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インターネット字書きマンの落書き帳

   
ウリエンジェさんと月の花嫁(ウリエンジェ&ムーンブリダ)
ムーンブリダという名前が「月の嫁」という意味らしい。
というのを聞いて「なるほどな……」って顔しちゃったから、今回は「月に娶られた花嫁・ムーンブリダ」と、その姿を思い出すウリエンジェ。
そして蛮神と呼ばれた「月の女神・ツクヨミ」の話です。

色々と入り混じってしまったが、きっとウリエンジェの見た夢の話とかでしょう。

ムーンブリダとツクヨミ関係の話なので、紅蓮のパッチ分終っている感じでオナシャス。
はーツクヨミ様はおうつくしいドスエ……。

ツクヨミ様の性格が若干ブレてる感じは、ウリエンジェさんの中に「本当のツクヨミ」が存在しないため、ムーブリダの面影が被っているからです。(という言い訳で予防線をはるおれ)




「月の女神と月の花嫁」

 夜を取り戻した空の彼方に、月が見えてはいなかった。
 それが、月のない夜だったせいなのか。それともこの世界に元々月などなかったのか。初めて見る夜の世界を前にして、ウリエンジェは判断がつかずにいた。
 いや、判断がつかなかったのは夜が初めてだったからではないだろう。

 ムーンブリダという名は、月の花嫁を意味する言葉だという。
 ウリエンジェが元いた世界では、夜空を見上げると月が見える日が多かった。
 月が見えない時でも空に月がある事はかわらない。

 すでに姿が見えなくなったとしてもウリエンジェの心はいつもムーブリダという月の光が照らし、導いてくれていたように。

 だから以前は空を見て、月が出ていてもいなくても。その姿が見えなくても、彼女の面影を感じる事が出来ていた。
 しかしこの世界で月がないのだとしたら、彼女の面影をどうやって感じればいいのだろう。

(ムーブリダ、私は……)

 あえて古めかしい言い回しを使い、自分の心を誤魔化すようなしゃべり方をするのはウリエンジェ自信が優しく繊細で、誰かを傷つけるような言い方をするのが得意ではなかったからだろう。
 そんな彼でも伝える必用があるべき時、言葉を尽くす事ができたのはいつも心にムーブリダという光が存在していたからだ。

『何くよくよしてんだよ、お前じゃないとダメなんだろ』
『ウリエンジェが言ってやらないと、みんなちゃんと分らないと思うぞ』
『心配しなくても、アタシだけはいつだってあんたの味方だよ。あんたがどんな汚れ役を買ったって、アンタが間違った事してないってアタシは信じてるよ』

 それはムーンブリダが現実に語りかけてくれた言葉ではない。
 もし今隣に彼女がいたらそう言ってくれただろう……そんな思いが紡いだ仮初めの言葉だ。
 それを分っていてもなおウリエンジェが彼女の姿を追い求めたのは、自分にない輝きを彼女がもっていたからだろう。
 全てを背負い、運命すら受け入れ命をなげうち使命を全うする覚悟を。

 あの時彼女が立ち向かったように、自分も生きる事が出来るだろうか。
 覚悟が鈍りそうになった時、ウリエンジェは空を見ていた。
 月に娶られた花嫁……ムーブリダの名、その由来になった月を見れば、彼女が語りかけてくれるような気がしたから。

「……愛するものを月にでも奪われてしまったのか?」

 その時、見知らぬ声がする。
 振り返れば切れ長の目をした黒髪の女性がそこには立っていた。
 この世界では見ない装いは、元にいた世界で東方の女人の着物によく似ていただろう。
 透き通るような白い肌にやけに赤い唇。人形のように整った顔立ちは冷たい印象を与えるが、ウリエンジェは不思議と温かな気持ちになった。
 そうまるで、月の光を見ているような……。

「私の故郷で、人の魂は月に向うと言われていた」

 見知らぬ女はウリエンジェに並んで空を見る。
 暗き夜空は無数の星が宝石のように散りばめられていた。

「人は日の出ている時より、夜に死ぬ事が多いそうじゃないか。だからだろうねぇ、陽の光は生きる導。月の光は魂の導きなんて下らない幻想が、神とも言える存在を生み出したとしても不思議じゃない……あんた達ならそういうのも、よく分っているのだろう」

 元の世界で、ウリエンジェは蛮神という存在を多く知っていた。
 その殆どが人や蛮族の「願い」により作られた仮初めの神であり、恐ろしい力を振るって時に世界を壊す猛威となりえる存在だ。
 多くは願いと、大量のエーテル……ある種のエネルギーを用いなければこの世界に現れる事はなかったが、その名は信仰として人や蛮族の中に存在しつづけている。

「私の故郷ではね、ツクヨミと呼ばれているんだ。魂を導き、常世の世界に送る神……月の守護者であり、死の与える神でもある。そういうの、あんた達は蛮神と言うんだろう」

 東方では、そのような神があると聞いていた。
 一人の女がその力を得て、蛮神として蘇った事も。
 それは悲しくも無慈悲に人の命を摘み取る恐ろしくも孤独な神だったと聞いてはいるが……。

「月というのはいつも空で一人。近くにいる他の星なんてなく、一番近くにある星は手を伸ばしても届かない所にある……そういった意味で月を常世に見立てたのなら、あながち間違いでもなかったろうね」

 見知らぬ女は目と閉じる。黒く長い睫毛で伏せた目は、悲しみと憂いを秘めていた。

「だけど、月というのはそんなに残酷じゃないものさ。例え空に一人でも、そこに無数の思いは集まってくる……思いってのは、途切れない限り。その心にある限り、簡単に消えるものじゃないみたいだからね……」

 女はそう言いながら、夜空の下へと歩み出す。
 星空の中、彼女の身体はうっすらと蒼く輝いているように見えた。

「だから、安心するといいさ。例え月が見えなくても、月に娶られた花嫁が心にある限り、それは見えないだけである。仮初めだと思っても、それが生きるよすがとなるのなら、せいぜいその光を忘れないように、信じて歩けばいいじゃないか」

 そして女は、微かに笑った。

「死は時に残酷で、暴力的かもしれない……だけど、月の女神は言うほど残酷でも暴力的でも、無慈悲でもないさ。あんたの中にいる笑顔は、紛れもなく本物の彼女の笑顔で……それを否定するほど、無慈悲な神じゃない」

 だから、どうか信じて進んで欲しい。
 貴方の中にある月光の導きにしたがって、その先にあるあたしの笑顔を……。

「ムーンブリダ……」

 ウリエンジェは声をあげ、手を伸ばす。
 そこは柔らかなベッドの上で、まだ夜なのか部屋は薄暗い。
 夜が来ているという事は、ここはクリスタリウムかあるいはイル・メグか……大罪喰いが討伐された、夜の訪れた地域であるのは間違い無い。

 あれは夢だったのだろう。
 空に月の気配はなく、そこここに星が瞬いている。
 だが……。

「私の心で笑っている貴方は、私の中では嘘じゃないのであれば……どうか見守っていてください。私の、私たちの行く道を……」

 ウリエンジェは密かに祈る。
 その姿を、夢でみた儚き女性もどこかで笑って見ているような気がした。

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