忍者ブログ

インターネット字書きマンの落書き帳

   
あらいくんが誘拐されたけど助けてあげたよ その9
次で終わります! 次で終わりますから!(挨拶)

という訳でですね。
おおよそ二週間誘拐していた子を無事に元の場所に戻してあげました。
たぶん、作中で経過した時間とこの作品が執筆された時間がほとんど同じくらいだと思いますね!

今回は荒井くんが「どうしてあいつに監禁される事になったのか」というのを話します。
これが終わったら次が最後なのでお付き合いくだしぃ。

<前回までのあらすじ>

 荒井くんは黒髪長身痩躯の浪川大輔の声が出そうなタイプの悪い男に監禁され記憶を操作されたり特に意味のない暴力を受けたりしていたが何とか助け出された。
 だが意識が戻らず暫く眠っていたのだが、それもおとぎ話によくある最強の解呪魔法で何とかなったのだ。


<俺の楽しい要素>

・新堂×荒井の世界で話をしている
・新堂→荒井からも荒井→新堂からもクソデカ感情
・感情が重い男と感情が重い男の一歩間違えれば殺意にも繋がるCPは健康にいい

それでは今日もはりきって行きましょう!




『nameless monster』

 そうですね……皆さんにはご迷惑をおかけしたようですし、どうして僕が「人形の館」まで行ったのかお話しましょうか。
 最も、僕自身もまさかこんな事になるとは思っていなかったので今回ばかりは僕も完全に被害者なんです。
 彼に……あの館の主の行動に若干の不信感は抱いていましたし、だからこそ届くかわからないメッセージを残しておいたのですけれどもまさかあそこまで偏った愛情を秘めていたとは予想していませんでしたからね。

 えぇ、彼と出会ったきっかけは時田くんとの撮影です。
 時田くんが次回作の構想は聞いてますよね?
 その撮影で良い外観の建物を見つけたけれども、当日撮影する人手が足りないと言われて手伝いに出向いたんです。
 だから僕と館の主が出会ったのは全くの偶然といえるでしょう。
 館の主が以前から僕を知っていた、という事は彼の生活からしてあり得ないでしょうから。
 何せ彼は館からほとんど出る事のない生活を送っていたようですからね。そもそも僕たちを招いたのも気まぐれだったんだと思いますよ。彼も人形作家として活動していたのは本当のようでしたから、映画の撮影をする高校生から何かしら美術的なインスピレーションが得られるかもしれないと、いち創作者として思ったのかもしれません。
 情熱を失いかけた創作者が、他人の情熱に触れてやる気を出す事もままあるようですからね。

 撮影が終わった後は部屋に招待をして暖かな紅茶と焼き菓子をごちそうになりましたよ。
 室内には無数の人形が並んでいて、そのほとんどが彼の手作りだと聞いて驚いたものです。
 あなたも見たと思いますが、どの人形も整った顔立ちで立ち姿も美しい人形でしたし、細かい服の装飾にも一切の妥協なく作り込まれていたのはかなりの技量だというのは一目で分かりましたからね。

 えぇ、彼は確かに僕にひどい事をしました。それは許せない事です。
 ですが、だからといって彼の作品まで憎むことは僕には出来ません。
 作者の人格や行動と作品の善し悪しは別だと思っていますから……彼は人形作家として卓越した技術をもっていた、それは間違いないでしょう。

 ですが、彼の人形は確かに美しいのですが……初めて見た時も、そして今その姿を思い返してみてもただ美しいだけ、という空虚な印象が拭えませんでしたね。
 人形……彼が作っていたのは球体関節人形、ドールと呼ばれる作品がほとんどでしたが、ドールも個々に個性や表情、魅力などが感じられるものです。
 人間の作るものですからね。多少は作った人間の思いや嗜好が籠もり、それが一つの魅力となるものなのですが、彼の人形からはそういった魅せたいもの、というのが一切感じられませんでした。
 画一的な美しさとでもいうのでしょうか。あるいは己の技術を誇示するような作品とでも言うのでしょうか……。
 誰の目から見ても美しい顔立ちではあるのです。服飾の技術もとても高いのです。
 ですが「秀作」であって「傑作」にはなり得ない。そんな印象を抱いたものです。

 ですから、僕があの館に向かった理由は人形が見たかったからでも館の主に興味があったからでもありません。
 興味を引いたものがあるとすれば、人形に混じって置かれた実験器具でしょうか……見かけませんでしたか? やけに古めかしい実験器具です。中世の魔術書にでも出てきそうな代物ですよ。 あれはひどく古い品でしたがまだ使えるように綺麗に手入れされていましたから、あの品はもう一度見てみたいとは思っていたんですよね。
 最も、僕が再訪した時には置いていなかったんですが。

 置かれていた場所ですか?
 リビングですよ、玄関から入ってすぐ見えるあの人形が置かれた部屋です。
 その棚に一つだけ古びた実験道具のようなものが置かれていたと思うのですが……。

 リビングではなく書斎で似たようなものを見たのですか。
 なるほど、それなら……館の主は僕が帰ってから僕に使うための薬をその実験道具で抽出したということでしょうか。
 もしそうであれば、最初の訪問で僕たちを捉えなかった理由はまだ準備が出来ていなかったという事でしょうね。
 彼の言う事が本当の事であれば、彼が僕を手元におこうと考えたのは僕がこの館に来たその時のようですから、きっと僕を捉えるための薬やら拘束具の準備やらが出来ていなかったのでしょう。
 最初の訪問で妙な素振りを見せなかったからこそ、僕も油断していたのですけれどもね。

 はい、僕は彼の家に自分から向かった訳ではありません。
 あの館には確かに変わったものがありましたがわざわざ自分から訪ねていく程の価値があるとは思えませんでしたからね。
 騙し討ちのような方法で連れてこられたんです。
 メッセージを残したのは念のためで、ここまで大事になるとは思っていなかったというのが正直な感想です。
 ですが念のためにメッセージを残したのは、心のどこかで怪しむ気持ちがあったのでしょうね。 結果としてその予感は正しかった訳ですから。

 僕があの館に行く事になったのは、撮影を終えた当日に連絡があったからです。

「荒井昭二くんかい? 今日きみたちが撮影に来てくれたあの館の主だけれども、家できみの学生証を見つけてね……忘れ物だろうと思うんだ。届けてあげたいのだけれども、放課後に鳴神学園近くにあるコーヒーショップで待ち合わせにしようか。こんな辺鄙な別荘地まで来るのは億劫だろう」

 家の電話に、そのような連絡が入ったんです。確認してみると、確かに鞄に入れておいた学生証が無くなっていました。家の電話に連絡があったのは学生証に電話番号も書いてあったからでしょう。彼の家は別荘地で休日でなければとても行く事が出来ない程遠いですから、こちらまで来てくれるのなら助かります。
 僕は学校が終わる時間を伝えて、翌日にコーヒーショップで待ち合わせする事にしたんです。

 えぇ、皆さんの中でも行った事があるでしょう、鳴神学園の生徒がよく利用しているチェーンのコーヒーショップですよ。
 駅の近くにあるあの店ですね。
 約束の時間に行けば、彼はもう来てました。 呼び立てて済まないとカフェオレをおごってくれましたよ。あの時は忘れ物をしたのは僕の方なのに色々と気を揉んでもらって申し訳ない気持ちでさえいました。
 後から考えてみれば僕の警戒心を解くための方法だったんでしょうね。
 知ってますか? 人は面識の少ない相手から何かをもらったりすると、相手に恐縮してしまいつい要求を通しやすい心持ちになるそうですよ。初対面の相手には特に効果的だそうです。
 寸借詐欺を働く人間なんかは、最初に安い缶コーヒーなどを手渡して油断させるそうですよ。タダより高いものはありませんね、ヒヒ……。

 コーヒーショップで会って、学生証を返してもらったらすぐに別れるつもりでした。
 ですが店に入ってあの人は肝心の学生証を家に忘れたというのです。取りに戻らないといけないけれども、ずっとコーヒーショップで待たせておくのも忍びない……車はあるから自宅まで一緒に来てくれないかと。
 そう言われた時は少し戸惑いました。
 ここから別荘地まで往復で小一時間はかかる距離があります。コーヒーショップで一時間も待ちぼうけをするのは時間が惜しい気がしましたが、かといってまた別の日に来てもらうのも申し訳ないと思ったのです。

「荒井くんさえ都合が良ければだけど、家まで来てくれないか? 帰りは君の家まで送っていくからさ」

 だから彼からそう言われた時、悪くない提案だと思ってんですよね。
 学生証がなければ困るのは僕ですし、その時は鞄から色々と出し入れしている時に落としてしまったのだと思っていましたから。
 今考えればあの男が抜き取っておいたのでしょうけれども、取り出しやすい場所に入れておいたのでその時はそんな事考えもしませんでした。
 僕はさして疑うこともせず、彼の家に行く事にしたんです。彼はすぐ車をこちらへ向かわせるからと席を立ちました。その時はただ親切な人だとしか思っていませんでしたよね。
 実際、あの人は清潔感があり社交的で物腰柔らかな話し方をするでしょう。顔立ちも整っていますし、外見におかしい所はありませんでしたから。

 ですが、ふと思ったのです。
 昨日電話を受けたのは僕でしたし、家族に彼と会う事は言っていません。そもそも僕の家族はちょうど家を空けていて暫く不在になるところでしたし、人形の館を知っているのは時田くんだけです。
 もしここで彼がよからぬ事を考えていたとしたら、僕は誰にも気付かれる事なく連れ去れてしまうんじゃないか……そんな危機感が僅かながら芽生えたのです。

 とはいえ彼は車をこちらへ向かわせています。
 その時は彼に悪意があるとはその時はあまり思っていませんでしたから、大げさに話をして後で何でもなかったら申し訳ありませんよね。
 家にはあいにく誰もいませんし、他の誰かに連絡するのも大げさすぎると思った僕はスマホにメッセージを残す事にしたのです。
 人形の家にいった僕がもし戻ってこなかった時にだけ意味のあるメッセージの残し方として、スマホが僕の机に入るように……ですね。

 スマホを学校の机に入れた方法は、実はさして難しい事はしてないんですよ。
 スマホ内に必用なメッセージを残してから僕の学年クラス、名前を書いたメモを貼り付けて、近くにいた鳴神学園の生徒の鞄に入れておいたんです。
 自分のスマホを手放して他人の鞄に入れるというのはなかなかリスキーな行動だとは思いましたけれどもね、あの時ふと思いついたのでやってみたくなったんですよ。
 もし鞄に僕の名前とクラスのわかるメモが貼られたスマホが入っていたら間違えてもってきてしまったのだろうと思うでしょう。 そうしたら僕のクラスに訪ねてくるはずです。その時僕が来ていなければスマホは机の中にでも入れられるでしょう。あるいは落とし物として職員室に届けられるかもしれません。
 悪用される可能性も当然考えましたが、鳴神学園の学校指定鞄を使うような生徒ならロック画面を弄って開けられないか確認する程度だろうと踏んだのです。
 僕はコーヒーショップ内で鳴神学園の生徒、できれば2年生で学校指定の鞄を使う生徒がいないか確認しました。 普段から学生の多い店で学生が多く集まる時間帯だったのが幸いし、目当ての生徒はすぐに見つかりましたよ。
 僕はその鞄にばれないようスマホを入れてから、彼の家へ向かったんです。

 それならスマホで連絡できるようにしておいた方が良かったのではないかって?
 もし僕に対して悪意がありそれを実行しようとする相手ならスマホで連絡なんてさせる暇は与えないと思ったんです。実際、彼は車中で何かと話しかけてきて僕にスマホを触らせる時間なんて与えませんでしたからね。
 結果としてその時他人に託したスマホを元に僕を助けにきてくれたんでしょう?
 ……思いつきでも試してみるものですね。あの時鞄にスマホを入れられた生徒はさぞ驚いた事でしょうけれども。

 館についた時、せっかくだからと部屋に上げられました。
 車で待っていても良いと思ったのですが、車中は随分蒸し暑かったんですよ。 だから館についた時、今しがたコーヒーショップでカフェオレを飲んだばかりだというのにすっかり喉が渇いていました。
 そんな僕の渇きを見越したよう、ソファーに座るとすぐに冷たい麦茶が出てきました。冷房があまりきいてない中で三十分以上は揺られていたのでつい、疑いもせず一気に飲み干していましたよ。
 僕の目の前で注いでくれたから疑っていなかったんですが、あの麦茶にも事前に薬が仕込んであったんでしょうね。

「確かここに置いておいたはずだけど……少し待っていて。いま、探してくるから……」

 彼がそう言いながら席を離れた時、段々と強い眠気が襲ってきた時はじめて「まずいかもしれない」と思いましたよ。彼が学生証をもって僕の前に出した時、ほとんど視界は暗くなってましたから。

「荒井くん、遅くなってごめんね。これ、学生証……大丈夫かい? 疲れているのかな?」

 麦茶を口にしてからほんの五分くらいしか経ってなかったと思うんですが、もう首を支えているのも億劫なほど眠くなってました。身体も自分の思うように動かず、何と答えたのかも曖昧です。

「疲れているのかい? 少し眠っていくといい」

 そう言われた頃にはソファーで横になっていたように思います。身体を支えきれない程の眠気がありましたから。

「おやすみ、荒井くん」

 囁くような声がした後……そう、その後です。首のあたりに鈍い痛みがあって、身体に異物の入る感覚がして……。
 僕の記憶がひどく曖昧で断片的になったのはその後からです。
 今でも正しく時系列順に話をするのが難しいですし、それから何があったのかはまだ完全に思い出せていません。
 皆さんの話を聞く限りだとそこからの僕は記憶を抜き出されたり書き換えられたりと色々頭を弄られていたようですから余計に曖昧なんでしょうね。

 ですから次に気付いた時、僕は病院のベッドでしたよ。
 今はぽつぽつと記憶も戻ってきましたけど、目が覚めた時はほとんど何も覚えてなかったと思います。
 新堂さんが近くにいたので、新堂さんの事はすぐ思い出しましたから誰かの顔を見た時にそれに紐付いた記憶は戻って来やすいみたいですね。
 だからこそ皆さんが見舞いに来てくれるのがありがたいんですけれども……あの館にいた時の記憶は、きっと簡単に戻って来ないのでしょうね。
 何でも錬金術で作られる珍しい薬を注射されたとか……興味深いじゃないですか。金属であり液体でもあり、記憶を書き換える。そんなものが存在するならまさに魔法そのものです。
 それを身をもって体験できた機会だというのにすっかり忘れてしまっているなんて惜しい話じゃないですか。
 記憶を失った僕はいったいどんな人間になっていたのでしょう? 記憶を失っていた時も性格は変わらないものなのでしょうか? 薬を使っても僕は自分のことを多少覚えてはいたのでしょうか?
 興味は尽きないのですが、何も覚えていないのです。
 最も、忘れてしまいたいほど強いショックを受けていのかもしれませんから、思い出せないなら無理に思い出さない方がいいのかもしれませんね。

 ……あぁ、ですけれども不思議なんですよね。
 僕は自分が思っているより長くあの館にいたのでしょう? ですが僕はあの館の主の名前がどうしても思い出せないんですよ。
 それだけ長く過ごしていたのなら名前くらい覚えていても不思議じゃないんですけれどもね。
 皆さんは彼の名前を聞いていますか?

 ……誰も知らないんですね。
 書類上に存在する名前も奇妙な漢字で何と読むのだかわからないのだそうです。
 つまり、これだけの人間が彼を認識しているというのに彼の名前を知っているものは誰もいないのです。

 不思議ですよね。
 彼は、何という名前だったんでしょう。

 存外、彼も知らぬうちに自分の名前を失っていたのかもしれませんね。
 彼は錬金術に造詣が深い人物だったのでしょう? それも学問よりオカルトの、魔術的な要素に近い分野へ足を踏み入れていたようです。
 魔術師というのは、その名に魔術を刻むといいます。自らの名と魂を紐付けて、そこに魔術の知識を直接刻む事で奇跡のような呪術を操るのです。

 彼はそんな魔術のなかでも他人の記憶を操り、書き換え、消すといった魔術を用いていた。
 それがある種の禁じられた呪術だとしたら?
 禁忌に触れた魔術師が代償に名を失う……なんて夢物語も、あの奇妙な人形作家には案外と似合うのではないでしょうか。

 人間の記憶を書き換え、他人の人生を乗っ取り不老不死にもほど近い自我を手に入れた人間は自分が自分であるための記号、名前を失っていたのだとしたら……。
 彼はひょっとしたら、誰からも名前を覚えてもらえない人間だったのかもしれませんね。

 さて……僕が話せるのはこの位でしょうか。
 ご静聴、ありがとうございました。

拍手

PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 8 9
11 12 14 15 16
19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール
HN:
東吾
性別:
男性
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
Copyright ©  -- くれちきぶろぐ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]