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インターネット字書きマンの落書き帳

   
カズとの思い出を引きずる荒井の話
夏休み、カズと出会いと別れをした荒井がカズへの思いを引きずって二学期を迎える。
だけどその思いに折り合いがつけられず、どうしようもなくなって親友の袖山に気持ちを吐露するような話ですよ。

カズへの思いが断ちきれず未練たらたらな荒井と、荒井のこと全面的に信頼して全力で慰めてくれる袖山が出ます。

概念としてのカズ×荒井。
友情としての袖山と荒井コンテンツです。


『残夏』

 袖山くん、僕はこの夏、もう死んだんだよ。
 まだ夏の熱気を残す風を受け、荒井はどこか寂しそうな顔を向けた。
 どうしてそんな事を言うのだろう。辛く悲しい事があったのか。もしそうなら、自分は何か支えになれないだろうか。少しでも出来る事があるならそうしたい。ただその一心で手を伸ばせば、荒井は静かに目を伏せる。長い睫毛が震え、目が潤んでいる気がした。

「やっぱり袖山くんは、そんな僕も否定しないで受け入れてくれるんだね」

 だから、僕は袖山くんには話しておこうと思う。ひょっとしたら袖山くんにとっても恐しい話で、きみの事も狂わせてしまうかもしれないけど、僕はこの思いをたった一人で心にしまったまま生きていくことが、とてもできそうにないから。
 荒井はそう前置きしてから、夏休みにあった出来事を訥々と語り始めた。
 好奇心から中村の頼みを受け一ヶ月も牧場でアルバイトをしていたこと。隔絶された空間での慌ただしい生活。人里離れた場所にある競走馬の牧場とその仕事。そして、そこで出会ったカズと呼ばれていた男のこと……。
 生きているのが恥ずかしすぎた。だが一人では死ねなかった。死に至る痛みや苦しみを眼前でわかちあえる誰かを求め安寧ない心をただ彷徨わせるだけの存在は儚く脆くだからこそ美しく、荒井はすっかり魅せられてしまった。そして、願ってしまったのだ。
 彼とともに生きて、彼とともに逝きたいと。
 だけど願いは叶わなかった。カズは荒井を置いて姿を消し、行方は杳として知れない。
 残された荒井は、カズと死ぬ事が叶わなかった事を嘆き、最後に残した言葉をよすがとして今、ここにいるという。

「恥の多い生涯を送ってくれと、あの人は言ったのです」

 生きろということだろう。自分よりも後から来るのを待っている、だから一日でも長く生きていてくれという願いだ。普通であれば前向きで切実な願いだが、カズと並んで世界を見たいと荒井が思っていたのなら、突き放され取り残された衝撃は計り知れないだろう。
 死んでもいいと思うほど、焦がれた相手なのだから。

「わかってます、僕だってそれが優しさだということは。大概の物語は生きている方が素晴らしいと語るでしょう。常識も倫理もです。ですが、僕は。僕はね、袖山くん。それでも、それがわかっていても……」

 一人で生きていくのなら、一緒に行きたかった。
 痛いほど純粋で透き通るように哀しい荒井の心を救い上げる事ができるのは、きっともうここにはいないカズという青年だけだったのだろう。

「わかるよ、荒井くん。わかっていても、わかりたくなかったんだよね。理屈や常識を抜きにしても、そんな事を飛び越えてほしかったんだよね。荒井くんだったらそれが出来ていたはずなのに、荒井くんでもそれを戸惑ってしまった。だから行く事ができなかった、自分が許せないんだよね。わかるよ、僕は荒井くんの友達だもの」

 袖山は耐えきれなくなり、荒井の身体を抱きしめる。

「袖山く……っ、袖山くん、袖山くん……僕は……ぁ、ぁあ……」

 最後まで言葉にならず、堪えきれないように涙があふれ出す。子供のように泣きじゃくる荒井を袖山は黙って抱きしめることしか、できないでいた。

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