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インターネット字書きマンの落書き帳

   
【何度でも助ける、その腕で抱くために(新堂×荒井・BL)】
平和な世界線で普通に付き合ってる新堂×荒井の話をしますよ。
平和な世界線ながら、荒井は「死にたがりの癖」が身体に染みついていて何度も死のうとするし、新堂は死のうとする荒井を何度でも助ける。

死なせない新堂×死にたがりの荒井というCPです。
何度でも助ける、その腕に抱くために。


『沈む。』

 吸い込まれるよう暗がりへと落ちていく。
 水の中で呼吸はままならず肺の中から空気が減っていくのを実感すれば身体はそれだけ底へと近づいた。
 月の光を浴びた水は世界を青白く染め上げ、水も銀色に輝いている。
 溺死は最も苦しい死因の一つだとは言われているが、こんなにも美しい世界に縊り殺されるのなら苦しくてもしかたないだろう。
 荒井はそんな事を思いながらプールの底へと沈んでいった。
 これで終われればいい。死の安寧が自分の底知れぬ命を使い果たす事ができる場所が月光に包まれ波打つ美しい水の中であったら僥倖だ。
 彼の切なる思いを断ち切ろうとするかのよう、手を伸ばす影があった。

『荒井ッ……荒井……』

 新堂だ。随分と深くまで沈んだと思ったが、彼ならこのくらい潜ってくるのだろう。水の中だから何を言っているかはわからないが、口の動きで自分の名を呼んでいるのだろうと感じた。
 朦朧とする意識の中、新堂は荒井と唇を重ねる。口移しで送られた空気は荒井に呼吸を思い出させ、水の中で縊られる苦しみを改めて伝えた。
 まとわりつく水は身体を締め上げ自由を奪い、美しいと思っていた世界がとたんに不安とおぞましさを与える。
 あぁ、やはりどれだけ美しくても死を与えられるのはどこか恐ろしい。
 心の底にこびりついた恐怖を打ち払うよう新堂は荒井の手を引く彼の身体を抱きゆっくりと浮上していった。
 程なくして水からあがれば肺を満たしていた水は不快な苦しみを煽り反射的に咳をし全部吐き出してしまう。幾度も咳をし水を吐いた後、新鮮な空気が肺を満たしていった。
 朦朧とする意識の中、新堂がプールサイドまで引き上げてくれる。冷たい夜風に頬を撫でられ鉛のような疲労を抱くことで荒井はまた死に損なったのだと気付いた。

「水が張ってあって良かったな、無かったら落ちて死んでたぜ」

 肩で呼吸を整えながら新堂はプールサイドに座って飛び込み台を見る。
 県内でも珍しい高飛び込み用の台があるプールは普通のプールよりずっと深く、高飛び込みをする選手がいなくなってからプールは使用禁止になり入れないよう施錠されていたが、水が張ってあったのは事故防止のためだろう。鳴神学園では自殺する生徒が多いのだから、そのくらいの防止策はしている可能性が高い。
 荒井は飛び込み台を見て、ふっとため息をつく。
 どうして水が張ってあるのを知っていて飛び込んだのだろう。下が水だったらあの高さから落ちても死ねない事くらいわかっていたはずだ。水がない状態で飛び込めばもっと確実に死に近づけていただろう。
 高い所なら別に、飛び込み台じゃなくてもいい。学校の屋上でも、学校に拘らなければもっと高いビルだってある。
 それなのに、どうして自分は飛び込み台などから水へ落ちたのだろう。しかも飛び込むよりずっと前に新堂へ連絡を入れている。
 彼に連絡などしなければ一人で死ねたはずなのに。

「新堂さん……」

 あらかた水を吐いた後、荒井は新堂の方を向く。
 何というのが適切なのだろう。助けてくれてありがとう、か。あるいは迷惑をかけて済まない、と言うべきか。死ぬのを邪魔してくれたと恨み節の一つでも言うのが適切か。
 考えても答えは出ず、胸には洞が開いたような空しさだけが響いていた。

「よし、じゃぁ行くか」

 一方の新堂は荒井の言葉など最初から何も求めてないよう濡れた服を絞ると荒井の身体を抱き上げる。
 何をするのだろうと呆けた顔で見ていれば、新堂は荒井の濡れた髪に触れた。

「ボクシング部はシャワールームも良く使うからな、鍵もってんだよ。シャワー浴びて一息つこうぜ」

 言われて自分の身体が芯まで冷えているのに気付く。今、暖かく思えるのは新堂に抱かれているからで彼から伝わる体温だけがかろうじて生の実感となった。

「どうして……」

 荒井は俯き新堂の腕に触れる。
 どうして怒りもしないのだろう。どうして荒井の言葉を待たずに勝手に決めてしまうのだろう。ぼんやりと抱いた疑問に答えるかのよう、新堂はより強く彼の身体を抱きしめた。

「俺が助けてやった命だ。今くらい俺が預かってもいいだろ?」

 そうだ、自分の命は助けられたのだ。望む、望まないにせよ助けられた限り、今があるのは新堂の責任ともいえる。
 それならば、彼の好きにされるのも悪くはない。
 新堂へ身体を預け、指先を絡める。死を間近に体感した後に生を貪られる、紙一重の快楽が今の荒井に辛うじて生きる意味を与えていた。

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インターネット駄文書き
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