忍者ブログ

インターネット字書きマンの落書き帳

   
町内会死者蘇生事件の存在しない後日談の最終回です~その5
「町内会死者蘇生事件」の存在しない後日談を書くやつ。
一週間以上かかっちゃったけど、何とか……終わらせられました!

ありがとう!
応援ありがとう!

特に誰も応援されてませんけど。(スンッ……)

書きたいと思っていた話なので、「集中してやるぜ!」「時間できたら書いてやんよ!」と思っていたから、無事に完成できて良かったです。

最後になると、こう……。
書いている俺自身が「ウウゥ……ウウウ……」って……なっちゃう!
何だろうこの寂寥感!

原作もしっとり終わっているので、こちらもしっとりしんみり……に、なっていると……いいな!(希望)

頑張って書いたので、原作ファンの人が喜んでくれると嬉しいです。
原作者は……静かに見なかった事にしてくれていると嬉しいです。

機会があったら(=原作者に怒られが発生しなかったら)noteかpixivに、長文まとめて、もうちょっと手を入れたいところをあれこれ……したいですが、ひとまず「後日談! 完!」で……。

お付き合いありがとうございました!


【天国】

 信津寺から出た後、そのまま展望公園に向かったのはただの気まぐれだった。
 帰るにはまだ早いと思ったし、せっかく来たのだから観光らしい事でもしていこう。その程度の気持ちで歩き始めたのだが、茹だるような暑さですぐに後悔する。

「やっぱり、自転車がないとキツいですね。この町は……」

 いや、自転車があってもこれだけの坂を上るのは辛いか。
 電動モーターのついた自転車か、龍雄のようにバイクがあるほうが便利だろう。
 汗を拭い、日陰を選んで目的地につく頃、太陽はやや西側へ傾き始めていた。

「へぇ……」

 開けた公園は特に何があるという訳ではないが、信津町が一望できる。
 とはいえ、辺りは山に囲まれた比較的小さな町だ。
 大きな建物もなければ、派手なショッピングモールなどもない。
 埼玉県内だから海が見える訳でもなく、あるのは団地と密集した家々、駅を中心に広がる商店街などばかりだ。

 信津町に生まれたら、死ぬまでこの町から出なくても生きていけるだろう。
 町内に小中学校はあり、高校や大学も電車で通える範囲内に充分ある。
 住人の多くが地主で、土地を貸すことで充分な生活費になり、あとは小遣い稼ぎの手伝い程度でも地域全体が支えてくれるようになっているのだから、外の人間からすると温いくらいの環境だろう。

 だがこの世界が、温くも暖かく心地よいということは住んでいる人間は気付かないのだ。
 人が当たり前のように他人を支えて、通りすがる誰もが相手のことを知って、理解し共感し、同じ痛みを背負おうとしてくれる。

 こういう空気に、閉塞感を覚える住人も多いのだろうが――。

 笹本健康は、どうだったのだろう。
 ふと、そんな考えがよぎる。

 ぽっくり団地で自然死が減ったのは、ここ1年ばかりのことだ。
 それは、笹本健康というまだ年若い青年がこの場所で発見された時期に重なる。

 もし彼が最後の犠牲者だったとしたら、この町に生きてこの町で死んでいった彼はいったい、何を思っていたのだろう――。

「……タケ?」

 鈴のように透き通る高い声に促され振り返れば、そこには一人の女性が立っていた。
 やや派手に染めた茶色い髪はゆるやかなウェーブを描いている。
 タンクトップに白いジャージを羽織り、スニーカーを履いているのは今風だが、全体の装いは2000年代にいたレディース風のギャルをリバイバルしたような装いだった。

 彼女は口にくわえたタバコを取り落とし、しばらく呆然とこちらを見ていたが、男が見知らぬ顔をしているのに気付くと、小さく首をふって落としたタバコを拾う。

 ――今日、誰かに間違われたのは二度目だな。

 男は人なつっこく笑うと、両手を広げて見せた。

「お知り合いに似てました? 私、よく人間違いされるんですよ。あんまり特徴ないからですかね? ふふ……今日、間違えられたの二度目です」
「あー……そうなんだ。ごめん。公園上っていくの見て……知り合いに、似てたからさ。帰ってきたのかな、って思っちゃって……」

 帰ってくるわけ、ないのに。
 手にしたタバコをじっと見て、唇だけで彼女はつぶやく。

 死んだ誰かの面影を追いかけてきたのだろう。

「ってか、観光客? 見ない顔だけど。ここ、なーんもないでしょ」

 彼女は気を取り直したように髪をかき上げ、タバコをくわえる。

 いえ、そんなことないですよ。
 観光客らしくお世辞の一つも言おうと思ったが、実際この町にあるのは安寧の生活だけだ。
 住むには静かすぎるし、刺激もない。
 信津寺は立派ではあったが決して大きい寺ではなかったし、駅前の商店街はほとんどシャッターが降りている有様だ。
 蘇りの秘術がなければ、決して立ち寄る事もなかっただろう。

「あー……そうですね。なーんにも、なかったです」

 つい、本音をもらせば彼女はケラケラ笑った。

「えー、マジそれ言う? 私、ここ住みなんだけど」
「あはは、すいません。でも、何もないからいいんじゃないですか? 住むなら、騒がしいのよりこのくらいの方がいいですよ」

 男はちらりと、町を見る。
 寄り添うように連なる家々はここから見ればミニチュアのようだが、全てに生の気配がある。

「このくらい静かで、このくらい緩く繋がっている方が……きっと、ちょうどいいんです」

 目を細める男に並ぶと、彼女は大きく背伸びをした。

「そうかな? わたしはちょっと退屈。毎日、あんまり変わらないし……でも、出て行こうとすると周りが結構うるさくて、面倒だからね」

 くわえたタバコを唇の上だけで転がす。
 こちらに気を遣っているのか、火をつける様子はない。

「前は、もうちょっと楽しかった気がするけど……ずっと、こうしてられないなーって、最近は思うんだよね」

 男からしてみれば随分と若く見えるが、青春やモラトリアムからはそろそろ脱却を考える頃合いなのだろう。
 子供の頃から繰り返してきた日常が当たり前のように続くような気がしていたのに、以前の知り合いは就職や結婚と生活のステージが変わってくる。
 永遠に変わらない世界などないのに気付いているが、変わりゆく世界にまだ迎合しきれないのだ。

 ――若いまま時を止めてしまった友人がいるのなら、尚更にそう思うのかもしれない。

「ね、オジサン。この景色、どう思う?」

 彼女は不意にこちらを向いて、問いかける。
 オジサンとは、初対面なのに随分な物言いだと思うが、彼女から見たらそう呼ばれても仕方ない歳だろう。

「そうですね……」

 男は口元に手を当て少し思案すると、青空を仰ぎ見た。

「さながら、天国のように見えるのではないでしょうか」
「はぁ?」

 それは、彼女にとって予想してなかった言葉だったに違いない。
 素っ頓狂な声をあげ、またタバコを取り落とす。
 タバコは男の足下まで転がってきたから、男は仕方なしにそれを拾い上げた。

「どうぞ、落とし物ですよ」
「あっ、ありがと……」

 彼女はタバコをくわえ直し、男を見据える。

「あんた、変わってるね。こんな、田舎のなんもない町が、天国とかに見えるんだ」
「あはは……そうですね。変わっているとは思いますよ。ただ……」

 男は髪をかき上げる。
 山から吹き下ろす風は心地よくなびいていた。

「もしこの景色を見て、ここで死ねたのなら、ここは天国でもいいかと。そう、思ったんです」

 彼女はぐっと、押し黙っている。
 男は手を広げると、信津町を見下ろした。

「私たちがイメージする天国って、かなり曖昧なものなんですよね」

 仏道において、天国というのは永住するところではない。
 一時身を置くだけの場所であったり、輪廻から解放された先であったりし、苦しみのない世界ではあるが、イメージはひどく抽象的だ。

 キリスト教においても、天国はあくまで神との契約が果たされた場所であり救済が果たされた、ある種成功の証である。

 なんとなく、ぼんやりとイメージされてい、親しい人がいて、昔飼っていたペットたちと過ごせて、大きな諍いもなくのんびりと過ごせるような世界を指し示す意味での「天国」は、宗教的にはどこにもない。

「現世は現実であって天国にはなり得ない。いい事もあるけど悪い事もありますから。ですけど、もし――愛する人、親しい人、諍いのある人を含めて、そういう人たちが普通に、何でもなく、安寧に過ごしていく。ただその姿を最後に見て、死ねたのだとしたら――」

 山から吹き下ろすような風に、男の髪と服が揺れる。
 白いパーカーは羽のように大きく広がった。

「――きっと、ここが天国だ。そう、思うような気がするんですよ」

 気の強そうな女性は、ぐっと唇を結ぶ。
 一瞬、泣きそうに見えたのだが。

「そっか。ははッ……そうだったら、いいね」

 ぐいっと目元を拭うと、カラカラと笑って見せた。

 どこからか、ブブッと電子音がする。
 直後、スピーカーから「新しい朝がきた」と馴染みのあるメロディーが流れてきた。
 音割れしているが、ラジオ体操をするときに流れる歌だ。

「あー。昇太、やっとスピーカー直ったんだ」

 そういえば、信津寺に向かう前の駐車場でラジカセか何かを弄っている青年がいたのを思い出す。

「ラジオ体操の曲ですね。ここ、ラジオ体操やっているんですか」
「そ。毎日ちゃんと出てスタンプを集めたら、お菓子がもらえるんだって。あれ、お菓子だったっけ?」
「今どき珍しいですね。まだそういう事で集まる地域があるなんて」
「うん、古い慣習なんだけど。町内会が決めてるから、断れないって感じ。ガキんちょもお菓子のため喜んで来てるしね」

 それイッチ、ニィ、サーン。
 ノイズまじりの音があたりに響く。

「何ならオジサンも来る? スタンプ押してあげるけど」

 茶化すように笑う彼女を前に、男もまた軽やかに笑った。

「遠慮しておきますよ。この町は、多分もう――」

 もう、大丈夫。
 自分のようなオカルト好きが首を突っ込み引っかき回し、いろいろ暴いていい場所ではなくなったのだから。

「さて、私はそろそろ帰りますね。少しの間でしたが、楽しいお話ありがとうございます」

 帰ろうとする男の後を追うと、彼女も並んで歩き出す。

「途中までいい? わたしも同じ方向だし」
「えぇ、いいですよ。とはいっても、こんなオジサンなので話が合うかどうか……」
「あー、オジサンって言われるの嫌なタイプ? ごめんって。お詫びになんか面白い話してあげようか? そうだなー……」

 彼女はちょっと先に進むと、くるりと振り返る。

「町内会死者蘇生事件についてとか、どう?」

 そして悪戯っぽく笑うと、そんなことを言うのだった。

 周囲の木々が、ざわりと揺れる。
 信津町の空は抜けるように青く、太陽は目映く輝いていた。

 ――まだまだ、暑くなるのだろう。

拍手

PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
カレンダー
04 2026/05 06
S M T W T F S
2
3 4 6 7 9
11 12 13 14
17 18 21 22 23
26 27 28 29 30
31
プロフィール
HN:
東吾
性別:
非公開
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
Copyright ©  -- くれちきぶろぐ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]