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インターネット字書きマンの落書き帳

   
それまでの彼は死に、これからの彼がある。(デカラビア与太話)
フルカネリのクエスト最高に面白かったですネ!
というワケで、その後にフルカネリの面会をするデカラビアの話とかを書きました。
お節介グラシャ君とかも出てます。

デカラビアの周囲が全て終ると思っていたけど、少しずつ変わっている。
彼の中に破壊と再生がおこっているといいね。
最も、聡明な彼だからこそ、存外自分の変化には気付くのが遅いのかもしれないけどね。
聡明だからこそ、自分はおろそかになる。医者の不養生みたいだね。



「全ては終わり、だから始まる」

 全てが他愛もない言葉だった。

「おい、喰わないのかデカラビア」

 もうすぐクリスマスだからという理由で、アジトでもご馳走が出ていた。
 以前「しくじって」から、デカラビアはアジトに半ば監視状態に置かれ、常に誰かと過ごすような生活を送っていたが下手に縁を結んだのもあってか、とりわけグラシャラボラスは良く話書けてくるようになった。

「いいだろう、別に俺が何をしようとしまいと……」

 デカラビアは俯いたまま、大きな帽子のつばを傾け顔を隠す。
 行きがかり上グラシャラボラスを拾う事にはなったが別段彼とハナシが会うというワケでもなければ特別彼を気に入っているというワケでもない。
 むしろ真っ直ぐで自分を曲げようとしない、嘘偽りもはかりごとも苦手なグラシャラボラスの事をデカラビアは苦手に思っていた。

「そういうなって、お前全然食べてないだろ。もっと喰わないと力付かないぜ。ほら、飯食って、元気出せって。何をするにも命あってのものだぜ……お前、何か好きなものあるのか?」

 グラシャラボラスは笑いながらデカラビア用に皿を取る。
 こっちに料理を取り分けようというのだろう。

「好きなモノなどあるはず無いだろう。食事など栄養素を取り込めればそれでいい」
「じゃ、好き嫌いもないんだな。偉いぞお前は! それなら栄養バランスがよさそうな感じで選んでおくからな」

 グラシャラボラスはそう言いながら、肉や野菜を言った通りバランス良く取り分けると、それをご丁重にフォーク付きで差し出してきた。

「ほら、喰えよ! 遠慮するなって、お代わりもあるからなッ」

 グラシャラボラスは真っ直ぐな眼差しをこちらに向けるから、これはもう食べるまでずっと見て居るのだろう。しぶしぶ口に料理を運べば、グラシャラボラスは白い歯を見せて笑った。

「美味いだろ!」
「……どうだろうな」
「美味いよなぁ。ヴィータってよォ、俺が美味いって言いながら喰ったものを一緒に味わって『ホントだ、これ美味いな』って言って笑ったりしてさ。そういう感覚が共有できるっての、結構いいよな。お前さぁ、フルカネリの爺さんが好きだったものとか知ってンのかよ」

 不意にフルカネリの名前を出され、デカラビアは少し驚いてグラシャラボラスを見る。グラシャラボラスはそんなデカラビアの視線に気付かぬ様子で続けた。

「お前の事だから、相手の好みとかそんなの何も知らなそうだよな。ダメだぜお前のそういう、自分の考えが世界の基準だーみたいなトコ。ヴィータってのは、同じものを見て綺麗だなーと思ったり、美味いもの食べて美味いよなーコレって言い合ったりするのが楽しくて、そういうので信頼っての? 感じたりするもんじゃねーか。お前がそんな態度だと、フルカネリの爺さんも寂しかったんじゃ無ぇのか」

 そんなワケがあるはずもない。
 あれは自分に心酔し、自分を英雄と崇め行動を共にした存在なのだから。
 目上である羨望の対象となる存在と同じような感覚を共有したいなどと思うなど烏滸がましいと遠慮するのではないか。
 そう、とは思ったが。

「さて、どうだろうな」

 自分の考えが全ての基準なのだと思い込んでいるという点は否定できず、デカラビアは静かに目を閉じる。
 歪であったとはいえ、自分と同じ夢を見た男の事をデカラビアは単なる手駒の一つだと完全に切り捨てる事が出来ないでいるのもまた事実だったからだ。

 それがデカラビアのもっているメギド時代の特性だったのか。
 あるいはヴィータの持つ青臭い情というものが自分にも染みついてしまったのかは、彼自身も分らなかったが。


 それから幾日かたった頃だった。
 フルカネリと面会するため、デカラビアは王都に来ていた。勿論面会には立ち会い人がいるし、目付役としてコラフ・ラメルに詰めるマルファスが付いてきてはいたが。

「話をしてこいよ。狭い牢屋で僕たちを謀ろうとしても限界はあるだろうし、お前たちの個人的な話にまで首を突っ込むほど野暮じゃないさ」

 マルファスは一定の距離をとり、フルカネリとの面会を見守るような形をとる。
 甘いとは思ったが、フルカネリの傍には衛兵が聞き耳を立てているのだからマルファスがついて来なかったとしても到底、はかりごとの相談など無理だったろう。
 最も、指輪もなければ以前以上に皆がデカラビアに対し警戒しているこの状態で隠れて何かを成し遂げるのは難しい事くらいデカラビアでなくても分るだろうが。

「……おや、これは珍しい客人だ。まさか来てくれるとは思ってもいなかったよ」

 フルカネリは愛用の車椅子に腰掛けて本を読んでいるようだった。
 傍にいるネコは膝で静かに寝息をたてている。よほどフルカネリになれているのか、あのネコは片時もフルカネリから離れようとしなかった。
 囚人とはいえ、王都は罪人を無下に扱う事はない。衣食住は与えられ、最低限の娯楽も与えられているだろうから著しく健康を害する事はないはずだ。
 だがフルカネリはもう老人と言っても良い年齢だ。一人で独房にいるというだけで堪えるものがあるのだろう。元々あまり肥えてはいない彼の身体はより痩せ、一気に老け込んだようにさえ思える。

「まだお前には働いてもらわんといけないかもしれんからな。如才ないか」
「おかげさまでね。はは、王都の牢獄ほど安全な場所はないよ」

 フルカネリは慣れた様子で車椅子を操ると、デカラビアの傍までやってくる。その指先は以前より肉が落ち、老木のように痩せて見えた。
 ヴィータは老いる。そしてフルカネリはヴィータとして見ればもう高齢の部類になるだろう。
 デカラビアも今はヴィータの身ではあるからいずれ年老いて死に至るのだろうが、それでもフルカネリよりずっと若い。
 殺されるか毒でも飲まされるか、何らかの事故に巻き込まれて死なない限りはフルカネリの方が先にフォトンへ還るのだろう。

「そうか……今日は手土産を持ってきた」

 デカラビアはそう言いながら、懐に入れた包みを取り出す。
 その仕草で一瞬衛兵が動こうとするが、包みに入れたのがただの焼き菓子なのを確認するとそれ以上咎める事はなかった。

「王都で売ってる焼き菓子だ。以前口にした時、悪い味ではないと思ってな。最も、お前がそう思うかまでは知らんがな」
「ははッ、美味しそうじゃないか……私はね、食べる事がとても好きなんだよ。軟らかい焼き菓子なら私のような老人でも食べられそうだ。それに、キミが美味しいと思ったのならきっと美味しいさ」

 フルカネリは口元を緩めると、大切そうに焼き菓子を口に入れる。

「……あぁ、甘くてとても美味しいねぇ。これがキミの愛した味か」
「さぁ、どうだろうな」
「キミは嘘などつかないだろう。キミが美味しいと思うものを私もそう思えるのは光栄だよ」

 彼は笑っていた。傍にいた時間は他のメギドたちよりも長いくらいだったが、こんな風に笑う男だったろうか。

「ありがとう、こんなに食事を楽しいと思ったのは久しぶりだねぇ。なに、商売で稼いで贅の限りを尽くしたものだが、案外にこうやって食べるものを美味しく、楽しいと思えるとは。この歳になってもまだ、気付きがあるものだね」
「……そうだな」
「おや、キミも食事を楽しいと思うのかい? ……失礼だとは思うが、キミはそのような楽しさを感じないタイプかと思っていたよ。いや、あるいは私がそう思いたかったのかもしれないね……キミは私にとって手の届かない、遠い存在で……理想のようなものだから……」

 零れた焼き菓子をつまみ口の中に入れながら、デカラビアは笑う。

「俺は元々、食事を楽しいものと思ってなどいない。栄養を取り込み肉体を維持する、ヴィータの面倒な機能としか感じてはいなかったが、そうだな……」

 脳裏に一瞬、グラシャラボラスの姿が過ぎる。
 心を許した相棒とも呼べる存在と同じような感覚を共有できるのがヴィータの良さだとしたら、あるいは……。

「……最近は、食事を楽しいと思うのも悪くはないと。そう考えるようにはなってきたか」
「それは、私と一緒だからかな? そうだったら嬉しいんだけどねぇ」
「さぁ、どうだろうな」

 デカラビアは口角を緩めて笑う。

 長年ただひたすらに一つの目標へと向い、それを打ち砕かれたら何も残らないと思っていた。
 だが今は存外に、心は穏やかでいる。

 自分の核はメギドの願望……破壊と再生に魅せられているが、自分の感情はヴィータのものに左右され以前よりずっと手ぬるくなったのを自覚していたし、それが煩わしいとさえ感じていた頃もある。
 だが今はただ、共有できる感情というものをどこか楽しんでいる自分がいるのも確かであり、それは今までの彼が気付かない新しい何かであることもまた確かな事であった。

 変わりゆく自分の世界。
 これもまた一つの滅びであり再生であるという事に、デカラビアが気付いていたかは定かではないが。

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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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