インターネット字書きマンの落書き帳
勝手に星野を唯一無二だと思っていた吉川の話
吉川の設定周りってすごい心に刺さるよなァ~。
と思って書きました。
星野のことを、唯一無二の親友で拠り所みたいに感じていた吉川。
だけど、その感情が自分の一方通行だってことに気付いてしまい勝手に絶望するみたいな話です。
吉川、おまえ……イジめがいがあるよ……。
※現実のイジメは実質犯罪だぞ! 良い子は絶対にしないでね!
※悪い子もしないでね!
と思って書きました。
星野のことを、唯一無二の親友で拠り所みたいに感じていた吉川。
だけど、その感情が自分の一方通行だってことに気付いてしまい勝手に絶望するみたいな話です。
吉川、おまえ……イジめがいがあるよ……。
※現実のイジメは実質犯罪だぞ! 良い子は絶対にしないでね!
※悪い子もしないでね!
『置いて行かれる男』
吉川は不良じみた外見をしているのは、ただ虐められたくない一心からだった。
別に喧嘩で一番強くなろうとか、不良として鳴神学園を牛耳ろうなんて大それた目標はない。
そもそも、鳴神学園は不良じゃないのに喧嘩に強いといった生徒も沢山いる。また、滅多に喧嘩などしないのにそれ以上のあくどい所業で不良たちを支配する大倉のように頭の回る奴や、腕っ節は強いと聞かないが誰からも恐れられている綾小路のように意味不明の能力をもつ生徒もいるのだ。
こんな中で一番になれるとは思えなかったし、なろうとも思わない。
当然、高校に入ってすぐ不良の真似事をした時から、真面目に勉強をするつもりもなかった。
中学時代、必死に勉強していたにもかかわらず成績は常に下位で、それを散々からかわれ、弄られ、虐められていたのだ。
努力をしたって自分では程度が知れている。
おまけに、運動神経だってそれほど良い方でもないのだ。
不良ならもう少し喧嘩にも強くなれと親友の星野からはからかわれるが、元々吉川は痛いのは苦手だ。人を殴った時は自分の腕も結構痛いし、蹴った時にずしりと重くなる肉の質感は罪悪感を募らせる。
別に一番にならなくてもいい。
不良っぽい振る舞いをして周囲にナメられず、イジめられることのないまま三年間の高校生活をやり過ごせればいいのだ。
出来れば就職先でも「俺はワルだったんだ」と脅しつけて同僚をコキつかえればいいのだが、そんなに上手くいかなくても、細田のように誰からもウザがられイジられ虐められる人間を適当につついて、悪評を押し付けることが出来ればそれでいい。
そんな風に、思っていたのだが。
「何言ってるんスか新堂さん」
道の先で、くすぐったそうに笑う星野の姿が目に入る。
隣にいるのはボクシング部の主将である新堂とかいう男だ。
一年の夏休み、就職で有利になるからという理由でサッカー部に入部した星野は、サッカー部の合宿が終わった後、ボクシング部に転部した。
合宿所でコーチ代わりに来ていたボクシング部の主将、新堂から直々にサッカー部をやめてボクシング部に来いと言われたのがきっかけだったようだ。
ボクシング部に入ってからも星野の生活態度はあまり変わらず、相変わらず吉川と連んではいたが、部活をやる時間が増えた分、夜に出歩く時間は以前よりずっと減っただろう。
そういえば、最近は酒も煙草も量が減った気がする。
『知ってたか、吉川。煙草吸うと、手術の時に麻酔がききづらくなるらしいぜ。骨も折れやすくなるし、怪我も治りにくいんだってよ』
以前、校舎裏で煙草を吹かしている時、星野はそんな事も言っていた。
『でも、やめられねぇよな』
紫煙をくゆらせながら星野は笑っていたが、以前の星野だったらそもそも怪我云々なんてことすら気にかける事はなかっただろう。
ボクシングをする事で、星野は確実に以前より強くなっていた。
だが、少しずつ以前とは違う言動をするようになっていた。
暇さえあれば細田をからかっていたのに、今は積極的にそうすることもない。
赤点をとりすぎて補習になると練習に響くからと、テスト前に一夜漬けでも勉強をするようにもなっている。
スポーツに青春を捧げるようになったのかと言われればそれ程は変わってはいないし、吉川とも以前と同じように連み、半端な不良として周囲から疎まれている立場でもある。
だから星野は自分と同類で、理解者として連んで並んでいられる立場は自分だけだろうと思っていたのだが、新堂の隣にいる星野は、鳴神学園でボクシング部の後輩の少年らしい笑顔をしていた。
そしてそれは、吉川が決して引き出す事のできない笑顔だった。
何となしにいたたまれなくなり、吉川は静かにその場を去る。
そして人のいない校舎裏に隠れると、冷たいコンクリートに腰掛けて、深く息を吐いた。
「何だよ、結局ここでも、俺は……」
虐められていた時、吉川にも友人と呼べる相手がいた。
二人でいた時は、虐められているという環境でもまだ拠り所があり、お互い慰め合うことができた。
彼にとって吉川は唯一無二の存在であり、吉川にとってもそうだった。
家族が理解してくれない心の傷をなめ合える、ただ一人の理解者で、その一人がいればどんな辛い事にも耐えられたのだ。
だが、彼はもういない。
自分より、ほんの少し勇気を出した結果、自分とは別の運命を歩むようになったのだ。
高校になり、吉川は一人で生きていかなければいけなかった。
その絶望には耐えられないから不良の真似をして、似た仲間を見つけ、連んで。
慣れない不良の真似事も、一人じゃないから出来ていたのだが。
「……俺は、置いていかれるのかよ」
絞り出すように漏れた声は、風の中に消えていく。
ようやく秋らしくなった冷たい風が、吉川の身体を芯まで凍えさせていた。
吉川は不良じみた外見をしているのは、ただ虐められたくない一心からだった。
別に喧嘩で一番強くなろうとか、不良として鳴神学園を牛耳ろうなんて大それた目標はない。
そもそも、鳴神学園は不良じゃないのに喧嘩に強いといった生徒も沢山いる。また、滅多に喧嘩などしないのにそれ以上のあくどい所業で不良たちを支配する大倉のように頭の回る奴や、腕っ節は強いと聞かないが誰からも恐れられている綾小路のように意味不明の能力をもつ生徒もいるのだ。
こんな中で一番になれるとは思えなかったし、なろうとも思わない。
当然、高校に入ってすぐ不良の真似事をした時から、真面目に勉強をするつもりもなかった。
中学時代、必死に勉強していたにもかかわらず成績は常に下位で、それを散々からかわれ、弄られ、虐められていたのだ。
努力をしたって自分では程度が知れている。
おまけに、運動神経だってそれほど良い方でもないのだ。
不良ならもう少し喧嘩にも強くなれと親友の星野からはからかわれるが、元々吉川は痛いのは苦手だ。人を殴った時は自分の腕も結構痛いし、蹴った時にずしりと重くなる肉の質感は罪悪感を募らせる。
別に一番にならなくてもいい。
不良っぽい振る舞いをして周囲にナメられず、イジめられることのないまま三年間の高校生活をやり過ごせればいいのだ。
出来れば就職先でも「俺はワルだったんだ」と脅しつけて同僚をコキつかえればいいのだが、そんなに上手くいかなくても、細田のように誰からもウザがられイジられ虐められる人間を適当につついて、悪評を押し付けることが出来ればそれでいい。
そんな風に、思っていたのだが。
「何言ってるんスか新堂さん」
道の先で、くすぐったそうに笑う星野の姿が目に入る。
隣にいるのはボクシング部の主将である新堂とかいう男だ。
一年の夏休み、就職で有利になるからという理由でサッカー部に入部した星野は、サッカー部の合宿が終わった後、ボクシング部に転部した。
合宿所でコーチ代わりに来ていたボクシング部の主将、新堂から直々にサッカー部をやめてボクシング部に来いと言われたのがきっかけだったようだ。
ボクシング部に入ってからも星野の生活態度はあまり変わらず、相変わらず吉川と連んではいたが、部活をやる時間が増えた分、夜に出歩く時間は以前よりずっと減っただろう。
そういえば、最近は酒も煙草も量が減った気がする。
『知ってたか、吉川。煙草吸うと、手術の時に麻酔がききづらくなるらしいぜ。骨も折れやすくなるし、怪我も治りにくいんだってよ』
以前、校舎裏で煙草を吹かしている時、星野はそんな事も言っていた。
『でも、やめられねぇよな』
紫煙をくゆらせながら星野は笑っていたが、以前の星野だったらそもそも怪我云々なんてことすら気にかける事はなかっただろう。
ボクシングをする事で、星野は確実に以前より強くなっていた。
だが、少しずつ以前とは違う言動をするようになっていた。
暇さえあれば細田をからかっていたのに、今は積極的にそうすることもない。
赤点をとりすぎて補習になると練習に響くからと、テスト前に一夜漬けでも勉強をするようにもなっている。
スポーツに青春を捧げるようになったのかと言われればそれ程は変わってはいないし、吉川とも以前と同じように連み、半端な不良として周囲から疎まれている立場でもある。
だから星野は自分と同類で、理解者として連んで並んでいられる立場は自分だけだろうと思っていたのだが、新堂の隣にいる星野は、鳴神学園でボクシング部の後輩の少年らしい笑顔をしていた。
そしてそれは、吉川が決して引き出す事のできない笑顔だった。
何となしにいたたまれなくなり、吉川は静かにその場を去る。
そして人のいない校舎裏に隠れると、冷たいコンクリートに腰掛けて、深く息を吐いた。
「何だよ、結局ここでも、俺は……」
虐められていた時、吉川にも友人と呼べる相手がいた。
二人でいた時は、虐められているという環境でもまだ拠り所があり、お互い慰め合うことができた。
彼にとって吉川は唯一無二の存在であり、吉川にとってもそうだった。
家族が理解してくれない心の傷をなめ合える、ただ一人の理解者で、その一人がいればどんな辛い事にも耐えられたのだ。
だが、彼はもういない。
自分より、ほんの少し勇気を出した結果、自分とは別の運命を歩むようになったのだ。
高校になり、吉川は一人で生きていかなければいけなかった。
その絶望には耐えられないから不良の真似をして、似た仲間を見つけ、連んで。
慣れない不良の真似事も、一人じゃないから出来ていたのだが。
「……俺は、置いていかれるのかよ」
絞り出すように漏れた声は、風の中に消えていく。
ようやく秋らしくなった冷たい風が、吉川の身体を芯まで凍えさせていた。
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