インターネット字書きマンの落書き帳
七夕の夜などの話(新堂×荒井・BL)
平和な世界線でいずれ付き合う新堂×荒井の話を白い壁に向かって延々と話すコンテンツです。
(挨拶を兼ねた幻覚の説明)
今日のオレは何と!
まだ七夕の話をしています!
何故なら、書きたいネタがあったからです!
ま、七夕は旧暦だと8月7日頃までセーフだからセーフでしょう。
今回の話は、一人で部活が終わった新堂が「七夕だし星でも見ようぜ!」ってみんなに呼びかけたけど、当然みんな帰っていて「いきませ~ん」って言われる中、荒井だけが来てくれたからダラダラ話していたら雰囲気が良くなって気分がagaっちゃった荒井からキスしてきちゃう、みたいな話ですよ。
二人は両片思い状態なので付き合うようになっているんですが(強火の思想)、それをお互いが知らないのでなんか少しモダらせた感じです。
みんなもモダってくれたら嬉しいですぞい!
(挨拶を兼ねた幻覚の説明)
今日のオレは何と!
まだ七夕の話をしています!
何故なら、書きたいネタがあったからです!
ま、七夕は旧暦だと8月7日頃までセーフだからセーフでしょう。
今回の話は、一人で部活が終わった新堂が「七夕だし星でも見ようぜ!」ってみんなに呼びかけたけど、当然みんな帰っていて「いきませ~ん」って言われる中、荒井だけが来てくれたからダラダラ話していたら雰囲気が良くなって気分がagaっちゃった荒井からキスしてきちゃう、みたいな話ですよ。
二人は両片思い状態なので付き合うようになっているんですが(強火の思想)、それをお互いが知らないのでなんか少しモダらせた感じです。
みんなもモダってくれたら嬉しいですぞい!
『思い出は後で笑える方がいい』
新堂誠からメッセージが届いたのは18時を過ぎた頃だったろう。
「せっかくの七夕だし、今から星でも見に来ねぇか。鳴神学園特別棟の屋上でボーっとしてるから来れる奴来いよ」
メッセージにはそんな事が書いてある。
部活が終わってから七夕なのに気付いて、少しばかり興が乗ったのだろう。
まだ学校に残っている誰かがいれば夕涼みをしてから帰るつもりなのだろうが、夏の大会を前に本格的な練習が始まったボクシング部よりも遅くまで残っている生徒などいるはずもない。
「僕はもう家に帰ってしまったので行けないです、ごめんなさい!」
最初に断りのメッセージを入れたのは細田だった。
それに続くよう、福沢や岩下も断りのメッセージが次々に入る。
「新堂さんごめーん! 今日もう家に帰っちゃったからまた今度。というか、七夕だから星を見るとか結構ロマンチックだね」
「私もお断りするわ。今は外に出られそうにもないから……星なら来月のほうが綺麗に見えるでしょうから、その時に誘ってもらおうかしら」
女性陣は断り方も気遣いが見られるのは流石だ。
「ごめんなさい新堂さん、僕もう帰りの電車に乗っちゃいました……また今度誘ってください」
坂上はどうやら帰りの電車内のようだ。新聞部はまだ活動してたのかもしれないが、日野や風間からの返事はない。
当然帰宅部の荒井はすでに家に着いていた。
シャワーを浴びてこれから食事でも摂ろうかという頃合いだが、荒井の家は鳴神学園の徒歩圏内にある。自転車で急げば15分はかからず到着するだろう。
少し考えた末に
「僕は行けると思います、少し時間は頂きますがお待ちいただけますか」
そうメッセージを返信し、すぐさま制服に着替えて家を出た。
別に何かを期待している訳ではない。ただ、新堂と少しでも二人で過ごす事ができて、その思い出があれば嬉しい。その思いだけが、荒井を動かしていた。
鳴神学園に到着し真っ直ぐ特別棟の屋上へ向かえばそ新堂は床の上に寝そべって大の字になっている。
「よぉ、荒井か。思ったより早かったじゃ無ェか」
息を弾ませながら屋上のドアを開けた荒井に、新堂は横になったままそう告げた。
教師に見つからなかったのは幸いだったろう。本来学校に生徒がいても良い時間ではない上、自転車通学の許可をとっていない荒井が駐輪場にいたのなら言い訳が面倒ぬいなる所だった。
最もこの学校はマンモス校だ、見回りの教師が一人では隠れるのも容易いのだが。
「他の人は来てないんですか?」
「あぁ、日野や風間は返事くれてねぇけど、もう家に帰ったんだろうな」
荒井は新堂の傍へと腰掛けると一緒に並んで天を仰ぐ。7月の空はどんよりとした雲が広がり、星など殆ど見えなかった。
「……何も見えませんね」
まだ梅雨時だから仕方ないだろう。
岩下もメッセージに書いていたが、本来の七夕は旧暦の行事で現代の暦だと8月上旬の方が適しているのだ。梅雨時の7月では雲がかかるのも当然だというのは荒井もわかっていたが、それでも少し残念な気がした。
「いいんじゃ無ェの、こういうのは雰囲気ってのが大事だろうし。それによォ、七夕に学校の屋上登ってみたけど、なーんも見えなかったとか後で笑い話になって良いと思うぜ」
新堂は身体を起こすと、視線を空から屋上のフェンスへと移す。
そこには大きな竹のような笹が3つも並べられていた。
「どうしたんですか、あの竹みたいな笹」
「あぁ、あれな。今朝方、教室棟に並べられてたって竹みてーな笹だよ。みんな願い事書いてたみたいだし、せっかくだから高ェところに飾っておこうと思ってな、暇だから運んでそこに立てかけておいたんだ」
そういえば、今朝は誰かが七夕用らしい竹のような笹を持ちこんで、生徒たちの間でちょっとした騒ぎになっていたのを荒井は思い出す。
誰がもってきたのかはわからないが、近くに短冊もおかれていたから各々が好き勝手に願い事を書いていたものだ。
結構な大きさの竹だったが一人で運んだのだろうか、屋上のフェンスに支えられ風になびいていた。
「わざわざ運んだんですか、思ったより凝り性なんですね」
「思ったよりってのは何だよ、せっかくならこういうイベントは思いっきり楽しんだ方がいいだろ」
新堂は笑いながら竹のような笹を飾ったフェンスへと近づくとそれを背にして笑う。
夜空を背にして風を受ける新堂の横顔は普段よりずっと凜々しく少し大人びて見えた。
「僕が来なかったら一人でやるつもりだったんですか?」
荒井は半ば呆れながらも新堂の隣へと近づいた。新堂は変わらず楽しそうに笑っている。
「そりゃぁそうだろ、七夕で知り合い呼んでみましたー、誰も来ませんでした、で一人で屋上でコーラ飲んで帰るってのも笑い話になるだろうしな」
新堂の視線の先には何本かのジュースが置かれている。誰か来たらのませるつもりで買っておいたのだろう。
「でも、オマエは来ると思ったぜ。来るって返事した限り約束を破るような奴じゃないって思ってたし、ちゃんとほら、願い事にも書いておいたもんな」
彼はそう言いながら、背にした竹にしか見えない笹から一つの短冊を引き寄せる。そこには『あらいが約束通りここまで来ますように』と書かれている。 自信の無い字はひらがなになっているあたり、書いたのは新堂だろう。
最初から願掛けをしていたのではなく荒井が返事をよこしてから短冊に書いておいたのだが、それでも新堂に望まれていたのだと思うと胸がやけにざわついた。
「いや、俺も高三だろ。鳴神卒業したら進学するにしても就職するにしても、制服着て同年代の連中とバカみたいに騒いだりするのも終わりかと思うとちょっと寂しくてな。七夕に学校残って星見ようとした、みたいな馬鹿げた思い出一つくらいあってもいいかって思ったりする訳だ。いやー、オマエが来てくれてよかったぜ。誰も来なくて笑い話ってのも悪くないけど、そりゃ寂しいもんな」
新堂はそう言いながらどこか楽しそうに笑う。
7月7日の七夕は主立った行事のあるぞろ目の日として学生が迎えるのはほとんど最後のものだろう。
その日になれば自然と思い出す、そんな思い出の中に自分がいるのかと思うと悪くはないが、果たして新堂は自分の名前まできちんと覚えていてくれるだろうか。
七夕に学校で居残って星空を見ようかと屋上に上ったけど星は見えないし、誰か来ないかと思って仲間を呼んだら後輩が一人しか来なかった。エピソードとしては面白いだろうから暫くは覚えてくれているかもしれない。
だがどうせなら、ずっと覚えていてほしい。七夕が来るたびに、離れていても新堂が荒井のことを思い出してくれたならそれはきっと幸せなことだろうから。
「新堂さん、どうせならもっと忘れられないようにしてあげましょうか?」
高鳴る鼓動をおさえながら、荒井は静かに笑う。
不思議そうに首を傾げる新堂にもっと傍へ来るよう手招きすれば警戒することもなく荒井の傍らへとやってくる。
「もっと近くに来てください、大切なことですから……」
そして何の疑いもなく荒井へと顔を寄せる新堂の頬に触れると、勢いに任せて唇を重ねていた。
何をしているのだろう、と気付いた時にはもう唇は触れていた。温もりを微かに感じる心地よさも一瞬ですぐにそれは焦りへ変わる。
雰囲気にのまれてしまった。忘れてほしくない思いが強すぎて軽率な行動をとった自分を恥じる。
「お、おい荒井……」
唇を離した後、新堂は驚いた様子で荒井を見つめていた。
驚いて拒絶し思いっきり突き飛ばされなかったのは良かったが自分のした事がどれだけおかしな事なのかじわじわと理解すると同時にキスの余韻より深い後悔ばかりが胸へと広がっていく。
居たたまれなかった。だから、何か言われるより先に飛び出していた。
「待てよ荒井ッ」
背後から声を浴びるが、何も考えられない。
転がるように階段を降り、駐輪場に隠すようにとめた自転車に飛び乗る。その最中、スマホが何度か震えたが一度も見ずに家まで戻っていた。
荒井がスマホの電源を入れる気になったのは、気持ちが幾分か落ち着いてからのことだ。
時刻はもうすぐ日付が変わる頃になっていた。
新堂からのメッセージは荒井へ個別に届いており、最初のメッセージは荒井が屋上を飛び出した直後に届いている。
「待てよ荒井、逃げんな」
「メッセージ見てねぇのか?」
飛び込んだ言葉が刺さる。やはり怒っているのだろうと思うが、怒るのが当然という事をしたのだから仕方ないだろう。
恐る恐る次のメッセージを読めば。
「あー、まぁいいや。明日ちゃんと言うつもりだから絶対にツラ見せろよ。学校休んでも家に行くからな」
少し強い語調で責めるような言葉が並ぶ。
仕方ない、新堂が怒るような真似をしたのは自分だ。
それに、もし新堂が傷ついているのなら自分の目的は果たせたのではないか。
七夕に後輩を呼び出したら強引にキスをされて逃げられた、なんて思い出が新堂に残るのなら、一生片思いで終わるつもりだった気持ちに諦めもつくというものだ。
そんな風に思っていたのだが。
「心配すんじゃ無ェよ、悪いこと言うつもりは無ェから」
「七夕なんだからいい思い出にしてぇだろ、オマエもさ」
後に続く言葉が、荒井の感情をかき乱す。
あんな事をした自分に何をいうのだろう。殴られて気持ち悪いと罵られれば二度と関わらないように生きていこうと思っていたのに。
「……やめてください、新堂さん。期待しちゃうじゃ……ないですか……」
ベッドに寝転がりながら、荒井は泣きそうな顔でひとり呟く。
翌日、新堂から「好きだ」と告げられそれが冗談ではなかったのをまだ知らない荒井はただ、陰鬱な気持ちのまま深い雲が垂れ込める夜空を眺める事しか出来ないでいた。
新堂誠からメッセージが届いたのは18時を過ぎた頃だったろう。
「せっかくの七夕だし、今から星でも見に来ねぇか。鳴神学園特別棟の屋上でボーっとしてるから来れる奴来いよ」
メッセージにはそんな事が書いてある。
部活が終わってから七夕なのに気付いて、少しばかり興が乗ったのだろう。
まだ学校に残っている誰かがいれば夕涼みをしてから帰るつもりなのだろうが、夏の大会を前に本格的な練習が始まったボクシング部よりも遅くまで残っている生徒などいるはずもない。
「僕はもう家に帰ってしまったので行けないです、ごめんなさい!」
最初に断りのメッセージを入れたのは細田だった。
それに続くよう、福沢や岩下も断りのメッセージが次々に入る。
「新堂さんごめーん! 今日もう家に帰っちゃったからまた今度。というか、七夕だから星を見るとか結構ロマンチックだね」
「私もお断りするわ。今は外に出られそうにもないから……星なら来月のほうが綺麗に見えるでしょうから、その時に誘ってもらおうかしら」
女性陣は断り方も気遣いが見られるのは流石だ。
「ごめんなさい新堂さん、僕もう帰りの電車に乗っちゃいました……また今度誘ってください」
坂上はどうやら帰りの電車内のようだ。新聞部はまだ活動してたのかもしれないが、日野や風間からの返事はない。
当然帰宅部の荒井はすでに家に着いていた。
シャワーを浴びてこれから食事でも摂ろうかという頃合いだが、荒井の家は鳴神学園の徒歩圏内にある。自転車で急げば15分はかからず到着するだろう。
少し考えた末に
「僕は行けると思います、少し時間は頂きますがお待ちいただけますか」
そうメッセージを返信し、すぐさま制服に着替えて家を出た。
別に何かを期待している訳ではない。ただ、新堂と少しでも二人で過ごす事ができて、その思い出があれば嬉しい。その思いだけが、荒井を動かしていた。
鳴神学園に到着し真っ直ぐ特別棟の屋上へ向かえばそ新堂は床の上に寝そべって大の字になっている。
「よぉ、荒井か。思ったより早かったじゃ無ェか」
息を弾ませながら屋上のドアを開けた荒井に、新堂は横になったままそう告げた。
教師に見つからなかったのは幸いだったろう。本来学校に生徒がいても良い時間ではない上、自転車通学の許可をとっていない荒井が駐輪場にいたのなら言い訳が面倒ぬいなる所だった。
最もこの学校はマンモス校だ、見回りの教師が一人では隠れるのも容易いのだが。
「他の人は来てないんですか?」
「あぁ、日野や風間は返事くれてねぇけど、もう家に帰ったんだろうな」
荒井は新堂の傍へと腰掛けると一緒に並んで天を仰ぐ。7月の空はどんよりとした雲が広がり、星など殆ど見えなかった。
「……何も見えませんね」
まだ梅雨時だから仕方ないだろう。
岩下もメッセージに書いていたが、本来の七夕は旧暦の行事で現代の暦だと8月上旬の方が適しているのだ。梅雨時の7月では雲がかかるのも当然だというのは荒井もわかっていたが、それでも少し残念な気がした。
「いいんじゃ無ェの、こういうのは雰囲気ってのが大事だろうし。それによォ、七夕に学校の屋上登ってみたけど、なーんも見えなかったとか後で笑い話になって良いと思うぜ」
新堂は身体を起こすと、視線を空から屋上のフェンスへと移す。
そこには大きな竹のような笹が3つも並べられていた。
「どうしたんですか、あの竹みたいな笹」
「あぁ、あれな。今朝方、教室棟に並べられてたって竹みてーな笹だよ。みんな願い事書いてたみたいだし、せっかくだから高ェところに飾っておこうと思ってな、暇だから運んでそこに立てかけておいたんだ」
そういえば、今朝は誰かが七夕用らしい竹のような笹を持ちこんで、生徒たちの間でちょっとした騒ぎになっていたのを荒井は思い出す。
誰がもってきたのかはわからないが、近くに短冊もおかれていたから各々が好き勝手に願い事を書いていたものだ。
結構な大きさの竹だったが一人で運んだのだろうか、屋上のフェンスに支えられ風になびいていた。
「わざわざ運んだんですか、思ったより凝り性なんですね」
「思ったよりってのは何だよ、せっかくならこういうイベントは思いっきり楽しんだ方がいいだろ」
新堂は笑いながら竹のような笹を飾ったフェンスへと近づくとそれを背にして笑う。
夜空を背にして風を受ける新堂の横顔は普段よりずっと凜々しく少し大人びて見えた。
「僕が来なかったら一人でやるつもりだったんですか?」
荒井は半ば呆れながらも新堂の隣へと近づいた。新堂は変わらず楽しそうに笑っている。
「そりゃぁそうだろ、七夕で知り合い呼んでみましたー、誰も来ませんでした、で一人で屋上でコーラ飲んで帰るってのも笑い話になるだろうしな」
新堂の視線の先には何本かのジュースが置かれている。誰か来たらのませるつもりで買っておいたのだろう。
「でも、オマエは来ると思ったぜ。来るって返事した限り約束を破るような奴じゃないって思ってたし、ちゃんとほら、願い事にも書いておいたもんな」
彼はそう言いながら、背にした竹にしか見えない笹から一つの短冊を引き寄せる。そこには『あらいが約束通りここまで来ますように』と書かれている。 自信の無い字はひらがなになっているあたり、書いたのは新堂だろう。
最初から願掛けをしていたのではなく荒井が返事をよこしてから短冊に書いておいたのだが、それでも新堂に望まれていたのだと思うと胸がやけにざわついた。
「いや、俺も高三だろ。鳴神卒業したら進学するにしても就職するにしても、制服着て同年代の連中とバカみたいに騒いだりするのも終わりかと思うとちょっと寂しくてな。七夕に学校残って星見ようとした、みたいな馬鹿げた思い出一つくらいあってもいいかって思ったりする訳だ。いやー、オマエが来てくれてよかったぜ。誰も来なくて笑い話ってのも悪くないけど、そりゃ寂しいもんな」
新堂はそう言いながらどこか楽しそうに笑う。
7月7日の七夕は主立った行事のあるぞろ目の日として学生が迎えるのはほとんど最後のものだろう。
その日になれば自然と思い出す、そんな思い出の中に自分がいるのかと思うと悪くはないが、果たして新堂は自分の名前まできちんと覚えていてくれるだろうか。
七夕に学校で居残って星空を見ようかと屋上に上ったけど星は見えないし、誰か来ないかと思って仲間を呼んだら後輩が一人しか来なかった。エピソードとしては面白いだろうから暫くは覚えてくれているかもしれない。
だがどうせなら、ずっと覚えていてほしい。七夕が来るたびに、離れていても新堂が荒井のことを思い出してくれたならそれはきっと幸せなことだろうから。
「新堂さん、どうせならもっと忘れられないようにしてあげましょうか?」
高鳴る鼓動をおさえながら、荒井は静かに笑う。
不思議そうに首を傾げる新堂にもっと傍へ来るよう手招きすれば警戒することもなく荒井の傍らへとやってくる。
「もっと近くに来てください、大切なことですから……」
そして何の疑いもなく荒井へと顔を寄せる新堂の頬に触れると、勢いに任せて唇を重ねていた。
何をしているのだろう、と気付いた時にはもう唇は触れていた。温もりを微かに感じる心地よさも一瞬ですぐにそれは焦りへ変わる。
雰囲気にのまれてしまった。忘れてほしくない思いが強すぎて軽率な行動をとった自分を恥じる。
「お、おい荒井……」
唇を離した後、新堂は驚いた様子で荒井を見つめていた。
驚いて拒絶し思いっきり突き飛ばされなかったのは良かったが自分のした事がどれだけおかしな事なのかじわじわと理解すると同時にキスの余韻より深い後悔ばかりが胸へと広がっていく。
居たたまれなかった。だから、何か言われるより先に飛び出していた。
「待てよ荒井ッ」
背後から声を浴びるが、何も考えられない。
転がるように階段を降り、駐輪場に隠すようにとめた自転車に飛び乗る。その最中、スマホが何度か震えたが一度も見ずに家まで戻っていた。
荒井がスマホの電源を入れる気になったのは、気持ちが幾分か落ち着いてからのことだ。
時刻はもうすぐ日付が変わる頃になっていた。
新堂からのメッセージは荒井へ個別に届いており、最初のメッセージは荒井が屋上を飛び出した直後に届いている。
「待てよ荒井、逃げんな」
「メッセージ見てねぇのか?」
飛び込んだ言葉が刺さる。やはり怒っているのだろうと思うが、怒るのが当然という事をしたのだから仕方ないだろう。
恐る恐る次のメッセージを読めば。
「あー、まぁいいや。明日ちゃんと言うつもりだから絶対にツラ見せろよ。学校休んでも家に行くからな」
少し強い語調で責めるような言葉が並ぶ。
仕方ない、新堂が怒るような真似をしたのは自分だ。
それに、もし新堂が傷ついているのなら自分の目的は果たせたのではないか。
七夕に後輩を呼び出したら強引にキスをされて逃げられた、なんて思い出が新堂に残るのなら、一生片思いで終わるつもりだった気持ちに諦めもつくというものだ。
そんな風に思っていたのだが。
「心配すんじゃ無ェよ、悪いこと言うつもりは無ェから」
「七夕なんだからいい思い出にしてぇだろ、オマエもさ」
後に続く言葉が、荒井の感情をかき乱す。
あんな事をした自分に何をいうのだろう。殴られて気持ち悪いと罵られれば二度と関わらないように生きていこうと思っていたのに。
「……やめてください、新堂さん。期待しちゃうじゃ……ないですか……」
ベッドに寝転がりながら、荒井は泣きそうな顔でひとり呟く。
翌日、新堂から「好きだ」と告げられそれが冗談ではなかったのをまだ知らない荒井はただ、陰鬱な気持ちのまま深い雲が垂れ込める夜空を眺める事しか出来ないでいた。
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