのだろう。被害に対して実体験などなく、後片付けも使用人がやっているから危機感が薄いのだ。
 危ないから帰った方がいいとは告げたが全く危機感を抱いていない様子だった。

 このまま家に帰るよう言いつけてもフラフラと遊びに出てしまいゲーセンやカラオケボックスで暇な時間を埋めるうち台風で孤立などしかねない。そういう危なっかしさが芝浦にはあった。

「仕方ない……今日はうちに泊まっていけ。だが予め言っておくが俺の家は安普請の古い家だ。お前の家のように安全に過ごせるような家ではないから覚悟はしておけよ」

 手塚はそう告げると流れる雲を面白そうに眺めている芝浦を小脇に抱きかかえるよう引きずると無理矢理部屋へと押し込んだ。
 それからすぐにバイクを固定し風で倒れないよう対策をし部屋に戻る。 そして戻ればまた部屋から出て空を眺めながら芝浦が。

「本当にすげー雲が流れてるー……いやー、俺こういう時って外出た事なかったからさ、何かすっごいんだね自然ってー」

 そう言いながらカラカラ笑っているのを見つけたのでまた小脇に抱え引っ張ると再度部屋の中に入れた。
 やはり台風に対して危機感が全くない。大切に守られて育って来たのだろうがそのせいで随分と世間知らずになってしまったところが芝浦にはあるのだ。
 何とか芝浦を無事にしまい終え出来合のコロッケを皿に並べる。
 そうこうしているうちに風が強くなり、部屋中が小さく揺れはじめた。

「さっきから窓とかすっごい揺れてるんだけど、地震?」

 流石に異変には気付いたのだろう。カタカタと小さな音へ耳を澄ますと芝浦はどこが音の出所なのかわからないといった様子で不思議そうに室内を歩き回る。 思いのほか音がするものだから不安になってきたのかもしれない。
 流れる雲はますます濃い灰色へと変化し今にも雨が降り出しそうだった。

「言っただろう。うちはお前の家と違うボロ家だからな……台風ともなればひどい音もするし風も吹き付ける。本格的に直撃する今夜は唸るような音もするだろう……今なら間に合う、家に帰るんだ。怖い思いをしたくなければな」

 事実を告げたつもりだが芝浦は脅して無理矢理帰らせるつもりなのだと思ったのだろう。

「大丈夫だって、いくら何でも家が飛ばされるとかじゃないっしょ? それにもう友達の家に泊まるって連絡しちゃったし、今から家に帰ろうって駅とか混んでたら嫌だもんねー」

 強がるように言うと窓からまた空を見ていた。流れる雲は今にも雨が降りそうな色へと変わり強い風が吹き付けるたび窓ガラスが揺れる。
 それを見て芝浦はようやく窓が揺れているのに気付き納得したように頷いていた。

 芝浦の家に入った事はないのだが都内の建物としては立派な外観をしている。台風で窓が揺れる所など意識してなければ見ないだろうしその前に雨戸を閉めているのだろう。
 そのうちいよいよ雨が降り出してきた。窓ガラスを一つ大粒の雨が叩いたと思えばバケツをひっくり返したように激しくガラスをたたきつける。

「うわっ、雨が降ってきた! うわー……すっげーこんな風になるんだ……いまさ、最初の雨が降ってから一瞬だったよな一瞬! 一瞬でドバーっと!」

 芝浦はやや興奮気味に手を広げて説明する。 雨など本格的に降り出すのは夜からだと聞いていたが思いのほか早く来ているのだろうか。それとも一時的なものだろう。

「そうだ、台風の時は急に激しく降り出す……いや、台風に限らず急に降り出す事も珍しくないだろう? 今は流石に雨脚が強すぎるが、もう少し弱くなったら雨戸を閉めるからな……何か飛んで窓ガラスが割れたら目も当てられないしな」

 そう言う合間にも窓を叩く雨音はいっそうと激しくなり手塚の声すらかき消す程となる。その雨を芝浦はさも珍しいものを見るように眺めていた。

「うわ、うわー……すっげー音! すっげー雨! 窓ガラス割れそうなんだけど!? 台風だから? なぁ手塚ぁ、これって台風だからー?」

 脳天気に問いかける声は子供のように楽しそうだ。実際子供なのだろう。こういった自然現象を近くで目の当たりにする事など滅多になかったのだろう。
 だが大雨だけでこんなに驚けるものなのか。驚きと興味から手塚は普段の芝浦がどう過ごしているのか聞いてみることにした。

「おい、そんなにはしゃぐな……おまえ、台風の時は普段どうしてたんだ……」
「え? 台風の時? うーん……家にはあんまりいないかもなー、だいたいホテル? 参考書とか必用なものを取りに行ってー、数日ホテルから学校にいってたかなぁ……ほら、そうすればより学校から近くで通えるし……」

 芝浦の言うホテルは当然、カプセルホテルのような安宿ではなく名だたる一流ホテルのことだろう。 なるほど、面倒ごとは使用人にでも任せて自分たちはホテルの最上級サービスを受けてやりすごすのだから普段台風が云々なんて気にもとめないのは当然かもしれない。
 想像を超える芝浦の台風対策に驚くと同時に窓に打ち付ける雨をこれほど珍しそうに眺めるのも合点がいった。

「すっごいな……なぁ、この雨とか外出たら一瞬で濡れるかな? な、なっ?」

 芝浦は目を輝かせて聞いたので手塚は慌ててその腰を抱き留めると静かにソファーへ座らせた。 黙っていたら本当に外に出かねないからだ。
 もう雨も降り出したし風もますます強くなってきた。外に出れば危険なものが翔んでくる可能性は高い。台風ではビニール傘でさえ凶器になるのだからうかつに外に出て怪我をさせるワケにはいかない。

「何で出ちゃいけないんだよーちょっとくらい大丈夫だって!」

 ソファーでソワソワと外の様子をうかがう芝浦を横に手塚は雨戸を閉めた。

「大丈夫なわけがあるか。怪我でもしたらどうする……これだけ風が強ければ植木鉢や看板も翔んでくるかもしれんぞ。そんなものにマトモに当たれば骨折くらいする」
「大げさだなぁ、その前に逃げてくるって」
「お前が楽観的すぎるんだ、まったく……」

 手塚は呆れながらテレビを付ければニュースではしきりに台風情報を流している。 そこには土砂崩れがおこった町並みや氾濫した河川の様子が伝えられ、芝浦はそれもまた珍しそうに見ていた。
 台風ともなればホテルにしまわれそこで豪華なディナーを楽しみゆったりくつろぎ明日への英気を養う。そんな生活をしていた芝浦には台風の危険性を伝えるキャスターたちもまた珍しいのだろう。

「何でこの人たち、こんな風強い日に外に出てリポートしてるの? 危ないじゃん」

 今さっきまで自分がしようとしてた事など棚に上げ、そんな事を言うのだった。
 ますます雨は勢いを増し、吹き付ける風はアパートの側面をたたきつけ何処から抜けていくのか唸るような音を室内に響かせる。
 まるで部屋全体が大きな管楽器になったような音を聞いた時は芝浦も飛び上がり怯えたように天井を見た。

「さっきからさぁ、すっごい音するんだけどこの部屋。大丈夫だよね? 何か突然崩れたりとかしないよね……」

 芝浦は座り時々鳴る大きな音に耳を押さえている。アパートが簡単に倒れるとも思えないし近くに崩れるような崖もないから家にいれば安全だろうがそれでもこれだけ音がするのは滅多にないことだ。
 手塚は玄関から染み出る水を抑えるため古いバスタオルをドア前に詰める。そうしないと翌日には玄関が水たまりになってしまうからだ。 念のため靴もすべて部屋に上げておくことにした。

「どうした芝浦、やっぱり帰った方がよかったと思っているのか?」

 一通りの台風対策を終えてハーブティーを準備すれば芝浦は首を振り手塚を見る。

「いやいやいや、そんなことないって! むしろこんな家に手塚を置いて行くとかひでーことしないもん、俺」

 そして一丁前の男なんだという顔をして胸を張って見せるのだ。 まるで自分が手塚を守ってやるとでも言いたげに。

「それにしてもほんっと、すっごい音なんだけど……あのさ、本当にこの部屋大丈夫だよね? 壊れたり崩れたりしないよね?」

 また大きな音が部屋中に響くから耳を押さえて小さくなり似たようなコトを何度も聞く芝浦を前に、手塚は自然と笑顔になる。 自分よりずっと怯えているしこんな事態にも不慣れだろうがそれでも賢明にこちらを見て守ろうとしてくれるのだ。
 そう思うと何と愛おしいのだろう。
 暖かなハーブティーをテーブルの上に置くと手塚は芝浦の隣に座る。 相変わらず外は強い雨風に晒され室内でも大きな音が響くといった有様だ。

「うー……台風って家にいるとすっごい音するのな……あ、でも大丈夫だから! 怖いとかじゃないし、ちゃーんと手塚の傍にいてやるから心配するなよ、なー」

 すぐに抱きついて顔を胸元へと埋めてくる芝浦を撫でながら、手塚はただ思うのだ。
 今日という日がこのまま幸福に、何事も無く過ぎていくようにと。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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