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インターネット字書きマンの落書き帳

   
キミが背負ってくれるならその死を享受しよう(ダウド蘇生if)
蘇生されたダウドがいる世界線の話ですぞ。
ジャミルは出ていませんが、ダウドくんがややジャミルに対して執着に近い愛情を抱いているような話です。

デスにより蘇生された後も、自分が死んだなんて実感がないダウドがファラから自分が死んだ時のジャミルの様子を聞いて「それなら嬉しい」としみじみ実感する。

ただそれだけの……話です。




『その死を悼んでくれたなら』

「ダウド、ジャミルがまた薬とか食べ物持ってきてくれたからここ置いておくね」

 ファラは無邪気に笑いながら麻袋にいっぱいの荷物を置いた。
 ダウドは湿ったベッドから起き上がると麻袋の中身を確認する。高価な痛み止めや日持ちのする食べ物の中に混じって生活する上で困らないだけの金額が入っていた。

「ありがとう、ファラ。でも最近、ジャミルってあんまりおいらの前に顔を出さないよね」

 荷物を確かめながら、ダウドは言う。
 ダウドは元々ジャミルの相棒であり、少々まずい仕事を請け負ったためエスタミルに居づらくなってからほとぼりが冷めるまであちこち旅をしていた事もあった。
 結局ダウドは食事や風土が会わなかったため喧噪懐かしい南エスタミルへ戻ったのだが、その後もジャミルはしばしばエスタミルに帰ってきては幾ばくかの金を置いていったり、諸国の珍しい土産などをもってきてくれいたのだ。
 ジャミルの土産を食べながら自分とファラの3人で茶を囲む時間は油断ならない毎日をおくるダウドにとって貴重な安らぎの時間だったものだが、ここ最近はめっきり顔を出すコトがない。

「うーん、やっぱりジャミルはまだ顔を合わせづらいんじゃないかな」

 ファラは鼻の頭を書きながら、紅茶の準備をする。最近はジャミルがあちこちから茶葉を買ってきてくれるため二人が会うと必ず紅茶を楽しむようになっていた。
 白い陶磁器のティーポットは汚い路地裏に似つかわしくないような良い品だが、よもやこのような路上暮らしのテントに置かれているとは思うまい。

「それって、ジャミルがおいらを『殺した』からってことかい? それなら気にしなくてもいいのになぁ……おいら、そんな事もう覚えてないんだから」

 そう言いつつ、ダウドは無意識に自分の胸元へ手を当てていた。
 そこにはちょうどナイフで貫かれたような傷痕が残っている。
 ファラの話だとその傷は背中にまで貫通しており、素人目に見ても致命傷にしか見えないのだそうだ。

 ダウドは一度死んでいる。
 だがその後、デスとの交渉を受け「代償」を支払った後に蘇ったと話には聞かされているし胸の傷はその時受けた傷なのだろうとも思うのだが、どうにも死の実感は薄かった。
 というのも、ダウドの記憶はエスタミルの路地裏で胡乱な男に話しかけられた後から酷く曖昧でほとんど記憶がないからだ。

 暗く湿った部屋。かび臭い匂い。男か女かもわからない黒いローブの群衆。無心にナイフを振る音。血の滴る感覚。
 思い出せる記憶はいつだって断片的でとりとめがなく、あの時何があったのか深く考えれば考えるほど記憶は闇へと消えていく。

 あの男と出会ってから酷く記憶が曖昧なのは、ダウドが「アサシンギルド」の一員として洗脳されていたからだろうと言われた。強い薬と魔術とで人間性を排除し、ただ殺すための道具にするのが現代に蘇ったアサシンギルドなのだから。
 また、デスから聞いたという話の又聞きだがもとより蘇生された人物の記憶は酷く曖昧で特に死ぬ間際の記憶を覚えているものは少ないのだという。死に際は脳の活動が緩やかに停止し考えるコトができなるため元々記憶が薄まりやすいそうだ。
 ダウドの場合、その上にアサシンギルドの洗脳を受けていたのだからなおさら記憶を留めておける状態ではない。
 彼に死の実感が全くないのはそういった理由もあったのだろう。

 今でも胸の傷を見なければ自分が死んで蘇ったなんて与太話、手到信じられなかっただろう。
 というよりも、今をもってしてなおジャミルとファラに担がれているのではないかと思っているふしもある。

「まぁまぁ、ジャミルだってまだ心の整理がついてないんだと思うよ。一度はあなたを殺しちゃった訳だし」

 白いティーカップに紅茶が注がれる。琥珀色の液体からは良い茶葉の香りがした。

「それに……あなたを殺した時のジャミルって酷い有様だったんだから。もう、後を追って死んじゃうんじゃないかって心配になるくらい」
「えっ? ジャミルが、そんなに?」

 紅茶を飲もうと伸ばした手を止め、ダウドは顔を上げる。
 ジャミルはいつも冷静で時に冷淡すぎるくらいな決断もできる男だから、自分の死なんて容易く乗り越えているのだろうと勝手に決めつけていたからだ。

「当たり前でしょ。あなたはジャミルの一番長い相棒なんだから。そりゃ、ジャミルはあんな性格だから悔しいとか悲しいとか口にする訳じゃないけど」

 ファラはカップに口をつけ、ゆっくりと紅茶をすする。

「でも、何も言わないからこそ辛いんだろうなって思ったな。エスタミルに来て、あんたの死を告げた時もそうだし、時々帰ってきた時もそう。黙って拳を握る。そうしてうつむいてる時は、きっと貴方の事考えてるんだろうなって思って……その時はね、私でも話しかけられないくらい、辛そうだったもの」

 ダウドの脳裏にジャミルの姿が浮かぶ。
 いつもふざけたように笑っているジャミル。その顔が怒りと憤りに歪んだのだろうか。後悔に押しつぶされそうなほど苦悩したのだろうか。声を殺し涙をする日もあったのだろうか。

 もし、そうだとしたのなら。 「

……一生そう思ってジャミルが生きていてくれるのなら、おいらはそれだけで幸せだったのにな」

 ファラにも聞こえぬよう、ダウドは独りごちる。
 その手は胸に残る生々しい傷痕に触れていた。

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