インターネット字書きマンの落書き帳
愛しさは殺意に劣る。(ヤマアル)
ヤマムラさんとアルフレートくんが付き合ってます。
(挨拶を兼ねた幻覚の紹介)
本当の気持ちをいうと、ヤマムラさんとアルフレートくんが特に何の苦悩も不安もなく。
仲良く二人でイチャイチャしているだけの話を書きたいんですが、俺の心のアルフレートくんが「使命を果たす前に浮ついた気持ちになっても心から二人の生活を楽しめません!」って言い張るので……いつも何となくサツバツとしてしまいます。
悲しいね。
そんな理由で、今回も何となくサツバツとしてます。
獣狩りに出たヤマムラさんが、血に半ば飲まれてアルフレートくんを殺そうとしてしまう自分に対して嫌悪感が出てしまうような、ただそれだけの話ですよ……。
(挨拶を兼ねた幻覚の紹介)
本当の気持ちをいうと、ヤマムラさんとアルフレートくんが特に何の苦悩も不安もなく。
仲良く二人でイチャイチャしているだけの話を書きたいんですが、俺の心のアルフレートくんが「使命を果たす前に浮ついた気持ちになっても心から二人の生活を楽しめません!」って言い張るので……いつも何となくサツバツとしてしまいます。
悲しいね。
そんな理由で、今回も何となくサツバツとしてます。
獣狩りに出たヤマムラさんが、血に半ば飲まれてアルフレートくんを殺そうとしてしまう自分に対して嫌悪感が出てしまうような、ただそれだけの話ですよ……。
『すでに自分は人などでは』
太陽が西へと傾きはじめる頃になり、ヤマムラはようやく今日の獣狩りを終える事とした。
狩人の仕事には終わりなどない。獣を狩ってもすぐに何処からか新たな獣が生まれ討伐を必要とするようになるからだ。
全ての獣を刈り尽くした時が狩人の終わる時であり、連盟もまた使命を終える時なのだろうがここヤーナムでは常に獣があり、何処からともなく新たな獣が這い出てくる。
その様子を見ると、ヤマムラは時々思うのだ。
すでにヤーナム市民の人口を超える程に、自分たち狩人は獣を狩っているのではないかと。それでも獣が無くならないのは、ヤーナムのどこかにある地獄の蓋はずっと開きっぱなしになっておりそこから獣が亡者の如く這い出てきているのではないか、と。
そんな空想をするくらいヤーナムの獣は新たに生まれ続けており、閉鎖的で排他的でそれでいてどこか斜陽にあるヤーナムという街はずっと滅びる事もないまま斜陽の街であり続けた。
最も、例えヤーナムの獣が実は地獄から這い出た亡者でありその戦いに終わりなど無かったとしても、それでヤマムラの仕事が変わる訳ではない。
彼は獣狩りであり、ただ獣を屠ることだけが仕事なのだから。
今日は目につく獣は一通り殺し尽くした。何処からか水のように湧き出る獣たちとはいえども、一度殲滅した区域ではしばらく見なくなる。この周辺は少なくとも数日は獣が現れる事はないだろう。
ヤマムラは血濡れた武器を拭うとそれを鞘へと収めた。
なるべく一太刀で終わらせるようにはしていたが、それでもずいぶんと返り血を受けたせいだろう。自分の汗が獣の血と混ざりあい錆のような臭いが鼻につく。
酷い臭いのはずなのに獣狩りを終えたばかりの今は不思議と血と汗とが混じり合った臭いに気分が高揚していた。
ヤーナムでは獣狩りの狩人が獣に墜ち変貌する事が多いが、それと同じくらい獣狩りの狩人が理性を失い狂気に走る事もまた多い 。
連盟はそれらの全てが虫にあると語るが、ヤマムラは時に思うのだ。
獣の血をあまりにも浴びすぎた狩人が獣になるのではないかと。そして、獣狩りの高ぶりを理性で留める事ができなくなった狩人が狂気に墜ちるのではないかと。
それは最初不快でしかなかった血と脂の滑りが今は無性に恋しくてつい狩りに出てしまう今を思い返してのコトだった。
事実として、血を浴び闘争を終えた後は何より心地よいのだ。
辺りにもう獣の気配ないのを視認してから、ヤマムラは静かに目を閉じる。心臓の鼓動はやけに早く、体中を新鮮な血液が巡っているかのように思えた。
五感全てが研ぎ澄まされ、周囲の全てが手に取るようにわかるのだ。
血の臭い、肉を裂き頸を落とす感覚、汗の味、木の葉が舞い散る音。あらゆるものが鮮明に体へと流れ込む今なら老いさらばえたこの体でも青年の頃と同じように動ける気さえした。
(いけないな、俺は。血に飲まれそうになっている……)
ヤマムラは大きく深呼吸をし、冷たい風を肺へと流し込む。
ヤーナムの空っ風は酷く冷えたが殺意で熱ばかりが籠もるヤマムラの頭を幾分か冷静にさせた。
恩師の仇を成し遂げた今、ヤマムラには生きている理由はもうないとも言えた。だがそれが死に急ぐ理由にはなり得ない。 ましてや獣や狂気に墜ちて他の狩人の世話になるのは御免だ。できる事ならその前に自分の命にけりを付けたい等と思うのは、ヤマムラが特定の教義を持たぬ極東の人間だったからだろう。
余計な事を考えて立ち止まっていれば、理性が血にむしばまれる。一刻も早くヤーナムに戻るべきだ。ここは血の臭いが強く、装束も血塗れてすっかり獣臭くなっているのだから。
こんな血だまりの中にいるより早く街へともどるべきだ。この血を洗い流し宿に戻り待っていてくれているアルフレートの体を抱けばきっと、この衝動も収まるのだろうから。
自分よりも年若く、柔らかな肌と肉厚な体をもつ青年の体はいつ抱いても温かかった。
臀のむっちりとした肉置きは手でつかめば指が埋まる程に案配が良く、体を預ければ吸い付くようにヤマムラの情欲を食らいつくそうとする。
もう青年といって言い年頃だろうがどこか危ういアルフレートの心はつかみどころがなく永遠に手が届かぬ幻かあるいは深淵のように遠い存在のように思えたがその体はどこまでも俗っぽくそして艶やかであった。
今はこの殺意全てを性欲に変えて考えなければ、人間らしい場所に留まっていられない。
そんな気がして、ヤマムラは闘争を求める体を静めようとする。いかに殺意がたかまっていたとしても俗っぽい愛欲がかろうじて彼を人間に留めていたのだ。
その刹那、木の葉を踏みしめる何かの音がかすかに聞こえる。
四足歩行か、それとも二足か。音からすると身の丈は6尺を超える大物だろう。あちらが気づく前に、こちらから懐に入って一刀で仕留める。相手は自分が死んだのさえ気づかずに体から首が落ちるのを見ている事だろう。
千景の束に触れた時、すでに一閃を放っていた。
仕留めた。
そう思うより僅か先にその手を止める。
刀身はすんでのところで留まり、その場に立つアルフレートの首を何とか切り落とさずに済んだ。
「あ、あっ、ヤマムラさ……ん……」
突然に刃を向けられたアルフレートは、息をのみ一歩下がる。ヤマムラもまた自分がした事が信じられないといった様子のまま刀身を鞘へと収めた。
「す、すまん。アルフレート。獣狩りをして、足音が聞こえたから……仕留めてない獣がいるのだと思って、つい」
ヤマムラはそう言いつつ目を伏せる。 獣だと思った相手はアルフレートだった。おそらくは狩りが遅くなった自分の様子を見に来たか、迎えに来てくれたのだろう。
何度も聞いている人間の足音だ。しかも体の関係がある恋人の足音だというのに、獣と区別がつかなかったのだ。
いや、足音の時点で二足で立つ背丈のある存在なのはわかっていた。
大型の獣多くは四足で歩き、必要がない限り立ち上がらない。人間であるというのは少し考えればわかるはずなのに、その僅かに考える暇も惜しいように刃を抜いてしまったのだ。
「すいません、こちらこそ。もっと音をたてて近づくべきでしたね……獣狩りをすると、どうにも血ばかり求めてしまいますから」
アルフレートもかつて獣狩りをしていたという。
獣狩りの狩人が血に酔いさらに獣を求め体がボロボロになってもなお狩りを続けようとする姿を何度も見ているし、自信も獣狩りの最中そのような状態になった事があるからだろう。
明らか様に不躾であるヤマムラの所作にも理解を示し、むしろヤマムラを気遣ってくれていた。 だがその声はかすかに震えている。いくら荒事になれているとはいえ、突然刃を向けられれば誰だって萎縮するだろう。
相手が恋人であればなおさらだ。
アルフレートはこちらを気遣い必死に声の震えを抑えていたが、だからこそ恐ろしかった。
あと少し我に返るのが遅ければ、きっとアルフレートの事を殺していただろう。
あれだけ愛しいと思い、傍にいてほしいと願った相手だというのにそれを獣と同じように屠ろうとしていたのだ。
「いや……俺が、悪かった。獣狩りの狩人なんてのは……」
ヤマムラは無意識に千景の束に触れる。その手が小さく震えていた事に、ヤマムラ自信も気づいていなかった。
まだ大丈夫だと思っていたが、もう獣に落ちそうなのではないか。
理性などとっくに無くなっているのではないか。
獣狩りを続けるのはもう無理だ、潮時なのではないか。
様々な思いが渦巻くが。
「……どうしようもない生き物だよ」
だが、今更ヤーナムから出てどこに行けるというのだ。
血の医療を受けてからもう、血の医療のない世界では生きていけると思えない。獣狩りの味を知っているから、獣狩りのない世界での狩りなど面白くはない。
ヤマムラは目を伏せ、小さくため息をつく。
どうしようも無い生き物だ。
もう人間ではない、だが獣にも落ちる事ができない自分はただ生きているだけのものなのだ。
どこか諦めたように呟く彼を、アルフレートはただ黙って見つめていた。
お互いにそうする事しか、今はできなかったのだ。
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