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インターネット字書きマンの落書き帳

   
腕時計を交換するみゆしばの話(BL)
平和な世界線で普通につきあってる手塚×芝浦の話をサルベージするコーナーです。

こちら過去に書いた話かつ、比較的にみゆしばを書いて間もない頃の話ですね。
個人的に気に入ってるシチュエーションなので発掘できて嬉しい!
もう無くなっちゃったと思ったからネ……。

まだ付き合う前のみゆしばが、互いの時計を交換してキャッキャする話です。
そこのお前! さらりと交換した芝浦の時計は、乗用車一台分だぜ!



『互いの手で時を刻む』

 サークル仲間と行く予定だったカラオケが急にキャンセルになったので、時間を持て余した芝浦は手塚の家へと向った。あいにく手塚は留守だったが、もらった合い鍵で中に入り部屋で待つ事にする。
 手土産代わりの菓子とジュース、それにビールを冷蔵庫に入れソファーの上で課題用の本を読んでいるうちに、知らぬ間に眠っていたらしい。

「何だ、芝浦。来てたのか」

 手塚にそう声をかけられ目を覚ました時、部屋はすっかり暗くなっていた。

「部屋の電気がついてないから誰もいないと思ったぞ」

 手塚はそう言いながらジャケットを脱ぎ、ワイシャツのボタンを外してから今まで芝浦が眠っていたソファーに座る。その手には赤い秒針がやけに印象的な腕時計がはめられていた。
 決して派手な作りではないが文字盤も大きくいかにも見やすく、機能美を愛する手塚らしい腕時計だと思いながら芝浦はそれを眺めていた。

「あぁ、ごめん寝ちゃってたみたいでさ。冷蔵庫にビール入ってるから飲んでよ」
「いつも悪いな、気を遣わなくていいんだぞ、まだ学生だろ」
「へへー……勝手に転がり込んでるのは俺だからさ。世話になってばかりじゃ申し訳ないから、少しくらい恩返しってやつ?」

 実際、あまり話が会わないサークル仲間とカラオケで小銭を使うなら手塚が喜ぶ事に使った方がずっといいというのが、芝浦の正直な気持ちでもあった。
 つまらない相手の下らない話に付き合うより、言葉数が少なくとも手塚の傍にいるほうがよっぽど安心するし楽しいと思えるのだ。

「で、何する? 飯でも作る? DVDでも見る? それとも……」
「そうだな……」

 手塚はふと芝浦を見ると彼を後ろから抱きしめるように座り直す。
 手塚自身あまり意識してないようだが、どうも彼は芝浦を自分の膝にのせるようにして後ろから抱きしめるのが落ち着くのか、よくそうやって芝浦を抱きしめていた。

(ちょ、ちょっと……手塚って普段から別に何か言ったりはしないのに、突然こうやってギュってしてくれるんだよな……変に距離が近いっていうか……)

 手塚には言っていないが、芝浦は少なくとも彼に好意を抱いていた。
 初めて会った時は「顔とスタイルがいい割りに占いをしている男」として認識して近づいたのだが、今は憧れとも思慕とも判別出来ない感情を抱いている。
 手塚にも好きになってもらえたら……。
 そう思わないワケでもないが、気付いた時には恋愛対象が同性だけであった芝浦と違い手塚の恋愛対象は異性だけだろうと、少なくとも芝浦はそう思っている。
 だから自分からあまり積極的にアプローチをするのは避けていたのだ。

(それでもこう……手塚の方が結構積極的というか。思ったよりスキンシップに抵抗ないタイプみたいだから、ちょっと期待しちゃうんだよね……)

 急に抱き寄せられて手持ちぶさたになった芝浦は、さっきまで眺めていた腕時計に触れる。
 指先から秒針の音が聞こえてくるような気がした。

「……ん、時計。気になるのか?」
「あっ。んー……うん、まぁ気になるっていえば気になるかな。機能的で格好いいじゃん」
「つけてみるか?」

 芝浦がこたえる前に手塚は自分の時計を外すと、芝浦の細い手に腕時計をはめてみせる。
 手塚のやけに白い指が滑るように触れるのを見て、芝浦は何とも言えぬくすぐったい気持ちになった。

「やはり、俺より少しばかり腕が細いな……ベルト穴一つぶん俺の方が大きいみたいだ」

 手塚はそう言い、腕時計のベルトが丁度良いか確かめる。
 さっきまで手塚の腕にあった時計。それも、手塚が長年使っていたのがベルトの穴で解る時計は今、芝浦の腕で時を刻んでいた。

「へへ……そうだね。背は違っても体型はそんなに違わないかなーと思ってたけど、やっぱ手塚の方が大きいんだ」

 腕時計に触れれば、まだ暖かいような気がする。
 芝浦は何度も時計盤を眺め、使い古されたベルトの穴に触れていた。

「なんか、俺ばっかり悪いなぁ……あ、そうだ。手塚も俺の時計つけてみてる?」
「どうした、急に」
「俺も今日は時計つけてきてるからさ。交換しよう! な、いいだろ」

 芝浦も手塚のこたえを聞くより先に自分の腕時計を外し、さっきまで手塚が時計をつけていた場所にそれをはめる。
 腕時計は普段芝浦が使っているベルト穴より一つ大きい場所で手塚の腕におさまった。

「……お前の時計、思ったより見やすいな」

 自分の手にはめられた時計を眺めながら、手塚はそんな事を言う。

「手塚の時計も機能的で見やすいぜ。俺気に入っちゃった……へへ、せっかくだから時計、交換しちゃおっか?」
「何いってるんだ。お前のは……かなり高いものだろう?」

 あまりブランドものなどに興味がない手塚でも、その時計がかなり高価なものである事に気付いたようだった。
 とはいえ芝浦はいくつも似たような時計をもっているし、今手塚がしている時計も父から何かの機会に渡されたものでそれほど思い入れがあるワケでもない。
 困惑する手塚を前に、芝浦は屈託ない笑顔を向ける。

「いーのいーの、俺にとっては一杯ある時計のうちの一つでしか無いんだし。でも、今俺がつけてる時計って手塚が使っていた痕跡が残ってる時計だろ? ……ベルト穴がこんな風になってる時計はこれしかないっ時計ってこれだけしか無い訳じゃん? 俺の時計は欲しいと思ったらまた買えるけど、手塚が使い古した時計はこの一つしかないワケだから、俺にとって手塚が使っていたこの時計の方が断然、価値があるものなんだよね」

 その言葉に、手塚は少し驚いたような表情を見せた。
 やはり急に交換しようと言われても困るだろうか。無理を言って手塚を困らせるのは本意ではない。

「あっ、えーっと……でも、俺の時計が嫌だったら無理に交換しなくてもいいけど……」

 慌てて取り繕おうとする芝浦の頭を撫でると、手塚は静かに微笑む。

「わかった。お前がつけていた時計で生活するのも、悪くないだろうからな」

 そして芝浦の手を優しく包み込むように握りしめる。
 その腕には互い、大きさの違っていた痕跡の残る時計が同じ時を刻んでいた。

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