インターネット字書きマンの落書き帳
醜いコシチェイという概念
pixivにおいてあったコシチェイの話を何となくという理由でブログに移動しました。
作品としてはコシチェイのイベントが全て終わる前に書いた話なのでゲーム内描写と若干の齟齬が出たり出なかったりしますが、これもまた時代かあるいは歴史的転換期の二次創作だと思って諦めてください。
そうさ! 開き直りさ!
開き直りの何が悪いッ!
開き直りでも一生懸命書いたものを埋もれさせたくないんだよ私はァ……。
という訳でいろいろと内心劣等感がありまくるコシチェイが自分に対して思いを寄せるメギドを感情にまかせて殺してしまうはなしをしますよ。
こういう風にしか話を書けないんだァ……
作品としてはコシチェイのイベントが全て終わる前に書いた話なのでゲーム内描写と若干の齟齬が出たり出なかったりしますが、これもまた時代かあるいは歴史的転換期の二次創作だと思って諦めてください。
そうさ! 開き直りさ!
開き直りの何が悪いッ!
開き直りでも一生懸命書いたものを埋もれさせたくないんだよ私はァ……。
という訳でいろいろと内心劣等感がありまくるコシチェイが自分に対して思いを寄せるメギドを感情にまかせて殺してしまうはなしをしますよ。
こういう風にしか話を書けないんだァ……
『醜さに囚われた男』
言葉は時に呪いとなってその運命さえ縛る。
コシチェイがその身に受けた呪いは「醜い」であった。
元より脆弱な存在であり、メギドたちの間でも容易く握りつぶせる存在程度の存在である。
その上に彼は自己を確立する以前からずっと実験動物であったのだ。
おまえのように醜く脆弱な存在など生きる価値はない存在だ。
こうして実験動物として存在できるだけでありがたいと思え。
メギドたちはそう告げながら拷問と大差ない苦痛を与え、それはまだ考える力すら持ち得ていなかったコシチェイの肉体と精神とを蝕んでいった。
身体は捻れ本来の肉体すら忘れ果ててしまうほど歪んでいった。
そしてこう、考えるようになった。
自分がこんなにもひどく辛い目にあうのは、全て弱いからだ。
弱いものというのは醜く蹂躙されるのが当然なのだ。
この世界でいっとうに醜く脆弱な自分はいかなる仕打ちを受けて当然なのだ。
だから、強くならなければいけない。美しくならなければいけない。
醜さから脱却すれば自分も目の前で笑って毒を飲ませる連中と同じ舞台に立てるのだから。
拷問のような実験も毒のような薬を投与される事も全て強くなる事に必用なものだと思う事がコシチェイを生かしていた。
醜い自分はそうしなければいけないのだとすり込まれていったのは自分に無体を強いる連中が皆自分らを「醜い実験動物たち」と名前ですら呼ばなかったからだろう。
同じように集められた実験動物たちは次々と死に絶えた。
あるいは最初からこの実験そのものが殺すため、なぶるために存在していたのかもしれないが。
そんな最中でもコシチェイは生き延びていた。
最初は脆弱で痛みと苦痛を前にのたうち回る事しかできなかった肉体も実験の成果があったのか少しずつだが肉体は痛みに耐えられるようになり、耐える時間が延びるうちコシチェイはその時間を思慮にあてた。
自分のされている実験がどのようなものなのだろうか。
被検体を殺すほど強い薬や衝撃を与える事でどんな結果を得ようとしているのか。
どうすればこの醜い境遇から脱する事が出来るのか……。
思考は恨みの感情として日々肥大していき、実験体としての成果現れた頃にはコシチェイは実験動物という枷を打ち破る事に成功し被験者から研究者へと立場をかえた。
当然、彼は他のメギドと比べれば脆弱ではあった。
だがそれでも骸体を変える事でデータをとり自らをより強力な存在へ高めつつ、個の力に依存しがちなメギドたちに対抗するために個の力量に依存しすぎない兵器や装甲について思案し実験を続けた。
個の力こそ至上であり集団の力や脆弱な存在を戦力としてみないメギドラルでは当然、彼の研究を理解するものはいなかった。
学びの時期その殆どを実験体として過ごし弱者として泥水を啜って生きていたため、当然他のメギドたちと価値観も違えばコミニュケーション能力は皆無である。
その上に生来の性格なのかはたまた実験の後遺症か、泣き叫び、怒り、怨嗟の言葉を吐き散らす事が日常であるため、好き好んで彼とともに働こうとする存在などいなかったのだ。
それは当然、彼の出自もあるのだろうが。
故に実験体から研究者となった後も、コシチェイと友好的なメギドなど一人もいなかった。
元より個を重視するメギドにとって、まともに対話も出来ず感情で当たり散らすようなコシチェイと共に研究する価値などなかったのだ。
コシチェイ自身がいくら実験を乗り越えた身体だとはいえメギドとして見れば脆弱な取るに足らない存在であったというのも大きいだろう。
だがコシチェイは才能があり、また悪運をそなえていた。
ただの実験体という出であり基礎知識があった訳でもないコシチェイは学べる機会があれば目の前に知識を立ち所に吸収し、実験・研究においてすぐに成果をあげる事が出来たのだ。
研究者としては新参者であり所詮は実験動物であったコシチェイは成果を出すたび、似たような研究を続ける存在に疎まれていったのはヴィータでいうところの嫉妬といった感情に近いものだったろう。
だが知識や研究分野においてコシチェイの才能は確かなものでケチの付けようがない。
故に研究者たちは、コシチェイの容姿を嘲るようになっていた。
「元々ただのモルモットだ、みろあの醜い顔を」
「顔の半分が崩れて醜いだろう? あれは元々ただの実験体だからな」
「醜い実験体のくせに知恵をつけてエラそうにしてるが、見てみろあの醜い顔を。実験体だった頃の名残であんなに醜く顔が歪んでるから、性格まで歪んでやがる」
コシチェイは自分の外見の美醜をさして気にしてはいなかった。
外見の善し悪しより、「自分に何が出来るか」「自分が何をなし得たか」という方がよほど重要だと、そう思っていたからだ。
だが醜いという言葉には敏感であった。
それは幼い頃から醜さは弱さだとすり込まれた結果でもあったのだろう。
いくら力をつけてもコシチェイは醜いと呼ばれ続けており、それは弱かった過去の記憶を抉るのだった。
仮面をつけるようになったのは少しでも醜さから逃れるためだったろう。
元々顔の半分は失われており仮面をつける事のほうがメリットが多かった。
それに、鏡などを見た時に自分の傷を見る必用がないのも気が楽である。
仮面をつけてからコシチェイは一層研究に没頭するようになっていた。
「お疲れ様です、コシチェイ様」
それは研究が起動にのりはじめた頃だったろう。
コシチェイは周囲に幾人かの護衛をおける程度の力を得るようになっていた。
だが感情の制御すらままならないコシチェイだ。
常に誰かを見下して弱いメギドに対してはとことん残虐に振る舞っても良いと考え、衝動的に意味もなく非道な振る舞いをするコシチェイの護衛を快く受け入れる相手など殆どいなかった。
コシチェイ自身も人望がないのを理解していたし、そもそも自分よりも阿呆なメギドと無駄な会話をするくらいなら嫌われ避けられているくらいがちょうど良いと、そう思って生きていた。
「今日はお疲れのようですから、甘い珈琲をいれておきました。俺たちにとって味や香りなんてのは慰みにもならないのは充分承知してますが、たまにはこれくらいの贅沢をしても罰は当たらないでしょう」
だからやけにコシチェイに対し親しげに振る舞う護衛を、コシチェイはどう扱って良いのか理解できなかった。
普段からコシチェイに最も近い場所で護衛をし、殆ど独り言であるコシチェイの言葉にも耳を傾ける男は、コシチェイの言う事であれば例えそれが自らを差し出すような実験であっても嫌な顔ひとつせず志願した。
激しい苦痛を与えても「お役に立てたら光栄です」なんて笑い、自分の身体より「データはちゃんととれましたか」等とこちらを気にするような変わり者だ。
彼の持つ個が献身かそれに準ずる何かであるためこのような特性が出ているのだろう。
何にしてもメギドラルでは珍しい存在だ。
だが無条件にこちらを信頼しきちんと仕事をこなしてくれるという上では貴重だったためコシチェイは自然とその護衛を傍におくようになっていた。
「俺は普通のメギドより頑丈に出来てますからね、少しくらい痛いのとか、平気ですよ」
戯れの実験で苦痛を与えた時も、その男は笑っていた。
「コシチェイ様を守るのが俺たちの仕事ですからね。それで怪我をするのなんて当然ですよ」 自分を庇って大怪我をした時も、その男は笑っていた。
「コシチェイ様はやっぱり頭がいいなぁ。俺なんてずっと戦い一辺倒でしたから、これしか取り柄がないんで……ホント、尊敬しますよ」
つい研究に熱が入り自分ばかりが話していても、男は笑ってそう言っていた。
彼はコシチェイの全てを受け入れてくれており、コシチェイにとって彼の言葉はくすぐったいが心地よいものだった。
だが何故そんな気持ちになるのかその意味がわからぬまま、月日が過ぎた頃である。
「コシチェイ様の仮面の下、どうなっているんですか?」
男にそう聞かれた時、コシチェイは困惑した。
自分の顔が崩れて歪んでいるのは理解していたし、それは醜いものとして他のメギドたちからも忌み嫌われているのを知っていたからだ。
期待するような面白いものはない。
コシチェイはそう告げ、彼の前でも仮面を外す事は決してなかった。
彼もまた何処かでコシチェイの秘めた仮面の下は醜く歪んだ顔があるのを聞いたのだろう。それからコシチェイの仮面について、二度と触れる事はなかった。
だからその日、仮面を外したコシチェイの顔をその護衛が見る事になったのは不幸な偶然が重なったせいである。普段から誰も入れない自室で、滅多に外す事のない仮面を外していたのは崩れた顔がやけに疼いたから。あまり人を入れない自室に彼が入ってきたのは、以前から頼んでいた実験用の薬剤を急いで届けにきたからだった。
「コシチェイ様、頼んでいた荷物届きましたよ」
普段と変わらぬ様子でドアを開けた護衛は、コシチェイの顔を見て一瞬引きつった表情になった。
息を呑み、暫くコシチェイの顔を凝視する。
やはり醜いと思ったのだろう。 恐ろしがられ、罵倒され、嫌悪されるのが似合いの顔なのだから仕方ない。
どこか諦めのような気持ちでそう思っていたコシチェイにとって。
「……素顔も素敵だと思いますよ、コシチェイ様」
彼の言葉は、思わぬものだった。
恐らく彼は、本心からそう言ったのだろう。 彼のもつ思いは敬愛よりも深い、情愛に近いものだったのだろうから。
もしコシチェイが普通のヴィータのような生活をしており、親愛、敬愛、情愛、恋慕。そのような感情を欠片でも理解していたのなら、彼の言葉が決して偽りなどではない事も愛しさからその見た目よりコシチェイの傍にいたい思いを抱いていたという事も、その言葉で伝わっていたのだろう。
だが醜いという言葉は呪いとなってコシチェイを締め付け、コシチェイの価値観を歪めていた。
「それは、同情のつもりか?」
立ち上がったコシチェイは、ただただ憎悪の目をその男に向ける。
「お前は、いつも私に優しく振る舞って、そうして私を見下していたのか? 醜いこの顔を見て素敵だと? ……そうして同情し、私を見下すというのか。私よりもアホの分際で……」
「ち、違います。コシチェイ様。俺は……」
「黙れ! ……黙れ、黙れ、黙れ、黙れッ、畜生。畜生、畜生がぁぁぁああああっ!」
感情のタガが外れたコシチェイが冷静さを取り戻した時、すでに彼の姿はなくただ血と臓腑だけがあたりに広がっていた。 脆弱であるはずのコシチェイがこれほどの力を出せたのも不思議であったが、戦闘に特化した護衛が戦闘タイプではないコシチェイを前にして無抵抗で引き裂かれたのも不思議ではあった。
「……畜生が」
血まみれになった死体を前に膝をつくと、コシチェイは無意識にそう呟く。
自分が殺されて行くというのに抵抗もせず、歪んだ顔へ手を伸ばしそれを撫でて笑った男の姿ばかりが脳裏にちらついて離れず、胸は疼くような痛みが残った。
胸の痛みはいまでも時々疼くように脈打つが、その理由をコシチェイは死ぬまで知ることはないのだろう。
言葉は時に呪いとなってその運命さえ縛る。
コシチェイがその身に受けた呪いは「醜い」であった。
元より脆弱な存在であり、メギドたちの間でも容易く握りつぶせる存在程度の存在である。
その上に彼は自己を確立する以前からずっと実験動物であったのだ。
おまえのように醜く脆弱な存在など生きる価値はない存在だ。
こうして実験動物として存在できるだけでありがたいと思え。
メギドたちはそう告げながら拷問と大差ない苦痛を与え、それはまだ考える力すら持ち得ていなかったコシチェイの肉体と精神とを蝕んでいった。
身体は捻れ本来の肉体すら忘れ果ててしまうほど歪んでいった。
そしてこう、考えるようになった。
自分がこんなにもひどく辛い目にあうのは、全て弱いからだ。
弱いものというのは醜く蹂躙されるのが当然なのだ。
この世界でいっとうに醜く脆弱な自分はいかなる仕打ちを受けて当然なのだ。
だから、強くならなければいけない。美しくならなければいけない。
醜さから脱却すれば自分も目の前で笑って毒を飲ませる連中と同じ舞台に立てるのだから。
拷問のような実験も毒のような薬を投与される事も全て強くなる事に必用なものだと思う事がコシチェイを生かしていた。
醜い自分はそうしなければいけないのだとすり込まれていったのは自分に無体を強いる連中が皆自分らを「醜い実験動物たち」と名前ですら呼ばなかったからだろう。
同じように集められた実験動物たちは次々と死に絶えた。
あるいは最初からこの実験そのものが殺すため、なぶるために存在していたのかもしれないが。
そんな最中でもコシチェイは生き延びていた。
最初は脆弱で痛みと苦痛を前にのたうち回る事しかできなかった肉体も実験の成果があったのか少しずつだが肉体は痛みに耐えられるようになり、耐える時間が延びるうちコシチェイはその時間を思慮にあてた。
自分のされている実験がどのようなものなのだろうか。
被検体を殺すほど強い薬や衝撃を与える事でどんな結果を得ようとしているのか。
どうすればこの醜い境遇から脱する事が出来るのか……。
思考は恨みの感情として日々肥大していき、実験体としての成果現れた頃にはコシチェイは実験動物という枷を打ち破る事に成功し被験者から研究者へと立場をかえた。
当然、彼は他のメギドと比べれば脆弱ではあった。
だがそれでも骸体を変える事でデータをとり自らをより強力な存在へ高めつつ、個の力に依存しがちなメギドたちに対抗するために個の力量に依存しすぎない兵器や装甲について思案し実験を続けた。
個の力こそ至上であり集団の力や脆弱な存在を戦力としてみないメギドラルでは当然、彼の研究を理解するものはいなかった。
学びの時期その殆どを実験体として過ごし弱者として泥水を啜って生きていたため、当然他のメギドたちと価値観も違えばコミニュケーション能力は皆無である。
その上に生来の性格なのかはたまた実験の後遺症か、泣き叫び、怒り、怨嗟の言葉を吐き散らす事が日常であるため、好き好んで彼とともに働こうとする存在などいなかったのだ。
それは当然、彼の出自もあるのだろうが。
故に実験体から研究者となった後も、コシチェイと友好的なメギドなど一人もいなかった。
元より個を重視するメギドにとって、まともに対話も出来ず感情で当たり散らすようなコシチェイと共に研究する価値などなかったのだ。
コシチェイ自身がいくら実験を乗り越えた身体だとはいえメギドとして見れば脆弱な取るに足らない存在であったというのも大きいだろう。
だがコシチェイは才能があり、また悪運をそなえていた。
ただの実験体という出であり基礎知識があった訳でもないコシチェイは学べる機会があれば目の前に知識を立ち所に吸収し、実験・研究においてすぐに成果をあげる事が出来たのだ。
研究者としては新参者であり所詮は実験動物であったコシチェイは成果を出すたび、似たような研究を続ける存在に疎まれていったのはヴィータでいうところの嫉妬といった感情に近いものだったろう。
だが知識や研究分野においてコシチェイの才能は確かなものでケチの付けようがない。
故に研究者たちは、コシチェイの容姿を嘲るようになっていた。
「元々ただのモルモットだ、みろあの醜い顔を」
「顔の半分が崩れて醜いだろう? あれは元々ただの実験体だからな」
「醜い実験体のくせに知恵をつけてエラそうにしてるが、見てみろあの醜い顔を。実験体だった頃の名残であんなに醜く顔が歪んでるから、性格まで歪んでやがる」
コシチェイは自分の外見の美醜をさして気にしてはいなかった。
外見の善し悪しより、「自分に何が出来るか」「自分が何をなし得たか」という方がよほど重要だと、そう思っていたからだ。
だが醜いという言葉には敏感であった。
それは幼い頃から醜さは弱さだとすり込まれた結果でもあったのだろう。
いくら力をつけてもコシチェイは醜いと呼ばれ続けており、それは弱かった過去の記憶を抉るのだった。
仮面をつけるようになったのは少しでも醜さから逃れるためだったろう。
元々顔の半分は失われており仮面をつける事のほうがメリットが多かった。
それに、鏡などを見た時に自分の傷を見る必用がないのも気が楽である。
仮面をつけてからコシチェイは一層研究に没頭するようになっていた。
「お疲れ様です、コシチェイ様」
それは研究が起動にのりはじめた頃だったろう。
コシチェイは周囲に幾人かの護衛をおける程度の力を得るようになっていた。
だが感情の制御すらままならないコシチェイだ。
常に誰かを見下して弱いメギドに対してはとことん残虐に振る舞っても良いと考え、衝動的に意味もなく非道な振る舞いをするコシチェイの護衛を快く受け入れる相手など殆どいなかった。
コシチェイ自身も人望がないのを理解していたし、そもそも自分よりも阿呆なメギドと無駄な会話をするくらいなら嫌われ避けられているくらいがちょうど良いと、そう思って生きていた。
「今日はお疲れのようですから、甘い珈琲をいれておきました。俺たちにとって味や香りなんてのは慰みにもならないのは充分承知してますが、たまにはこれくらいの贅沢をしても罰は当たらないでしょう」
だからやけにコシチェイに対し親しげに振る舞う護衛を、コシチェイはどう扱って良いのか理解できなかった。
普段からコシチェイに最も近い場所で護衛をし、殆ど独り言であるコシチェイの言葉にも耳を傾ける男は、コシチェイの言う事であれば例えそれが自らを差し出すような実験であっても嫌な顔ひとつせず志願した。
激しい苦痛を与えても「お役に立てたら光栄です」なんて笑い、自分の身体より「データはちゃんととれましたか」等とこちらを気にするような変わり者だ。
彼の持つ個が献身かそれに準ずる何かであるためこのような特性が出ているのだろう。
何にしてもメギドラルでは珍しい存在だ。
だが無条件にこちらを信頼しきちんと仕事をこなしてくれるという上では貴重だったためコシチェイは自然とその護衛を傍におくようになっていた。
「俺は普通のメギドより頑丈に出来てますからね、少しくらい痛いのとか、平気ですよ」
戯れの実験で苦痛を与えた時も、その男は笑っていた。
「コシチェイ様を守るのが俺たちの仕事ですからね。それで怪我をするのなんて当然ですよ」 自分を庇って大怪我をした時も、その男は笑っていた。
「コシチェイ様はやっぱり頭がいいなぁ。俺なんてずっと戦い一辺倒でしたから、これしか取り柄がないんで……ホント、尊敬しますよ」
つい研究に熱が入り自分ばかりが話していても、男は笑ってそう言っていた。
彼はコシチェイの全てを受け入れてくれており、コシチェイにとって彼の言葉はくすぐったいが心地よいものだった。
だが何故そんな気持ちになるのかその意味がわからぬまま、月日が過ぎた頃である。
「コシチェイ様の仮面の下、どうなっているんですか?」
男にそう聞かれた時、コシチェイは困惑した。
自分の顔が崩れて歪んでいるのは理解していたし、それは醜いものとして他のメギドたちからも忌み嫌われているのを知っていたからだ。
期待するような面白いものはない。
コシチェイはそう告げ、彼の前でも仮面を外す事は決してなかった。
彼もまた何処かでコシチェイの秘めた仮面の下は醜く歪んだ顔があるのを聞いたのだろう。それからコシチェイの仮面について、二度と触れる事はなかった。
だからその日、仮面を外したコシチェイの顔をその護衛が見る事になったのは不幸な偶然が重なったせいである。普段から誰も入れない自室で、滅多に外す事のない仮面を外していたのは崩れた顔がやけに疼いたから。あまり人を入れない自室に彼が入ってきたのは、以前から頼んでいた実験用の薬剤を急いで届けにきたからだった。
「コシチェイ様、頼んでいた荷物届きましたよ」
普段と変わらぬ様子でドアを開けた護衛は、コシチェイの顔を見て一瞬引きつった表情になった。
息を呑み、暫くコシチェイの顔を凝視する。
やはり醜いと思ったのだろう。 恐ろしがられ、罵倒され、嫌悪されるのが似合いの顔なのだから仕方ない。
どこか諦めのような気持ちでそう思っていたコシチェイにとって。
「……素顔も素敵だと思いますよ、コシチェイ様」
彼の言葉は、思わぬものだった。
恐らく彼は、本心からそう言ったのだろう。 彼のもつ思いは敬愛よりも深い、情愛に近いものだったのだろうから。
もしコシチェイが普通のヴィータのような生活をしており、親愛、敬愛、情愛、恋慕。そのような感情を欠片でも理解していたのなら、彼の言葉が決して偽りなどではない事も愛しさからその見た目よりコシチェイの傍にいたい思いを抱いていたという事も、その言葉で伝わっていたのだろう。
だが醜いという言葉は呪いとなってコシチェイを締め付け、コシチェイの価値観を歪めていた。
「それは、同情のつもりか?」
立ち上がったコシチェイは、ただただ憎悪の目をその男に向ける。
「お前は、いつも私に優しく振る舞って、そうして私を見下していたのか? 醜いこの顔を見て素敵だと? ……そうして同情し、私を見下すというのか。私よりもアホの分際で……」
「ち、違います。コシチェイ様。俺は……」
「黙れ! ……黙れ、黙れ、黙れ、黙れッ、畜生。畜生、畜生がぁぁぁああああっ!」
感情のタガが外れたコシチェイが冷静さを取り戻した時、すでに彼の姿はなくただ血と臓腑だけがあたりに広がっていた。 脆弱であるはずのコシチェイがこれほどの力を出せたのも不思議であったが、戦闘に特化した護衛が戦闘タイプではないコシチェイを前にして無抵抗で引き裂かれたのも不思議ではあった。
「……畜生が」
血まみれになった死体を前に膝をつくと、コシチェイは無意識にそう呟く。
自分が殺されて行くというのに抵抗もせず、歪んだ顔へ手を伸ばしそれを撫でて笑った男の姿ばかりが脳裏にちらついて離れず、胸は疼くような痛みが残った。
胸の痛みはいまでも時々疼くように脈打つが、その理由をコシチェイは死ぬまで知ることはないのだろう。
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