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インターネット字書きマンの落書き帳

   
芝浦家の華麗なる一族(BL)
平和な世界線で手塚と付き合っている芝浦の話をするBlogです。

この話はもともと同人誌を書く時のテーマとしてェ……。
芝浦親子という存在を自分なりに書いてみたいなぁと思い書いた作品なので……。

存在しない芝浦父という概念がメチャクチャに出てきます。
存在しない芝浦の父と、20年以上前に行方不明になっている芝浦の母。
父子家庭で育った芝浦家と、嫡男としてコントロールされて育っていた芝浦淳……。

そんな俺の好き要素全部盛りです。
二次創作はやったものがち! って死んだバーサンも行ってた!(真顔)

近親相姦要素はないです。
匂わせたいのが正直なところだけど最近厳しいんだモン……。

『父と息子と』

 家に入った瞬間肌に焼けるような緊張感が走った事で芝浦淳は父が家に帰ってきているのだという事をすぐに察した。玄関には自分の履く靴より少し大きな黒革の靴が置かれている。

「坊ちゃん、お帰りなさいませ」

 普段から家にいる使用人がいつもに増して丁重に頭を下げるのを芝浦は手で制した。
 芝浦の父は放任主義ではあるが家の中で彼が自分勝手に振る舞うのを許すほど寛容ではない。
 一人息子かつ芝浦家の跡取りとして厳しく躾ており、言葉使いから服装に至るまでいずれ芝浦家を背負う立場であるという事を常々忘れないように強要するような男だった。
 それ故に芝浦は父の前では芝浦家の跡取り息子に相応しい賢く従順な嫡男の役割を演じなければならなかったのだ。

「分ってる。オヤジ……父さんが帰って来てるんだろ? 上手くやるから、下がっていていいよ。ありがと」

 この使用人は芝浦の家に長く仕えている。元々は父の秘書兼執事であったが芝浦が生まれて程なくしてからは彼のお目付役となり、身の回りのマナーから勉強に至るまであらゆる面倒を見てきた男だ。ある意味では誰より芝浦家を理解しているとも言えよう。だからこそ芝浦家の歪ともいえる親子関係に気を揉んでいるようであった。
 芝浦は使用人を心配させまいとなんともないように振る舞ったが、それでも内心は穏やかではない。仕事の上では帝王のように振る舞い、家庭でもやはり同じように絶対でなければ許せないといった父の一挙手一投足に気を遣うのは息が詰まるからだ。
 とはいえ、気付かないふりをして部屋に入ろうものなら相手をするよりよほど面倒くさい事になる。
 芝浦は軽く深呼吸しながら洗面所で手洗いすると「よし」と小声で呟いてリビングへと向う。
 そこに、父はいた。
 ウイスキーグラスを傾けながら、新聞を広げている。 だが新聞を読んでいるワケでもなければ酒を楽しんでいるというワケでもなさそうだ。虚空を向いて視線を彷徨わせる姿は、何か思案しているようだった。

「ただいま、父さん」

 芝浦の言葉に、父は生返事をする。
 久しぶりに家に帰ったと思ったが、ただ顔を見せただけなのか芝浦の方を見ようともしない。
 また晩餐会の誘いか、仕事の手伝いをしろって話かと思ったけど。ただ帰って来ただけなのかもしれない。何もないのに家に帰ってくるのは、芝浦の父には殆どあり得ない事だった。
 というのも、芝浦の父は普段から滅多に家に戻る事はないのだ。会社近くに購入した自身所有のマンションで過ごしており、一年の程などをそこで過ごしているからだ。そのマンションがどこにあるのかは知っているが、息子である芝浦も立ち入った事は一度もない。
 それ故に父が普段からどんな生活をしているのかも、そのマンションに誰が出入りしているのかさえも芝浦は知らなかったし、特にそれに興味もなかった。
 母がいなくなってから随分と経つ。後妻をとってもおかしくないのだから部屋に女性を連れていても別段驚きもしないだろう。部屋が散らかっていようが、逆に整然としてようが、アブノーマルな趣味のものが置かれていようが今更驚く事もない。
 それでも父が生活する場へ行こうと思わなかったのは、単純に父といる事が窮屈で仕方なかったからだ。
 自分の理想の手駒として育ってない息子を容赦なく矯正しようとする父の束縛は目に見えてのものではないが、それでも確実に芝浦の人生を支配していた。
 特に話しかけてこないのなら、こちらから何か言う事もないだろう。
 芝浦は冷蔵庫からリンゴジュースを取り出すと、それを一杯飲みほしてからグラスを洗い元の場所へと戻した。
 父は相変わらず、何かを思案しているようだ。
 芝浦の言葉に生返事しかしなかった。だが、芝浦が戻っている事は当然気付いているのだろう。何も言ってなくとも部屋にいる芝浦の動きを察知している気配がはっきりと伝わる。
 ……だから息苦しいんだ、オヤジといるの。まるで常にこっちを観察してるようで……俺の動きが気に入らないと小さい事でも何でも口を出す。たまにしか戻ってこない癖に、本当……鬱陶しい。
 芝浦は内心でそう、舌打ちする。
 だが、父に顔を出し挨拶をしたのなら自分の義理は果たした。 もう部屋にもどってもいいだろう。何か言われる前に退散しようと芝浦はリビングのドアに向う。

「もう遅いから、俺は部屋に帰るよ。父さん。おやすみなさい」

 こんな息苦しい部屋からはとっとと退散したかったのだが。

「淳、まて。こっちに来て顔を見せろ」

 父はそんな芝浦を呼び止める。
 久しぶりに戻ってきて何の気まぐれかと思ったが、やはり自分に伝える事があったのか。いや、父が戻ってくる時は大概芝浦に所用を言いつける時だから何も言わない事の方が稀なのだが。
 芝浦は小さく息を吐くと、父の傍へと向った。

「どうしたの、父さん。俺に何か?」

 芝浦は大学二年生だ。
 年齢からすると本来は三年生になっているはずなのだが、最初に入った大学より今の大学で学びたい事があると訴え受験をしなおして今の大学に入っている。
 以前の大学は幼稚舎の頃からほぼエスカレーター式に進学できるシステムでありそのまま過ごしていれば父と同じレールの上で約束された将来を歩んでいたのだろうが、大学を出たらすぐに父の元に行く事が分っていた芝浦は少しでも長く学生でいるため、あえて別の大学に行く事に決めたのだ。
 これがもし元いた大学より劣る場所であったら父は決してそれを許しはしなかっただろう。だが、幸い今の大学は以前いた学校より箔が付くランクであったから、父も一応は了承し受け入れてくれた。
 その後は大学院に進み、少しでも長くモラトリアムを楽しむつもりであるのはまだ黙っているつもりだが。

「一応言っておくけど、今はまだ忙しい時期だから。この前みたいにプロジェクトにアルバイトとして入るのは難しいからね。ちょっとした会合であれば、夜なら時間がとれると思う。日中に予定を入れるなら、休日にして欲しいな」

 芝浦は嘘偽りない予定を告げた。
 本音を言えば手塚と過ごす時間を削りたくないから面倒な会合も避けたかったのだが、父は他人の嘘にやけに聡い所がある。些細な嘘を切っ掛けに父の不審を買えば探偵でも何でも使って身辺調査をされる可能性もあるのだ。そんな事で手塚に迷惑をかけるのは避けたかったし、手塚の存在を知られたらこの父が黙っているとは思えなかった。
 父は目を閉じながら彼の言葉を推し量るように聞く。だがやがてゆっくりと目を開くと、芝浦へ片手を向け、ひらひらと動かして見せる。

「いや、おまえをお披露目するような用事は今の所はない。お前の顔も俺の得意先にはおおよそ覚えて貰えているだろうしな……ほら、そんな遠くにいるもんじゃない。親子だろう。隣に座れ」

 父に招かれるよう、芝浦はソファーに腰掛ける。一瞬、芝浦は幼い頃を思い出していた。まだ母がいた頃、父の膝に抱かれてソファーに座っていた記憶だ。あの頃はここまで人に威圧的な男ではなかったと思うのだが……。  
そんな感慨を打ち破るよう、父は急に芝浦の顎を掴むと無理矢理顔を引き寄せた。

「と、父さんっ! 何を……」

 とっさの事で息が詰まる芝浦を前に、父はまさしく品定めするような目で見た。

「やはり何度見てもお前の顔は俺には似ないな。目鼻立ちが母さんにそっくりだ。少し童顔な所もな」
「だ、から……何だって……」
「いや、誤解するな。別にお前が俺の子じゃないんじゃないかと疑ってるワケではない。耳の形やほくろの位置。親でもなんでこんな所がと思うような所が俺とお前はよく似ているからな。ただ……お前のその顔と身体は上に立つ人間としてデメリットになり得るなと。そう思っただけだ」

 父はそう告げ、芝浦から手を放す。
 その言葉にも行動にも、どこか感情の欠落が見えた。

「淳、俺はよく晩餐会でも祝賀会でも、パーティに出る時は最上の服をきちんと着こなすように指示をしているのは覚えているな? 靴も、服も、時計も、香水にいたるまで全て一流のものを揃え、一流の着こなしをしろと。意味はわかっているか?」
「あぁ……身だしなみを整えていなければ、相手から下に見られるから。一流のものを着させられている、着飾っているのではなく、自然に身につけているようにしないと……ただの成金にしか見えないから。上に立つ人間は、舐められたり下に見られたりしないよう、常に自分が支配し、従える側だという事を誇示するため。服装は、その第一印象を決める武器の一つ……だから、だろ」

 大学に行く時は悪目立ちするのでオーダーのスーツや靴を避けて量販店のものを身につけるようにしている芝浦だが、普段着はなるべく良いものを自然に着こなせるようになるためブランド品を普段使いしているのは、父からそう言われ続けていたからだ。
 まだ中学生の頃反抗期から学生服を着崩したのを見た父は激昂した酷い扱いを受けた記憶もまだ生々しく残っている。故に芝浦は、父の前で身だしなみを常に気遣うようにしていた。

「そうだ、経営者というのは下を動かすもの。その指導者たるものが見窄らしい格好をしていれば取引でも足下を見られるからな。相手を威圧し、畏怖させるくらいの見た目であるのが相応しいんだが……お前はそういう意味で俺に似てない。その優しい顔立ちは相手の気を緩ませ、どこかつけ込まれるような所がある……実際おまえは今まで、下に見て居た相手につけ込まれ手痛い反撃を受けた事があるんじゃないのか?」

 父に指摘され、思わず声に詰まる。
 芝浦は以前から思わぬ相手に襲われ、押し倒されて犯されそうになった経験が少なからず存在していたからだ。無論、それを父に言った事はないのだが芝浦にそういった行動をした相手が知らぬ間に消えていた事を考えると、父も何か感づいていたのかもしれない。

「だけど、顔は変えられないだろ。整形手術でもすれば多少威厳のある顔にはなるかもしれないけど、俺は父さんみたいになれないと思うよ」

 これは皮肉でもあった。
 芝浦はいずれ父の会社を継ぐように教育されるのだろうが、父のように仕事ばかりに熱中し家庭を省みず楽しみらしい楽しみもなく生きようとは思っていなかったからだ。
 あるいは、母がいてくれたのなら父も少しは変わっていたのかもしれないが……。

「あぁ、俺はお前に俺のようになれとは思っていない」

 父は芝浦を見ないまま、抑揚のない声で語る。
 それはまるで部下を諭すような言い方にも思えた。

「ただ、お前のその顔は威厳がなく脇が甘そうに見える。言ってみれば相手を油断させる顔だという事をもっと『自覚』した上で武器にしろと言ってるんだ。油断した相手に付け入り、相手の思惑をコントロールし、相手に諭されないよう支配し、利用する……お前はたぶん、その方が得意だろう?」

 父はそれまで手をつけていなかったグラスを傾けると、舐めるようにウイスキーを口にする。

「お前は自分の武器をある程度自覚しているが、利用しきれてないようだからな。きちんと自分の武器を把握し、適切に利用しろ。お前は相手に隙をあたえる顔と所作である事を自覚し、相手を手玉にとれ。だが決して隙を見せるな……今でもお前の事を少なからずお前に色目を使う奴はいる。男にも、女にもな。そういう奴から好きなものを好きなだけもぎ取るといい。それはお前の経験になり、いずれ上に立った時交渉の武器になる」

 武器、利用、経験。
 やはりこの男にはそれしかないのだ。

「だが安易に股を開くな。お前の顔と身体は男を狂わす価値もあるが、かといって身体で戦果を上げるというのは芝浦の人間がすべき事じゃない。誰かにそれをやらせるのは別に構わんがな。触れさせるが深入りはさせない距離を保つ事で相手の気を引き虜にしろ。お前はそれが出来るはずだし、そうする事でお前は人を狂わせ支配させる力もあるからな」

 観察眼は優れているのだろう。何に利用価値があって、何に利用価値がないのか。
 そしてこの男にとって芝浦淳という息子の存在は、自分の家督を継ぐ存在でしかないのだろう。人の親であればこのような事を息子に望みはしないのではないか。
 普通の親という感覚に乏しい芝浦だが、少なくとも手塚はそんな事を強いたりしない。

「あぁ、分った。分ってるよ。父さんのように出来ないのなら、父さんとは違うものを武器にしろって話だろう」

 本心から理解したいワケではない。
 だが事実として芝浦は自分の顔と身体を使えると判断し他人と接する事があり、それは自分の交渉術の一つであるのを心得てもいた。

「納得はしたが理解はしきれてないといった様子だな。お前はまだ若いから抵抗があるのは無理もないだろう。だが経験を積めば自然と出来るようになる。人に取り入りやすい顔を存分に利用しろ。出来るな?」
「出来る、出来ないじゃない。やれ。そうでしょ? ……やりますよ、自分の為にもね」

 おどけたように笑えば、父は視線を背ける。

「良い返事だ。学生のうちになるべく経験を積み、人の扱い方を覚えておけ。仕事が出来る人間も出来ない人間もいるが、それをいかに使うかが上に立つものの役割だからな。人を知る、人を操るのはその一環と心得ておけ」
「はいはい、わかってますよ」
「返事は一度でいい」
「……はい」
「よし、それだけだ……行っていいぞ」

 父は興味を失ったように冷めた眼になると、また思案するよう一点を見つめる。
 芝浦はその様子を伺いながら、静かに立ち上がるとリビングから出ようとした。

「あぁ、淳。それと、一つな。……お前から言わない限りお前の交友に口出はなるべくしないようにしていようとは思っているが……あまり一人にのめり込むな。お前の才覚は専門分野において突出しているが、興味があまりに偏りすぎている。俯瞰的に物事を捉えるのは苦手な方だと言えるだろう。故に一人の人間に興味を抱けば、お前は自然とその相手に夢中になりより深く知ろうとしてしまう……そのような癖があるのは知っている。だがそれはお前の悪癖だ。一人に囚われ大局を見誤るような真似だけはするなよ」
「どういう意味だよ……」
「はっきり言わせたいのか? 早く切れと言っているんだ。お前は誰かに愛され、それを利用するのは向いている。だがお前が誰かを愛するのには向いてないだろう。お前の愛情は深入りしすぎる故に重いから、いずれお前かあるいは相手を狂わせて落としてしまう……それなら早めに切っておけ。心配しなくとも芝浦の家に相応しい相手はこちらで選んでおくからな」

 芝浦は瞼を閉じ、唇を噛む。  こんな事まで言う男だったか……いや、あるいは……。

「それは母さんを狂わせてしまった自分に言ってるのかい?」

 芝浦の言葉に、父は何ら反応を見せない。
 その背を見て芝浦は自嘲するように笑っていた。
 確かにそうだ、自分の愛は重い。目の前にいる父と同じように縛りつけ囚われて相手を狂わせてしまう……この顔が母親似なら、この執着は父親譲りなのだろう。

「……ま、考えておくよ。自分にとって何が大事かをね」

 芝浦は作り笑いを浮かべて部屋を出る。聡い父だ。自分の言葉が嘘であるのは分っていただろう。今、手塚を切るなんて考えていなかったし、これから切るつもりも一欠片だって存在しない。自分の人生に手塚がいないという事が考えられないほど恐ろしい事になっていたからだ。
 だが同時に、自分の愛が重い事も理解している。
 父がそうであったように自分もいずれ手塚の事を縛り付け、狂わせて失うのであったとしたら父の言う事は「正しい」のだろう。

「俺は……どうしたらいいんだろうな。どうしたら……」

 芝浦は拳を握りしめる。
 その手には血が滲んでいたが、彼はそれさえ気付いてはいなかった。

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HN:
東吾
性別:
男性
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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