インターネット字書きマンの落書き帳
その過去はどこか他人事のようで。(ヤマアル)
昔の事を何となく思い出して眠れなくなってしまうアルフレート君概念です。
冬というのは、寒さや日照時間不足もあって何かとマイナスな事を思い出したり……。
嫌な事を引きずってしまったり、そういう状態になりやすい時期なんですよねッ。
実際、歴史を俯瞰的に見ると『最も人が死にやすい時期』は初夏ごろとされてるんですが、夏は『いっぱい産まれる時期』でもあるんで、生と死より強い日差しから生を感じやすい……反面、冬は雪や何やで閉ざされた感覚が強くなり、精神がより『死』を強く自覚する時期だと……。
詩的には、そんな風に語られたりします。
ま、どうでもいいですね。
あっ、作品は最初に描いた一行の話です! どうぞ!
冬というのは、寒さや日照時間不足もあって何かとマイナスな事を思い出したり……。
嫌な事を引きずってしまったり、そういう状態になりやすい時期なんですよねッ。
実際、歴史を俯瞰的に見ると『最も人が死にやすい時期』は初夏ごろとされてるんですが、夏は『いっぱい産まれる時期』でもあるんで、生と死より強い日差しから生を感じやすい……反面、冬は雪や何やで閉ざされた感覚が強くなり、精神がより『死』を強く自覚する時期だと……。
詩的には、そんな風に語られたりします。
ま、どうでもいいですね。
あっ、作品は最初に描いた一行の話です! どうぞ!
『凍える記憶』
忍び寄るような寒さに耐えかねアルフレートは目を覚ましてしまった。
時刻は夜半をとうに過ぎていただろう。
普段であれば夜中に目覚めても毛布を被れば自然と眠れていたのだが、その日は毛布を被っても寝返りをうってもどうにも寝付けないでいた。
過去の事……小さい頃から今に至るまでのあらゆる出来事をやけに思い出してしまい、その考えに取り憑かれ目が冴えてしまったのだ。
(これでは眠れませんね……寝酒でも試してみますか……)
隣で眠るヤマムラに気付かれぬようベッドから抜け出すと、アルフレートは忍び足で暗がりを歩きランプもつけないままテーブルに出しっぱなしのワインをカップに注ぐ。
蓋を開けてからやや日数が経った赤ワインは強い酸味と血が混じったような味がしてお世辞にも美味しくはなかったがアルコールは飛んでいなかったのか、冷えた身体を幾分か温める。
だがそれでも、頭の中は相変わらず過去の出来事が廻っていた。
物心つく前……外にいるだけで石を投げられた。大人たちは自分を見て何と言っていただろう。
子供心に、家にいるのは嫌だった。強い香水と安酒の匂いが充満していたからだ。
軋むベッドに昇ってきた影は誰だったろう。男だったか、女だったかさえ覚えていない。
一緒に住んでいた家族は、父親はいただろうか。母親は誰だったろうか。
毎日が入れ替わり立ち替わり、誰かしらがいるが誰が誰だか分らないような生活をしていたからもうそれさえも曖昧だ。だが毎日怒声と罵声、喘ぎ声と泣き声とが入り混じっていたのは覚えている。
返り血を浴びた生ぬるい感覚。腕に残る鈍い手応え。家中にある僅かな金貨をかき集める音。
それら全ては遠い日の出来事で随分前に忘れていたと思ったのだが……。
(どうして今になって、こんな事を思いだしたりするんでしょう……)
木製のカップに口を付け、舐めるようにワインを啜る。
ずっと思い出さなかった記憶だ。あまり楽しい記憶でもないから、自ずと忘れようとしていたのかもしれない。
だが今日はやけに鮮明に過去の事を思い出す。
断片的にだが、様々な記憶が完成された絵のようにはっきりと思い浮かぶのだ。
(忘れていたと思ったんですが……)
アルコールは身体を温めるが、一向に眠気はこない。
むしろますます過去の深い記憶に触れていくような気がした。
(妙な気分ですね。過去というのは私がいかなる道を進んだとしても、変えようもなく後をついてくる影のようで……)
過去を思い出す事で、感慨にふけるという気持ちにはならなかった。
むしろ思い出す場面の全てはどこか他人事で、自分が体験したものといった感覚が薄かった。
罵声を浴びせられているのも、軋むベッドの音も何もかもが自分の体験したものと到底思えなかったからだ。
(変えられない過去を振り返っても何もならない話です……早く眠くなってくれるといいのですが……)
アルフレートは二杯目、三杯目とワインを飲みとうとう空にしてしまう。
酔いが回った感覚はあるが過去の記憶は断片的ながら無数に思い起こされる。
あの日パンを盗んだと言って追いかけてきた大人は誰だったか……。
金色の髪は穢れていると罵り、髪を掴んで笑う子供たちはどうなったのだろうか……。
外を歩くだけで淫売の子と白い目を向けてきた人間は……。
路上で行き倒れになった死体から金品を奪った、あの死体はどこの人間だったのだろうか……。
「アルフレート、起きてたのか?」
ヤマムラに気取られないよう静かに過していたつもりだが、酔いが回って油断してたのだろう。気付いた時、すぐ目の前にヤマムラが立っていた。
「ヤマムラさん。すいません、起こしてしまいましたか……えぇ、目が覚めてしまって、何だか寝付けなくて寝酒でも試してみようかと思ったのですが、慣れない事はするものじゃないですね。かえって目が冴えてしまって……」
「いや、そんな事はどうでもいいんだ……アル、大丈夫か? キミは……」
「大丈夫ですよ……ワインは空にしてしまいましたが、飲んだのは3杯ほどです。半分以上はなくなっていましたから、二日酔いにはならないと思いますよ」
「そうじゃない、アル……」
ヤマムラは暗がりで手を伸ばすと、確かめるようアルフレートの頬を撫でた。
肉刺の多いヤマムラの指先はやや固く、頬に触れるとくすぐったい。
「アル、やっぱり……キミは、泣いているじゃないか……」
そう言われ、アルフレートはようやく自分の頬が涙に濡れている事に気が付いた。
「えっ……あ、本当だ。何ででしょうね……久しく泣いた事なんてなかったから、どうして泣いてるのか自分でもよくわからないです……」
自分の目元に触れ、涙が滴る感触を覚える。
最後に泣いたのは何時だったろう。過去の記憶をやけに思い出すくせに、何故泣いたのか。いつ泣いたのか。そういった記憶はまるで思い出せなかった。
「どうしたんだ、悪い夢でも見たのか?」
悪い夢?
このヤーナムが悪夢みたいなものだろうに。
そんな事を考えながら、アルフレートは笑っていた。
「いえ、ただ昔の事を思いだしていて……今日はやけに昔の事を思い出すのです。子供の頃のことから、大人になる今までの……師のことばと、貴方に会うずっとずっと昔のこと……」
そう語った瞬間、アルフレートの身体が温かく包まれる。
気が付いた時、アルフレートはヤマムラの腕に抱かれていた。ヤマムラはその身体をしっかりと抱きしめ、唇を噛みしめる。
「わかった。もう、いいから……それ以上は何も、言わなくていいから……」
何と暖かい身体なのだろう。
這い寄るような寒さが薄らいでいくような気がして、自然と涙が零れていた。
今度は、泣いている事が分る。
頬をつたうのは温かな涙だ。
だが泣いている理由は、アルフレート自身もよくわかっていなかった。
「ふふ、ありがとうございます……ヤマムラさん。私は……今なら、心地よく眠れそうです……」
このヤーナムという街は、悪い夢のようなものだ。
永遠に覚める事のない悪夢が無間に続くような日々が繰り返されている巨大な悪夢の揺りかごだ。
だがもしこの夢に悪夢じゃない合間があるのだとしたら、それはヤマムラの傍にいるこの時間だけなのだろう。
その腕に抱かれ、アルフレートはようやく微睡みに誘われる。
今度はもう目覚める事なく、朝まで迎えられる気がした。
PR
COMMENT