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インターネット字書きマンの落書き帳

   
愛とは存在するが、どこにもない。(コシチェイ様与太話)
愛するヴィータ男女を前に「愛なんて存在するのか」と問いかけるコシチェイという概念です。

ヴィータの感情を理解せず、ヴィータ体になっても愛情や友情といったお互いを思いやるような感情の一切を理解できない。
そんなコシチェイ概念を生きているので、そんなコシチェイしか出て来ませんよッ!

今回は……否! 今回「も」軽率にコシチェイがヴィータを殺します。
いつも俺の書くコシチェイは、仲間でも部下でもヴィータでも軽率に殺すんだぜ!

コシチェイのキレ芸はなく、一切冷静な感情のままのコシチェイです。
今日も元気にコシチェイコシチェイ!




「愛は見えないが確かに存在する。だがそれは愛を知らなければ理解できないのだ」

 コシチェイは椅子にほおづえをつきながら、羊皮紙のページをめくっていた。
 ヴァイガルドに印刷技術が出回るより以前に作られた本で、各地の伝承や詩人が好んで唄う物語などが記されているものだ。
 かつて吟遊詩人となるとき、歌や物語を紡ぐために用いられたものだという。
 以前実験中に死んだメギドがヴィータのそのような娯楽や風習を懐かしみ喜ぶような輩で、それが隠し持っていた本だ。

「……なるほど、愛だの恋だのに翻弄された男と女の物語というのがあいつ等には受けているのか」

 ほおづえをつきながらコシチェイはそう独りごちる。

 愛する恋人を殺され、復讐に燃える騎士の物語。
 一人の踊り子を愛した男が自分の方を向かぬ踊り子をとうとう殺してしまう物語。
 塔に閉じ込められた美しい姫君を救う王子の物語。

 全てではないがその大半は斯様な「愛情」や「恋愛」がモチーフになっているものが多かった。
 この手の話が多いという事はヴィータの間では愛とか恋といったものは当然のように存在し語られるものなのだろう。

 コシチェイは自分の仮面に触れ、すこし目を閉じる。
 そして自然と実験台であるヴィータが研究所から逃げ出した時の事を思いだしていた。

『俺はどうなってもいい。だけど、彼女だけは逃がして欲しい』

 あのヴィータはそんな事を言っていた。
 コシチェイはヴィータの男女を区別できるほどヴィータに興味はなかったし、メギドのとるヴィータ体についても興味はなかった。(そもそも自分のヴィータ体が男性の身体に近いという事もよく知らないでいるのだ)
 だがそのヴィータにとって逃がしたいと願った相手はどうやらツガイのようであり、命を賭けてでも守りたい存在だったようだ。

 そんな願い、当然叶えるつもりはないのだが。

『俺は彼女を愛しているんです。愛した相手に、生きてほしい。生きてほしいんです……』

 手を握り血を吐くように語る男の姿には興味をもった。
 愛だの恋だのという話はよく聞くな。だがそんなの、ただ繁殖のためにある一次の熱病だ。そんなもの存在しない……。
 コシチェイが男を諭すように告げても、男はただ首を振るばかりだった。

『愛してます。愛はあります……俺には命がけの愛なんだ……』

 研究所に囚われたヴィータたちの世界は狭い。
 牢獄のような部屋に詰め込まれ日々実験台に上がるのを待つような生活をしているのだ。
 そんな中で目の前にいるツガイを大事に思うという事もあるのだろう。
 いつ死ぬのかも分らない日々を送っているのだから毎日が命がけなのも本当のことだ。
 だが。

『お前はそう言うが、愛とは本当に存在するのか?』

 それは以前から抱いていた疑問であった。
 よくヴィータは愛だの恋だのといった感情で時々理不尽かつ合理的でない判断をする。
 いや、ヴィータだけではない。ヴィータを模したメギドの中にもそのような不合理な感情を抱きヴァイガルドで過ごすような輩も時々いるのだ。
 病原菌が蔓延し不潔なあのヴァイガルドに住むなんてどうかしているとしかコシチェイには思えなかった。
 最もこれは実験のためヴァイガルドに趣くたび、何かしらの病気に罹患してくるコシチェイのおおよそメギドとは思えないほど脆弱なヴィータ体のせいもあるのかもしれないが。

『愛はここにあります。俺の中に、彼女の中に……確かに存在しているのです』

 男はそう言い切って見せた。
 だからコシチェイは男を吊るし、生きたまま解剖してやったのだ。

 腸(はらわた)を引きずり出し、臓腑をひっくり返して。
 骨という骨を丁重に取り除き、筋肉の繊維も一本一本並べ、脊髄と脳だけになった後は丁重にその頭蓋骨を開き、脳髄をかき回して中身を見てやった。

 愛は輝かしいものだという。
 愛は暖かいものだという。

 だが男の中に輝く宝石のような臓器は一つだってなく、またその身体も時をおいてどんどん熱を失い最後は氷のようになっていた。

『やはり、どこにも無いな。愛というのはお前たちのどこにも存在しない。存在しないものを語るなんて、お前たちは愚かな存在だよ』

 吊した死体を投げ捨てれば、ツガイの女はそれを抱き泣く。
 そうして暫く泣きはらした後、飯を喰うワケでもなければ水さえ飲まずツガイの女は飢えて死んだ。腐臭をまとったまま死んだ女の中には愛があったのかと確認するためその女も解剖してみたが、やはりそれらしい輝きも温もりもどこにもなかった。

「書物を読んでもやはり理解できんな。私は私の目で見たものしか信じられん」

 その書物には、ヴィータとある魔物の物語も書かれていた。
 夫が長期不在の間、一人でいる妻が寂しいだろうと夫のフリをした魔物があり、帰って来た夫をその魔物と勘違いした妻が斧で殺してしまう……といった内容だ。

「馬鹿馬鹿しいな。やはり愛というのは無意味だ。存在もしないのだろう。実際にヴィータの猿どもが言うような輝きや温もりなど、あいつらの死骸には何処にも出ないのだからな」

 コシチェイは改めて自身の考えの正しさを認識し、古びた本を破り暖炉へとくべる。
 元々は「まつろわぬモノ」たちから流れてきたものだろう。こういった「古きヴィータの文化」というのを毛嫌いしているメギドも多く、このようなものを所持していると後々面倒な事にもなりかねない。

 破り捨てたページを火にくべながら、コシチェイはただぼんやりと考えていた。

 愛だの恋だのといったものは存在しない。
 臓器や身体のパーツの一部ではないのは間違いないから。
 だがどのヴィータもそれを「ある」と信じている。見えないが確かに「存在する」と。
 集団幻覚のようなものなのだろうと思うが、もし本当に存在するのならそれは一体どんな形をしていて、本当に温もりなどあるのだろうか。

 もしそうだったとしたら……。

「利用できるかもしれんな……恋やら愛といったものはどうにも思考を鈍らせる。思考が鈍った輩はメギドでもヴィータでも、恐らくハルマでも平等に狂うのだろう。こんなに利用価値のある兵器もそうそうないだろうからな……」

 コシチェイはそう呟く。
 つまるところ、彼はそういう風にしか生きられないメギドなのだ。

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