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インターネット字書きマンの落書き帳

   
アガレスの帰郷
Twitterでちらっとpostしたアガレスが故郷に帰ってみる話ですよ。
モンモンの故郷が再興しはじめている。
それを聞いて、ひょっとしたら自分の故郷も何か変化があるかもしれない……。

と、ほんのちょっと期待して一人いそいそと故郷に戻るアガレスという概念です。
運命はかくも残酷で、だが幸福なものなのだ。



『運命は過去になく眼前にあり』

 召喚者であるソロモン王の故郷が幻獣により破壊された事はアガレスも知っていた。
 故郷を失い、幻獣に対する憎しみから戦いに出たのが全ての始まりだったと聞く。

「俺の故郷はもう無いんだけどさ、故郷だった所に、新しい人たちが集まって再興が始まっていたんだ。新生グロル村とでもいうのかな。もう俺の知ってる人はそこにはいないんだけど……それでも、無くなったと思っていた故郷が戻って来たみたいでちょっと嬉しかったよ」

 そんなソロモン王から故郷の復興が始まっていた事を聞かされたのはつい先日の事だった。
 元々幻獣が来る程にフォトンが豊富な土地であり王都から離れた村ではあるが道が無い訳でもないグロル村は周辺の幻獣を殆どソロモン王が退治していた事などもあり、王都から逃れた人々や他の集落にいたがそこを幻獣の襲撃により失った人々が自然と集まって復興が始まっていたのだそうだ。

 それを聞いたアガレスは、自らの故郷を思い出していた。
 滅びの運命を避ける事なく失われた故郷と、家族と、友人と、仲間と。それらの全てが戻ってくるワケではないのだが、自身の故郷も誰かが復興しているのではないか。
 新しい住人が暮らしはじめ、新たな家が建ち、新たな生活が始まっているのではないか。
 もしそうであれば滅びの運命は再生のための芽吹きであると。自分の信じた運命は間違っていなかったのだと思える気がして、アガレスは久しぶりに故郷へと戻る事にした。

 失ってから暫く戻っていなかった故郷だ。
 ソロモン王の故郷のように誰か人が訪れているだろうか……。

 僅かな期待を胸に故郷の土を踏みしめたアガレスの眼前に広がっていたのは、朽ちた小屋と荒廃した大地だった。
 人の気配はなく、長身のアガレスでも目線が遮られる程に草木が生い茂っている。
 誰も訪れていないのは一目瞭然であった。

「そうだろうな、この地は元より誰かが好んで訪れるような場所ではないか」

 ソロモン王の故郷は道があり、人の流れがあった。
 王都からもさほど遠くはない。
 だがアガレスの故郷は辺境に近く、深い森の奥をさらに分け入った場所にあるのだ。

 グロル村と比べれば遙かに辺鄙な場所だ。
 人が好んで立ち入る場所ではない。

 もともと小さい集落で狩りや農耕をしひっそりと暮していた。
 外貨を稼ぐのは工芸品を街までもっていき取引する、交流などその程度の閉鎖的な場所だった。

 地図にさえ書かれてないのだから、人など来るはずがないのだ。

「……分かっていたのだがな」

 最初から分っていた、グロル村とは違うのだという事も、この集落特有の文化は他のヴィータに馴染まない事も。
 だがそれでも僅かに期待していたのもまた事実だった。
 もしかしたら、誰か一人でもこの村にいるかもしれないと……。

「何も変わっていないか」

 アガレスは斧で草木を刈り取って道を開く。建物がある場所も、集会場も、子供たちが遊んでいた広場も何一つ変わっていない。
 ただ時が経ち建物は朽ちて、草木は茂り荒廃が進んでいるのは確かだった。

「このまま忘れ去られるのもあるいは運命か……」

 アガレスはそう呟きながら、高台へと昇る。
 子供の頃からよく昇っていた場所で、そこから集落が一望できるから好きな場所でもあった。

 期待をするのは、もう辞めよう。
 ここは人が来る場所ではない。
 元より地図に名も刻まれてないような小さな集落なのだから、このまま静かに消えていったとしてもそれは運命なのだろう。

 だからこの景色を見たら諦めよう。
 破壊の運命は再生に至る道ではなかった、それだけの事なのだから。

 そう思い高台から集落を見下ろせば、そこには一面の花畑が広がっていた。

 鬱蒼とした草木しか生い茂ってはいないと思っていたのだが、人々が暮していた広場は一面が花畑に変わっていたのだ。
 それはヴィータであった住人たちのフォトンが廻り芽吹かせた花だろう。
 色とりどりの花々が各々の彩りをもって咲き誇っている。

 名のある花ではない。
 他人に言わせれば花を付けた雑草にすぎないのだろう。
 だが集まって咲き乱れる一面の花畑はただ美しく輝いており、その花は蝶や蜂が舞い飛び新たな命を育んでいた。

「そうか、私の故郷は……」

 もう存在しないかもしれない。
 だが存在しないからといって、完全なる無ではないのだ。

 この場所は確かにあった。
 確かに人がいて、滅びを迎えた。そして新しい命が芽吹き、その景色をアガレスが目にしている。

 それらの全てが運命なのだ。
 一つだって無駄なものはなく、何が欠けても完成しないこの景色の全てがそうなのだ。

「……運命に導かれ、そして変わっていくんだろうな。今も、これからも」

 アガレスは自然と笑みがこぼれる。
 それは哀しみや諦めの笑みではなく、微かな希望に満ちた優しい微笑みだった。

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