忍者ブログ

インターネット字書きマンの落書き帳

   
何故か恋人同士でキスシーンを演じる事になる話。(手芝・みゆしば)
平和な世界線で普通に恋人同士として過している手塚と芝浦ですよ。(挨拶)

今回は可愛くて演技が上手い女優を探していたアマチュア映画チームに、何故か女優代わりに抜擢されてしまったしばじゅんちゃんが「他の男相手に恋愛シーンは無理だから」という理由でみゆみゆを呼び出す話です。

長ぇ概要だなッ。
今回は佐野くんが芝浦の幼馴染み兼悪友として登場しています。
平和な世界線だとお金持ちのお坊ちゃんだからこの二人は顔見知りである可能性は存在していたと思うんだ……!

俺の世界がそういってるからそうなんです。はい。



『演技は熱意』

 芝浦から助けを求めるメールが届いたので何かと思い指定された公園へと出向けばそこには芝浦と佐野、そして見知らぬ男たちが数人立っていた。

「あー、手塚来たぁー……手塚ぁ、助けてくれよもー、何だよもー完全にダマされた奴じゃんこれー」

 芝浦は手塚を見るなり泣きついてくる。何がおこっているのか全く分らないまま芝浦を撫でてやれば、すぐに佐野が笑いながら近づいてきた。

「いやぁ、ごめんね手塚さん。何か俺も知らない間に変な事になっちゃってて……」
「佐野か。どうして佐野がここに。それと、あの男たちは何だ。どうして芝浦がこんなに参っている」

 手塚はそう言いながらちらりと男たちの方を見る。
 遠目から見ても充分に綺麗な顔立ちをした男の周囲にはハンドビデオのようなものやライトをもった男たちが幾人か見られたので彼らがアマチュアながら何かを撮影している集団なのは何となくだが理解した。

「えーと、何から話したらいいかな。とりあえず、あっちにいる連中俺のトモダチというか知り合いというか、まぁちょっとした顔見知りの映画研究同好会ってサークル」
「映画研究……映画を見て議論する、というタイプのサークルではなさそうだな」
「そうそう、勿論映画も見るんだけどアマチュアながら撮影の方もやる連中で、将来は映画監督とか目指してる映像系の奴らが集まってて、一本ショートストーリーの作品を撮りたいっていうんだけど、どうしても役者が見つからないって言うんだ」

 佐野は頭を掻きながらそんな事を言う。
 そういえばアマチュアで映画を撮る時に一番困難なのは女優を探す事だとよく言われているが、この映画研究同好会も定石に漏れず女優捜しに難航していたのだろう。

「で、あいつらがどこかに可愛くて演技も上手い子いないかなーって言うから、可愛いくて演技の上手い奴なら一人知ってるよって言ったらあいつら乗り気になって見てみたいっていうから、芝浦の事紹介したんだよ。ほら芝浦、可愛くて演技上手いだろ」

 だが何でそうなるのだ。手塚は喉もとまででかかった言葉を飲込む。
 佐野はかなり天然だから可愛くて普段から自分を偽る演技がうまい芝浦の事を紹介したのだろうが、その文脈で『相手が探しているのは女優だ』という事までくみ取れなかったようだ。

「それで芝浦の事連れていったら、何かちょっと違う? って顔されてさ。いや、でも芝浦絶対可愛い演技得意だからって思って、芝浦に頼んだんだよ。ちょっと可愛い風に誘惑してみてって」

 だから何でそうなるのだ。手塚は思わず天を見上げるが、やはり佐野は天然なのだろう。しかも他人の悪意に関しては鈍感だ。

「そしたら芝浦メチャクチャ頑張ってくれてさー、いやホント、芝浦って男の俺から見てもドキっとする仕草するんだもんスゴイよね。そしたら、何かあいつら『今回はBL路線でもいいかな』って話になって、芝浦を主演に映画というかショートムービー撮りたいっていうからここまで来たんだけど、何か芝浦聞いてないってグズりだしてさ。いや、俺もそれ聞いてなかったんだけど。で、BLやるなら手塚さんだったらいいって言うから、手塚さんにSOS出したって話」

 だからどうしてそうなってしまうのだ。手塚はがっくり項垂れる。
 だが「可愛く挑発して」と言われた芝浦が全力で相手を挑発するのは容易に想像出来たし、元より「男を堕とす」方面に特化した芝浦の男心をくすぐる仕草を見れば同性に何ら興味を抱かなかった相手だって「悪くはない」気持ちにさせるのは何となく理解出来る。

「……BL作品というのは、アレか。男同士で恋愛するような作品の事だよな」

 手塚の胸に顔を埋めたまま、芝浦は頷いて見せる。
 何だかよくわからないまま連れてこられてそれを聞かされ狼狽えて助けを呼んだんだろう。

「いくら俺でもカメラ回ってる前で、演技しろっての無理だしっ。しかも知らない男といきなりしろって言われても無理だからッ」

 芝浦はパニックになりながら手塚に訴える。確かに今会ったばかりの相手と恋人同士の演技をしろと言われても困惑するだろう。ましてや芝浦は役者になりたいワケではない、ただの学生なのだから。
 だがかといって知ってる間柄だとはいえ呼ばれても困る。芝浦の恋人ではあるが演技に関しては素人だし、人前でさえ嫌だというのにカメラが回っている所でキスなどするのは気が引けた。

「そう言われても俺はカメラが苦手だしな……」

 手塚はもともと写真があまり好きではない。撮影用のカメラなどもってのほかだ。
 しかも芝浦と違いコロコロ表情をかえたりするのは苦手なのだから当然人前で演技など出来るはずもない。
 見る限り相手役らしい男は芝浦の好みとは違うが顔立ちも立ち姿もいかにも役者志望らしくすらりとして整っている風に見える。
 やらせるなら向こうの準備した役者がスジだろうと思ったが。

「それ言うけど、手塚は俺が手塚以外の奴とキスする所撮影されても何とも思わないワケ?」

 それを言われると弱い。
 芝浦が自分以外の相手と恋人同士のように振る舞うのだって腹が立つというのにキスシーンがあるなんて論外だ。

「……わかった。善処しよう。それで、俺は何をしたらいいんだ」
「えーっと、この台本でやってほしいって。本当は男女のシーンだったみたいだけどさ。喧嘩して立ち去ろうとする相手を引き留めるってやつ」
「思ったより台詞が多いな……今来たばかりでこんなに覚えられないぞ」
「いや、別に上手くやらなくてもいいって。むしろ下手な方がいいと思わない? 上手く演技してこのまま完成するまで演じてくれとか言われたら無理だし。結局俺も手塚も演技の素人だからさ。素人の大根演技を見れば、あいつらも諦めるって」

 そこまで聞いて、手塚は芝浦の意図を何とはなしに理解する。
 そもそも手塚も芝浦も演技に関してはずぶの素人だ。演技を見せれば相手方が『作品に出すには至らない』と判断し諦めるのは充分あり得る。

「わかった、律儀に相手側の言う事を聞かず適当にやればいいんだな」
「そうそう。最初からカメラ回さないで、まずリハーサルって体裁で失敗すれば相手も愛想つかすでしょ……」

 二人は台本を確認すると、それぞれベンチへこしかける。
 シーンとしてはベンチの上で思い出を語るうちに別れ話となり、逃げようとする相手を引き留めるといった内容だ。

「えっと、俺も手塚も芝居の経験とかないんで、まずリハーサルっての? で演技を見てもらって、それでダメそうならこの話は無しって方向でお願いしまーす」

 芝浦は撮影を待つ男たちにそう声をかけベンチに座る彼に続き手塚も隣に腰掛ける。
 多いと思った台詞はほとんど芝浦の台詞で手塚はたまに相づちをうつ程度しかやる事がなかったのは、元々女優を試すためのシーンだったろう。

「はじめて会ってからもう1年になるんだね」
「あぁ……」
「もっと長く一緒にいたと思ってたけど、まだそれだけしか経ってないとか意外だよね。初めて会った時は、俺はただの店の客。あんたはその店のマスター。アンタにとっては沢山いる客の一人だろうなぁって思ってたけど、俺があんたにとって特別な存在になれてるんだって分った時は嬉しかったな」

 不意に語り始める芝浦の横顔は普段とかわりないが、それ故に不安になった。
 自然体すぎて演技が上手く見えるような気がしたのもそうだったが、その台詞が実際の自分たちの境遇とあまりにも似ていたからだ。

「でもさ、やっぱ俺ってアンタにとって面倒くさいだけの奴だなーって気付いちゃったんだよね。ワガママだし、気まぐれだし、その癖あんたに何かいい事の一つだってしてやれない。ほら、俺たちって結局日陰の関係だろ。俺はアンタの事好きだし、アンタの事自慢の恋人だって思ってる。けど、自慢の恋人ですって紹介出来る相手なんて誰もいない……」
「そんな事ない、俺は……」
「だから、もうやめよ。このまま続けてもさ、俺はアンタの事幸せにしてやれない、アンタだって幸せになれないよ。俺じゃない普通の誰かの事好きになって、そしたら普通に祝福されて、結婚して……俺さ、アンタにはちゃんとした幸せ掴んで欲しいんだよ」
「あのな、俺は……」
「わかっちゃったんだ、アンタが幸せになる未来に、俺は必用ないんだって。だから……」

 芝浦もこの台詞に何か思う所があったのだろう。
 顔を上げた時、その目は僅かに潤んでいた。

「……さよなら」

 立ち上がり走り去ろうとする芝浦の手を夢中で掴んでいたのは演技ではなかった。
 本当にそのまま自分の前から消えてしまうのではないか。そんな焦りから自然と引き留めていたのだ。

「馬鹿な事を言うな、お前のいない未来こそ俺には必用ない。俺の幸せはお前の幸せだ。俺を幸せにしたいのなら、お前が幸せになってくれ」

 こんな台詞ではなかった気がするが、自然と出ていた言葉はそれだった。
 芝浦も手塚の台詞回しが違う事に気付いたのかやや驚いた顔をしていたが。

「だから、俺の傍にいてくれ。俺が幸せにしてやるから……」

 自然の身体を抱き寄せ、殆ど意識せずに唇を重ねる。唇を舐り、舌を滑らせその心を慰めるキスは普段より長く続いた。

「ちょ、手塚。あの……状況、分ってる……?」

 唇を離した時、芝浦は顔を赤くしながら手塚の胸に縋り付く。
 芝浦の演技があまりに真に迫っていたからつい入り込んでしまったが、ここは「引き留める」だけで良かったのだ。キスする必用はないし、仮にキスシーンであってもリハーサルでする必用もない。そもそも素人演技を見せつけなければいけないのに、お互い熱が入りすぎていた気がする。
 素人の演技というより普段の自分たちそのままといった感じになってしまった事実が一層恥ずかしさをかき立てた。

「……おい、芝浦」
「なに?」
「これは絶対に面倒な事になるからこのまま逃げるぞ、いいな」

 そう言うが早いか、手塚は芝浦の身体を抱き上げるとそのまま全力で走り出す。
 逃げる事は了承したがまさか抱き上げられると思っていなかった芝浦は驚きながらも手塚の身体に必死にしがみついた。
 後ろから男たちが何か騒いでいる声が聞こえるが、とにかくもう逃げるしかない。

「手塚っ、無理してない? 俺あんたとあんまり体格変わらないからっ、抱いて走れるほど軽くないけどっ」
「今は黙ってろ、気が散ると力が抜けてお前を落とすかも知れないぞ」
「あ、あぁ……あのさ、演技の途中、結構マジで俺の事放したくないって思った?」
「……黙ってろ、後で全部答えてやるから」

 そう言われ芝浦は珍しい程素直に頷くと、強く手塚を抱きしめる。
 その日はその後うるさく言われないよう携帯電話の電源は全て切っていたので何があったかわからなかったが、芝浦が逃げるのを見て佐野も面倒事を避けてすぐに逃げていった事。件の映画研究同好会から「相手役は手塚でいいから、本気で出演してくれないか」と何度か打診があったのを何度も断ったという事は語っておいてもいいだろう。



おまけ >

 映画研究同好会に引っ張られそうになってから数日後、芝浦は偶然佐野と出くわした。
 あの日の事を聞かれるのが嫌だったので避けていたつもりだが、佐野は別段変わった様子も見せず手を振りながら芝浦へと走り寄ると。

「久しぶりー、この前はゴメンなー、無理いって。手塚さんもありがとうっていっておいて」

 暢気にそんな事を言うのだった。
 あの時、あの場所にいたのなら一部始終を見ていたと思うんだが。

「いや、まぁ別に大丈夫。ってか、佐野。あのさ……」
「でも芝浦、演技上手いんだな。俺も思わず見入っちゃったし、キスしたフリもすごい熱演で……」
「あ、それは、その…………フリ?」
「んー、暗くてよく見えなかったけど遠目でキスしてるようにしか見えなかったから、手塚さんも演技上手いんだなッ」

 どうやら佐野は全てが演技の上でやったフリとして見ていたらしい。

「あそこで逃げたのを見て俺も逃げて来ちゃったけど、正解だったと思うよー、あいつら結構しつこく芝浦の学校とか、どこに住んでるのとか、マジで役者やってくれないって言ってきたからこれガチだーと思って適当に断ってるけど、よっぽど芝浦の演技が上手かったんだな」

 暢気に言う佐野を見て、芝浦は安堵の息をつく。
 佐野はかなりの天然だから、本当に何も気付いていないんだろう。

(でも、佐野にならいつか言ってもいいよな……俺と手塚の関係。こいつならぜったい、悪い風にはとらないでいてくれるから……)

 そんな幼馴染みの姿を見て、芝浦は密かにそう思う。
 一番長く過している友人に出来れば祝福して欲しいと願いながら。

拍手

PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 8 9
11 12 14 15 16
19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール
HN:
東吾
性別:
男性
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
Copyright ©  -- くれちきぶろぐ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]