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インターネット字書きマンの落書き帳

   
いずれ真実になる言葉。(みゆしば)
平和な世界線で、まだ付き合う前の手塚と芝浦の話です。(挨拶)
いずれ付き合う事になるけど、ずっと手塚の事を『顔がメチャクチャ好みの占い師さん』と認識し、足繁く占いをしに通う芝浦お坊ちゃんという概念ですよ。

恋愛するのは無理だと思っているから積極的にはなれない。
だけど手塚に嫌いになってはほしくない。
そんな甘酸っぱい気持ちを楽しんでいるしばじゅんちゃんという概念です。

こんなに初々しい感じですが、あと半年しないうちに付き合うしえげつない交尾をするようになる二人ですよ!
俺がそう言ってるからそうです!




『嘘でもいいから愛していると言ってほしい』

 いつしか暇な時間があると、芝浦の足は自然と手塚のいる公園へ向くようになっていた。
 いつもいる、というワケではない。
 手塚自身の話だとこの公園以外でも店を出せる場所がいくつかあり、雨風が酷い時ややたらと寒い日などは屋根つきのショッピングモールなどで占いをしているのだそうだ。

 とはいえ手塚は公園にいる事の方が多かった。
 詳しい事は芝浦も分らないが、あの公園は店を出す許可などが比較的に緩い方で手続きなど面倒事が少ないというのが理由なのだという。

(路上商売も、そう気楽なもんじゃないんだね……)

 芝浦はそんな事を思いながらベンチで缶コーヒーを開ける。
 今は先客が占いをしてもらっているようだ。自分と同じ年頃の学生らしい女性が熱心に話を聞いている。悩みの相談をしているのだろう。
 手塚は占い師なのだから、あれが本来手塚がすべき仕事なのだろう。

(俺みたいに、手塚の顔見にくるため遊びに来てる客なんてあんまりいないだろうし)

 とはいえ、手塚は公園でも目をひく程の美形だ。
 占い師じゃなかったとしても。例えばカフェの店員だったりしてもきっと、彼目当てで訪れる客は一人や二人いるだろう。
 カフェとの違いは、40分という占いの時間全て相手を占有出来るという事だろうか。

 前の客が話終わったのを確認すると、芝浦は缶コーヒーを飲み干して徐ろに立ち上がると空の缶をゴミ箱にいれた。
 次の客がすぐに来てしまっては、急かされているようで気になる。
 どうせなら客が途切れた時、ゆっくりと話を聞いて欲しいと思ったからだ。

「よ、占い師さん。今占える?」

 軽く手を挙げ声をかければ、手塚はさして驚いた様子も見せず席に座るよう促した。

「あぁ、ちょうど終った所だ……見てただろう? 俺の見えるベンチで様子を伺ってたもんな」

 自分が相手を見れる位置に座っていたのだから、相手も自分を確認していても不思議はないだろう。

「待つなら近くで待っていても良かったんだぞ」
「いや、そういうけど、前のお客さんはきっとそうは思わないでしょ? 俺だって自分の相談事を誰かに聞かれたくないもんね」
「相談事か。滅多に相談なんてしない癖にな……」

 手塚はそう言いながら、さっきまで使っていたカードを片付ける。
 芝浦はそんな彼の細い指を暫く黙って見つめていた。

 やはり、いつ見ても顔がいい。
 落ち着いたトーンの静かな声色も心地よい。

 この唇が愛を囁いてくれたのなら、どんな気分になるんだろうか。
 愛してもらおうとは思わないし、好きになってくれるはずもない相手だ。
 だが嘘でも戯れでもいい。一度その声で『愛している』と言われてみたい……。

「占い師さん」
「……何だ? 相談事か、悩みか、運気か……今日は何を占って欲しい?」
「愛してる」

 肘をついたまま、悪戯っぽく笑いそう告げれば、手塚は困惑とも驚きともとれない表情を芝浦へと向ける。ただ普段より幾分か冷静さを欠いているのは確かなようで。

「……どういう意味だ?」

 ややあって問いかけるその声は、幾分かの疑問と僅かな焦りが混じっているようだった。

(やっぱり困るよね、こういう事突然言われたら……)

 手塚は、やはり『普通の人』なのだ。だから困惑するのも動揺するのも至極当然のことだろう。芝浦は目を閉じて息を吐くと、手塚の顔を見た。

「ドキドキした? ……ゲームだよ、ゲーム。愛しているって言うだけで、相手をどれだけドキドキさせられるかって奴。どう? 男から言われても結構ドキドキするもんでしょ?」

 茶化すように語れば、手塚は呆れた顔をする。

「それは安売りしていい言葉じゃないだろう?」
「そう? こういう言葉って結局駆け引きだからゲームみたいなもんでしょ。それとも占い師さん、案外こういう言葉慣れてない? ……俺から言われても結構嬉しかったりする?」
「さぁ、どうだろうな」

 手塚は冷静を装っていたが、言葉を話す時に無意識にか口元を隠していた。
 あれは嘘をつく人間がする仕草だ。だとすると多少は動揺したに違いない。嬉しいと思ってくれないまでも、心を乱せる程度に驚かせるなら僥倖だ。

「じゃ、何占ってもらおうかな……」

 密かな満足感を抱きながら空っぽの机を前に何を占ってもらうか考える。
 占いは口実で実際は手塚と話すのが目的だから占う内容は何でも良かったのだが彼の占いが良く当たるのは事実だったからトラブルを避けるため人間関係を占うのが妥当だろう。
 金銭運は良くも悪くも困る事はないし、恋愛事は最初からするつもりはないのだから。

 そんな芝浦の前へ身体を乗り出すように顔を近づけると、手塚はその耳元で静かに囁いた。

「……愛してる」

 涼しい顔と声は甘く耳に絡みつき、芝浦は自分の顔が赤くなっていくのをはっきりと感じる。

「えぇえええぇえ……占い師さんそういう事するの……? ちょ、安売りしていい言葉じゃないって言ったのに? えぇ……」

 予測してなかった出来事に、芝浦は自分の身体を支える事も出来なくなって机の上に突っ伏していた。表情は見られたくなかったが、耳まで赤くなっているのは気付かれているだろう。
 一方の手塚は涼しい顔のまま、コインを取り出し笑っていた。

「どうだ、少しはドキドキしたか?」
「えー……」
「ゲームなんだろ、お前には……どうだ?」

 本気なのか冗談なのか、表情からは読み取れない。
 心臓が飛び出る程に驚いたし、耳が赤くなるほどドキドキしている。何なら鼓動はまだ納まってないが、それを素直に言えるはずもない。分っているくせにそんな事を聞いてるなら、どうやらこの男は芝浦が思っているよりずっと意地が悪い。

「……占い師さんすっごい強いのは分った。完全に予想外だったから俺の負けでいいよもう」
「そうか。それで、何を占う?」
「んー……そうだな……」

 芝浦は顔が赤いのを見られないよう俯きながら考える素振りをする。冷静であればその時手塚の指先が少し震えていた事に気付いていただろうが、今はただ『愛している』その言葉だけが幾度もリフレインするばかりだった。

(本当に言って貰えたら、きっともっと幸せなんだろうな……)

 叶わぬ思いを抱きながら、ふとそう考える。
 だがそれは贅沢な願いであり求めて得られるものではないだろう。
 だから今はこの空気を大事にしていたかった。

 細やかな温もりに僅かにでも触れられる。
 それだけで今は幸せだったから。

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