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インターネット字書きマンの落書き帳

   
サッカー部の合宿で新堂パイセンのラーメンを食べる星野の話
ふと、「何で星野はサッカー部の合宿に参加したんだろう」と考えた時。
「家に居場所がないから」だったら悲しいな……と思ったので書きました。

悲しいと思ったのに何で書いちゃうんだろうね!?
性分だね!?

そんなこんなで、家に居場所がないから合宿所に来た星野と、そんな星野の事情などとくに立ち入ろうとせずラーメン食わせてくれる新堂パイセンの話です。

新堂誠、男たらしたれ。



『夜食のラーメン』

 皆が疲れて寝静まる中、星野は一人眠れず何度も寝返りをうっていた。
 自分一人だけ寝付けないのは、昼間に先輩に対しちょっとけんか腰に話したら思いっきり蹴倒されたからだろう。
 腕っ節には自信があるつもりだったが、まさか一撃でのされてしまうとは自分でも思っていなかった。腹を殴られた痛みと吐き気のせいで今日は夕食もとれなかったが、今になって腹が減ってくる。

 コンビニにでも行って、何か買ってくるか。
 星野は周囲の面々を起こさないようゆっくりと、合宿所の一室から抜け出した。

 星野がサッカー部に入ったのは、別にスポーツに興味があったとか何か熱中できるような出来事を学生時代にやっておきたかったとか、そういった青臭い理由ではない。ただ単純に、鳴神学園では運動部にいるだけで就職が有利になるというのを聞いていたからった。

 サッカー部を選んだのは、鳴神学園のサッカー部がプロ選手も多く輩出している名門だからだ。
 将来、就職した時「以前は鳴神学園のサッカー部にいた」というだけで一目置かれるのは悪くないと思ったし、ちょっとした会話の話題作りにもちょうど良いだろう。
 それに、鳴神学園のサッカー部は名門なだけあり所属している部員も多い。自分のような不良が隠れてサボっていても目立たないだろうし、練習なんて出ていなくても誰も気にしないまま、何とか3年居座ることが出来るだろうという打算もあった。

 実際、鳴神学園のサッカー部はすぐにでもプロで活躍できるような1軍と、その補欠になる2軍の他、実質サッカー部同好会のような3軍の連中が山ほどいた。
 そして3軍の連中は、普段ほとんど練習らしいメニューも与えられず、道具の準備やグラウンドの整備が殆どだったのだ。
 人数が多いから、星野一人がいなくても別段誰も気にしない。
 予想通り、サボりながら運動部にしがみつくことが出来そうだと考えていた矢先に、サッカー部は夏に合宿があるのを知った。

 合宿には絶対参加で、参加しなければサッカー部を退部になるのだと言うが、3軍には鬼のような練習メニューが課されており、星野のように楽して運動部の肩書きを手に入れようと思っていた半端物は殆どここで脱落するのだという。

 そんなもの、別に出なくても良かったのだ。
 面倒だからフケてしまい、そのまま自然と退部になったほうが楽なことくらいは星野にも分かっていた。
 それでも合宿に来たのは他でもない、家に居場所がなかったからだ。

『おまえ、どのツラ下げてこの家にいるんだ?』

 家に帰れば父の口から、思い出したようにそんな言葉がぶつけられる。
 死んだ魚のような目をした父親の口から出る、射貫くような言葉は強い怨嗟が込められていた。

 いつ、家に帰っても電気がついていることはなく、誰もいない冷たい食卓に出るのは冷凍食品のパスタばかり。
 誰も会話などせず、お互いいても無視をする。たまに出る言葉はそんな非難の言葉だけだ。

 あんな所に居るのなら、自分の過去など知らない連中と連んでいる方がよっぽどいい。
 苛立ちながら星野はポケットをまさぐるが、煙草が入ってないのに気付いた。そういえば、あの新堂とかいう先輩に殴られた時「スポーツマンが煙草なんか吸うんじゃねぇよ、骨折れやすくなるぞ」といわれ、没収されたのだ。

「チッ、面白くねぇ……」

 星野は舌打ちをすると、上履きを引きずるようにして歩き出した。
 と、そこでどこからか良い匂いがしてくるのに気付く。見ればその匂いは合宿場から離れたドアから漂っていた。

 一体何があるのだろう。
 興味本位で覗いて見れば、そこには新堂が雪平鍋を前に腕組みをして立っている姿が見える。
 グツグツと煮えているのは、どう見てもインスタントラーメンだった。

 この合宿所には電子レンジや給湯器に一口コンロなど、ちょっとした料理を作るくらいのスペースはあるようだ。
 驚いてあっと声をあげる星野に気付いたのか、新堂はドアの方を見ると白い歯を見せて笑った。

「よォ、星野。起きたのか? 今よ、ラーメン作ってんだけど一緒に食うか?」

 日中、あんなにぶん殴っておいてどういうつもりだろうとは思う。だが目の前にあるできたてのラーメンは魅力的だ。

「……ウス」

 星野は小さく頭を下げると、給湯室へ入る。
 すると、新堂はすぐに小さなどんぶりを取り出すとラーメンを取り分けた。

「合宿中は一応、夜食とかつまみ食いは禁止なんだよ。だからこれでお前も共犯な」

 そう言いつつ、新堂は明らかに星野に多めのラーメンをよそってくれている。
 新堂に殴られて寝込んでいた星野が夕食を食べに来なかったのを知っていたのかもしれない。星野は小さく頭を下げると、ラーメンの汁を啜る。何の変哲もないインスタントの醤油ラーメンだったが、久しぶりに食べるのもあり、腹の中が温まった。

「しっかし、お前も真面目だな。本当は、部活やってると就職有利だとか聞いて、サッカー部に来たんじゃねぇのか?」

 新堂はどうやら星野の目的などお見通しらしい。
 それだけ、サッカー部には似たような目的で入る不良がいるのだろう。

「合宿なんてフけて、さっさと他の楽な運動部に入る奴が多いってのに、わざわざ参加するとは律儀なもんだ。ま、お前は三軍に入れられる他の奴らと比べれば体力ありそうだし、今日みたいに生意気な口聞かないで大人しくしていれば、サッカー部三軍に残っていられると思うぜ。最も、俺としてはお前はダラダラとサッカー部にいるより、ボクシング部に入った方がいいと思うけどな。お前、強くなりてぇタイプだろ? 俺が強くしてやるぜ」

 新堂は笑いながら、食べ終わった鍋を洗う。

「……聞かないんスか。その……俺みたいな不良が、合宿なんかやる理由」

 あまりに新堂が触れてこないので、聞かれることに怯えるくらいならと自分から切り出した。
 だが新堂は不思議そうに首を傾げる。

「いや、別に。何だ、不良が合宿に来ちゃいけないなんてルールねぇだろ。俺だってこんなツラだけど、来週の頭には山奥の合宿所でボクシング合宿する予定だぜ? 誰がどこで何をしようが、別に自由だろ。なぁ? ま、どこにでも礼儀ってのはあるから、それはちゃんと守れよ。明日も今日みたいにふてくされた態度とってたら、もっと強くぶん殴るからな」

 新堂は笑いながらそう言うと、星野の頭をくしゃくしゃに撫でて部屋から出る。
 去り際に。

「お、食ったらちゃんと歯ぁ磨いておけよ。喧嘩もスポーツも、歯ぁ食いしばるのが大事だからな」

 そういって、手をひらひらと振る。
 残された星野は一人、温くなったラーメンを啜る。少し麺ものびてきた、卵しか入っていないラーメンだったが。

「……暖けぇな」

 今は何よりも、美味しく思えた。

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インターネット駄文書き
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